・われわれは、自然の中で生きている。自然の中で生かされている。自らの快適さを追求すると、知らず知らずのうちに自然を壊していることが多い。
・今住んでいるマンションの前の姿は忘れてしまい、近くの大自然のごとき巨大な屋敷が突然整地され、マンションが建つという光景を目の当たりにした。この自然林で長らく暮らしてきた植物、動物は一瞬にして一掃された。
・人による開発とは、こういうものであると実感する。そこには流儀があるといっても、どんなルールを作っていくべきなのか。新しいマンションに自然資本はどこまで活かされていくのか。今、ここが問われている。
・自然資本は、森林、土壌、水、大気、生物資源など、自然によって形成される資本である。この資本をベースに、2つのサービスが提供されている。
・1つは、生態系サービスとして、①供給サービス(食料、水、木材などの供給)②調整サービス(大気、気候、水量、土壌侵食などの調整)、③文化的サービス(景観、芸術、教育などの価値提供)がある。
・2つ目は、非生物的サービスで、鉱物、金属、石油、天然ガス、地熱、風、潮流、季節などがある。こうした自然資本を使って、サービスが提供され、それを利用して企業活動を行っている。
・この自然資本を、サプライチェーン、もっと正確にはバリューチェーンの中でしっかり捉え、自らの立ち位置を掴んでおく必要がある。自然は便利に使えばよい、というわけにはいかない。しかし、どこまで広げれば気が済むのか、という思いも高まってくる。
・生態系サービスの中で、生物多様性をいかに守るか。これを破壊している要因は、人による土地や海の利用変更であり、これが自然の生態系(エコシステム)の悪化を招いている。非生物的資本においても、伐採して、採掘して、使ってしまえば、資源はいずれ枯渇してしまう。
・エコシステムとして、少しでも守っていく必要がある。GHG(温室効果ガス)をコントロールしてカーボンニュートラル(CN)を達成しようという目標は、その中の1つである。
・ネイチャーポジティブはもう1つの柱である。自然の悪化を食い止め、回復軌道に乗せることをめざす。生物多様性の減少を食い止め、生態系サービスを含めた自然の状態を改善することを目標にする。
・こうしたスタンスをネイチャーポジティブと称する。TCFDに次いで、TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)が問われている。
・自然はコントロールできるのか。1億年単位でみれば、1億年前に人はいなかったが、そのもととなる生物は存在していた。1億年後に人類がいるかどうかはわからない。しかし、何らかの生物には生存していてほしい。人間の知識で解明できたことをベースに、知恵を活かして、自然のサステナビリティを高めたい。
・企業は自らのバリューチェーンの中で、できるところから目標を定め、活動していくことが望ましい。それが自らの企業価値向上に結び付くなら、やる気も出てこよう。単に自然資本との折り合い(トレードオフ)をつけるだけでなく、自然資本を守りながら、企業価値の創出につなげていく。
・単に消費してしまうのではなく、再生できるように工夫していく。再生への道を自社だけでなく、サプライチェーンを巻き込んで具体化する。業界上げて活動する。国の行動基準を明確にして、国際的にも協調していく。
・トップダウンでやらされるだけでなく、ボトムアップで望ましい方向を作り上げていく活動が重要である。これを、ステークホルダーを巻き込んで、自らのサポーターとしていくことも必要である。
・NRIの機関誌「知的財産創造」(2023年10月号)では、「カーボンニュートラルからネイチャーポジティブへ」を特集した。こうした視点を頭に入れて、企業活動をみていくと先進的企業と後進的企業の差がはっきり見えてくる。
・そこでは、企業価値に結び付くかどうかがカギである。①サーキュラーエコノミー、2)カーボンニュートラル、3)ネイチャーポジティブ、という3つの軸から企業のサステナビリティを評価したい。
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