*11:04JST アーバネット Research Memo(4):都心の賃貸需要や投資意欲は堅調。懸念点は用地取得の厳しさと建設資材不足等
■業界環境
1. 業界を取り巻く環境
アーバネットコーポレーション<3242>の基軸事業である都内の都市型賃貸マンションは、入居者及び投資家双方の堅調な需要に支えられて好調に推移している。東京都総務局の公表データによると、同社が供給エリアとしている東京23区の人口は、東京都への転入超過等を背景に増え続けてきた。特に、若年層の流入のほか、晩婚化や離婚率の上昇などを背景とした単身世帯の増加が都市型賃貸マンションの賃貸需要を支えており、この傾向は地方中核都市においても見受けられる。新型コロナウイルス感染症拡大(以下、コロナ禍)が拡大した2020年以降、都心への転入超過に歯止めがかかり、2021年は26年ぶりに人口が減少したが、2022年にはプラスに転じており、一過性との見方ができる。一方、投資家の動向を見ると、将来の年金受給や老後の生活不安を抱えた20~30代の個人投資家からの需要が増えていることに加え、キャッシュ・フローが比較的安定した安全な投資対象として賃貸収益物件が再評価されてきたことも追い風となっている。最近では、都心・駅近という好立地の物件は販売価格が上昇し、利回りの低下傾向が続いているものの、相続税対策物件を求める富裕層や将来に不安を抱く若年層等による購入意欲は堅調である。また、円安を背景とした海外からの資金流入等を含め、潤沢な資金を集めたファンドやリートが、安定稼働が期待できる収益物件として触手を伸ばしてきたことも、都市型賃貸マンションの品薄感を強くさせる要因となっている。
一方、首都圏における投資用マンションの供給戸数は、2007年の9,210戸をピークとして、リーマンショックによる金融の引き締めや事業者の倒産・撤退に加え、自治体のワンルームマンション建築規制(最低面積の規定、付帯設備の設置等)の強化などにより減少傾向をたどったが、2010年に底を打ち、その後は金融機関のスタンスの変化や根強い需要に支えられて好調に推移してきた。2020年以降はコロナ禍の影響が懸念されたものの、投資用マンションの需給関係は安定している。ただ、足元では都心における用地取得が困難ななかで、供給戸数の減少や品薄感による販売価格の上昇傾向も見られる。また、川崎市や横浜市における供給戸数が高いシェアを占めるようになってきた。プレイヤーについては、販売だけを手掛ける会社が数多く見られるものの、同社のように設計・開発に特化する相当規模の同業他社(特に上場会社)は見当たらない。
2. 業界における課題
開発環境については、都心人気駅の駅近などで厳しい仕入環境が継続するものと見られる。また、土地価格の高騰及び工事原価の上昇による利益率低下、2024年問題※による建設工期の長期化、建設資材の供給不安といった問題もあり、さらには金融政策の変更による影響や景気減速に伴う金融機関の不動産融資厳格化の動きにも注意する必要が出てきた。ただ、見方を変えれば、業界淘汰が進む状況は、実績のある同社にとっては残存者利益を享受できる好機とも言える。
※働き方改革関連法により従業員の時間外労働に上限が課されることで生じる問題のこと。1人当たりの時間外労働時間が制限されることで、労働力が不足することから、工期の長期化等が懸念されている。
販売環境に目を向けると、首都圏の分譲用マンションについては、強い需要により好立地物件を中心に価格上昇が継続し堅調に推移している。特に女性の社会進出の動きなどによりコンパクトマンションの需要が多く、供給不足の状態が続いている。また、都市型賃貸マンションについても、東京都では2035年まで、若年層の流入による社会増が続くことに加え、高齢化の進行に伴い、離別・死別等で75歳以上の後期高齢者を世帯主とする単独世帯の増加が見込まれており、市場は緩やかに拡大する見通しである。また、若年労働力確保や学生確保のための社員寮・学生寮ニーズの拡大も見込まれる。年金支給開始年齢の引き上げや支給額の減額などへの不安は潜在的に存在し、安定的な収益が期待できる都心の投資用不動産への需要も根強い。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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1. 業界を取り巻く環境
アーバネットコーポレーション<3242>の基軸事業である都内の都市型賃貸マンションは、入居者及び投資家双方の堅調な需要に支えられて好調に推移している。東京都総務局の公表データによると、同社が供給エリアとしている東京23区の人口は、東京都への転入超過等を背景に増え続けてきた。特に、若年層の流入のほか、晩婚化や離婚率の上昇などを背景とした単身世帯の増加が都市型賃貸マンションの賃貸需要を支えており、この傾向は地方中核都市においても見受けられる。新型コロナウイルス感染症拡大(以下、コロナ禍)が拡大した2020年以降、都心への転入超過に歯止めがかかり、2021年は26年ぶりに人口が減少したが、2022年にはプラスに転じており、一過性との見方ができる。一方、投資家の動向を見ると、将来の年金受給や老後の生活不安を抱えた20~30代の個人投資家からの需要が増えていることに加え、キャッシュ・フローが比較的安定した安全な投資対象として賃貸収益物件が再評価されてきたことも追い風となっている。最近では、都心・駅近という好立地の物件は販売価格が上昇し、利回りの低下傾向が続いているものの、相続税対策物件を求める富裕層や将来に不安を抱く若年層等による購入意欲は堅調である。また、円安を背景とした海外からの資金流入等を含め、潤沢な資金を集めたファンドやリートが、安定稼働が期待できる収益物件として触手を伸ばしてきたことも、都市型賃貸マンションの品薄感を強くさせる要因となっている。
一方、首都圏における投資用マンションの供給戸数は、2007年の9,210戸をピークとして、リーマンショックによる金融の引き締めや事業者の倒産・撤退に加え、自治体のワンルームマンション建築規制(最低面積の規定、付帯設備の設置等)の強化などにより減少傾向をたどったが、2010年に底を打ち、その後は金融機関のスタンスの変化や根強い需要に支えられて好調に推移してきた。2020年以降はコロナ禍の影響が懸念されたものの、投資用マンションの需給関係は安定している。ただ、足元では都心における用地取得が困難ななかで、供給戸数の減少や品薄感による販売価格の上昇傾向も見られる。また、川崎市や横浜市における供給戸数が高いシェアを占めるようになってきた。プレイヤーについては、販売だけを手掛ける会社が数多く見られるものの、同社のように設計・開発に特化する相当規模の同業他社(特に上場会社)は見当たらない。
2. 業界における課題
開発環境については、都心人気駅の駅近などで厳しい仕入環境が継続するものと見られる。また、土地価格の高騰及び工事原価の上昇による利益率低下、2024年問題※による建設工期の長期化、建設資材の供給不安といった問題もあり、さらには金融政策の変更による影響や景気減速に伴う金融機関の不動産融資厳格化の動きにも注意する必要が出てきた。ただ、見方を変えれば、業界淘汰が進む状況は、実績のある同社にとっては残存者利益を享受できる好機とも言える。
※働き方改革関連法により従業員の時間外労働に上限が課されることで生じる問題のこと。1人当たりの時間外労働時間が制限されることで、労働力が不足することから、工期の長期化等が懸念されている。
販売環境に目を向けると、首都圏の分譲用マンションについては、強い需要により好立地物件を中心に価格上昇が継続し堅調に推移している。特に女性の社会進出の動きなどによりコンパクトマンションの需要が多く、供給不足の状態が続いている。また、都市型賃貸マンションについても、東京都では2035年まで、若年層の流入による社会増が続くことに加え、高齢化の進行に伴い、離別・死別等で75歳以上の後期高齢者を世帯主とする単独世帯の増加が見込まれており、市場は緩やかに拡大する見通しである。また、若年労働力確保や学生確保のための社員寮・学生寮ニーズの拡大も見込まれる。年金支給開始年齢の引き上げや支給額の減額などへの不安は潜在的に存在し、安定的な収益が期待できる都心の投資用不動産への需要も根強い。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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