【QAあり】ispace、ミッション2打ち上げに向け、新規パートナー企業も迎え準備順調

投稿:2024/11/29 11:00

第2部・株式会社ispace

野﨑順平氏(以下、野﨑):株式会社ispace取締役CFOの野﨑です。

今年9月にもCEOの袴田がプレゼンテーションを行っており、2回目となる方も一部いらっしゃるかもしれません。CFOとして少し違った切り口でもご説明できればと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

我々は日本で生まれた民間企業として、日本発・日本初の月面探査ミッションを行っています。本日はプレゼンテーションを通してミッションをご紹介したいと思います。

当社はエンジニアが非常に多く存在している企業です。英語では、ランディングをすることからlander(ランダー)といわれる月着陸船などの宇宙機を開発している企業です。

当社ではミッション1として2022年に打ち上げを行い、実際に2023年4月に月までたどり着く計画を実施していました。そのミッション1の総括を動画で少しご覧いただければと思います。

(動画が流れる)

2. 2022年ミッション1の総括。

野﨑:今ご覧いただいたのが、2022年12月に打ち上げ、2023年4月に実際に月面着陸をしようとした際の動画です。残念ながら2023年4月26日に着陸しようとしましたが、できませんでした。ただ、ご覧いただいているように、非常に貴重な映像も多く取得してきています。

ispaceランダーが高度100km付近から撮影した、月面と「地球の入り」。偶然、南半球での日食を捉えた貴重な1枚

野﨑:スライドの画像は、ispaceのランダーが実際に捉えたものです。月を高度約100キロメートルから撮影したものです。ちょうど地球が沈んでいくような状態が見えていますが、地球でいう日の入りのような瞬間を捉えた写真です。非常にゴツゴツとした月の表面が見えているかと思います。

ispaceランダーが高度2,000km付近から撮影した月面の様子

野﨑:また、次の1枚はもう少し高い約2,000キロメートル地点から撮影した様子です。この写真のポイントは、やはりこのような月や衛星の写真は、以前ならば国の宇宙機関でなければ撮れませんでしたが、民間企業として我々が初めて撮影に成功しました。宇宙政策や宇宙開発が、国から民間へ移ってきている象徴的な写真だと思います。

ミッション1は、最後は残念ながら着陸はできなかったのですが、我々としては非常にさまざまなものを達成することができたミッションでした。

ispace Mission 1 Milestones

野﨑:ミッション1では、マイルストーンをサクセス1からサクセス10に分けて設定をしています。その中で、サクセス8まで達成することができました。

宇宙ミッションでのサクセスのマイルストーンは、通常、2個または3個に分けられます。

ミッションの中では、やはり月面着陸が一番大事なフェーズであることに間違いはありません。しかし、ミッションのサクセスマイルストーンを2個または3個にすると、月面着陸の成否のみに焦点が当たってしまい、それだけで評価が分かれてしまいます。

我々のようにスタートアップで宇宙開発を少しずつ進めていく立場としては、それはあまり正しくないと思っています。そこで進捗を正確にお伝えするために、サクセスマイルストーンを10個に細分化しました。

我々はサクセス8まで成功しましたが、ランダーのハードウェアそのものについては、非常に良いパフォーマンスを実証することができました。

例えば、スライドには青く噴射している絵があります。我々の作っているランダーが衛星などと異なる最大のポイントは、大きなタンクや燃料を積み、実際に地球から月まで、絵のように噴射をしながら旅をしていくことです。

加えて、例えば月の周回軌道から内側に入っていく際には、非常に強いエネルギーを噴射しながら入っていく点も衛星との大きな違いです。

このようなハードウェアのパフォーマンスだけでなく、宇宙空間で放射線などのさまざまな影響を受けながらも安定的な通信を確立するなど通信機器のパフォーマンスもしっかりと出すことができました。

月面着陸には至らなかったものの、ランダーが安定して垂直の着陸態勢に移行したことを確認

野﨑:残念ながらサクセス9の着陸は成功しませんでしたが、その着陸直前までは成功していたことがわかっています。

ランダーは着陸するにあたって、月面と水平の状態から徐々に垂直に機器を立てることで安定させ、月の重力に引っ張られるように、落下するように降りていきます。その際、しっかりと逆噴射することで自身の姿勢を安定させます。それがスライドに黄色い丸で示した部分で、ここまではしっかり行われていたことがわかっています。

しかし、最終的にどのようになってしまったかというと、この黄色い丸の時点で、空中でホバリングしているような状態になり、そのまま燃料がなくなってフリーフォール(落下)してしまいました。これが、着陸できなかった背景です。

2. 2022年ミッション1の総括 – 着陸フェーズ

野﨑:本日は、なぜ着陸できなかったのかをしっかりご説明したいと思います。我々としては、問題はハードウェアではなく、ソフトウェアにあると認識しています。

ミッション1では、残念ながらランダーの高度の認識に不具合が生じてしまったことが失敗の原因だとわかっています。

ランダーは着陸に向けてすべてがプログラミングされています。どうしても通信の時間差があるため、我々が地球から目視で確認しながら操縦し、着陸させることができないためです。我々がボタンを押すと自動で着陸するようにすべて事前に着陸プログラムが組まれています。

ランダーは着陸までの間、途中で高度を確認しながら自ら軌道修正していきます。センサーが月面から跳ね返る時間を計測して高度を判断しているのですが、ミッション1ではランダーが途中からこの高度を測るセンサー機能を遮断しています。

なぜかというと、約1、2分の間に5キロメートルほど急速に高度が跳ね上がることが発生してしまったためです。我々がセーフティのために組んだソフトウェアでは、急激な高度変化が起きた場合、ハードウェアそのものになんらかのエラーが起きたと判断し、センサーからの情報を誤情報や異常なものだとして、そのデータの採用を中止します。

ところがミッション1で起きた急激な高度変化はエラーではありませんでした。1、2分の間に5キロメートルほどの高度上昇は、実は本当に起こっていたことだったのです。

2. 2022年ミッション1の総括 – ispaceランダーの高度変化

野﨑:先ほどのスライドに「高さ5キロメートルの急激な崖」とありました。スライドは実際に月のデータから取られた3Dマップで、16時37分に実際にこのクレーターの崖を通過しているのです。

この瞬間に、5キロメートルもの高度差が一気に生じてしまいました。スライドの図を見ていただくとなだらかな丘のように見えますが、実際には富士山が1個丸々入ってしまうような高さです。

月は風も吹いておらず水も流れていない特殊な地形ですので、侵食が起きず、高低差がある地形が残っています。その崖を通過した時に、残念ながら高度のエラーが発生してしまいました。これが、「ispaceランダー」がミッション1で残念ながら着陸ができなかった背景です。

しかし、我々は着陸の直前までのデータを取得できているため、このように原因はしっかりと把握・分析できています。

このデータを持っていること自体が、次のミッションにつなげていくための非常に大きな財産だと思っています。

2. 2022年ミッション1の総括 – HAKUTO-R

野﨑:我々はすぐにその結果を活かし、ミッション2の開発につなげています。足元ではミッション1とミッション2を総括した「HAKUTO-R」プログラムに取り組んでいます。

ハードウェアそのものに異常がないことはミッション1で実証され、月まで行けるということがわかりましたので、同じハードウェアをミッション2でも開発しました。

ソフトウェアについても、先ほどの高度認識の不具合にはしっかりと対策を打ち、今回のミッション2では着陸できるよう、万全の開発体制を整えています。

ミッション1との違いは、今回ミッション2では着陸するだけではなく、着陸後に月面で探査を行うことです。

スライド右側に四輪車の写真がありますが、これは「月面探査車」や「月面ローバー」といわれるものです。こちらも我々自身で開発しています。これを我々のランダーに乗せ、実際に月面で探査などのさまざまな活動を行うことも含めてミッション2として進めています。

ミッション2の実際の開発の様子を動画でご覧ください。

(動画が流れる)

今ご覧いただいたように、やはり宇宙機を作ることは、いまだ「1点もの感」を非常に強く感じられると思います。まだ何百万台と量産するような状況ではなく、オートメーションもされておらず、エンジニアが実際さまざまな工具を使いながら丁寧に配線をつないでいます。

そして、実はこの開発はもう完了しています。ミッション2はアメリカで打ち上げられますので、アメリカへ送り届ける準備もすでに済んでいます。

つい最近、最速の打ち上げ日程を2025年1月と更新しました。こちらも含めてもう少し詳しくお伝えしたいと思います。

3. ispaceが取り組むビジネスとは – 主要サービス

野﨑:ミッションの開発の様子を詳しくご説明しましたが、大事なことはエンジニアリングとしてのR&Dを行っているだけの会社ではないという点です。

月に行く輸送システムを作り上げ、ビジネスにしていくことが民間企業としての大事な点であり、国との違いでもあります。

では、当社が取り組んでいるビジネスについてご説明したいと思います。

現在はスライドに記載している3つのサービスを展開しています。その中でも一番大きな売上となっているのが、一番左のペイロードサービスという事業です。このペイロードとはお客さまの荷物のことを指し、この荷物を我々がお預かりして宅配事業のように月に届ける事業です。

「月に着陸できなかったのに事業ができているのか?」というと、実はもうこの事業で売上も立っています。

地球上の宅配事業では送り届ければそれでお金をいただけますが、月まで届ける場合は少し異なります。そこまでシンプルではなく、お客さまとは平均2年ほど前から契約を締結し、そこから我々のランダーに乗せるためにさまざまな技術的調整を行っていきます。エンジニア同士が意見交換しながらコンサルテーションをしていくのです。そのようなところから少しずつ売上を立てています。

実はミッション1でもお客さまがいらっしゃいましたし、次に打ち上げるミッション2でもさまざまなお客さまがいらっしゃいます。これらはすでに売上として計上しており、昨年度は23億円の売上高を計上しています。そして、今年度は40億円を目指しています。このペイロードサービスが、現在の売上を構成するコア・サービスになります。

そのほかにもデータサービスやパートナーシップサービスという事業もありますが、これらは今後のビジネスとなります。我々はさまざまなデータを取得しますので、価値あるデータもお客さまにしっかりと販売していきます。

3. ispaceが取り組むビジネスとは – 事業環境

野﨑:ペイロードサービスが主力だとお話をしました。しかし、そもそも何を持っていくのか、なぜ荷物を運ぶニーズがあるのか、当然疑問に思われる方も多いと思います。

ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、今、アメリカを中心にArtemis(アルテミス)計画というものが動いています。

現在、およそ48ヶ国もの世界中の国々がArtemis計画に参加しています。スライドにも参加国の国旗を載せていますが、ご覧のとおり日本も参画しており、アメリカと一緒にこのArtemis計画を推進しています。

Artemis計画では非常にいろいろなことが計画されています。この計画では、月にもう一度宇宙飛行士を送り戻し、60年代から70年代のアポロ計画のように単に訪問するという試みだけではなく、月に滞在することが大事なポイントとなっています。実際にスライドのCG画像のような月面拠点を構築する計画が進行しています。

このような拠点を作るということは、例えば通信のためのアンテナや発電、そもそもこのような基地を作るための建材、人が動き回るためのモビリティなど、さまざまなものを月に持っていく必要があります。あるいは、現地で作る必要があります。

実は、今はそのために地球からいろいろなものを持っていく輸送ニーズが想定されています。

3. ispaceが取り組むビジネスとは – 事業環境

野﨑:Artemis計画の背景について少しご説明したいと思います。

なぜそもそも月にもう一度戻らなければいけないのか、それは決してアドベンチャーだけのために戻るわけではありません。

もともと、なぜ60年代から70年代にアポロ計画があったかというと、みなさまもご認識されていることかもしれませんが、当時はアメリカ対ソビエト連邦の東西冷戦の構造があり、その中で国の威信をかけた宇宙開発という側面が非常に強くありました。

しかし、現代はそれとはまったく違う事情から月に向かっています。それは、月に資源価値があるということが明らかになってきたからです。鍵となるのは、スライドにも示している「H2O」と「1/6G」の2つです。

「H2O」は水です。すでに月に水資源があることがわかっています。アポロ計画の時代にはわからなかったことが、2000年代以降になって明らかになってきており、月の水資源が注目されています。

なぜかというと、水は液体水素と液体酸素に分けることができますが、この液体水素と液体酸素は、宇宙を移動するためのエネルギーとして現代では最も効率的な素材といわれているからです。H3ロケットなども、この液体水素と液体酸素を燃焼させながら推進します。

この水資源をもとにした燃料を月で作ることができれば、ある意味、月を燃料補給ステーションのように使うことができます。すると、例えばスライドの右端には深宇宙と示していますが、火星や木星、その周りの小惑星群のようなディープスペースへのアクセスが、これまでよりも圧倒的に低いコストでできるようになるといわれています。

そこにアクセスすることができれば、これまで地球上で人類が知らなかったような新しい鉱物などの発見されるような可能性も当然増えてきます。月の水資源が注目される理由の1つとして、そのような新しい発見が地球にもたらす恩恵の享受があります。

もう1つは、地球側の理由です。地球の周りには今、何千基から1万基もの非常に多くの衛星インフラが回っており、地球を守っています。「守っている」とは、つまり人類の生活を維持するために、もうすでに必要不可欠なインフラになっているということです。

GPSやインターネット、気象衛星などもその1つですが、実は我々が実感する以上にこの衛星インフラに頼っている現実があります。

この衛星インフラを維持していくためにも、月の水資源をしっかり活用することが大事になってきています。なぜかというと、衛星インフラの燃料が切れてしまえばその衛星が使えなくなりますので、そこで燃料を月から再補給するという活用法が考えられるからです。これが月の水資源が注目されている理由であり、月の水資源の活用法です。

しかし水資源は地球にもたくさんありますので、「別に月でわざわざ水を取らなくてもいいのではないか」と思う方もいらっしゃるかもしれません。そこでもう1つ鍵となってくるのが「1/6G」です。

地球には非常に強い重力があり、地球を抜け出すためには莫大なコストがかかります。ロケット打ち上げ時にもくもくと煙を上げている姿が見えますが、それは地球の重力から抜け出すために莫大なエネルギーが必要だからです。そしてそこには莫大なコストもかかっています。

一方で、月は地球の1/6の重力ですので、圧倒的に少ないコストで月から抜け出すことができます。地球からすべてを行うとどうしてもお金がかかってしまい、「高価な宇宙開発」ということは変わりません。

そこで、月でエネルギーを作ることができれば、圧倒的に宇宙移動コストが安くなりますので、その分、月の水資源を活用した深宇宙の探査や地球の周りの衛星インフラの維持などを進めることができます。この要素が非常に見えてくるということです。

3. ispaceが取り組むビジネスとは – ハードウェア

野﨑:今ご説明してきたことを実現するために、当社は輸送システムの開発からその第一歩を踏み出しています。

スライドの左から2つ目の「RESILIENCEランダー」はミッション1とミッション2で我々が使っていくランダーですが、当社では常に数年後のミッションを見据えており、すでにその先の開発も進めています。

それが「RESILIENCEランダー」よりもう少し大きなランダー「APEX1.0ランダー」「シリーズ3ランダー」です。このような大型のランダーの開発も今着々と進めているところです。

なぜ大型にするのかというと、より多くの荷物を確実に運べるランダーにするためです。より多くの荷物を運ぶことによって、ビジネスで十分な売上を上げていきます。このような開発を進めていくことにより、当社はミッション3以降で商業化のミッションを進めていきたいと考えています。

3. ispaceが取り組むビジネスとは – ミッション計画

野﨑:スライド内でピンクにハイライトされているものが、現在当社が実際に進めているミッションです。後ほどご説明しますが、ミッション2は最速で2025年1月と表記しています。

ミッション3は2026年、ミッション6は2027年と、これから本当に毎年のようにさまざまなミッションを月に向けて打ち上げていくことを計画しています。

4. なぜispaceが世界競争に勝てるのか – ①強い政府からの受注_各国の方針

野﨑:では、当社がなぜそのような世界競争の中で勝っていくことができるのか、我々の強みについて、何点かポイントをお伝えしたいと思います。

当社と同じように月面への輸送事業に携わっている企業は、実はアメリカにも何社かあります。およそ3社のダイレクトな競合企業があると認識しており、競合企業の中には当社と同様に比較的小さいスタートアップ企業も多くあります。

日本では当社のみです。また、ヨーロッパにも我々の拠点がありますが、ヨーロッパでもほぼ我々だけだと思います。

この中で当社が世界競争に勝てる強みとして、1点目に強い政府からの受注があります。実は今の当社の最大のお客さまは政府です。

「民間事業として政府から受注するというのはおかしいのではないか?」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかしこれについては、今、宇宙開発が政府主導から民間主導へと移っていく大きな流れがある中で、当社は大事な役割を果たしていると認識しています。

やはり、民間企業だけでいきなり宇宙に出ていき、例えば月に行って何かをしようなどとすることには、まだどうしても不確実な要素が多い状況です。民間企業だけでそのようなリスクを取ることが難しいことも、政府はよくわかっています。

一方で、政府としては民間企業がどんどん推進していかなければ、月面基地の開発や月面の事業が拡大していかないこともよく認識されています。

そこで、政府の方々は、すべてを政府で進めるのではなく、まず政府が民間のサービスを買いに行くことで、さまざまな民間企業が宇宙開発事業に参入しやすい環境を整えようとしています。今はそのような移行期間であり、各開発が進められているところです。

大きな例がアメリカの政府です。宇宙開発はアメリカが推進する側面が非常に強くありますが、スライド中央に挙げたCLPSプログラム(Commercial Lunar Payload Services:商業月面輸送サービス)に、NASAは総額26億米ドル、日本円で4,000億円近くの非常に大きな予算をつけています。

これはNASAが当社のような民間の輸送産業や輸送インフラのサービスを買い、荷物の輸送を発注するもので、実際に行われています。我々や競合企業のみなさまもNASAから受注しており、当社ではミッション3でNASAの荷物を受注して輸送する予定です。

さらに昨年は日本でも非常に大きな動きがありました。宇宙戦略基金というものが正式に閣議決定され、今後10年間で1兆円の予算が使われていくことが決まっています。すでに第1期の発表もされているところです。

宇宙戦略基金のテーマは、すべてが月に関わるものではありませんが、さまざまな民間企業や大学の研究機関に対し、月の開発を行うための多くの補助金が出され、使われています。そのような月に関する実験が実際に行われることになるのであれば、月に行くまでの手段が必要になりますので、当然当社としてもしっかりと運んでいく役割を担いたいと考えています。これが、我々が非常に期待している宇宙戦略基金です。

4. なぜispaceが世界競争に勝てるのか – ①強い政府からの受注_日本

野﨑:それ以外にも、当社はSBIR制度(Small/Startup Business Innovation Research制度:中小企業技術革新制度)というスタートアップ支援の補助金もいただいています。先ほどご紹介した今一番大きなランダーである「シリーズ3ランダー」はミッション6で使うものであり、「月面ランダーの開発・運用実証」に採択され、経済産業省から補助金120億円の交付を受けています。

これは売上ではなく、開発費の補助としていただいています。この補助金と宇宙戦略基金による援助が非常に大きいです。

4. なぜispaceが世界競争に勝てるのか – ①強い政府からの受注_米国

野﨑:我々は、アメリカのNASAによるCLPSプログラムにも、チームDRAPERの一員として参加しています。5,500万米ドル、日本円で70億円ほどの発注をNASAからいただき、ミッション3を進めています。これは売上として実績計上しています。

4. なぜispaceが世界競争に勝てるのか – ②月ビジネスの先駆者

野﨑:当社の強みの2点目は、月ビジネスの先駆者であることです。当社は日本の企業であり、日本で上場しています。

スライドの右側にも示しているように、アメリカには同様の競合企業が3社ほどあります。我々はこの競合の中でも月に向けて最初に打ち上げができており、フロントランナーとして3社に先行して動くことができています。

4. なぜispaceが世界競争に勝てるのか – ③グローバル展開

野﨑:アメリカにおける競合3社と当社との違いが、当社の強みの3点目となります。それは、グローバル展開していることです。

日本の本社だけではなく、アメリカの拠点にも約100名の従業員がおり、ランダーの開発を行っています。欧州の拠点であるルクセンブルクでは、約30名のメンバーを中心にローバーの開発を行っています。そして、日本でもランダーの開発を行っています。

なぜこのように拠点を分けているかというと、世界中のお客さまを確実に獲得していくためです。

宇宙事業には非常に幅広いニーズがありますので、世界に3拠点を持つことでスライドでもご紹介しているように、ESA(欧州宇宙機関)や、ルーマニア宇宙局、中東のドバイ宇宙機関、日本のJAXA、カナダ宇宙庁、アメリカのNASAというように、非常に幅広く、世界中の宇宙機関のお客さまを獲得できています。

4. なぜispaceが世界競争に勝てるのか – ④資金調達力

野﨑:当社の強みの4点目は、資金調達力です。これまでに360億円の調達を株式から行い、あるいは日本のメガバンクを中心に300億円以上のローンでも調達しています。やはりこれから本格的にしっかりと起動していくまでに大きな開発費がかかっていきますので、この資金調達力を持っているということは、非常に大事になります。

投資家のみなさまも、銀行のみなさまも、不確定な事業計画に対しては、このようなお金をつけてくれることはしませんので、我々の事業計画に対して、確かにご評価いただいて、今、このようなサポートをいただけているのだと認識しています。これだけの調達ができているのは、競合の中でも当社だけだと認識しています。

4. なぜispaceが世界競争に勝てるのか – ④資金調達力 – 第三者割当増資について(割当先)

野﨑:直近も、グローバルな機関投資家であるHeights Capital Managementさまから、非常に大きな投資のコミットをいただくことができました。最近では、日本の個人投資家や機関投資家の方々、株主の方々、海外の方々など、非常に多くのご評価をいただけている状況です。

4. なぜispaceが世界競争に勝てるのか – ⑤経営陣

野﨑:当社の強みの5点目は、強力な経営陣です。当社は今、取締役体制と監査役体制を整えています。スライドでもご紹介していますが、社内の取締役は実はCEOの袴田と私だけです。それ以外は、みなさま社外から入っていただいています。それぞれの専門性を活かし、本当にいろいろなご指導をいただいています。

例えば、日揮ホールディングスの元社長である川名氏や、日本を代表する宇宙企業のIHIエアロスペースで社長を務められていた牧野氏などにも入っていただき、日々いろいろなご意見をいただきながら経営しています。

4. なぜispaceが世界競争に勝てるのか – ⑥壮大なビジョンに共感いただくパートナー

野﨑:当社の強みの6点目は、長期ビジョンです。月の水資源を使って最終的に何をしたいのかということです。

先ほども少しお話ししましたが、当社は、地球と月の間にいろいろなビジネスが回っていく経済圏を作っていきたいと志を持っています。これが、当社が長期的に目指しているビジョンです。

5. 終わりに:そしてミッション2へ!

野﨑:ここまで、当社についてご説明してきましたが、それをビジュアル化した動画がありますので、少しご覧ください。

(動画が流れる)

それでは、最後にミッション2についてお話ししたいと思います

5. 終わりに:そしてミッション2へ!- M2打上げ

野﨑:ミッション2の打ち上げに関して直近で発表したことがあります。もともと、我々が夏に発表した時には、最速2024年12月とお伝えしていましたが、直近で打ち上げのタイミングが近づいてくるに従い、SpaceXさまとの協議を行っています。

最終的に微調整が入ってくることは、ミッション1でもそうだったように、通常起こってくることです。その結果として年をまたいでしまったのですが、最速2025年1月にアップデートしました。

「最速」と表現していますが、深い意味があるわけではなく、SpaceXさまと協議する上で、このような発表の仕方しかできないのです。

そのため必ず「最速」とつくものの、我々自身はすでにランダー開発を完了させており、実際にアメリカに向けて送り届けることが近日中に行われますので、我々サイドは非常に順調に進んでいます。SpaceXさまと最後の調整を行いながら進めていくところです。

5. 終わりに:そしてミッション2へ! - ミッション名とロゴの発表

野﨑:今回のミッション2のオフィシャルパートナーにSMBCさまに参画いただきました。オフィシャルパートナーはミッション名とロゴを発表することができ、SMBCさまには「SMBC×HAKUTO-R VENTURE MOON」というミッション名をつけていただきました。ロゴにはSMBCグループさまのグリーンのカラーが非常にきれいに出ています。

ベンチャーとして新しいものを切り開いていくことに共感いただき、SMBCさまにはこれまでにも非常に多くのご支援をいただいています。単に融資という枠を超えて、さまざまな事業開発のお手伝いもしていただいています。

今回オフィシャルパートナーにもなっていただき、このような「VENTURE MOON」というミッション名で、一緒にこのミッション2に向かっていこうとしています。これからもよろしくお願いします。

以上、当社についてご説明しました。

質疑応答:世界での宇宙ビジネスの進展について

「中国を筆頭に、宇宙ビジネスの進展をどのように感じていますか?」というご質問です。

上述のご説明の中でも、アメリカは宇宙開発の中心だとお話ししてきましたが、おっしゃるとおり、実は中国もものすごく月の開発を進めています。実は月の着陸ということだけでいえば、今はもう中国のほうが先行しています。

中国は「嫦娥」という宇宙船を作り、もうすでに4回着陸に成功しており、月の裏側にも着陸しています。そして、サンプルリターンといわれる、物を持ってくるところまで進んでいます。そのため、中国で非常に宇宙開発力が高まっていることは間違いありません。

中国の最大の特徴は、民間ではなく、やはり国が主導して進めていることです。そのため、我々がビジネスを行う際、民間として輸送産業の直接的な競合になるようなことは、今はありません。

今世界では、このアメリカと中国の2つの大きな国を中心として、さまざまなビジネスが影響を受けていますが、この構造は今後宇宙においても必然的に出てくると思います。

宇宙に新しい産業があるわけではなく、産業の場(ドメイン)が地球から月にまで拡がっていくということです。そのような状況下で、中国が今後とても意識しなくてはいけない存在になってくることは間違いないと考えています。

質疑応答:宇宙開発事業における日本企業の強みについて

「日本企業が宇宙開発事業を行う中での強みとは?」というご質問です。

これはとても大事な質問です。JAXAはアメリカのNASAと非常に強いアライアンスを組んでいる最も重要なパートナーであり、そのように評価されていると聞いています。

日本企業の強みは、やはり日本企業が持つ・日本というカルチャーが持つ、エンジニアリングの力です。海外とは違う、もの作りの力や伝統をしっかりと持っています。

非常に細かいところを丁寧に作り上げる力があり、最近では日本が世界の中で発揮する場が減ってきているかもしれませんが、依然としてポテンシャルがあると考えられているところです。実際に、宇宙開発の場では、そのような評価を受けることが多いと聞いていますので、日本企業の強みだと思っています。

質疑応答:月の水の枯渇の可能性について

「月の水は将来的に取り合い、また枯渇などの可能性もあるのでしょうか?」というご質問です。

非常に鋭いご質問ですが、今はだいたい60億トンの水があるといわれています。

しかし、これもまだわかりません。ポテンシャルはさらにあるかもしれません。まさにこのような可能性を確認するためにも、より月の探査を進めていかなければいけないという段階です。

質疑応答:月面輸送のニーズについて

「どのような企業がどのようなものを月面輸送したいのでしょうか?」というご質問です。

先ほどご覧いただいた宇宙月面基地のイメージがありましたが、本当に幅広いものがあります。まず、太陽光発電をするための機器、設備を作るための建設資材、探査をするための四輪車など、さまざまなものを持っていきたいというニーズがあります。

また、いろいろなデータを取得したいというニーズ、カメラを持っていきたいというニーズなど、本当に幅広いニーズがあります。当社は今そのようなお客さまと話をしながらビジネスを進めているところです。

質疑応答:コストや収益について

「ランダー開発にはどのくらいのお金がかかるものなのでしょうか? また、ロケットの打ち上げにかかる費用はどのくらいですか?」というご質問です。

非常に高額なお金がかかります。まず、ロケットの打ち上げでいえば、例えば我々はSpaceXさまに依頼していますが、1回の打ち上げでロケットファルコン9を丸々1機買うためには、公開価格ベースで日本円で90億円ぐらいのお金がかかってしまいます。

それに加えてランダーの開発費用もかかってきます。我々が目指すところは1ミッション当たり1億米ドルです。我々としてはそれぐらいのコストでミッションを実現していきたいと思っています。

非常に高額ですが、売上としても非常に大きなサイズの売上を立てていきますので、そのような大きなビジネスを展開しながら、1ミッション当たりの収益を出していきたいと考えているところです。

質疑応答:他企業との連携について

kenmo氏(以下、kenmo):宇宙開発事業を行う中での日本企業の強みと絡めてうかがいます。先ほどのご質問の中にもありましたが、他の企業としては製造業もあると思いますし、ロケット分野でも同じことに取り組んでいる民間企業もあると思います。

そのような企業との技術交換や提携などについて、足元の状況を教えてください。

野﨑:今、当社として民間企業と大々的に手を組むことは行っていません。しかし、非常に幅広い企業といろいろな取り組みを行っているのが現状です。

当社の強みは、まず自分たちで開発をデザインし、それを世界中のサプライヤーの方々に発注していることです。例として残念ながら日本の企業ではありませんが、ロケット推進エンジンでいえば、今、欧州のエアバス傘下にあるアリアンスペースさまにエンジンを発注しています。

日本企業の例では、ispaceランダーの周りに黒い壁があります。この素材はカーボン材(CFRP、Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスチック)です。これは東レグループ傘下で世界的にもカーボン材の力がある東レ・カーボンマジックさまに、我々が開発を委託し、発注して納入いただいています。このように、非常に多くのサプライヤーの力を使いながら進めています。

質疑応答:政府からの支援について

kenmo:非常にお金がかかるというご説明がありました。宇宙戦略基金が始動したということで、現状、政府の後押しは十分だといえるのでしょうか? また、今後どのような面でのサポートを期待しますか?

野﨑:難しいご質問ですが、答えとしては「十分か?」といわれると、もちろん我々としてはいつでも多くの支援をいただきたいというのが正直な、本音になってしまいます。

しかし、日本政府として宇宙戦略基金として10年間で1兆円という規模の基金を決めていただいたことは思い切った、本当に大きな転換点だったと思っています。実際、我々も海外の事業者や投資家の方とお話ししていても、この非常に思い切った動きを評価していただく声も多いです。

今、第1期の使われ方として、さまざまな民間企業や大学の研究機関の方々に支援金や補助金のようなかたちでついています。

その中で我々がさらに期待したいこととしては、ぜひ今後、そのような補助金をさらにいろいろな分野に広めていただき、月のミッションを増やしていただくことです。我々にとっては、その分輸送機会が増えることになります。

そして政府自身が、その基金の枠組みで月に何かを持っていきたいというニーズを出していただけると、我々も一緒に取り組みやすくなります。そのようなことをお願いできればと思っています。

荒井沙織氏(以下、荒井):リアルタイムのご質問の中でも、金額が大きい反面、政策変更のリスクが常にあるのではないかというご心配もあります。こちらについてはいかがでしょうか?

野﨑:日本政府だけでなく、アメリカも今は大統領選後で大きく揺れています。このようなところは非常に注意して見ておかなければいけないところだと思っています。

ただし世界の動きを見ていると、宇宙開発や衛星も含めて、宇宙はもはや地球上の人類の生活を維持する上で不可欠で重要なものになっています。

そして、すでに中国を筆頭とするいろいろな国がこれだけ宇宙に出ていってしまっていますので、ある意味、この数年の流れというのは必然だと思っています。

今後の人類の生活については、普段なかなか想像がしにくいものですが、今は地球を出て月にまで広がっている動きがあります。今後この大きな流れはあまり変わることはないと思っています。

質疑応答:ミッション2におけるispaceのミッションについて

kenmo:足元でミッション2が近づいていることについて、ミッション2における月での御社のミッションは、具体的にどのような内容になるのでしょうか?

野﨑:我々のミッションは、地球から打ち上げて着陸をして終わりではなく、取得したデータを地球に送り返します。このワンサイクルをミッションと呼んでいます。

その過程の中で、まずいろいろなお客さまの荷物を送り届けます。前回のサクセス9でクリアできなかった部分がありますので、今回のミッション2においてはまずしっかりと着陸を実現することが大きなポイントです。

そしてもう1つは、先ほども着陸をした後に自分たちのローバーで探査を行うとご説明しましたが、そのローバーでもいろいろなデータを収集し、地球に送り返すことです。例えば、水資源の次の開発にもつながっていくようなデータなどを収集しますので、これが今回のミッション2の大事なポイントになります。

さらにもう1つ、実は非常に象徴的なものがあります。我々はローバーを使い、レゴリスという月の砂を取ってアメリカのNASAに販売する契約を持っています。このように世界との宇宙の資源取引ビジネスのはしりのようなことをしていくことも含まれています。

kenmo:「ローバーについて予備機も搭載するのか?」というご質問もいただいています。重さの制限などがあると思いますが、いかがでしょうか?

野﨑:今回、残念ながらローバーの予備機は載せられませんでした。やはり重量の制約などもありますので、今回は1機だけ載せていきます。

質疑応答:黒字転換の見込みについて

荒井:今後の輸送ニーズなどを考えると期待してしまうところがあるのですが、黒字転換時期の見込みはいつ頃を見込んでいるのでしょうか?

野﨑:我々としてはしっかりと黒字を目指していきたいと思っています。向こう数年以内の黒字化を実現していきたいと考えています。

「実際にそのようなことができるのか?」ということですが、これだけお金がかかっていて、直近の決算などを見ていただいても、我々は今、大きな赤字を出しています。しかし、これはある意味で、我々からすると当然の赤字であり、予定されていたものです。

一番お金がかかる時期は今なのです。なぜかというと、ランダーの量産はまだできず、最初の1機目の開発を進めています。車などにもいえることですが、1機目はどうしても、いわゆるノンリカーリングコスト、1機目ゆえの研究開発コストがかかります。

対して、当社のミッション2は1機目ではありません。ミッション1の「RESILIENCEランダー」の2機目となりますので、実はミッション1に比べてかなり安くできています。

問題は「APEX.1.0ランダー」「シリーズ3ランダー」という大型ランダーの初期開発をすでに行っていますので、このコストが足元でとても重いのです。しかしこれらのモデルも、2機目以降はかなりコストを下げて開発することができます。

そして売上についても、より大きな案件を取っていきますので、しっかりと収益化する道筋ができると思っています。今後、数年後、ぜひ期待していただければと思っています。

荒井:積載量もかなり大きくなることから、コストの回収も早くなるということですね。

野﨑:おっしゃるとおりです。

配信元: ログミーファイナンス

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