S&P500月例レポート(24年2月配信)<前編>

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET:2024年1月
個人的見解:「1月の相場がその年の相場を決める」―S&P500指数は1月に4800、次いで4900の大台を突破して史上最高値を更新

 株式市場は昨年11月(8.92%上昇)と12月(4.42%上昇)の流れを引き継ぎ、1月も3ヵ月連続となる上昇を記録(1.59%上昇)し、過去3ヵ月では15.54%の大幅上昇となりました。2024年1月のS&P500指数は4800、そして4900の大台を連続して突破し、6回にわたり最高値を更新しました(終値での最高値は4927.93、日中の最高値は4931.09)。

 経済も引き続き力強さを示しています(第4四半期GDPは前期比年率3.3%増、2024年12月の個人消費支出(PCE)価格指数は前年同月比2.6%上昇、失業率は低水準で、賃金・企業利益・売上高は増加)。株式市場ではこれまでは3月の利下げ観測が広がっていましたが、好調な経済活動を受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)が初回の利下げを2024年5月もしくは6月に先送りするとの見方(FRBも政策会合で確認)を容易に受け入れました。

 セクター別では、1月は11セクターのうち5セクターが上昇しました。2023年12月は10セクターが上昇していました(2023年通年では11セクター中8セクターが上昇)。1月は値上がり銘柄数が減少し、値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を上回り、値上がり銘柄数が224銘柄(10%以上上昇した銘柄は24銘柄)となったのに対し、値下がり銘柄数は279銘柄となりました(10%以上下落した銘柄数は39銘柄)。2023年12月は値上がり銘柄数が416銘柄となったのに対し、値下がり銘柄数86銘柄でした(2023年通年では322銘柄が上昇し、179銘柄が下落しました。2022年は全く対照的に、値上がり銘柄数が139銘柄、値下がり銘柄数が363銘柄でした)。

 実際のところ、1月相場に関してはほとんどの市場関係者の見通しは外れました。ただし、外れたのは相場の方向性ではなく個別銘柄の動向です。つまり、マグニフィセントセブン銘柄(M7)は下落すると予想されていましたが、実際には上昇し続け(1月の平均上昇率は1.80%、24.63%下落したテスラを除いた上昇率は5.58%)、1月のS&P500指数のリターン(1.59%)の45%を占めました。なお、この割合は2023年通年では62%であり、1月の貢献度は2023年には及びませんでしたが、テスラを除いた6銘柄では、マグニフィセント銘柄は1月のS&P500指数のリターンの71%を占めました。

 また、企業業績も株式市場を押し上げました。半数近い企業が業績発表を終えましたが、予想を上回る内容となり(特別項目を除いた場合)、第4四半期の売上高は前年同期比4.6%増の4兆ドルと過去最高を更新する見通しで、2023年通年でも同様に過去最高の15.6兆ドルが見込まれます。このように記録的な売上高が実現した背景には、消費者による支出とクレジット払いが続いていることがあります(クレジットカードや自動車ローンの利用に対する警告が増えていることが確認されていますが)。

 同様に政府が半導体産業の支援法であるCHIPs法、インフレ抑制法(IRA)、インフラ投資法に基づいた支出を拡大していることも背景にあり、政府によるさらなる支出が見込まれます。2024年中に3000億ドル規模の資金を投入する経済対策関連法案の成立が見込まれており、この中には研究開発費の即時控除の適用延長や資本設備に対する課税の全額控除といった企業支援策が含まれているようです。

 2月も引き続き市場の関心は企業業績に向かうでしょう。小売企業の決算が発表され、市場は消費者による支出(とクレジット払い)が継続しているかを見極めることになります。政治関連の動きも引き続き活生化しています。(大統領選候補の指名争いが始まったばかりとはいえ)バイデン大統領とトランプ前大統領が再度対決する可能性に人々はすでに苛立ち始めています。市場関係者は通常、11月に行われる大統領選挙の結果を見越して9月からポジションの準備を開始します。9月に入ると、大統領選挙だけでなく上下両院の議席獲得数の見通しもより明確となってくるからです。また、政局の動向は(金融市場にも確かに影響を及ぼしますが)、(赤字が続いている)政府支出や政府借入(長期ではなく、より高い金利での短期の借入)、さらに国防問題(メキシコとの国境問題は言うまでもなく、ウクライナとイスラエルの問題)に影響を与え得る予算協議にとっても重要です。

 日々の相場に影響を与える要因としては(相場の大きな潮流は全銘柄に影響を与えますが、全銘柄の株価が動くことはありません)、インフレ指標(消費者物価指数(CPI)、卸売物価指数(PPI)、PCE)と雇用指標(雇用者数、新規失業保険申請件数、求人件数)、そして投資家の資金フロー(特に6兆ドルの資金がマネーマーケットから株式市場に流入)が挙げられます。

インデックスの動き

 ○S&P500指数は史上初めて4800の大台を上回った後4900台に乗り、1月は終値ベースで高値を6回更新し(最高値は4927.93、日中の高値は4931.09)、1.59%上昇して4864.60で月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス1.68%)。12月は4769.83で終え、4.42%の上昇(同プラス4.54%)、11月は4567.80で終え、8.92%の上昇(同プラス9.13%)でした。過去3ヵ月では15.54%の上昇(同プラス16.01%)でした。2023年のリターンは24.23%の上昇(同プラス26.29%)となり、2022年の19.44%下落を取り戻しました。
 
 ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は12月に高値を7回更新した後、1月は高値を7回更新し(最高値は3万8467.31ドル、日中の高値は3万8588.86ドル)、1.22%上昇して(同プラス1.31%)3万8150.30ドルと初めて3万8000ドル台を上回って月を終えました。12月は3万7689.54ドルで終え、4.48%の上昇(同プラス4.93%)でした。過去3ヵ月では15.42%の上昇(同プラス16.04%)となりました。2023年は13.70%上昇(同プラス18.18%)、2022年は8.78%下落し(同マイナス6.86%)、2年間では3.72%の上昇(同プラス7.61%)でした。

  ⇒S&P500指数の時価総額は、1月に6430億ドル増加して(12月は1兆7250億ドル増加)40兆6810億ドルとなりました。2023年は7兆9060億ドルの増加、2022年は8兆2240億ドルの減少でした。

 ○1月の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)は、11月および12月の0.75%から上昇して0.79%となりました。2023年は1.04%、2022年は1.83%、2021年は0.97%、2020年は1.51%でした(長期平均は1.42%)。

 ○1月の出来高は、12月に前月比6%増加した後、6%減少し(営業日数調整後)、前年同月比では5%の減少でした。2023年の1年間では前年比1%減少しました。2022年は同6%の増加でした。

 ○1月は1%以上変動した日数は21営業日中3日(上昇が1日、下落が2日)でした。12月は20営業日中3日(上昇が2日、下落が1日)でした。2023年は、1%以上変動した日数は250営業日中63日(上昇が37日、下落が26日)、2%以上変動した日数は2日(上昇が1日、下落が1日)でした。1月は21営業日中4日で日中の変動率が1%以上となり、変動率が2%以上の日はありませんでした。12月は21営業日中2日で日中の変動率が1%以上となり、変動率が2%以上の日はありませんでした。2023年は1%以上の変動が113日、2%以上の変動が13日、変動率が3%以上の日はありませんでした(直近で3%以上の変動があったのは2022年11月30日)。2022年は1%以上の変動が219日、2%以上の変動が89日、3%以上の変動が20日ありました。(4%以上の変動が4日、5%以上の変動が1日)。

 過去の実績を見ると、1月は62.1%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.23%、下落した月の平均下落率は3.81%、全体の平均騰落率は1.18%の上昇となっています。2024年1月のS&P500指数は1.59%の上昇でした。

 2月は52.6%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は2.88%、下落した月の平均下落率は3.44%、全体の平均騰落率は0.11%の下落となっています(9月のマイナス1.16%よりは良い)。

 「1月の相場がその年の相場を決める」という1月のバロメーターについては、1929年以来70.5%の確率で当てはまります(2023年も1月が6.18%の上昇、年間リターンが24.93%とその通りとなりました)。初日の市場がその年の市場を占うかどうかについては、コイントスと同じで50%の確率になっています(2021?2023年は当てはまりませんでした)。

 今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、2024年は3月19日-20日、4月30日-5月1日、6月11日-12日、7月30日-31日、9月17日-18日、11月6日-7日、12月17日-18日となっています。

主なポイント

 ○1月も2023年の相場上昇の流れが続き、マグニフィセントセブン銘柄が引き続き先導役となってS&P500指数は4800台、4900台と次々と大台を突破し、1月中に過去最高値を6回更新しました。なお、1月に関しては「1月の相場がその年の相場を決める」(これまで70.5%の確率で実現)という格言があります。2024年1月までの13週間でS&P500指数は15.54%上昇しましたが(過去13週のうち12週で前週比上昇を記録)、利上げから利下げへと金融政策が方向転換しつつあることが相場を後押ししました。しかし、1月中盤以降は、経済の堅調さと予想を上回る企業利益と売上高が市場に追い風となりました。とはいえ、こうした経済の堅調さは、予想されていた3月の最初の利下げが6月まで先送りされる可能性があることも意味しています。低金利は企業にとって好都合ですが、力強い消費行動と政府の景気刺激策はそれ以上に業績にプラスに作用しているようです。各種コスト(インフレ)が引き続き下落傾向にあり、雇用(と賃金)は底堅さを維持しています――こうした状況は長期化すれば問題となる可能性があります。とはいえ、まずは目先のトレード(あるいは「20分後の未来」)が重要でしょう。

 ○1月の主なデータ

  ⇒1月の株式市場は昨年11月(8.92%上昇)と12月(4.42%上昇)の流れを引き継ぎ1.59%上昇しました。10月以前の3ヵ月間は連続で下落し(10月は2.20%下落、9月は4.87%下落、8月は1.77%下落して、3ヵ月累計では8.61%下落)、それ以前は5ヵ月連続して上昇していました(累計で15.59%上昇)。1月は21営業日のうち11日で上昇しました。1月は11セクター中5セクターが上昇し、前月から一転して値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を上回りました(値上がり銘柄数が224銘柄だったのに対し、値下がり銘柄数が279銘柄となりました。12月は値上がり銘柄数が416銘柄だったのに対し、値下がり銘柄数は86銘柄でした)。1月の出来高は前月比5%減、前年同月比では4%減となりました。

   →1月は11セクターのうち5セクターが上昇しました。12月と11月は11セクターのうち10セクターが上昇しました。1月のパフォーマンスが最高となったのはコミュニケーション・サービスで、4.84%上昇しました(2021年末比では3.58%下落)。パフォーマンスが最低だったのは不動産で、4.79%下落しました(同26.24%下落)。

  ⇒S&P500指数は1月に1.59%上昇して、4845.65で月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス1.68%)。12月は4769.83で月を終え、4.42%上昇しました(同プラス4.54%)。11月は4567.80で月を終え、8.91%上昇しました(同プラス9.13%)。過去3ヵ月間では15.54%上昇しました(同プラス16.01%)。2023年通年のリターンは24.23%の上昇(同プラス26.29%)、2021年末比では1.67%上昇しました(同プラス5.15%)。

   →2024年1月にS&P500指数は過去最高値を6回更新しました(終値での最高値は4927.93)。また、終値で初めて4800と4900を突破しました(日中最高値は4931.09を記録)。

   →コロナ危機前の2020年2月19日の高値からは43.10%の上昇(同プラス52.49%)となっています。

 ○米国10年国債利回りは、12月末の3.88%から3.93%に上昇して月を終えました(2022年末は3.88%、2021年末は1.51%、2020年末は0.92%、2019年末は1.92%、2018年末は2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは、12月末の4.04%から4.17%に上昇して取引を終えました(同3.97%、同1.91%、同1.65%、同2.30%、同3.02%、同3.05%)。

 ○英ポンドは12月末の1ポンド=1.2742ドルから1.2681ドルに下落し(同1.2099ドル、同1.3525ドル、同1.3673ドル、同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、ユーロは12月末の1ユーロ=1.0838ドルから1.0813ドルに下落しました(同1.0703ドル、同1.1379ドル、同1.2182ドル、同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は12月末の1ドル=141.02円から146.95円に下落し(同132.21円、同115.08円、同103.24円、同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は12月末の1ドル=7.1132元から7.0997元に上昇しました(同6.9683元、同6.3599元、同6.6994元、同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。

 ○1月末の原油価格は6.3%上昇し、12月末の1バレル=71.31ドルから同75.77ドルとなりました(2022年末は同80.45ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は1月に0.7%下落しました(現在1ガロン=3.214ドル、12月末は3.238ドル、2022年末は同3.203ドル、2021年末は同3.375ドル)。2020年末から原油価格は56.5%上昇し(2020年末は1バレル=48.42ドル)、ガソリン価格は37.9%上昇しました(2020年末は1ガロン=2.330ドル)。

  ⇒2023年12月時点のEIAの報告によると、ガソリン価格の内訳は、56%(11月は57%)が原油、16%(同15%)が連邦税および州税、8%(同8%)が精製コスト、そして19%(同20%)が販売・マーケティング費となっています。

 ○金価格は12月末の1トロイオンス=2073.60ドルから下落し2057.80ドルで1月の取引を終えました(2021年末は1829.80ドル、2020年末は1901.60ドル、2019年末は1520.00ドル、2018年末は1284.70ドル、2017年末は1305.00ドル)。

 ○VIX恐怖指数は12月末の12.45から14.35に上昇して1月を終えました。月中の最高は15.40、最低は12.35でした(2022年末は21.67、2021年末は17.22、2020年末は22.75、2019年末は13.78、2018年末は16.12)。

  ⇒同指数の2023年の最高は30.81、最低は11.81でした。
  ⇒同指数の2022年の最高は38.89、最低は16.34でした。
  ⇒同指数の2021年の最高は37.51、最低は14.10でした。
  ⇒同指数の2020年の最高は85.47、最低は11.75でした。

 ○S&P500指数に対する市場関係者の1年後の目標値は2ヵ月連続で上昇し、現在値から9.0%上昇の5280となっています(12月時点では7.4%上昇の5122、11月時点では5047)。それ以前は、9ヵ月連続の低下から11ヵ月連続の上昇を経て、2023年11月まで2ヵ月連続で低下していました。ダウ平均の目標株価も3ヵ月連続の上昇から2ヵ月連続の低下を経て、1月は2ヵ月連続で上昇し、現在値から7.4%上昇の4万0955ドルとなっています(12月時点では4.7%上昇の3万9445ドル、11月時点では3万8615ドル)。

<後編>へ続く
 


配信元: みんかぶ株式コラム