S&P500月例レポート(24年3月配信)<前編>

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET:2024年2月
個人的見解:根拠はあるのかないのか、熱狂の時代が再来

 インフレも、フェデラル・ファンド(FF)金利も、金利コストも、消費者や政府の債務をめぐる悲観論も(あるいは政府機関の閉鎖も ― 私たちは言葉にしている以上にこの問題を懸念しているようです)、約束されていた最高値更新の素早い実現を食い止めることはできませんでした。

 S&P500指数は2月に終値での最高値を8回更新しました(そのうちの1回が月末の5096.27、日中の最高値は5111.06)。前月1月には終値での最高値を6回更新していました(また、ダウ・ジョーンズ工業株価平均 [ダウ平均。2024年2月26日にアマゾン・ドット・コムを構成銘柄に採用し、代わりにウォルグリーン・ブーツ・アライアンスを除外] も終値での最高値を更新しました ― 2月、1月、昨年12月それぞれ7回ずつ ― 株価チャートの分析が必要ならいつでもお申し付け下さい)。

 S&P500指数は2月に初めて5000の大台を突破し、この水準を上回って推移し、一時5100を超えましたが、終値での5100超えは先送りとなり(5096.27で月を終え、あと一歩届きませんでした)、月間では5.17%上昇と、4ヵ月連続での上昇を記録しました(3ヵ月累計で8.61%下落した後、11月は8.92%、12月は4.42%、1月は1.59%の上昇を記録[累計21.52%上昇])。

 セクター別では、2月は11セクターすべてが上昇しました。これに対して1月は5セクター、12月は10セクターが上昇していました(2023年通年では11セクター中8セクターが上昇)。2月は値上がり銘柄数(351銘柄)が値下がり銘柄数(151銘柄)を上回ったため(1月は値上がり銘柄数が224銘柄、値下がり銘柄数が279銘柄)、年初来でも値上がり銘柄数(302銘柄)が値下がり銘柄数(201銘柄)を上回りました(2023年通年では値上がり銘柄数が322銘柄、値下がり銘柄数が179銘柄と、値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を上回り、値下がり銘柄数[363銘柄]が値上がり銘柄数[139銘柄]を上回っていた2022年から一転しました)。

 マグニフィセント・セブン銘柄は引き続き好調ですが、やや一人勝ちの様相を呈してきました。エヌビディアは2月に28.6%上昇し(年初来で59.8%上昇、2022年終値から441%上昇)、2月のS&P500指数のトータルリターンに占める割合は20%、年初来では26%となりました。エヌビディアの時価総額は一時2兆ドルを超え、マイクロソフト(時価総額は3兆700億ドル)とアップル(時価総額は2兆6400億ドル。エヌビディアは1兆9500億ドル)とともに時価総額上位3大銘柄の1つとなりました(S&P500指数に占める割合は17.9%。さらにアルファベットの2銘柄の合計時価総額は1兆5200億ドルで指数の3.5%を占めます)。

 よって大きな問題は、この好調がいつまで続くのかです。その答えは、大幅増収増益となった同社の決算発表(結果として発表の翌日に、同社の時価総額は一日としては過去最高の2730億ドル増を記録)前の2日間にあるかもしれません。一部の投資家は決算発表前の2日間で利益確定の売りを出したものの(2日間で7%下落)、結局買い戻さざるを得ませんでした。目覚ましい成長が続くと市場が考えている限り株価上昇は続くため、勝つためにはこの流れに乗る必要があるからです(質問の答えになっていませんが)。

 3月は政府機関の閉鎖という「お馴染みの」物語で幕を開けますが、今年は3月1日(一部期限の失効)と8日(すべて失効)の2幕構成です。予算は(ワシントンにおける)他のどの課題とも同様で、政府は合意できていません(その方がよいとの意見もあります)。2月29日(失効期限の前日)に下院で期限を3月8日および3月22日まで延長するつなぎ予算が成立し(320対99)、同日夜遅くには上院でも可決されました(77対13)。ヘッドラインは政治(つまり来たる選挙)の話題でほぼ埋め尽くされるでしょう。しかし市場関係者は、バイデン大統領とトランプ前大統領の再対決に基づいてポートフォリオを考案することになりそうな中、まだ結果(大統領選、上下院議会)を見越したポジションの構築に着手していません。

 政治以外では(ちなみにビヨンド・ミートの2月の61.5%上昇に関しては、同社株が2019年の新規株式公開(IPO)から77%下落、高値から96%下落していたことに鑑み、ここでは触れません)、米連邦準備制度理事会(FRB)の初回利下げは3月(会合は18日~19日開催)から6月(同11日~12日開催)への先送りが見込まれ、消費者による景気下支えが加わる中(失業率が低く給与支払いが続くため)、政府支出の持続(CHIPS法、インフレ抑制法[IRA]、インフラ投資法)、赤字支出、金利コストが相場に影響するとみられます。また3月には、いつも通り消費者物価指数(CPI)、卸売物価指数(PPI)、米個人消費支出(PCE)物価指数や雇用関連指標(雇用者数、新規失業保険申請件数、求人件数)も相場に影響を与えるほか、決算期がずれる企業による2024年第1四半期の決算発表も始まります(3月24日にはフェデックスとナイキが決算発表の予定)。また、最近のトレンドになっているように、投資家の資金フローにも注意が必要です(特に6兆ドルの資金がマネーマーケットから株式市場に流入)。

インデックスの動き

 ○S&P500指数は1月の上昇を維持し、史上初めて5000の大台を突破し、一時5100を超えました(終値は5096.27、日中の高値は5111.06)。2月は終値ベースで高値を8回更新しました。1月の高値更新は6回でした(それ以前の高値更新は2022年1月3日の年明け初日)。S&P500指数は2月に5.17%上昇して5096.27の高値で月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス5.34%)。1月は4845.65で終え、1.59%の上昇(同プラス1.68%)、12月は4769.83で終え、4.42%の上昇(同プラス4.54%)でした。年初来では6.84%の上昇(同プラス7.11%)でした。2023年のリターンは24.23%の上昇で(同プラス26.29%)、2022年の19.44%下落を取り戻しました。過去1年のリターンは28.36%の上昇(同プラス30.45%)でした。

 ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)も終値ベースで高値を7回更新し(高値は3万9131.53ドル、日中の高値は3万9282.28ドル)、史上初めて3万9000ドルの大台を上回りました。1月の高値更新は7回、12月の高値更新は7回でした。ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は2月に2.22%上昇して(同プラス2.50%)、3万8996.39ドルで月を終えました。1月は3万8150.30ドルで終え、1.22%の上昇(同プラス1.31%)、12月は3万7689.54ドルで終え、4.48%の上昇(同プラス4.93%)でした。年初来では3.47%の上昇(同プラス3.84%)、過去1年のリターンは19.41%の上昇(同プラス22.03%)でした。2023年は13.70%の上昇(同プラス18.18%)、2022年は8.78%の下落(同マイナス6.86%)でした。

  ⇒S&P500指数の時価総額は、2月に2兆1050億ドル増加して(1月は6430億ドル増加)42兆7870億ドルとなりました。2023年は7兆9060億ドルの増加、2022年は8兆2240億ドルの減少でした。

 ○2月の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)は、1月の0.79%から低下して0.74%となり、年初来では0.76%でした。2023年は1.04%、2022年は1.83%、2021年は0.97%、2020年は1.51%でした(長期平均は1.42%)。

 ○2月の出来高は、1月に前月比5%減少した後、4%増加し(営業日数調整後)、前年同月比では5%の減少でした。過去1年では前年よりも3%減少しました。2023年の1年間では前年比1%減少しました。2022年は同6%の増加でした。

 ○2月は1%以上変動した日数は20営業日中4日(上昇が3日、下落が1日)、2%以上上昇した日が1日ありました。1月は1%以上変動した日数は21営業日中3日(上昇が1日、下落が2日)でした。2023年は、1%以上変動した日数は250営業日中63日(上昇が37日、下落が26日)、2%以上変動した日数は2日(上昇が1日、下落が1日)でした。2月は20営業日中4日で日中の変動率が1%以上となり、変動率が2%以上の日はありませんでした。1月は21営業日中4日で日中の変動率が1%以上となり、変動率が2%以上の日はありませんでした。

 2023年は1%以上の変動が113日、2%以上の変動が13日、変動率が3%以上の日はありませんでした(直近で3%以上の変動があったのは2022年11月30日)。2022年は1%以上の変動が218日、2%以上の変動が89日、3%以上の変動が20日ありました。(4%以上の変動が4日、5%以上の変動が1日)。

 過去の実績を見ると、2月は52.1%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は2.88%、下落した月の平均下落率は3.44%、全体の平均騰落率は0.11%の下落となっています(9月のマイナス1.16%よりは良い)。2024年2月のS&P500指数は5.17%の上昇でした。

 3月は61.5%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.35%、下落した月の平均下落率は3.85%、全体の平均騰落率は0.57%の下落となっています。

 今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、2024年は3月19日-20日、4月30日-5月1日、6月11日-12日、7月30日-31日、9月17日-18日、11月6日-7日、12月17日-18日となっています。

主なポイント

 ○2月も2023年および2024年1月の相場上昇の流れが続き、マグニフィセント・セブン銘柄が引き続き(一様ではないものの)先導役となり、S&P500指数は初めて5000の大台を突破すると、さらに一時5100台も超えました。S&P500指数は1月の6回に続き、2月も過去最高値を8回更新しました。2024年2月までの18週でS&P500指数は23.77%上昇しましたが(過去18週のうち16週で前週末比上昇を記録)、好調な決算結果と明るいガイダンス、金融政策が利上げから利下げに転換したこと(現在、利下げ開始時期は3月でなく6月とみられています)もあり、市場のトーンはエヌビディアの決算発表を受けて変化しました。(2024年2月21日の)取引時間終了後に発表された決算は市場予想を大きく上回り(利益は前年同期比407%増、売上高は同265%増)、ガイダンスは成長持続を示し、市場はエヌビディアの成長を受けてAI銘柄(全般)に買いの対象を広げ、非テクノロジー銘柄の増産(増産のために設備投資を拡大)も織り込み始めました。エヌビディアは決算発表翌日の1日で16%上昇し(時価総額は過去最高の2730億ドル増)、年初来では59.8%上昇しました。また、市場全体はこの日に2.11%上昇して最高値を更新し、市場に「熱狂」が戻ってきました。

 ○2月の主なデータ

  ⇒2月の株式市場は上昇と最高値の更新が続き(5.17%上昇)、終値での過去最高値で月を終え、4ヵ月連続の上昇となりました(1月は1.59%上昇、昨年12月は4.42%上昇、11月は8.92%上昇)。4ヵ月累計では21.52%上昇しました。10月以前の3ヵ月間は連続で下落し(10月は2.20%下落、9月は4.87%下落、8月は1.77%下落して、3ヵ月累計では8.61%下落)、それ以前は5ヵ月連続で上昇していました(累計で15.59%上昇)。

   →2月は20営業日のうち13営業日で上昇し、11セクターすべてが上昇しました(1月は5セクターが上昇)。値上がり銘柄数は351銘柄、値下がり銘柄数は151銘柄となり、値上がり銘柄数が増加して値下がり銘柄数を上回りました(1月は値上がり銘柄数が224銘柄、値下がり銘柄数が279銘柄でした)。2月の出来高は前月比4%増、前年同月比では3%減となりました。

   →2月は11セクターすべてが上昇しました。1月は5セクターが上昇していました。2月のパフォーマンスが最高となったのは一般消費財で、8.60%上昇しました(年初来では4.74%上昇、2021年末比では7.79%下落)。パフォーマンスが最低だったのは公益事業で、0.53%の上昇でした(同2.55%下落、同13.75%下落)。

  ⇒S&P500指数は2月に5.17%上昇して、5096.27で月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス5.34%)。1月は4845.65で月を終え、1.59%上昇しました(同プラス1.68%)。12月は4769.83で月を終え、4.42%上昇しました(同プラス4.54%)。年初来では6.84%上昇(同プラス7.11%)、過去1年間では28.36%上昇しました(同プラス30.45%)。2023年通年は24.23%の上昇(同プラス26.29%)、2022年は19.44%の下落でした(同マイナス18.11%)。

   →2024年2月にS&P500指数は過去最高値を8回更新しました(終値での最高値は5096.27)。終値で初めて5000を突破し、日中最高値は5111.06を記録しましたが、終値では5100に届きませんでした。

   →コロナ危機前の2020年2月19日の高値からは50.50%の上昇(同プラス60.64%)となっています。

 ○米国10年国債利回りは1月末の3.93%から4.26%に上昇して月を終えました(2023年末は3.88%、2022年末は3.88%、2021年末は1.51%、2020年末は0.92%、2019年末は1.92%、2018年末は 2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは1月末の4.17%から4.39%に上昇して取引を終えました(同4.04%、同3.97%、同1.91%、同1.65%、同2.30%、同3.02%、同3.05%)。

 ○英ポンドは1月末の1ポンド=1.2681ドルから1.2625ドルに下落し(同1.2742ドル、同1.2099ドル、同1.3525ドル、同1.3673ドル、同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、ユーロは1月末の1ユーロ=1.0813ドルから1.0807ドルに下落しました(同1.0838ドル、同1.0703ドル、同1.1379ドル、同1.2182ドル、同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は1月末の1ドル=146.95円から149.95円に下落し(同141.02円、同132.21円、同115.08円、同103.24円、同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は1月末の1ドル=7.0997元から7.1880元に下落しました(同7.1132元、同6.9683元、同6.3599元、同6.6994元、同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。

 ○2月末の原油価格は3.4%上昇し、1月末の1バレル=75.77ドルから同78.31ドルとなりました(2023年末は同71.31ドル、2022年末は同80.45ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は2月に4.7%上昇しました(現在1ガロン=3.365ドル、1月末は3.214ドル、2023年末は同3.238ドル、2022年末は同3.203ドル、2021年末は同3.375ドル)。2020年末から原油価格は61.7%上昇し(2020年末は1バレル=48.42ドル)、ガソリン価格は44.4%上昇しました(2020年末は1ガロン=2.330ドル)。

  ⇒2024年1月時点のEIAの報告によると、ガソリン価格の内訳は、57%が原油、16%が販売・マーケティング費、11%が精製コスト、そして17%が税金となっています。

 ○金価格は1月末の1トロイオンス=2057.80ドルから下落し2052.20ドルで2月の取引を終えました(2023年末は2073.60ドル、2022年末は1829.80ドル、2021年末は1901.60ドル、2020年末は1520.00ドル、2019年末は1284.70ドル、2018年末は1305.00ドル)。

 ○VIX恐怖指数は1月末の14.45から13.40に下落して1月を終えました。月中の最高は17.94、最低は12.69でした(2022年末は21.67、2021年末は17.22、2020年末は22.75、2019年末は13.78、2018年末は16.12)。

  ⇒同指数の2023年の最高は30.81、最低は11.81でした。

  ⇒同指数の2022年の最高は38.89、最低は16.34でした。

  ⇒同指数の2021年の最高は37.51、最低は14.10でした。

  ⇒同指数の2020年の最高は85.47、最低は11.75でした。

 ○S&P500指数に対する市場関係者の1年後の目標値は3ヵ月連続で上昇し、現在値から9.5%上昇の5582となっています(1月時点では9.0%上昇の5280、12月時点では5122)。それ以前は、9ヵ月連続の低下から11ヵ月連続の上昇を経て、2023年11月まで2ヵ月連続で低下していました。ダウ平均の目標株価も3ヵ月連続の上昇から2ヵ月連続の低下を経て、2月は3ヵ月連続で上昇し、現在値から8.5%上昇の4万2300ドルとなっています(1月時点では7.4%上昇の4万0955ドル、12月時点では3万9445ドル)。

<後編>へ続く

 


配信元: みんかぶ株式コラム