井関農 Research Memo(5):2025年に創立100年を迎える農業機械総合専業メーカー(4)

配信元:フィスコ
投稿:2024/10/17 16:05
*16:05JST 井関農 Research Memo(5):2025年に創立100年を迎える農業機械総合専業メーカー(4) ■井関農機<6310>の会社概要

3. 同社の強み
同社の強みは3つあるが、それぞれの強みが作用し合い、補強し合うという好循環を生んでいる点が重要だと弊社は考えている。

(1) 技術力
同社には、1926年の創立以来「業界初」や「世界初」といった製品を市場に多く投入してきた高い技術力がある。1926年の全自動籾すり機を皮切りに、1966年には世界初の自脱型コンバイン、1988年には同社初の乗用芝刈機、2009年には業界最速の自脱型コンバイン(7条刈り)など機能面で業界をリードする製品を数多く開発してきた。また、開発した技術を競争優位として維持するために、同社は知的財産戦略の一貫として特許の取得を積極的に行っている。特許の分野別公開数・登録数(2000年から2006年までは「農水産」、2007年からは「その他特殊機械」)は2000年以降、常に上位を獲得している(2000~2017年・2019年は1位、2018年・2020~2023年は2位)。

これらの高い技術力を実現できるのは、同社の研究開発拠点、社内制度、営業体制が優れているからだと弊社は考えている。愛媛県にある研究開発拠点、茨城県の「夢ある農業総合研究所」で日々最新の研究が行われているのはもちろんのこと、開発部署の社員が市場ニーズを捉えたアイデアを出す「発明提案活動」、ベテランの技術者から若手技術者への発明創造ノウハウの伝承を目的とした「発明創造活動」、研究開発の成果や発明情報を共有する「技術研究発表会」を積極的に行っている。これらにより、若手社員から斬新なアイデアが出てくると同時に、暗黙知化しやすいノウハウを社内技術者間で共有し、全体としてのイノベーション創出力の底上げにつなげている。特に暗黙知を社内で共有する「発明創造活動」の実施や社風は一朝一夕に競合他社が模倣できるものではなく、強力な競争優位になっていると弊社は考える。このような活動の成果として、近年では田植えと同時にリアルタイムセンシングを行い自動で施肥量を調節する可変施肥田植機や業界初となる国内最大クラスの有人監視型ロボットトラクタ「TJW1233-R」を開発、市場に投入している。

また、農家のニーズに沿った技術開発を可能にしているのが、全国に張り巡らされた販売網だ。販売店の営業員が密に農家とコミュニケーションを図り現場のニーズを的確に把握、その情報を開発部門に上げることにより、顧客に訴求力のある技術開発が可能となっている。また、開発部門も直接市場調査を行い、現場のニーズを把握する努力をしていることも特徴だ。

今後もICT関連の技術開発を積極的に行っていく方針だ。発明提案に占める先端技術関連の割合を60%以上とすることを目標としており、社内研修の実施とともに、外部専門人材の採用も積極的に行っている。なお、発明提案に占める先端技術関連の割合は、2021年度が39%、2022年度が56%、2023年度が61%となっており、今後もこの水準を維持していく方針だ。

(2) 営農提案・サポート力
長年にわたって農業に携わってきた経験を生かし、儲かる農業を実現する手助けを積極的に行っていることも強みの1つだ。具体的には、低コスト農業に関する情報発信及び提案業務、JGAP認証取得のサポート、ホームページでの営農情報の発信などソフト面から農家の経営を支援している。2015年に設立した「夢ある農業総合研究所」では、先端営農技術とロボット技術やICTを活用したスマート農業の研究・実証・普及活動を実施しており、その成果を営農ソリューションポータルサイト「Amoni」にて情報発信している。

高い提案力・サポート力を実現している要因の1つに、全国に張り巡らされた販売網にあると弊社は考えている。地域に根ざした販売網が多いことで、顧客とのコミュニケーションを頻繁に取ることが可能になり、迅速なサポートや農業効率化のための提案を行える。ハードの販売に加えて、ソフト面に注力することは非常に重要である。顧客との接点を拡大できるうえ、親身に農業経営を支援する姿勢は同社に対するファンを増やすことにつながるからだ。

(3) 連携によるイノベーション力
自社の研究開発拠点で新技術の開発に取り組むことはもちろんだが、それに加えて同社は行政・研究機関・大学・企業など外部のステークホルダーと連携し、研究開発活動を積極的に展開している。これにより、研究開発活動のスピードが高まるほか、自社になかった視点が加わり、画期的なイノベーションを生むことが可能になると弊社では考えている(一般的にオープンイノベーションの有効性は広く知られるところである)。また、今後はベンチャー企業の持つノウハウを取り入れながら、イノベーション創出力をさらに高めていく考えであり、2023年6月にはベンチャー企業を対象にした10億円の出資枠を設定、出資に関する迅速な意思決定を可能にするために審議機関として出資管理委員会を設置している。

近年は、環境保全型スマート農業の実現という新たな目標を掲げ、外部との連携を積極的に推進している。大学や企業等との連携により開発した、圃場状況に応じた精密施肥技術を搭載した可変施肥農機による化学肥料の削減や、(株)フェイガーとの連携により開始したJ-クレジットの申請サービスなど、各所との連携により様々なソリューションを提供している。自治体等との連携も積極的に行い、現時点では10ヶ所以上の自治体等と連携協定を結び、持続可能な環境保全型農業の普及促進・産地づくりに努めている。2022年6月には、水稲用自動抑草ロボット「アイガモロボ」の開発・販売で業務提携しているスタートアップ企業、(株)NEWGREEN(旧 有機米デザイン(株))への出資を実施した。「アイガモロボ」は、水稲有機栽培の拡大を阻害していた除草作業の負担軽減に大きく貢献できる商品であり、連携を深めることで、これまで以上に有機農業の普及拡大を支援していく方針だ。

同社の強みを考えるうえで重要なことは、これら3つの強みが互いに影響し、補強し合っていることだ。連携によるイノベーションにより、技術力が向上することは分かりやすいが、技術力が高くともニーズに沿った開発を行うことができなければ宝の持ち腐れである。同社では、営農提案・サポート活動を行うなかで的確に現場のニーズを吸い上げ、開発部門に情報をあげることにより、高い技術力をニーズに沿った形で活用できるのだ。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)

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