S&P500月例レポート(24年5月配信)<後編>

<前編>の続き

雇用関係

 ○3月のADP全米雇用統計では、民間部門雇用者数が18万4000人増(サービス業が14万2000人増)となり、予想の15万人増を上回りました。2月は当初発表の14万人増から15万5000人増に上方修正されました。

 ○3月の雇用統計では、非農業部門雇用者数は前月比30万3000人増と市場予想の同20万人増を上回りました。2月は当初発表の同27万5000人増で変わらず、こちらも予想の19万人増を大幅に上回りました。

  ⇒3月の失業率は前月比横ばいの3.9%が予想されていましたが、3.8%に低下しました(1月と2023年12月、11月は3.7%、10月は3.9%、9月は3.8%、なお2020年2月は3.5%でしたが、同年5月は13.3%となりました)。

  ⇒労働参加率は前月比横ばいの62.5%が予想されていましたが、62.7%に上昇しました(1月と12月は62.5%、11月は62.8%、10月は62.7%、9月は62.8%)。

  ⇒3月の週平均労働時間は前月比横ばいの34.3時間と予想されていましたが、それを上回る34.4時間に増加しました(1月は34.2時間、12月は34.3時間、11月は34.4時間、10月は34.3時間、9月は34.4時間)。

  ⇒3月の平均時給は予想通り前月比0.3%増(前月の34.57ドルから34.69ドルに増加)となりました。2月は当初発表の同0.1%増から同0.2%増に上方修正されました(1月は同0.5%増、12月と11月は同0.4%増、10月は同0.2%増、9月は同0.3%増)。

  ⇒前年同月比では予想通り4.1%増となり、2月の同4.3%増を下回りました(1月は同4.4%増、12月は同4.0%増、11月は同4.0%増、10月は同4.0%増、9月は同4.2%増)。

 ○2月のJOLTS(求人労働異動調査)によると、求人数は875万6000人(市場予想は880万人)で、1月の874万8000人を小幅に上回りました。

 ○失業保険継続受給件数(季節調整済み)は、前月の179万5000件から178万1000件に減少しました。

  ⇒2024年4月4日発表の週間新規失業保険申請件数:22万1000件(当初の発表通り)

  ⇒2024年4月11日発表の週間新規失業保険申請件数:21万1000件

  ⇒2024年4月18日発表の週間新規失業保険申請件数:21万2000件

  ⇒2024年4月25日発表の週間新規失業保険申請件数:20万7000件

企業業績

 ○時価総額の63.7%に相当する285銘柄が2024年第1四半期の決算発表を終え、そのうち219銘柄(76.8%)で営業利益が予想を上回り、281銘柄中164銘柄(58.4%)で売上高が予想を上回りました。2024年第1四半期の利益は前期比で2.7%増、前年同期比では5.4%増が見込まれています。

  ⇒売上高は前期比で4.1%減、前年同期比では4.1%増となる見通しです。

  ⇒2024年第1四半期の営業利益率は、2023年第4四半期の11.00%、2023年第1四半期の11.64%を上回る11.78%になると予想されます(1993年以降の平均は8.41%、過去最高は2021年第2四半期の13.54%)。

  ⇒現時点で、2024年第1四半期中に株式数の減少によってEPSが大きく押し上げられた発表済みの銘柄の割合は13.1%となっています。この割合は、2023年第4四半期は12.6%、2022年第4四半期は18.5%でした。

 ○2024年通年の利益は前年比13.3%増が見込まれており、2024年の予想PERは20.8倍となっています。

 ○2025年通年の利益は前年比13.3%増が見込まれており、2025年の予想PERは18.4倍となっています。

個別銘柄

 ○中国はiPhoneメーカーのアップルに対し、国家安全保障上の懸念を理由に、メッセージアプリ「WhatsApp」(ソーシャルメディア企業のメタ・プラットフォームズが所有)をアップルのアプリストアから削除するよう命じました。

 ○電気自動車メーカーのテスラは、販売が想定を下回る状況が続いているため、従業員の10%をレイオフすると発表しました。

 ○報道によると、米国司法省は、チケット販売会社チケットマスターを所有するライブ・ネイション・エンターテインメントを独占禁止法違反で提訴する準備を進めています。

 ○アルファベットのGoogleは、同社のChromeブラウザでのサードパーティクッキーを段階的に廃止する計画について、規制上のハードルを理由に、3度目の延期を明らかにしました。現在では、このプロセスは2025年の早い時期に開始されるとみられています。

  ⇒アルファベットは、初めてとなる配当の実施(四半期当たり0.20ドル)を発表し、年間86億6000万ドル(S&P500指数構成銘柄で13位の規模)を株主に還元することを明らかにしました。

 ○電気自動車メーカーのテスラは大幅な減益を発表し、「2025年後半の生産開始を予告していた新型モデルの発売を早めるため、将来の車両ラインナップを更新した」と述べました。

  ⇒テスラが中国企業の百度(バイドゥ)のナビゲーションデータを使用した完全自動運転ソフトウエアの暫定承認を受けたことから、このソフトウエアは同社の中国の車両に組み込まれることになります。

 ○トランプ・メディア&テクノロジー・グループは、「アーンアウト」の一環として、トランプ氏に3600万株(150日間の譲渡制限付き)を追加で割り当てると発表しました(トランプ氏はこれまでに、2024年9月まで売却できない株式を7875万株保有しています。今回の供与により、トランプ氏が保有する株式は合計で57億ドルとなります)。

 ○S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは、ヘルスケア企業のソルベンタムと資本財・サービス企業のGEベルノバ(ゼネラル・エレクトリックからスピンオフ)をS&P500指数に採用し、アパレル企業のV.F. Corporationと歯科用医療機器メーカーのデンツプライ・シロナを同指数から除外しました。

注目点

 ○米国の2023年第4四半期の家計資産は、同四半期中の株価上昇を受けて、2023年第3四半期(2023年は8%増)から4.8兆ドル増加(3.2%増)し、過去最高となる156兆ドルを記録しました(S&P500指数の時価総額は44兆ドル)。

 ○Androidの販売台数は伸び続けており、2024年第1四半期のスマートフォン出荷台数では、サムスン電子がアップルの5010万台を抜いて6010万台となりトップに立ちました。中国のスマートフォンメーカー・シャオミは4800万台で3位でした(International Data Corporation発表)。

 ○原油価格が下落し続ける中、ガソリン小売価格(米エネルギー情報局(EIA)による全等級)は引き続き上昇しました。市場参加者は、CPI、PPI、PCEへの影響と、消費者信頼感と支出への影響という、2つの具体的な影響に注目しました。

 ○日本円は対米ドルで1990年以来の円安水準となる1ドル=160.16円を記録しました(2023年末は131.31円。第二次大戦後から変動相場制に移行した1973年までは360円で固定、1995年には85.53円の高値を記録)。日銀が円を支えるために介入(円買い)した模様です(終値は157.82円)。

配当金

 ○アルファベットは配当の開始を発表し(四半期当たり0.20ドル)、年間で86億6000万ドル(S&P500指数構成銘柄の中で第13位の規模)を株主に還元するとしました。

  ⇒ブッキング・ホールディングス、メタ・プラットフォームズ、セールスフォース・ドット・コムは2月に配当を開始し、それぞれ12億ドル、44億ドル、16億ドルを支払いました。

 ○産業用研磨剤のメーカーで配当貴族銘柄のスリーエムは、ヘルスケア銘柄のソルベンタム(S&P500指数に採用)のスピンオフ後に、配当を現在の四半期当たり1.51ドルから減額すると発表しました。同社は調整後フリーキャッシュフローの40%を配当に充てるとしています。

 ○2024年4月の配当支払い額は前年同月比5.2%増加しました(2024年2月は同11.1%増、3月は同9.0%減)。年初来の配当支払い額は前年同期比で3.4%増加しました。

  ⇒4月の配当支払額は前年同月の1株当たり3.92ドルから4.12ドルに増加し、支払総額も前年同月の327億8000万ドルから345億9000万ドルに増加しました。

 ○2024年4月は、増配が26件、配当開始が2件、減配が0件で、配当停止は0件でした。2023年4月は、増配が27件、配当開始が1件、減配が1件、配当停止が1件でした。

  ⇒年初来では、増配が145件、配当開始が5件、減配が7件、配当停止が0件となっています。2023年の同期間は、増配が161件、配当開始が2件、減配が7件、配当停止が3件でした。

  ⇒2023年通年では、増配が348件、配当開始が11件、減配が26件、配当停止が4件ありました。2022年は、増配が377件、配当開始が7件、減配が5件で、配当停止はありませんでした。

 ○4月の増配率の中央値は、3月の7.14%および2月の6.80%から7.18%に上昇し、年初来では6.90%(3月末時点は6.80%)となっています。4月の平均増配率は3月の8.04%から8.63%に上昇し、年初来では8.49%(3月末時点は8.46%。いずれも2倍以上になった銘柄を除く)となりました。2023年の年間の増配率の中央値は7.01%(2022年と2021年はともに8.33%)、平均値は8.68%(同11.80%、同11.76%)でした。

 ○2024年の配当に関して、予想は増加となっており、年間の増配率は1936年以降の平均である5.79%を上回る見通しです。この予想では、アルファベットによる新たな配当(年間配当額を86億6000万ドル押し上げ)、FRBによる2024年第3四半期末時点での利下げ開始に加えて、景気の大幅な減速は回避され、政府の財政政策の大きな調整はない(政策とインセンティブの継続を予想)ことを織り込んでおり、2024年の実際の現金支払額は、2023年の5880億ドルから約7.0%増加して、6350億ドルになると予想しています(2023年は5.05%増、2022年は10.80%増)。これにより2024年の現金配当は、15年連続の増加と13年連続の過去最高の更新が見込まれます。

インデックス・レビュー

◇S&P500指数

 4月は2024年第1四半期の上昇(10.16%、配当込みのトータルリターンは10.56%)を試す展開となりました。インフレ再燃と政策金利を「より高くより長く」維持する方針の復活への懸念に加え、ウクライナと中東ではグローバルな紛争があり、ガザでの世界的な問題を受けて、米国では学生による抗議運動(そして米国の政治ひいては政策への影響)が再び盛り上がったことが背景となりました。目立たないながらも、市場が注目したのは決算発表でした。結果は予想を上回ったものの(予想を上回った企業の割合は76.8%)、業績ガイダンスはコストと個人消費をめぐる懸念を反映して予想を下回りました。マグニフィセント・セブン銘柄がS&P500指数の年初来上昇率に占める割合は51%と、2023年の62%から低下しました。ただ、アップル(年初来11.5%下落)とテスラ(同26.2%下落)を除く5銘柄は同指数の年初来上昇率に74%寄与しました。

 S&P500指数は4月に4.16%下落し(配当込みのトータルリターンはマイナス4.08%)、5035.69で月を終えました(一時4953.56まで下落)。3月は5254.35で終え、3.10%上昇(同プラス3.22%)、2月は5069.27で終え、5.17%の上昇(同プラス5.34%)でした。2024年の年初来では5.57%上昇(同プラス6.04%)しています。過去3カ月間では3.92%の上昇(同プラス4.29%)、過去1年間では20.78%の上昇(同プラス22.66%)でした。2023年は24.23%の上昇(同プラス26.29%)、2022年は19.44%の下落(同マイナス18.11%)でした。

 4月の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)は1.13%と3月の0.73%から上昇し、年初来では0.85%となっています。なお、2023年通年は1.04%、2022年は1.83%、2021年は0.97%、2020年は1.51%でした(長期平均は1.42%)。4月の出来高は、3月の前月比5%増加の後に、同14%減少し(営業日数調整後)、前年同月比では横ばいとなりました。2024年4月までの12カ月間は前年同期比5%減少しています。2023年通年では前年比1%減で、2022年通年は同6%増でした。

 4月は11セクター中1セクターのみが上昇しました(3月と2月は11セクターすべてが上昇、1月は5セクターが上昇)。年初来では10セクターが上昇しています。4月のパフォーマンスが最も良かったのは、1.59%上昇した公益事業です(年初来では5.24%上昇、2021年末比では6.85%%下落)。騰落率最下位となったのは不動産で、4月は8.62%の下落(同9.86%下落、同30.17%下落)でした。

 4月は1%以上変動した日数は22営業日中7日(上昇が3日、下落が4日)で、2%以上変動した営業日はありませんでした。3月は1%以上変動した日数は20営業日中3日(上昇が2日、下落が1日。2%以上変動した日はなし)でした。年初来では、1%以上変動した日数は17日(上昇が10日、下落が7日)で、2%以上変動した日数は1日(上昇)でした。2023年通年は、1%以上変動した日数が250営業日中63日(上昇が37日、下落が26日)、2%以上変動した日数が2日(上昇が1日、下落が1日)でした。4月は22営業日中12日で日中の変動率が1%以上となり、2日で2%以上変動しました。対して3月は1%以上の変動が20営業日中5日で、2%以上の変動はありませんでした。年初来では、25日で日中の変動率が1%以上となり、2%以上の変動は2日でした。2023年通年では1%以上の変動が113日、2%以上の変動が13日で、3%以上の変動はありませんでした(直近で3%以上の変動があったのは2022年11月30日)。2022年は1%以上の変動が218日、2%以上の変動が89日、3%以上の変動が20日でした(4%以上の変動が4日、5%以上の変動が1日)。

 4月は値上がり銘柄数が減少し、値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を大幅に上回りました。4月の値上がり銘柄数は118銘柄(平均上昇率は3.11%)と、3月の402銘柄(同6.32%)から減少しました。年初来では302銘柄(同11.28%)が上昇しています。4月の10%以上上昇した銘柄数は3銘柄(同12.12%)と、3月の72銘柄(同13.88%)から減少し、25%以上上昇した銘柄はありませんでした(3月は1銘柄)。一方、4月の値下がり銘柄数は385銘柄(平均下落率は7.54%)と、3月の100銘柄(同3.57%)から増加しました。4月は10%以上下落した銘柄数は107銘柄(同13.81%)で、3月の5銘柄(同14.62%)から増加し、2銘柄が25%以上下落しました(3月はゼロ)。

2024年年初来では、値上がり銘柄数は302銘柄(平均上昇率は11.28%)で、133銘柄(同19.91%)が10%以上上昇し、20銘柄が25%以上上昇しました。一方、値下がり銘柄数は199銘柄(平均下落率は10.48%)で、89銘柄(同17.46%)が10%以上下落し、11銘柄が25%以上下落しました。2023年通年では2022年から改善し、値上がり銘柄数は322銘柄で、値下がり銘柄数は179銘柄でした。10%以上上昇した銘柄数は248銘柄、10%以上下落した銘柄数は85銘柄でした。143銘柄が25%以上上昇し、20銘柄が25%以上下落しました。
 

 

 

 

 

 

 
[執筆者]
ハワード・シルバーブラット
S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス
シニア・インデックス・アナリスト

※このレポートは、英文原本から参照用の目的でS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(SPDJI)が作成したものです。SPDJIは、翻訳が正確かつ完全であるよう努めましたが、その正確性ないし完全性につきこれを保証し表明するものではありません。英文原本についてはサイトをご参照ください。
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配信元: みんかぶ株式コラム