【QAあり】スターツ出版、3Qは過去最高益を更新、営業利益は前期比154.4%と拡大基調で通期予想を上方修正 書籍コンテンツ事業が牽引
個人投資家向けIRセミナー
菊地修一氏(以下、菊地):代表取締役社長の菊地修一です。北海道旭川市出身、スターツ出版で社長を務めるのは20年目になります。
私はずっと登山をしていて、登山インストラクターの資格も取り、アルパインクライマーとして、週末は山の世界に入っています。どうぞよろしくお願いします。
「総合生活文化企業」スターツグループ
菊地:それでは、資料に沿ってご説明します。弊社は「総合生活文化企業」スターツグループの一員です。現在、グループ会社は91社あり、文化部門を受け持つ出版会社となってます。
会社概要
菊地:会社概要です。設立は1983年、今年でちょうど40周年を迎えました。2001年に東証スタンダード市場、当時のJASDAQ市場に上場しています。従業員は現在、230人から240人ほどとなっています。
坂本慎太郎氏(以下、坂本):菊地社長は、前職は何をされていたのですか?
菊地:新卒でリクルートに入り、そちらで20年近く勤めました。今は社会人40年目ですから、スターツ出版と同じですね。
坂本:リクルートでは、やはり出版系のお仕事をされていたのでしょうか。
菊地:『SUUMO(旧・住宅情報)』という住宅・不動産系の情報誌をずっと担当していました。
スターツ出版のビジョン
菊地:スターツ出版のビジョンとして「感動プロデュース企業へ」を標榜しています。「総合生活文化企業」スターツグループの中で、紙とデジタルを駆使するユニークな「出版社」として、時代に合わせたコンテンツの発信で、多くのエンドユーザーに喜んでいただく「文化企業」であり続けること、としています。
スターツ出版のミッション
菊地:ミッションは「文化と笑顔の需要創造」を掲げています。ここでの「文化」とは、本の文化です。「笑顔」については、新型コロナウイルス感染拡大も落ち着いてきて、弊社のメディアには外出に関する雑誌もWebサイトもたくさんありますので、外に出て笑顔になってもらおうということです。
このように「文化と笑顔の需要創造」に取り組むことをミッションに掲げています。
スターツ出版の事業領域
菊地:弊社の事業領域は、大きく分けて2つあります。1つ目は、スライド左側の書籍コンテンツ事業です。小説投稿サイトを起点とした書籍・電子書籍・コミックビジネスです。
2つ目は、メディアソリューション事業です。こちらはプレミアム予約とブランドソリューションに分かれていますが、プレミアム予約とは、厳選店舗だけを掲載させていただく「OZのプレミアム予約」の送客手数料ビジネスになります。
ブランドソリューションのほうは、右下の『オズマガジン』『メトロミニッツ』「オズモール」を利用したライフスタイル・エリアの領域で、メディア力を生かした宣伝・販促ビジネスを展開しています。
2023年 第3四半期決算
菊地:2023年の第3四半期決算です。こちらは先般発表しましたが、大幅に増収増益、過去最高益を更新しています。売上高は前年同期比123.5パーセント、営業利益は前年同期比154.4パーセント、経常利益が前年同期比148.2パーセントと、順調に拡大基調です。
事業部門別 業績推移
菊地:事業部門別の業績推移です。スライド左側が売上高の推移を示すグラフで、紫色の部分が書籍コンテンツ事業、ブルーがメディアソリューション事業を示しています。
右側は営業利益の推移を示すグラフで、黄色が書籍コンテンツ事業、オレンジ色がメディアソリューション事業です。残念ながら、メディアソリューション事業はまだ赤字ですが、前期よりも縮小しています。
売上高・営業利益
菊地:2017年からの業績推移です。2020年はコロナ禍のタイミングで若干業績が落ち込みましたが、基本的には右肩上がりです。2021年からは確度が上がり、今期の通期予想を売上高82億円、営業利益22億円に上方修正しています。
営業利益率
菊地:営業利益率です。こちらも毎年順調に改善しており、今期は26.8パーセントと極めて高い営業利益率を誇る事業体になっています。
貸借対照表 好調な業績により現金及び預金、株主資本が増加
菊地:貸借対照表です。好調な業績が続いており、現金及び預金、株主資本が増加しています。総資産については、昨年の第3四半期末の77億円から、当第3四半期末は95億円となっています。自己資本比率は80.8パーセントと、借入金もゼロで、極めて強固な財務基盤を構築していると言えます。
坂本:自己資本が盤石で足元も業績が良く、さらに自己資本が積み上がっている状況にあります。非常に健全な財務状況ですが、お金の使い道と言いますが、M&Aについては考えているのでしょうか? 教えていただける範囲でお願いします。
菊地:正直なところ、以前は「良いタイミングで良い案件があれば、M&Aでさらに拡大していきたい」という気持ちもありました。しかし、今はそこまで強い考えは持っていません。なぜなら、弊社独自の企業文化、組織風土のおかげで業績好調が維持できていると思っているからです。こちらは後ほど詳しくご説明します。
さらに来年は新卒、第2新卒を多く採用し、自社独自の新規事業もどんどん生み出して拡大させていこうと考えています。自己資本比率80パーセントで、キャッシュは非常に潤沢ですが、コロナ禍のような世界的に大きな問題がまた起きないとも限りません。自己資本比率を維持しつつ、自己努力で業績をどんどん拡大していきたいと考えています。
配当政策に関して
菊地:配当政策についてです。まず、剰余金の配当ですが、スライド左側の折れ線グラフでは、純利益と1株当たりの配当額を示しています。株式分割を行いましたので、今年の予定は実質予想32.5円というかたちです。
坂本:1対2分割なので、本来であれば65円分だったということですね。
菊地:スライドに記載のとおり、安定配当の考えを以前からベースにはしています。ただし、業績の拡大に合わせた増配は都度検討していきたいと表明していますので、今年も、あるいはこれからも非常に業績が好調であれば、都度増配は検討していきたいと考えています。
さらに株主優待制度は、全国的にも売れている弊社のヒット作を、ぜひ株主のみなさまにも手に取っていただきたいと思っていますので、弊社の本をプレゼントすることも実施しています。
坂本:「編集部がお薦めのヒット作を、厳選」と書かれていますね。
菊地:編集部が厳選、なおかつ私が厳選していて、絶対泣ける本、楽しい本を入れています。コミックもあります。
坂本:バランスの取れたセレクトで、送られてくるのが楽しみですね。
書籍コンテンツ事業
菊地:主力の書籍コンテンツ事業です。まずは、小説投稿サイトを起点とした書籍・電子書籍・コミックビジネスからご説明します。
読書『文化』の需要創造
菊地:冒頭に読書の文化というお話をしました。スライド左側のグラフが、国内の出版物の売上です。悲しいかな、2006年には2.5兆円規模だった売上が、それからずっと右肩下がりで、今や1.4兆円となっています。つまり本が売れないという状況になっています。
2020年で止まったかと思われましたが、2022年にまた落ちました。世の中的には本が売れず、書店の方々も大変ご苦労されている状況になっています。
坂本:コロナ禍ですね。そのような中で、御社は売上を伸ばしています。
菊地:絶対に読書の文化をなくしてはいけないと思っています。右側のグラフは、左側とは年次が違いますが、弊社の書籍売上の推移です。ここでは、需要創造しながら順調に成長してきていることがご覧いただけます。
2016年は書籍全体の売上がわずか9億円だったのですが、今期は第3四半期の時点で38億円を超えています。通期では前期をかなり上回ると思われますが、急激に売上を伸ばしています。
売上が伸びているということは、本をたくさん売っており、読者をたくさん作っているということです。何とかがんばって、全国の出版物の売上を、もう1度V字回復させるような起爆剤になっていきたいと考えています。
投稿サイトから作家を発掘、紙とデジタルの循環で読者を拡大
菊地:どのように弊社の書籍を売っている、作っているのかというところからご説明します。弊社はもともと、有名な出版社ではありませんし、有名な作家を抱えているわけでもありませんでした。
スライド左側にあるとおり、弊社は小説投稿サイトを3つ持っているのですが、いずれも自社で開発しています。社内にはエンジニア社員がいて、後述しますが「オズモール」という女性向けWebサイトは20年以上運営しています。エンジニア社員たちがこれらの投稿サイトを作ってくれて、ここで作家を発掘しているのです。
一般の方々に作家デビューしてもらう、と言うのが正解かもしれません。流れとしてはまず最初に、紙の文庫を発刊します。電子ではなく、紙の文庫です。それから電子書籍化します。こちらがうまくいったものに関しては、これを原作にして漫画家にコミカライズしてもらいます。これを電子コミックで展開します。
電子コミックはすぐに売れるか売れないかがわかりますので、これで売れたものは即、紙のコミックに展開します。デジタルで入ってきた小説のコンテンツが紙になり、電子になり、そして電子のコミックになって、最後に紙のコミックになるという、電子と紙が循環していく中で、読者や口コミが広まって人気化してくるというループを作っています。
坂本:ループが非常にきれいに回っているようです。まずは小説投稿サイトが大事で、投稿する方がいてこそですね。
今までの出版業界は、編集部への持ち込みが多かったですよね?
菊地:あるいは文学賞に応募するかたちですね。
坂本:小説サイトに投稿してみて、読者の口コミや人気が目に見えるのは、かなり「当たる」確率が高いと思われます。編集部に持ち込まれたものを「これは良い」と育てる場合もありそうですが、御社はWebサイトを持っていることが強みですね。
菊地:大手出版社と比較すると、作家としてデビューしたいから投稿するという作家志望の方向けというよりは、弊社はどちらかというと、趣味で物語などを書いている方々が投稿しやすいようなサイトを作っています。
ですので、毎月、数千もの作品が投稿されています。投稿者の方は作家になることを意識されているというより、趣味の一環・趣味の延長線と考えている方のほうが圧倒的に多いはずです。
ただ、人間とはおもしろいもので、数百人に1人ぐらいの割合で文才のある方がいらっしゃいます。
坂本:逸材がいらっしゃるのですね。
菊地:ですが、ご本人におそらく自覚はないと思います。今まで作家になった方々のうち、「本当に作家になろうなんて思ったこともなかった」という方がほとんどです。
デジタルですからどの作品が人気かは当然わかりますが、弊社の編集者が丹念に読み「この作品はもしかしたら商品になるのではないか」というものを見抜きます。そこで投稿者の方に「紙の本を出して作家デビューしませんか?」と声をかけるのが最初です。
そのように作家デビューされた方が、延べ500名以上いらっしゃいます。もともと学校の先生だった方や主婦の方、高校生や大学生などの若者も含め、今や売れっ子作家になった方々が数多くいます。
読者ターゲットを細分化し、マーケティングを徹底
菊地:さらに弊社では、読書ターゲットを細分化して、マーケティングを徹底しています。読者層を小学生・中学生・高校生・大学生・大人の女性・大人の男性と細分化しています。スライド中段に紙のレーベル、下段がデジタルのレーベルを示していますが、それぞれのレーベルごとに編集部を設けています。
大学生以下の人たち、いわば若年層はネット上ではほとんど本を買いません。基本的には紙の本を書店で買ってもらうように展開をしており、大人向けには電子書籍を展開しています。
各レーベルから毎月2点から5点ほど、コンスタントに継続して発刊し、全国の書店で徐々に棚を広げていく手法で展開しています。
団塊ジュニア世代には紙×電子書籍、Z世代は紙書籍で展開
菊地:スライドのグラフは、日本の人口ピラミッドを示しています。ここはけっこう重要なところですが、いわゆる団塊世代と呼ばれている方々はもう70代です。ここが日本の人口の最も大きいボリュームゾーンです。
出版の最盛期は20年前です。出版文化が一番良かった時、つまり本が一番売れていたのは実は20年前で、団塊世代の方々が50歳ぐらい、団塊ジュニアの方々が30歳ぐらいの時です。この時は本が一番売れていたのですが、この方々が徐々に歳をとり、そしてネットの時代になり、今やこのような状態になっているということです。
団塊ジュニアの下の世代、10代から20代前半の方々はZ世代と呼ばれていますが、この方々はいわゆるデジタルネイティブ、生まれた時にはスマートフォンがあり、デジタルで育ってきたティーンエイジャーです。もともと本を読むという習慣があまりないのです。
このZ世代に焦点を当てて、弊社の小学生向けの「野いちごジュニア文庫」「ケータイ小説文庫」「スターツ出版文庫」を展開しています。
そのZ世代から団塊ジュニア世代、40歳代までの世代に、弊社のほぼ全レーベルがリーチするようなかたちで商品を展開しています。
ですから、他の出版社や書店が今まで対象としていた50代以上の国内の主力読者層ではなく、あえて若い人たちを対象に展開していることが、弊社と他社との大きな違いであり特徴だと思っています。
坂本:他社と比べて、この部分のシェアはおそらく高いですよね。御社が発掘しているということもありますし、ターゲティングもされています。
菊地:おそらくほとんどの出版社がこの上の世代層を狙っています。
坂本:人数が多いし、お金も自力で稼げる層ですからね。
菊地:もともと本を買っていた層ですから、今の大作家が書かれている作品のほとんどは、そのような上の世代の方が読まれていると思います。
10代、20代のZ世代と呼ばれてる方が、それらの本を読むかというと、おそらく読みません。ほとんど本を読んでいないと言った方が正解かもしれません。
しかし、人数でいうとZ世代は全体で1,600万人もいます。
坂本:けっこう大きなボリュームですね。
菊地:この世代の人たちは、今までほとんど本を読んでないスマホネイティブな人たちですから、私たちからするとブルーオーシャンに見えるのです。弊社の作品の読者は「生まれて初めて本屋さんに行って、紙の単行本を買いました」という方が非常に多いのです。
つまり、このような方が新規読者になって、読んで感動して、翌月また本屋さんに行って次の本を買う、というかたちでリピーターになります。そのようにして、累積でどんどんと書籍事業の業績が伸びる構造になっていると思います。
坂本:その先の展望の話になりますが、Z世代の年齢が持ち上がっていく時の戦略は、もうすでにあるのですか?
菊地:最後にお話ししますが、来期以降も新しいレーベルをどんどんと創刊していこうと思っています。
坂本:Z世代の下の世代というのは小さな子どもですが、同じ戦略が通用しそうでしょうか? そのあたりも意外とリーチできそうだと思いました。
菊地:本を読んでない子どもたちはまだまだ大勢いますね。老舗の書店の方にお話を聞くと、現在、書店に来る方の半分以上が50歳以上ということです。50代、60代、70代の方です。
坂本:団塊世代に近いところの方ですね。
菊地:20代、30代のお客さまは20パーセントぐらいしかいないというのが、書店の現状です。
しかしやはり、10代、20代の方々にもっと本を読む習慣をつけていただけたらと思います。将来10年後、20年後には30代、40代になり、日本の読書文化を背負ってくださるわけですから、この若い世代に注目しないと将来はないと思います。
書籍コンテンツ事業のレーベル別売上推移
菊地:どのレーベルも積層型で、四半期ごとに売上が増えていきます。売上は、いわゆる読者の数と思ってください。ちなみに足元の第3四半期は、特に若者向けの「スターツ出版文庫」及びコミックが牽引し、過去最高の売上でした。過去最高の売上とは、過去最高の読者数を獲得したということです。
例えば、映画化された作品があって大きく業績に寄与したが、それがなくなったらとんでもなく売上が下がった、というお話もあると思います。しかしこのグラフを見ていただくと、どのレーベルも着実に売れているのです。
毎月、30作品から多い時は40作品、50作品の新刊を発刊しています。どの作品も、だいたい初版1万部を発刊しています。良い作品には数万部の重版がかかって、中には10万部、100万部と飛びぬけて版を重ねるものもたまにありますが、基本的にはどの作品もコンスタントに売れています。
なおかつ、過去5年前、6年前に発刊した既刊本も売れています。過去のものも累積で売れていかないと、このようなグラフにならないのです。「ある作品が映画で大当たりして100万部売れましたが、それ以外は売れてません」という状況ではないことを、このグラフから読み取っていただけると思います。
坂本:その中でも、緑の部分の「スターツ出版文庫・単行本」、黒色の「noicomi」はかなり伸びているように見えますが、その背景を教えていただきたいと思います。
菊地:「スターツ出版文庫」は先ほどお話ししたとおり、完全にZ世代向け、今まで本を読んでこなかった人たち向けです。次の項目で続けてお話しします。
「映画化」次々と決定 IP戦略の推進で書籍の販売を促進
菊地:今年、映画化が3本決定しました。ティーンエイジャー向けの映画で、ティーンエイジャーにも人気のキャストが主演を務めています。
そのため従来の読者に加えて、新たに映画から入ってくる読者もかなり増えるのではないかと思います。映画化を通じて「スターツ出版文庫」の売上がかなり伸びたということがあります。
坂本:毎回、御社にうかがっていますが、映画化もコンスタントに行われているかと思います。この点は何か秘訣があるのですか?
菊地:全国の書店を見ていただくと、「スターツ出版文庫」を非常に目立つところに展示してくれる書店が大変増えています。多いところでは棚3段ぐらいすべて面陳、表紙の見えるように陳列しています。7年前の創刊作品から全部並べてくださっている書店もあるぐらいです。
実はその作品を買ってくれる読者は、小学生高学年から中学生、高校生のZ世代の子どもたちです。つまり、今まで本を読まなかった子どもたちが本屋で買ってくれています。具体的には「TikTok」などのSNSを通じて、ネットで広がっているのです。
もちろん弊社でも、IP戦略が大事ということで、担当者が映画業界や制作系の業界といろいろとコネクションを広げています。
これだけ書店でたくさん並べてもらい、目立って、明らかに売れてるわけですから、映画業界の方々もやはり若い人に映画館に来て欲しいということで、「書店で人気の作品があるが、これはスターツ出版か」と弊社にお問い合わせをいただくことが非常に多くなっています。
坂本:映画化した作品の中には、ヒットするものもしないものもあると思います。ヒット作品が出ると、やはり映画の動員数に比例して御社の本も売れるのですか?
菊地:動員数と正比例しているわけではありません。映画化が決定すれば、「映画化決定」と本の帯に書けますし、スライドの画像のように、キャストの写真も帯に載せることができます。書店では「映画化決定」のコーナーに置かれます。
また、弊社の作品は映画化がされるものが増えてきているため「スターツ出版の棚を作ってしまおう」ということになるのです。その上で「映画化決定」というかたちで書店でPRしていただけるため、書店での露出が全国的に広がり、映画化作品以外のものも含めてスターツ出版の本が全体的に目立って売れている、というのが実状です。
井上:いろいろな付加価値がついて、またさらに売れていくのですね。
菊地:おっしゃるとおりです。いったんスターツ出版の棚ができたら、なかなか撤去することにはなりませんから、売れ続けていくというループにつながっていきます。今年はスライドにある3作品が映画化され、それによる重版は数十万部かかりました。
売上も数億円になりましたが、今年になって上方修正して、通期予想で売上高82億円という数字を発表しています。その中の数億円ですから、数パーセントで10パーセントに満たないのです。それよりも「スターツ出版文庫」のコーナーが広がって、他作品の売上にもコンスタントに寄与しているということが大きいと考えています。
映画化に関しては、まだどんどんと引き合いも来ていますし、担当者が次々と新規案件を仕掛けています。さらに多くの映画化、ドラマ化、あるいはアニメ化を来年以降に向けて交渉している状況です。
初めてʻ単行本ʼを、書店で購入するZ世代読者が急増
菊地:おそらく「Facebook」は40歳以上、「Instagram」は20代、30代の女性、「TikTok」は10代の若者が使うSNSです。
SNSの「TikTok」で、弊社の本がいわゆる「バズる」のです。スライドは静止画なのでわかりにくいですが、本が置かれて15秒ぐらい音楽が流れるだけのショート動画として、毎日のように全国の読者から投稿がなされ、そこに続々とコメントが入るのです。
それによって、スライド左側に示している作品で、帯に「30秒で泣ける」と記載のある『すべての恋が終わるとしても』という単行本は、映画化されているわけではないのですが、3ヶ月で約20万部の重版がかかりました。
発売時には1万部から2万部ぐらいの売れ行きで、「もっと売れたらいいな」と思っていたのですが、ある日突然、どなたかが「TikTok」に投稿してくださり、それからどんどんと全国のあらゆる人が投稿し、それを見て「TikTok」の動画を書店に持っていき「この本ください」という人が出てきました。
書店でも欠品になって、弊社に「お客さまから注文がありました」と電話で発注が相次ぎ、2、3週間電話が鳴りやまないという時期がありました。
井上:Z世代に勢いがついた時は凄まじいですね。
坂本:画一化と言うとよくないですが、同じ動画を見ていますからね。
菊地:「TikTok」の投稿機能も活用されています。本を買って投稿した方が喜んでコメントをしてくれます。
本を買ったら「これ読みます」、本を読んだ後は「とてもよかった」「この何ページに共感する」などのコメントが投稿されます。そのコメントを読んで「私もこれを読みたい」などのコメントが、さらに「TikTok」上のコメントとして飛び交うのです。
現代ならではのSNSの波及効果には驚きます。この本も、全国の大型書店では入口のところに一番目立つかたちで置いてあります。
井上:タイトルと表紙もZ世代に響きそうですね。
菊地:140文字で見開き2ページです。
坂本:読みやすいですね。
井上:タイムパフォーマンス、いわゆる「タイパ」を重視するZ世代だから30秒という言葉を使ったのですね。
菊地:長い文章は読めない・読みづらいのですが、X(旧Twitter)のような140文字の短い文章で感動する作品なら「私にも読める」となります。
それでも「1冊丸ごと読んだ」という満足感がありますし、それを繰り返していくと、気がついたら大人向けの本も読めるようになるはずです。ですから、紙の本を読むエントリーとしては、最高の作品だと思います。
新レーベルのグラストCOMICS、月刊化で認知広がる
菊地:コミックは、実は弊社は後発なのですが、女性向けのコミックの発刊を始めたのが7年前、男性向けの「グラストCOMICS」も3年前から発刊し始めたばかりです。
坂本:男性向けは難しいという話でしたが、伸びているのですね。
菊地:40代向けのレーベルです。何年か前のセミナーでもお話ししましたが、女性向けの『オズマガジン』や「オズモール」、書籍もすべて女性向けで展開してきました。社員も75パーセントが女性です。
弊社は女性向けのコンテンツ専門と思っていましたが、男性社員が「どうしても男性向けのものも手掛けたい」と言い出して、なんとか発刊したのですが、大変な勢いで売れています。
坂本:これは良い挑戦ですね。ちゃんと結果が出てることがすごいです。
菊地:40代の男性のハートをわしづかみにして、発刊して2年以上経ち月刊化しました。
坂本:以前は四半期ごとでしたか? 隔月でしたか?
菊地:隔月で発刊していましたが、今は月刊で発刊しています。電子コミックと紙のコミック両方を発売していますが、スライド中央の写真のように、書店には徐々にこのようなコーナーもできて、「グラストCOMICS」というかたちで紙の売上も増えてきています。
坂本:月刊化すると単行本の発売の頻度も高くなっていいですね。
菊地:連載している『不運からの最強男』という作品も、もう4巻目が出来上がっているのですが、このような連載作品もいくつかできてきて、固定ファンがついてきているという印象です。非常におもしろい作品だと思います。
新レーベル『Comic Lueur(コミックリュール)』創刊
菊地:これは成長戦略のトピックスなのですが、実は9月、電子コミックだけの新しいレーベル「Comic Lueur(コミックリュール)」を創刊しました。「『恋、だけじゃない。』現代を生きる女性を応援する、電子コミックレーベル」と銘打っていて、今までは少しとテイストが違います。
説明すると長くなるので省きますが、このレーベルの創刊作品が「コミックシーモア」という電子コミックサイトで10月、女性マンガの月間ランキング2位、総合月間ランキング7位を獲得しました。こちらも非常におもしろい作品だと思っています。
書籍コンテンツ事業は、次々と新しいレーベルも含めて展開しているということです。
メディアソリューション事業
菊地:次にメディアソリューション事業です。メディアソリューション事業は大きく2つ、「プレミアム予約」と「ブランドソリューション」に分かれています。
オズモールのプレミアム予約とは?
菊地:1996年に『オズマガジン』のWeb版として誕生した老舗の女性向けサイトが「オズモール」です。「オズモール」のプレミアム予約としては「レストラン予約」「トラベル予約」「ビューティ予約」を提供しており、厳選された施設や店舗のオンライン予約ができるようになっています。
「オズのプレミアム予約」は順調に拡大
菊地:こちらは手数料ビジネスですが、順調に拡大しています。スライドの棒グラフが掲載店舗数で、青の部分がトラベル、緑がビューティサロン、黄色がレストランです。順調にずっと右肩上がりで増えています。
折れ線グラフは予約の組数です。予約の組数と売上は、ほぼ連動していますが、コロナ禍で大きく落ち込みました。そこからどんどん回復して、足元の第3四半期は昨対118パーセントと、コロナ禍前を上回り、非常に順調に増えている最中です。
新サービス オズモール「貸切・宴会予約」スタート
菊地:こちらも成長戦略のトピックスで、新サービスをスタートさせました。「オズモール」の「貸切・宴会予約」というかたちで、ネット上では難しかった20名以上の宴会や貸切パーティーの会場探しができます。
弊社に専任のコンシェルジュを置いて、法人や団体の幹事のお客さまから、「いついつぐらいで、40人ぐらいで、このようなことをやりたい」などという要望に沿って、コンシェルジュがきめ細かなお手伝いや提案をしながら会場を決定していくというサービスです。
坂本:幹事にとってはかなり楽ですね。
菊地:楽になります。非常にいいお店も増えてきていますね。
坂本:「君、幹事やって」と言われた若い人にとっては、意外と先輩が教えてくれなかったり、コロナでそのあたりの知見が断絶していたりしますから、非常に助かるサービスですね。
菊地:今年は忘年会も今、盛り上がりつつありますが、コロナ禍で3年ぐらいは、大勢で飲みに行くなどという機会は途絶えています。そろそろ会社単位や仲間単位、同窓会など大勢での会食・パーティーの需要が非常に増えてきていると思いますので、このニーズに対して、うまくセットアップできるようにと、始めたばかりのサービスです。
オズモール ヘアサロン予約 名古屋でスタート
菊地:東海エリアで知名度の高い『KELLY』という地元雑誌とWebサイトがあるのですが、そちらとのコラボレーションで、「オズモール」の「ヘアサロン予約」を名古屋でスタートしました。
5年前にスタートした関西エリアと合わせて東海エリアで先行している「レストラン予約」はともに黒字化していることから、「ヘアサロン予約」も名古屋からスタートを切ったということになります。
誰もが知ってるブランドメディアで『おでかけ』のあと押しを
菊地:「誰もが知っているブランドメディアで『おでかけ』のあと押しを」、そして『笑顔』になってほしいという思いですが、『オズマガジン』がもう創刊して36年が経ちます。『オズマガジントリップ』が16年目で、『メトロミニッツ』が21年、地域情報誌の『アエルデ』は40年です。
「オズモール」も開始から27年が経ちます。単純にビジネスとして見ると、このような雑誌群は非常に厳しいのですが、やはりブランド力としては非常に強いものがあります。関東圏に『オズマガジン』を知らない女性はいないでしょうし、この「オズ」というブランドを利用したビジネスを拡大していくためにも、粛々と継続しています。
4年ぶりの大型イベント「オズの女子旅エキスポ2023」開催
菊地:この3年間、イベントビジネスがなかなかできませんでしたが、ようやく今年は4年ぶりになる大型イベントを「オズの女子旅エキスポ2023」というかたちで開催しました。イベントビジネスは、これからまた徐々に増やしていけるのではないかと考えています。
成長戦略の基本方針
菊地:成長戦略の基本方針は3つです。まずは「穏やかで、伸び伸びとした、社員の成長が持続できる企業風土」、2番目は「信頼され、時代の変化に応じた、商品とサービスを、次々と提供」、3番目は「企業価値を上げ、一人でも多くのステークホルダーに喜びを」です。
ビジョン・ミッション
菊地:スターツ出版のビジョンは「感動プロデュース企業へ」、ミッションは「文化と笑顔の需要創造」です。
ご清聴ありがとうございました。
質疑応答:メディアソリューション事業の黒字化について
坂本:まずはメディアソリューション事業についてのご質問です。赤字が減ってきているということで、黒字化のめどがつく時期があれば教えてください。
菊地:足元の第4四半期はほぼ黒字になると思います。通期では、若干足りないかもしれませんが、たぶんこの調子でいくと、来期は通期でも黒字になると考えています。
まず「オズモール」に関しては、利用者の純増基調がずっと続いていますし、雑誌・メディアのほうは、コストを少しドラスティックにコントロールしていこうと考えています。
質疑応答:コラボイベントが増えているかどうかについて
坂本:「4年ぶりに大型イベントを開催するということですが、昔からあるようなコラボイベントも増えてきていますか?」という質問です。
菊地:今、徐々に増えてきています。特に企業とのコラボが多く、地方自治体とのコラボも増えています。町に来る人がどんどん増えつつある中、インバウンドだけではなく、やはり東京の若い女性にもどんどん来てほしいというニーズもあって、イベントはこれからどんどん増えていきそうです。
質疑応答:Z世代の購入行動について
井上:Z世代の購入額が多いのは、Amazonまたは書店で書籍、Amazonで電子書籍という3つでは、どの順番ですか?
菊地:ほぼほぼ100パーセント、書店での書籍購入です。Amazonを含むネット上ではほぼ売れておらず、Z世代はほぼ全員、書店で紙の本を買います。
坂本:書店に買いに行く人が一番多いのですか。意外なことにZ世代には、Amazonで書籍を買うという文化がそもそもないのですね。
菊地:そうですね、ほぼ100パーセント近く本屋さんで買います。
たぶん「朝読」の時間に読んでいます。中学生には朝読の時間というカリキュラムが15分ほどありますので、その時に弊社の本を読んでいる人は、たぶん相当に多いのではないかと思います。
井上:Z世代を読み解くとおもしろいですね。
質疑応答:「オズのプレミアム予約」展開地域拡大について
井上:「『オズのプレミアム予約』の展開地域は拡大しますか?」というご質問です。
菊地:5年前から関西・京都から始め、京都には今年、事務所も設けました。名古屋で「レストラン予約」「ビューティ予約」も始めましたので、徐々に広がっています。
質疑応答:「オズモール」の営業体制について
坂本:けっこうな社員数がいると思いますが、「オズモール」の営業はどのような体制なのでしょうか? ネットのほか、足で営業するパターンもあると思います。
菊地:エリアごとに、社員が1人当たり100軒ほどのお店を担当しています。そのエリアの中でも、本当に私たちの「オズ」の厳選基準にかなったお店だけを見つけてご案内するというかたちで、新規のお店も入れています。
基本的には、本当に厳選されたお店だけに絞って展開しているということで、「オズモール」の価値が担保されていると思っています。
質疑応答:『鬼の花嫁』コミックの第4弾について
坂本:「『鬼の花嫁』コミックの第4弾の発売スケジュールを教えてください」というご質問です。
菊地:『鬼の花嫁』第4弾の発刊予定は、年明け1月です。
坂本:楽しみにしている方が多いですね。僕も楽しみです。
菊地:1巻目から比べて、2巻、3巻とどんどんと部数を伸ばしています。
全国書店からの引き合いも今までになく多いですから、4巻には特装版というかたちで、通常版のコミックにオリジナルのアイテムをつけた版も発刊する予定です。
質疑応答:課題について
井上:「すべてうまくいっている感じですが、課題があるとすれば何でしょうか?」というご質問です。
菊地:課題があるとすれば、ですか。
井上:私もプレゼンを最初から最後まで聞いて、書籍もまだまだ伸びしろがあると思ったのですが、いかがでしょうか?
菊地:正直に申し上げると、自社の中だけを見ると、おかげさまで本当にみんなががんばってくれて、うまく回っています。
ただマクロの視点で見ると、例えば書籍の部分では全体的には20年間ずっと悪く、今も足元では、全国の書店の売上が毎月10パーセントずつ落ち込み続けている状況です。
坂本:書店の数も減っていますね。
菊地:おっしゃるとおりです。書店の経営が非常に厳しくなっているということは、もちろん取次も同じことになります。
業界全体でも、今どんどんいろいろと新しい取り組みが始まりつつある最中ですから、出版業界・書店業界全体で、出版文化すなわち本の文化を盛り上げていくということに取り組まない限りは、弊社だけがずっとうまくいくというような甘いことは思っていません。
質疑応答:海外展開に対する認識について
坂本:「先日米国に行きましたが、物価の差に唖然としました。海外展開の拡大ができれば、その分だけ収益を拡大できると思うのですが、海外への貴社の認識について教えてください」というご質問です。
菊地:書籍のうちコミックには、海外展開の可能性は十分あるという考えです。映画あるいはアニメというコンテンツ化で、海外展開しやすくなる土壌がどんどん増えていくのではないかと思っています。
今の段階ではまだ少し力不足です。もう一段くらい力を上げていかなければならないと思っています。
特に女性向けの恋愛をテーマにしたコミックは全世界、共通で人気があります。どこかのタイミングで、いつかは、海外に展開できる時も来るのではないかと思っています。
坂本:レーベル単位ではなく、単品で1冊だけというかたちで出したこともないのですか?
菊地:弊社の売れ方自体が、単品ではなく、レーベルという群単位で売れています。展開するレーベルで毎月数冊ずつ出して恒常的に売り続けないと、ビジネスとしておもしろくありません。
単品で1本だけが大ヒットしても、レーベル単位で見てスカスカでは意味がありませんから、そのような売り方はしたくないですね。
坂本:海外で製作する映画への原作の提供はあり得ますか?
菊地:それはあり得ます。
井上:海外で人気のアニメや漫画は、本当に市場として大きそうですからね。
菊地:「noicomi」「ベリーズ文庫」シリーズというかたちで、ずっと売れていくような土壌が出来上がればいいと思っているところです。
井上:すでに戦略として頭の片隅にはあるのですね。期待したいと思います。
菊地氏からのご挨拶
井上:最後に視聴者のみなさまに一言お願いできますでしょうか?
菊地:先ほど映画化のところでお話しした『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』、こちらが12月8日の太平洋戦争開戦の日に、全国で一斉ロードショーがはじまります。私も試写会に行きました。原作でも泣けましたが、映画はもっと泣きました。本当に泣ける作品になっています。ぜひ親子で、あるいは愛する方と一緒に、見ていただければと思います。
主題歌も福山雅治さんの書き下ろしで、本当に歌もぐっときます。今は世界で戦争の悲劇が起きています。日本も数十年前には同じことがあったわけですから、やはり風化させたくありません。戦争の悲惨さや、いかに平和が大事かということを身にしみて実感できる映画です。
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