INPEX、還元拡充で配当金は2018年度比の約5倍に増加し過去最高、将来を見据えた投資を継続しエネルギー供給の主役の一角へ

投稿:2024/12/05 08:00

株式会社INPEX個人投資家向けIRセミナー

馬渕磨理子氏(以下、馬渕):株式会社INPEX、個人投資家向けIR動画をご視聴のみなさま、よろしくお願いします。日本金融経済研究所代表理事、経済アナリストの馬渕磨理子です。

去年に続き、株式会社INPEX代表取締役社長、上田隆之さまとの対談を通じて、個人投資家のみなさまにINPEXへの理解を深めていただきたいと思います。上田社長、どうぞよろしくお願いします。

上田隆之氏(以下、上田):よろしくお願いします。

馬渕:1年ぶりにお話をうかがえるということで、大変楽しみにしていました。

上田:ありがとうございます。

馬渕:足元の業績は、増収増益で非常に堅調ですね。配当も2018年に比べると2024年12月期は約5倍に拡大する見通しと、配当還元も大変積極的に行っています。個人投資家の方々が気になるのは「トランプ氏の再選によってこれからどうなっていくのか?」というところかと思いますので、そのあたりも詳しくうかがいます。

ひと目で分かるINPEX

馬渕:まずはINPEXの概要です。御社ではどのような事業を展開されているのでしょうか? 

上田:INPEXという会社をご存じない方もいらっしゃるかと思いますので、簡単にご説明します。

まず特色として、INPEXは石油や天然ガスの開発を行うとともに、水素やアンモニアなどのクリーンエネルギーにも注力する会社です。

石油・天然ガス開発というのは、日本の一般的な電力会社やガス会社、石油会社とは少し違って、海外の地下にある資源を掘り出して日本に持ってくる活動を行っています。我々は「上流」と言っているのですが、主にそのような工程を担当している会社です。

最近は株価が下がっていますが、現在の時価総額は2兆5,000億円ぐらいです。生産量としては、日本の年間エネルギー消費量の1割に相当するエネルギーを生産しています。国内での活動も少しありますが、当社の事業活動の9割は海外です。したがって、従業員も外国人の比率が高く、社員の4割以上を日本以外の国籍の方が占めています。

総還元性向は62パーセントぐらいです。探鉱前営業キャッシュ・フローは約1兆円となっています。

当社と石油元売り会社の違い

馬渕:開発を手がけているということですが、例えばINPEXとENEOSなどとの違いは何なのでしょうか? 

上田:石油を例にご説明します。石油のビジネスは、まず掘るところから始まって、それを日本に持ってきて、その後リファイナリーで精製して輸送し、ガソリンスタンドなどで販売する流れです。

ガスも似たようなものですが、このうち精製以下を「中・下流」と言い、資源を掘って持ってくるところまでを「上流」と言っています。主に中・下流を担う会社が、ENEOS、出光興産、コスモ石油などです。当社は主に開発・生産を担っているという意味で、上流を担う企業と言えます。

今期の業績は過去2番目の好業績となる見込み

馬渕:今期の業績は、過去2番目の好業績となっていますね。

上田:おかげさまで、好業績です。2022年が過去最高で、売上収益が2兆3,000億円ぐらいあったのですが、2024年12月期は2兆2,000億円ぐらいです。

親会社の所有者に帰属する当期利益についても、おそらく過去2番目になるかと思いますが、今のところ3,800億円ぐらいを想定しています。

グローバルでの当社の位置付け

馬渕:好調に業績が推移していますが、グローバルにおけるINPEXの位置づけはどのようなものでしょうか? 

上田:日本においては最大の石油・天然ガスの開発企業ですが、グローバルでは中堅企業の上か、上位企業の下ぐらいの位置付けです。スライドのグラフはネット生産量を示しており、石油や天然ガスを原油に換算して世界と比較したものです。

サウジアラビアなどの政府系企業を別にして、通常の民間企業だけを見ると、INPEXは1日の生産量が約63万バレルと、世界で11番目ぐらいとなっています。

1位、2位は、例えばアメリカのエクソンモービルや、イギリスのBP、シェルなど、スーパーメジャーと言われる企業です。当社は世界において、それに次ぐような中堅上位の会社だと思います。

当社の主な石油・天然ガス分野のプロジェクト

馬渕:世界11位ということで、世界のさまざまなところで開発を手がけていますが、具体的にどのようなプロジェクトがありますか?

上田:具体的には、5つぐらいの地域をコアエリアと称してプロジェクトを行っています。スライドに写真を掲載していますが、一番規模が大きいのはオーストラリアです。イクシスというプロジェクトでLNGを生産し、日本に持ってきています。

左側にあるのはUAEのアブダビの写真です。当社はここで主に石油の生産をしています。

中央下部の写真はインドネシアです。次の大きなプロジェクトとして、アバディというLNGプロジェクトを考えています。右上はノルウェー油田で、当社のオリジンである日本では、新潟県の南長岡ガス田で主に天然ガスを掘っています。

馬渕:今後、世界の産業ではLNGが鍵になってきますね。

上田:おっしゃるとおりです。ぜひご理解いただきたいのは、数年前まで、特にロシアがウクライナに侵攻する前までは、「エネルギーのトランジションをどう進めていくんだ」「もはや化石燃料の時代ではないんじゃないか」とみんな言っていました。

現在は「かなり長期にわたって天然ガスでやっていくしかないんじゃないか?」という意見が、世界の産業界のコンセンサスに近くなりつつあると思います。ヨーロッパ企業も含めて、ロシアのウクライナ侵攻以降、エネルギーのトランジションはもちろん重要なのですが、エネルギーのセキュリティが重要だという認識になっています。

今ある化石燃料の中で、最も気候変動に適応でき、CO2排出量の少ないエネルギーは天然ガスです。そのため、当面は天然ガスを中心としてエネルギーの安定供給を図り、その間に、水素やアンモニアなどの新しいクリーンな燃料へのトランジションをなんとか進めていこうではないかという考え方が、最近の主流になっていると思います。

馬渕:INPEXのコアは、このイクシスLNGなのでしょうか? 

上田:そうですね。

馬渕:その次のプロジェクトとして、東南アジアのアバディLNGを考えていらっしゃるのですね。

上田:将来的なプロジェクトとして検討しています。当社では「ガスシフト」と言っていますが、石油だけではなく、むしろ天然ガスを中心に展開していこうという感じです。

主なネットゼロ5分野のプロジェクト

馬渕:一方で、もう少し先の未来を考えた時に、水素やアンモニアも必要です。このあたりも開発を進めていらっしゃるということですか? 

上田:私たちは「ネットゼロ5分野」と言っていますが、当社の事業にとって一番必要なのは、スライド左上に記載した「国内先進的CCS」です。これは「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、地下数千メートルにCO2を埋め戻していく技術になります。

石油にしろ天然ガスにしろ、あるいは発電所にしろ、必ずCO2が出ます。このCO2を集めて船かパイプラインで運んで地下に埋め戻すのがCCSという取り組みで、当面はこれがCO2対策の切り札になると思います。当社は国内でも海外でも、今、一生懸命これに取り組もうとしているところです。

それから、スライド右上に記載した「柏崎ブルー水素・アンモニア製造」「米国ブルーアンモニア・グリーン水素」ですが、これは「ブルー水素」「ブルーアンモニア」「グリーン水素」「グリーンアンモニア」といった言葉があるのですが、CO2の排出を伴いません。

もともと、水素やアンモニアは燃やしてもCO2を出さないのですが、作る時のCO2も出さないようにすることで、本当の意味でのクリーンな燃料にしていこうと取り組んでいます。このような分野についても、国内でも海外でも、いろいろな事業に着手しようとしているところです。

スライド左下には再生可能エネルギーについて記載しています。「風力発電」「地熱発電」「再エネバリューチェーン」等にも力を入れていますし、右下にある「メタネーション」という人工天然ガスの製造にも注力する予定です。

馬渕:未来に向けた投資もしっかりされているということですね。

上田:はい。これは重要なことだと思います。

世界をまたにかけたビジネスの展開

馬渕:1年前にお話をうかがった時も、上田社長は世界中を出張されているとのことでしたが、今年はいかがでしょうか?

上田:今年も10回ぐらい海外出張に行っています。実は今週も、一昨日までインドネシアに行っていたところです。

どのようなことをやっているかというと、個別のビジネストークもありますが、いろいろな会議に参加しています。

スライドには、ヒューストンで開催された世界で一番有名な国際会議、CERA Weekの写真を掲載しています。このように、壇上でスピーチやパネルディスカッションに参加したり、ビジネストークを行ったりすることもあります。

スライド中央の写真は、マレーシアを訪れた際にアンワル首相と対談している様子です。このように世界を飛び回るのは、事業の性格上、仕方がないことだと思っています。

馬渕:世界中を訪問される中で、アメリカ大統領選におけるトランプ氏の再選についてはどのようにお考えでしょうか? ビジネスやエネルギー領域における環境の変化が予想されますが、INPEXの業績への影響などはどのように分析されていますか? 

上田:非常に難しい問題だとは思いますが、日本にとってもビジネスにとってもチャンスとなる側面はあると思います。

トランプ氏がおもしろいのは、彼はポリシーの人ではなく、トランザクションやディール、取引の人です。目的はアメリカファースト、手段はディールという感じです。ある種、非常に明確な人なのです。

エネルギー領域にどのような影響があるかと言えば、ご存じのとおり、彼は化石燃料が比較的好きなのです。有名な言葉に「ドリル・ベイビー・ドリル」がありますが、これはアメリカで石油や天然ガスをもっと掘ろうではないか、というメッセージです。

短期的には、化石燃料の生産量はおそらく増えていくと思います。そうすると価格が下がっていきます。価格が下がると、アメリカも経済性が重要なので、そこまで掘れなくなってくるかと思います。

もう1つ重要なのは、このような動きに対して中東諸国はどのように対応するかということです。アメリカの石油や天然ガスにおけるシェアが増えてくると、サウジアラビアやUAE、ロシアなどを含むOPECプラスの国々のシェアは、相対的に下がることになります。

彼らもシェアを維持したいですから、アメリカの動きに「これは嫌だな」と思うはずです。シェアを維持するために、彼らも増産してアメリカに対抗することになります。その結果、数年前には価格が暴落して、石油価格がマイナスになったこともありました。

今回もそのようなことになりかねません。OPECプラスのもう1つの関心は、シェアを落としてもいいから、ある程度の価格を維持したいということです。そうすると、「アメリカがそこまで掘りたいなら、まあいいや」と少し我慢して、むしろ価格を維持する方向に動くかと思います。

シェアを維持するのか、価格を維持するのかというところで、中東諸国は揺れ動くと思います。一方でこれらの国々は、アメリカにはガザやイランなど中東の和平に関与してほしいとも思っているわけです。このような国とアメリカがどのようにディールしていくのか、非常に注目しています。

私の考えとしては、まず「ドリル・ベイビー・ドリル」の方針で、アメリカの生産量は短期的に大きく増えることになると思います。その後に価格の問題が発生しますが、アメリカとサウジアラビアは比較的仲が良いので、双方に対してある程度配慮したディールが成立する可能性が高いのではないでしょうか。

おそらく年明け以降、激しいボラティリティが石油や天然ガスに起こると思いますが、中長期的には比較的安定した状況に戻っていくのではないかという見立てをしています。

ただ、トランプ氏はそうやって世界の秩序を変えていく人なので、それについて良い・悪いと言っても仕方ありません。そのような動きにどう対応し、ビジネスチャンスを見つけていくかということが、会社としては重要だと考えています。

馬渕:INPEXとしてはいろいろなビジネスチャンスがあるとお考えなのですね。具体的にはどのようなアクションをイメージされているのでしょうか?

上田:なかなか難しいところです。これは会社というよりも、国と国とのディールになってくるかもしれないですが、例えばアメリカがもっと輸出で儲けたいと考えるなら、水素やアンモニアを輸出するだろうと思います。

トランプ氏はおそらく気候変動問題が嫌いで、パリ協定から離脱すると言われているのですが、一方で水素やアンモニアやCCSは比較的、輸出商品として育てたいと思っていると聞いています。

そうすると、我々も気候変動対策に水素やアンモニアは必要です。INPEXはアメリカでも水素やアンモニア関連のいろいろなプロジェクトを計画していますが、その水素やアンモニアをアメリカで作って日本やアジアに持ってくることで、アメリカファーストに貢献するとともに、日本の気候変動対策にも貢献し、アジアのクリーンエネルギーのサプライチェーン構築に協力できます。

これは今後の話ですが、ディールがあろうがなかろうが、INPEXとしてはそのような活動を一生懸命やっていこうと思います。しかし「何かディールをしたい」ともし言われれば、「アメリカファーストと、日本の国益、会社の利益を両立する道はあるのですよ」ということをお話ししてみたいなとは思います。

馬渕:大変期待が寄せられるコメントをいただきました。トランプ氏とディールできるのだという上田社長のスタンスは、非常に心強いと思います。地政学を含めていろいろと分析されていると思いますが、このあたりのブレーンはどのような方々がいらっしゃいますか? 

上田:もちろん社内にも分析チームがありますが、当面は、アメリカの外交エネルギー政策がどう変わっていくかということが重要です。当社はアメリカで多くのコンサルタントと契約していますので、数週間に1回ぐらいワシントンとテレビ会議を行っています。

アメリカで何が起こっていて、ポリシーがどのように動いていくのか、最新情報をいち早く得て、会社のビジネスに活かしていこうという取り組みを行っています。

現在の株価は割安と認識

馬渕:今のお話をうかがうと、現在の株価は比較的割安だなと私自身は認識しているのですが、このあたりはいかがでしょうか?

上田:現在の当社の株価は2,000円ぐらいですが、正直なところ割安というか、安すぎるのではないかと、個人的には思っています。時価総額もいい時は3兆円ぐらいあったのですが現在は2兆5,000億円ほどで、PBRは0.58倍ぐらいです。

株価は中長期的に見ると少し上がってきていますが、それでも安いと思います。トランプ氏が再選した影響で原油価格が大きく下がるのではないかという懸念が市場に広まっている部分もあるかと思いますが、正直に言って、今の数字にはフラストレーションを感じています。

馬渕:原油価格については、長期的にはシュリンクしていくというか、どこかで安定するだろうという見通しを立てられています。しかも原油以外の天然ガスや水素、再エネなども手がけていらっしゃるので、ポートフォリオもしっかりと組まれています。投資家としてはそのあたりも分析していく必要性がありそうですよね。

上田:これはぜひご理解いただきたいところです。トランプ氏や世界がどのようになろうが、エネルギーは必要です。世界の成長センターであるアジアにおいて、エネルギーの需要は必ず伸びていくはずです。中国は景気が悪いという問題はありますが、東南アジアを含め、アジアが世界の成長センターとして伸びていきます。

成長するためには、天然ガスであれ原油であれ水素であれ、なんらかのエネルギーは必ず必要です。エネルギーの種類が変わっても、エネルギー供給の主役の一角をINPEXが占めるように努力していきたいと思っています。

株価及びPBR推移

馬渕:続いてPBRの推移を見ていきます。こちらは1倍を割る時期が続いていますが、そもそものお考えはいかがでしょう?

上田:PBR1倍云々の議論がある中で、当社のPBRは0.58倍という水準で低いと思います。やや言い訳的になりますが、当社は何兆円という巨大なインフラを持っている企業なので、どうしてもインフラ投資をします。

円高の時に投資をしましたが、今は円安です。1ドル80円ぐらいした時の資産に比べて、今の為替レートで円に換算すると、資産価値が円で見ると非常に大きくなっています。資本もそれに合わせてくるかたちになっているので、結果として当社のPBRは低くなっています。

インフラ企業であればだいたいそのようになっていて、インフラを持たない、動きが速い企業とはどうしても状況が違うと思います。

もちろんPBR1倍に向かって努力していきたいと思いますが、その業態のネイチャーを踏まえれば、PBRの数字そのものよりも、当社がどのように成長していくかというところが重要です。

投資家の方々にも、「INPEXという会社がどのように成長していくか」という点にフォーカスしていただいたほうが、おそらく正しい姿を見ていただけるのではないかと思います。

馬渕:未来に向けた成長戦略をしっかりと描いていらっしゃるということですね。加えて、実は自社株買いもされていますし、配当も過去最高ということで、株主還元も積極的にされています。

上田:PBR対策をしっかりやっていこうと考えています。

株主還元を大幅に拡充

上田:当社のPBR対策には3つの柱があります。1つは、資本の効率を上げていくということで、ROICのような経営指標を持ち込むことにしました。これはどうしても取り組まなければいけません。

もう1つは成長戦略です。INPEXは石油と天然ガスが中心の会社ではありますが、未来のエネルギーはいろいろ変わっていきます。それに向けた投資も怠りなく行っていくことで、未来においてもエネルギー産業として十分な利益を上げる会社ができるのだと思っています。

3つ目は配当や自己株式取得などの株主還元です。スライドのグラフ上部にあるとおり、イクシス生産開始前の1株当たり配当金は18円でした。イクシスの生産開始後、当社のキャッシュ・フローが潤沢になったこともあり、配当金を増やそうと考えて、今は86円と昔に比べると約5倍の水準になっています。

自社株買いは1,000億円超で続けています。資本効率を上げる経営を目指すということ、成長を投資家のみなさまに理解していただくこと、株主還元もきちんと行っていくことの3つを三位一体として進めていくことが、当社のPBR対策だとご説明しています。その気持ちは今でも変わっていません。

今後の成長のカギ

馬渕:次に、INPEXはどのようにして成長するのかについてうかがっていきたいと思います。これまでも堅調に成長を遂げてきたINPEXですが、今後の成長の鍵は何でしょうか?

上田:成長の鍵の1つは、天然ガス事業です。もう1つは、中長期的には低炭素事業だと考えています。

スライドに記載したとおり、トランジションの期間は、世界のエネルギーは天然ガスを中心に回っていくと思っています。もちろんトランジションは非常に重要ですが、やはりエネルギーの安定供給やエネルギーセキュリティを考えると、ヨーロッパの企業との話でも「当面は天然ガスでいくしかない」という声が高いです。

したがって、当社は今でも石油・天然ガスが事業の中心ですが、このような分野にしっかり投資していき、天然ガスで収益を上げることを当社の中心的な戦略として進めていきたいと思います。

一方で、脱炭素はやや停滞しているところもありますが、中長期的には必ず進んでいきます。その時に中心になるのは低炭素事業のCCSや水素、再生可能エネルギーだと考えています。

したがって、将来も当社がエネルギー供給の重要な役割を果たすためには、今からこの分野にしっかり準備していくことが必要だと思っています。成長投資は毎年4,000億円から5,000億円を考えているのですが、現在もそのうち約2割を低炭素事業に投入している状況です。

馬渕:キャピタルアロケーションとして、2割は低炭素事業に投資されているのですね。そして、天然ガスがメイン事業とのことですが、やはりウクライナ侵攻以降でトーンが変わりましたか?

上田:おっしゃるとおりです。ウクライナ侵攻以前は、化石燃料は十把一絡げで「悪いものだ」「脱化石燃料、脱石油」と言われていました。未だにそのようにおっしゃる人は多いのですが、実は悪いのはCO2なのです。

「CO2をなんとかすれば、化石燃料を使ってもそこまで大きな問題ではないのではないか?」という議論があります。また、ガスは非常に使いやすい気体であり、CO2排出量は少ないのです。

グローバルでのLNG需要は今後アジアが中心となる

上田:スライドに「グローバルでのLNG需要は今後アジアが中心となる」と記載しましたが、ウッドマッケンジー社による2050年までの見通しでは、世界全体で現在4億トンのLNG需要が、2046年には7億トンになっています。

グラフのブルーの部分がアジアですが、世界の需要の大部分は中国やインド、東南アジアを中心とするアジアの需要です。したがって、私は天然ガス、とりわけLNGの需要は、アジアにおいては2040年以降も伸び続けると考えています。

最もエネルギートランジションが進むと考えているIEA(国際エネルギー機関)の見通しでも、アジアにおける天然ガス需要は2040年以降も増えていくとされていますので、天然ガスがエネルギーセキュリティとエネルギートランジションをバランスさせていく中核的な燃料になっていくと考えています。

イクシスLNG 当社利益の6割を占める旗艦プロジェクト

馬渕:INPEXとしては、アジアに供給していく時に軸となるプロジェクトは、どのようなものになるのでしょうか?

上田:当社の旗艦プロジェクトについてご説明します。オーストラリアでのイクシスLNGというプロジェクトは、当社利益全体の約6割を稼ぎ出しています。LNG生産量は年間890万トン、利益貢献額は当社利益の6割程度を占めるフラッグシッププロジェクトです。当社はこの事業の6割以上のシェアを持つ操業主体(オペレーター)としてプロジェクトを実行しています。

イクシスLNG 引き続き成長余地を有する

馬渕:イクシスLNGの拡大等も具体的に考えていらっしゃるのですか?

上田:ぜひ拡大したいと思っています。スライド左側の写真が、イクシスのダーウィンにある液化施設の全景です。井戸は海底にあり、ここから890キロ(東京・札幌間ぐらい)の海底パイプラインを引き、地下数千メートルに天然ガスを採掘しているところがあります。

採掘後、海の上に船の形をしたFPSOや、CPFなどの機械が置いてあるのですが、そこからダーウィンの液化基地に運んで、マイナス163度に冷やして液体にして、船で日本やその他の国に運んでいます。

スライド右側はダーウィンの基地を上から見た写真で、茶色い部分は拡張する予定の土地です。私は「ダーウィンの土地が私たちを待っているのではないか。ここに設備を作ることが私たちの使命ではないか」と言っています。

もともと拡張する余地を持った施設として設計しており、LNGの液化施設は現在2トレインを持っているのですが、これに加えて3番目のトレインを作りたいと考えています。そのためには新しいガスソースを発見しなければいけませんので、そのガスソースについて議論をしている段階です。

これには「ぜひ取り組んでほしい」という投資家も多いです。すでにプラントも土地も港もあり、ここにつなぎ込むかたちであれば経済的にも非常に合理的でリスクも少ないため、経済性を上げていくためにもイクシスを拡張したいと思っています。

馬渕:ここはINPEXの成長にも欠かせないポイントになりますね。ガスソースが見つかって拡張していくことになると、利益がより高まっていくのでしょうか?

上田:当然ながら、仮にもう1トレイン作ることができれば、大きさにもよりますが、今の1.5倍ぐらいのものになるはずですので、それを目指してがんばっていきたいと思います。

イクシスLNG オーストラリアにおけるINPEXブランドの確立

馬渕:ガスソースを探していく、あるいはトレインを増やすというところは、やはりオーストラリア政府との交渉もあると思います。そこはいかがでしょう?

上田:おっしゃるとおりです。私たちはオーストラリアでビジネスをしている以上、政府との関係や地域との関係が非常に重要です。

オーストラリアにおいて、INPEXはおそらく日本で最大の投資家です。スライド左側は、今年の春にオーストラリアに行った時にアルバニージー首相とお会いして、「イクシスLNGの拡張戦略について、オーストラリア政府にぜひ協力をお願いしたい」とお話しした際の写真です。

政府にもINPEXの活動をサポートしていただいています。ちなみに、東京よりもオーストラリアの従業員のほうが多いのです。オーストラリアに行くと、「INPEXはオーストラリアの会社なのか? 日本の会社なのか?」と言われます。

馬渕:雇用も創出しているのですね。

上田:多くの雇用を創出し、税金もたくさん払っています。また、スライド右側の写真にあるように、地域貢献にも注力しています。

オーストラリアのアボリジニという先住民の方々との関係も重視しており、いろいろなところで一緒にセレモニーをしたり、そのお金を出したりしています。これは日本でも同じですが、地域に好かれる会社でなければビジネスはうまくいきませんので、地域との関係も非常に重視しています。

アバディLNG イクシスと同程度のポテンシャルを持つ巨大プロジェクト

馬渕:地域密着で手を組み、愛されながら進めていらっしゃるのですね。

イクシスLNGの魅力は非常によく伝わったのですが、投資家としては「次なるイクシスLNGはないんだろうか」と思うのですが、ここはいかがでしょうか?

上田:次なるプロジェクトは、インドネシアの僻地にあるアバディLNGです。LNG生産量は年間950万トンと、イクシスLNGとほぼ同程度のポテンシャルを持っています。こちらも地下で天然ガスを採掘し、海底パイプラインでインドネシアの田舎の島でLNGにして、日本をはじめとする各地に持っていきたいと思っています。

アバディLNG 2030年代初頭の生産開始を目指す

馬渕:このアバディLNGは、どのようなスケジュールになっていますか?

上田:今年はFEEDの準備をしており、来年以降に開始したいと思っています。FEEDとは設計のことです。地下の施設や陸上の施設、パイプラインを設計してコストを見極めるもので、基本設計と呼んでいる作業です。

設計するだけでも何百億円とかかるようなプロジェクトです。このFEED作業に、おそらく2年間ぐらいかかります。その後、EPC(設計・調達・建設)で世界中から物品を調達し、イクシスLNGのような施設を海上や陸上に作り、海底パイプラインを敷設する作業が5年程度かかるため、2030年代初頭の生産開始を目指しています。

アバディLNGは僻地にあり、ゼロから立ち上げるグリーンフィールドのプロジェクトです。イクシスLNGの拡張は相対的にリスクが少ないのに対して、アバディLNGはゼロからリモートで立ち上げるプロジェクトですので、投資家からは「リスクが高いが、何兆円も投資して本当に儲かるプロジェクトになるのか」と心配されています。

馬渕:そこはどうですか?

上田:1つは、アバディLNGの設計思想や開発コンセプトはイクシスLNGと非常に近いため、イクシスLNGの経験をアバディLNGに持ち込むことによって、リスクを軽減できると考えています。

ジャカルタにいるアバディプロジェクトの代表者はオーストラリア人で、オーストラリアでイクシスLNGに携わった人です。私がオーストラリアに行って、従業員たちに「アバディというプロジェクトに協力してくれないか? あなたたちの経験と知識を活かしたいのだ」とお願いしました。すると「よし、やろうじゃないか」ということで、イクシスLNGの経験者をアバディLNGに連れてくることができました。

もう1つは、エネルギーを安定供給する一方で、会社としての収益性を目指すためにIRRが最低十数パーセント(10%台半ば)はなくてはいけないということを、インドネシア政府と共有しています。今、ご存知のとおり世界はインフレですので、コストがどのようになるかわからない状況です。

FEEDが終わったところで具体的なコストが出せるため、その時に、将来のガス価も見た上で、投資をして収益があるかどうかを議論することになっています。

FEEDが終わった段階で経済性を見直して、必要ならばインドネシア政府と再度協議するという合意をしています。したがって、我々はできるだけリスクを軽減して、経済性が高いこのプロジェクトにチャレンジしていきたいと思っています。

アバディLNGはインドネシアの将来の天然ガス需要に応える、巨大な国家戦略プロジェクトという位置付けになっています。インドネシアでは大統領が代わり、一昨日のインドネシア滞在では新しいエネルギー大臣にアバディのコンセプトを説明し、「多くの課題があるが、一緒に乗り換えていこう」とお話しして、非常に強いサポートを得ることができました。

馬渕:インドネシア政府も願っているような事業だということですね。  

低炭素事業 首都圏CCS事業による貢献

馬渕:未来への投資として低炭素事業も進めていますが、こちらはいかがでしょうか?

上田:重要な事業の1つにCCSという事業があります。CCSとは、世の中にあるCO2を集めて地下に埋め戻すというプロジェクトです。日本の経済産業省にも、本件のプロジェクトをリードしていただいています。当社は今、国内で2つのCCSプロジェクトを進めようとしています。1つは首都圏、もう1つは秋田です。

東京湾岸にはたくさんの製鉄所や発電所があり、天然ガス発電や石油発電、鉄を作る時などに石炭を燃やすと多くのCO2が出ます。これを集めて、東京湾沿岸から千葉方面にCO2パイプラインを引いて、千葉沖合の貯留エリアの海底数千メートルに埋めるのが、首都圏のCCS事業です。当社はオペレーターとしてこの事業に取り組んでいます。

CO2対策にはいろいろな技術があり、いろいろなことを言う人がいますが、現実的なCO2対策はCCSだと思います。今までの技術を使いながら、もともと地下にあった大量のCO2を再度地下に埋め戻すことができます。もちろん技術的な課題はありますが、CCSはアメリカやオーストラリア、インドネシアなど、いろいろなところで構想されています。

低炭素事業 ブルー水素・アンモニア製造一貫実証は順調に進捗

馬渕:ブルー水素やアンモニア製造の事業はいかがでしょうか?

上田:当社は将来、水素が主要な熱エネルギー源になるかもしれないと考えています。スライドは、新潟県柏崎市で建設途上のブルー水素の実証プラントの写真です。我々は新潟で天然ガスの採掘をしているため、それを持ってきて水素を作る水素製造設備があります。

その時に出るCO2をCO2回収設備で回収し、CO2圧縮設備で押し込み、水素製造過程におけるCO2をゼロにしてクリーンな水素にします。その水素で発電を行ったり、ブルーアンモニアを作ったりする設備を建設中で、来年の8月ぐらいに完成する予定です。

これはおそらく日本初のブルー水素の巨大実証プロジェクトになると思います。私たちは、ここで水素の取り扱い方や作り方、水素に関わるいろいろな課題をしっかり勉強し、さらに大きな商業規模のブルー水素プロジェクトを進めたいと思っています。

これはおそらく、日本からも世界からも、たくさんのお客さんが訪れることになる実証プロジェクトのため、ぜひ機会があれば、投資家のみなさまにもこのようなプラントを見ていただきたいです。水素はどのようにして作るのかが、よくわかるのではないかと思います。

低炭素事業 再生可能エネルギーではバリューチェーン構築を目指す

馬渕:再生可能エネルギーのほうはいかがでしょうか? 

上田:再生可能エネルギーももちろん、電力の世界では重要なエネルギーです。みなさまもご存じのように、風力や地熱、太陽光などいろいろなものがあり、私たちはその再生可能エネルギーを日本でも世界でも展開しています。

大きいものでいうと、イタリアにあるEnel社とのパートナーシップです。再生可能エネルギーでは世界最大企業の1つなのですが、50対50のジョイントベンチャーを組んで、オーストラリアで一緒に再生可能エネルギーを作っています。

2030年には、このジョイントベンチャーだけで、2ギガワットから4ギガワットぐらいのキャパシティを持つ再生可能エネルギーをオーストラリアで展開していこうとしています。スライド中央には太陽光発電の写真がありますが、太陽光発電や風力発電も展開しており、さらに太陽光発電と蓄電池を組み合わせたようなプロジェクトも進めています。

それ以外にはインドネシアで地熱発電を行ったり、ヨーロッパで洋上風力発電を展開したりしており、このような分野についてもINPEXの知見を活かしながらいろいろなことを展開していこうと思っています。

馬渕:実際にこの洋上風力発電のところに行った動画がありますよね。

上田:これはぜひ、見ていただきたいです。実は10月にイギリスに行った時に、ついでに洋上風力発電を見学に行きました。30秒ぐらいの動画があるので、映していただけますでしょうか?

【動画流れる】

これはヘリコプターで向かうところです。私はこのヘリコプターに乗っており、アバディーンを出発して30分から40分ぐらいずっと海の上を飛んでいくと、洋上風力発電の施設に巡り合うことができます。

動画に映っているものがその施設で、直径が150メートルぐらいの非常に巨大な風車が100機以上並んでいます。日本にはこの風景はまだないと思いますが、これはイギリスの海の上の洋上風力発電です。

これはモーレイイーストというところなのですが、このモーレイイースト洋上風力発電プロジェクトの約15パーセントのシェアをINPEXが保有しています。ここに行き、オペレーターたちと、ヨーロッパあるいは将来の日本における洋上風力発電の可能性について議論しました。

馬渕:圧巻の映像ですね。

上田:すごくおもしろかったことは、ヘリコプターに乗っている時に、先ほどの風力発電の場所について「この海の深さはどれぐらいあるのだろうか?」と聞いたところ、彼らは「本当に深くて、40メートルから60メートルもあるんだよ。すごいだろう?」と言うのです。

馬渕:40メートルは浅くないですか? 

上田:そうなのです。私たちの感覚からすると、日本は海岸から50メートルや100メートル離れると、もう海底の深さは100メートルや200メートルになります。ところが、ここは北海なので実はものすごく遠浅で、40メートルや60メートルでも深く、15メートルや20メートルなどの深さのところが多いのです。

ヨーロッパでは洋上風力発電がすごく進んでいるのは事実なのですが、着床式といって海底から機械を建てています。水たまりというと失礼ですが、そのようにものすごく海底が浅いのです。

日本の洋上風力発電も一生懸命行わないといけないですし、政府も我々もいろいろな会社が取り組んでいます。ただ、日本の場合はどうしても海がすぐ深くなってしまうので、おそらく日本近海には、ヘリコプターで30分行ったところに40メートルの海底などは存在しないと思います。

そうすると、日本の場合は将来的には着床式ではなくて、浮かんでいる浮体式の風力発電がどうしても中心にならざるを得ません。ただし、これは技術的にも非常に難しいです。

馬渕:浮体式のほうが難しいのですか? 

上田:難しいですね。浮きのようなもので浮かせる、あるいは船の上で風力発電を建てるようになります。また、日本の場合は台風などがあり、ヨーロッパのように安定した偏西風のような風が吹いていません。そのようなことも考えると、なかなか簡単ではありません。

したがって、再生可能エネルギーにしろ、天然ガスにしろ、エネルギー事情は国によって、それぞれ地形も違うので、その国に合ったエネルギーミックスを作っていくことが大切だと思います。そのような意味では、ヨーロッパは風力発電が非常に適している地域だと思います。日本も努力はしますが、おそらくヨーロッパほどは簡単ではないと思います。

馬渕:地形の問題や風の問題などもありますからね。今、先進国では原発の再稼働が注目され、アメリカでは小型原発にも注目が集まっていますが、このあたりについてはいかがお考えですか? 

上田:クリーンエネルギーは何かというと、やはり原子力発電だという人が多いです。実は今、この分野で非常に課題となっているのは、電力需要が今後大きく伸びるといわれていることです。

これは特にAIとの関係で、データセンターなどの電力をどう確保していくのかということです。おもしろいと思うのは、ついこの間までAIというのは、むしろエネルギーの効率化を図るもので、エネルギー需要を減らす方向に作用すると言われていました。

ところが、実は巨大なデータセンターを作るには巨大な電力が必要で、日本もアメリカもヨーロッパも、先進国は圧倒的にこの電力需要が今後伸びていくことになると思います。よくいわれるのは、Googleで1回検索するエネルギーと、ChatGPTを1回使うエネルギーだと10倍ぐらい違うということです。

そのため、これから生成AIのようなものが中心になってくれば、どんどん電力需要が伸びてきます。それでは、この電力需要にどう対応していくのかというのが、今の世界の大きな課題です。

これは世界で議論されていることですが、多くの人が言うのは、やはりクリーンなエネルギーが欲しいということです。そうすると、このような地熱・風力発電などの再生可能エネルギーと、もう1つはやはり原子力発電なのです。

私が議論した時は、アメリカの原子力発電、特にスモールモジュラーリアクターという小型原子炉を使っている人たちがたくさんおり、「これもう使用しているのだから」ということを言いました。私も将来は小型原子炉を含めた原子炉は、すごく重要なものになると思います。

ただし、それがすぐ実現するかというと、実はそのようなことはありません。技術的にはものすごく難しいですし、原子力発電は安全性の問題があるため、その小型モジュールの原子炉の安全性を確保するために、どのような規制を作っていくのかという課題もあります。

そのような規制を作るだけでも、実は5年や10年かかりますし、もちろん建設にもそれだけの期間がかかるということがあります。日本の場合は、今ある原子炉の再稼働を一生懸命進めようとしていますが、やはりどうしても住民との関係で、簡単に進まない部分もあります。

私も原子力は遠い将来にはかなり重要になってくると思い、実は当社も核融合のようなものに出資しています。しかし、それが「明日来るか? 2030年にすぐ来るか?」というと、そのようなことはおそらくありません。

そうすると先ほどもお伝えしたように、やはり天然ガスを中心として、クリーンに展開していきながら、いろいろな新しいものに投資していき、トランジションを円滑に進めていくということになるのではないかと思っています。

今後の成長は人がカギ

馬渕:最後に、INPEXが大切にされていることについて、おうかがいしていきたいと思います。上田社長が大切にされていること、INPEXが大切にされていることがあるそうですが、こちらはいかがでしょうか?

上田:INPEXという会社は石油・天然ガスの掘削を中心としてきた会社のため、実は伝統的にはアセットが重要です。要するに地下の資源を掘る仕事なので、良い地下資源を見つければ、ある程度収益も上がってくるという構造にあったため、そのような意味では良いアセットを持つことが会社にとって重要でした。

今でもその重要性は変わらないと思っていますが、それに加えて、先ほどお伝えしたトランジションなどを考えると、今後の成長にとって重要なことは、実は新しいビジネスを切り開いていく能力を持つような人なのです。

スライドに今後重視したいということを3つ挙げたのですが、最大は1つ目の「従業員(Employer of choice)」、人なのです。当社の特色として、多国籍ということで、40パーセント以上は日本国籍以外の人が社員になっています。

しかし、今後の会社の成長を考えた時に、水素をどこで作るのか、誰に売っていくのか、地域との関係をどうしていくのかなどの問題があります。再生可能エネルギーも同じです。そのため、やはりこれからはこのような従業員こそが成長の鍵を実際に握ってくると思います。

そのような意味では、どのように従業員の人たちを、本当の意味での会社の力に変えていくのかというのが、私にとってはものすごく重要な課題です。

2つ目は「HSE(Health、Safety、Environment)」です。安全第一という言葉にも表されているのですが、昔も今も、そして今後もやはり安全第一はすごく重要なため「INPEXバリュー」として重視してきました。

3つ目は「R&D(研究開発)」です。イノベーション本部を社内に作って展開していますが、今後は石油・天然ガスだけではなく水素など、いろいろな技術的な課題も多いため、このようなものにチャレンジしていくようなR&Dをしっかり実行していこうということです。

この3つがアセット以外の分野で、今後特に重視していきたい領域です。

人を中心とした真のグローバルカンパニーへ/従業員

馬渕:この3つを大事にしていく上で、社内では具体的にどのようなことを行っていますか?

上田:スライドに記載したように、やはり多様性がすごく重要です。私たちが議論する際、日本人だけでは駄目で、外国の人たちには新しいアイデアがあると思います。女性と議論していると、ここにまた新しいアイデアがあるため、ダイバーシティというか、多様性が成長の鍵であるというのは日々実感しています。

当社の場合は日本人が58パーセント、オーストラリア人が32パーセント、それからイギリス人、ノルウェー人と、本当に世界各国の人がいます。そして彼らに伝えているのは「あなた達は単なる現地採用ではない。あなた達はINPEXの戦力そのものなんだ」ということです。

例えば、いろいろな会議に世界から集まってもらいますし、もちろん日本で働いている人もいます。グローバルカンパニーであるためには、現地の人を現地採用として遇するのではなく、世界の戦力として遇します。

先ほどイクシスLNGのお話をしましたが、オーストラリア人に「アバディに来てくれるか?」と聞いた時に、彼らが来てくれると言ったのはそのようなことが背景にあるわけです。多様性をもっと育てていき、これを会社の力に変えていきたいと思います。

馬渕:女性活躍のほうはどのような取り組みを行っていますか? 

上田:当社は井戸を掘ったりする会社なので、なんとなく男くさい会社だと思われているのではないかと思います。もちろん男性社員が多いものの、女性社員もたくさんいますし、私はこれから女性にもっと活躍してもらおうと思っています。

現在、女性活躍はどこの会社でも非常に重要な課題になっており、当社においても例外ではありません。去年女性活躍について議論の場がありましたが、そこで議論しているのが男性ばかりなのです。

そこで、私は「男性ばかりで議論しているのに女性活躍と言ってどうするのだ」とその場で会議を止めました。その代わりに社内の女性だけで、女性活躍のために何が必要かという問題点を洗い出し、解決策を議論するための「女性活躍タスクフォース」を作ることにしました。

基本的に海外ではあまり女性活躍の問題はありません。そこで、海外で勤務している人も含めて、日本人女性15人くらいに集まってもらって、大議論をしてもらいました。どのような解析をすれば、もっとこの会社で女性が活躍できるかを議論してもらっています。

馬渕:具体的にはどのような声が上がってきましたか? 

上田:これはもう本当に多種多様なため、すごく勉強になると思います。ただし、これはオンゴーイングのため、やや個人的なアイデアというか、私自身がやりたいことなのですが、例えば、やはり女性にとってのライフイベント、出産や育児はすごく重要です。

そのようなライフイベントで、一定期間の育児休暇を取るのは認められているし、もちろん取るべきなのですが、彼女たちが言うのは、「いやいや、その時に他の人に自分の仕事をカバーしてもらわないといけない。それが非常に心苦しいです。他の人に負担をかけるので休みづらい」ということでした。

もちろんアルバイトスタッフなどで対応できる場合もあるものの、仕事によってはそうもいかないので、どうしても他の人に負担がかかってしまいます。100パーセントの解決になるかどうかはともかくとして、私は会社でその負担を見ようと考えています。

要するに、育児休暇などのライフイベントで休む場合に、その仕事をカバーしてくれる他の人に、その分だけきちんと上乗せするかたちにして、賃金を払おうではないかということです。そうすると、育児休暇などを取る際にも、今よりはおそらく休みやすくなるだろうし、カバーするほうもただ働きではないので、良いと思ってもらいやすいと思います。

馬渕:手取りが増えますね。

上田:私は気が付かなかったのですが、すごく切実な声として上がっていていたため、このようなことを実現してみたいと思います。

あるいは、最近、当社の女性もみんな海外に行きたいと言います。これは良いことですので、どんどん海外赴任しているのですが、小さなお子さんがいるケースも多いです。「小さなお子さんを海外でどう育てるのか?」と聞くと、「親を連れていきたい」と言うのです。

馬渕:親もですか?

上田:小さなお子さんがいる女性が海外赴任する場合に、その女性の親御さんなど子どもをケアしてくれる人を海外に一緒に連れていく費用を、きちんと会社で補填しようではないかということを社内で議論しています。このようなことを私はぜひ、いくつか実現したいと思います。

能力的にはもともと女性もすごく高いので、そのような働き方の環境をしっかり整備すれば女性はもっと当社で活躍してもらえると思いますし、それが先ほどの多様性がもたらす会社の価値になってくるだろうと思います。

細かい話はたくさんありますが、このような細かい話を積み重ねていって、今は男くさい会社と言われるかもしれませんが、女性が本当に活躍できる会社を私は目指してみたいと思います。

馬渕:現場の声がきちんと届いているということは本当にすばらしいことですね。

上田:本当にそのようになったらいいなと思います。これはオンゴーイングで、できなかったら残念ではあるのですが、ぜひそのようなことを実現したいと思います。

馬渕:そちらに向かって今、走っていらっしゃるのですね。

人を中心とした真のグローバルカンパニーへ/HSE、 R&D

馬渕:安全第一を大事にされているということなのですが、スライドの左側に掲載されているものはポスターですか?

上田:ポスターです。少し恥ずかしいのですが、これは私の写真です。日本語でも英語でもこのようなものがたくさんありますが、これを世界各国にばら撒いています。

馬渕:会社に貼ってあるのですか? 

上田:現場に貼ってあります。特に伝えているのは「仕事がすべてではなく、ワーカーの人たちみんなが笑顔で家に帰ってくることを家族は期待している」ということです。「私たちは今日も笑顔で家に帰れることを目的とする」と、そのためには安全第一だというポスターです。

「LSR」はライフセービングルールという、事故を起こさないためのいくつかの原則みたいなものですが、そのようなことを実行しながら安全第一だという哲学を徹底して実行していきたいと思っています。

そうはいっても、現場にはある程度の事故というものがつきものではあります。私たちは「INPEXバリュー」と言っていますが、INPEXの最大のバリューは、この「HSE」安全第一なのだということは今でも伝えており、これは引き続き徹底していきたいと思います。

馬渕:本当に人を大切にされていることが伝わってきます。スライド右側のグラフは研究開発費ですか?

上田:どちらかというと、今までは掘ることが中心でしたが、今後は水素やCCS、アンモニアや再生可能エネルギーなどにおいて、やはり技術的な課題が非常に多くなってきます。「E&P」というのはエクスプロアという、伝統的な掘ったりする技術のことをいうのですが、そのようなエクスプロアやプロダクション、生産する技術を活用していくということです。

例えばCCSというのは地下にCO2を埋めるわけです。そうすると地下でCO2が出てきては困るため、CO2が地下数千メートルでどのように動いていくのだろうかということ、1万年経った時に、そのCO2の挙動がどのようになっているのだろうかということをシミュレーションする技術があります。

また、水素はクリーンで良いものの、分子が小さいため金属に悪さをします(水素脆化)。どのようにそれを防いでいくのかなど、開発が必要な技術がありますので、R&Dにも力を入れ、これをバックとしながら、未来の新しいエネルギー分野にチャレンジしていきたいと思っています。

我々の現在地と今後目指す姿

馬渕:しっかりと未来にも投資されているということですね。このようなことを踏まえて、INPEXの現在地、および今後どのようになっていきたいのかということで、少しROEを見ていきたいのですが、どのようにイメージしていますか?

上田:ぜひこれを投資家の方にご理解いただけるとうれしいのですが、INPEXの現在地はどこにあるかというと、ROEでいうと8パーセントから9パーセントぐらいの間です。欧州、米州のスーパーメジャーに比べると、彼らのROEはもっと高いです。PBRなども同じような現象となります。

一方で、縦軸を、過去10年間の成長率と見てもらうと、いわゆるスーパーメジャーというのは、ある種成熟している大企業です。エクソンモービルにしろトタルエナジーにしろ、成熟しているので、成長率はそう高くないです。

ところがINPEXはイクシスLNGであれ、今後のアバディLNGであれ、新しいエネルギーであれ、まだまだ成長するということで、成長率が非常に高いです。そのような意味では、現状の立ち位置はROEは10パーセントまでいかず、それほど高くないものの、成長率が高いということです。

私たちの目指すものは短期ではありません。やはり中期、できれば長期で見ていただきたいです。当社はそのような意味では、まだ青年期にあります。高校生よりはもう少し上かもしれないものの、そのような位置のため、これを成熟させていければと思います。

そうすると、利益が出てくるということなので、将来はもっとROEを上げていくことができます。時間の経過とともに成長戦略を実現することによって、しばらくは成長率も高く、ROEもだんだん良くなってくるという会社を目指していきたいと思っています。

そのような意味では、ぜひ投資家のみなさまにはINPEXの将来を見ていただければと思います。

馬渕:なるほど。これから成長率も高く、ROEも高まる時期に差し掛かっている、いい時期が待っているイメージになりますね。

上田:そう思います。

馬渕:楽しみですね。

上田:短期的にはやはりボラタイルであるため、どうしてもいろいろな課題が起きるかもしれないものの、ぜひそのような中長期な方向性と、当社が実行しようとしていることを見ていただければありがたいと思います。

配信元: ログミーファイナンス

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