S&P500月例レポート(23年11月配信)<後編>
雇用関係
○ADP全米雇用統計によると、9月の民間部門雇用者数は市場予想の15万人増を大幅に下回る8万9000人増となりました。このうちの8万1000人がサービス関係と大半を占めています。また、8月分は当初発表の17万7000人増から18万人増と、小幅に上方修正されました。
○ADPがまとめた民間部門の雇用者数の伸びが大幅に減少した(市場予想の15万人増に対して、8万9000人増にとどまる)のに対して、9月の雇用統計では非農業部門雇用者数が前月比3万36000人増と予想を大幅に上回りました。市場予想は16万人増でした。8月分も当初発表の18万7000人増(当初予想は17万人増)から22万7000人増に上方修正されました(政府部門の雇用増が主な理由)。
⇒9月の失業率は3.7%に低下すると予想されていましたが、8月から変わらずの3.8%となりました(7月は3.5%、なお2020年2月も3.5%だったが、同年5月は13.3%となった)。
⇒労働参加率は予想通り前月比横ばいの62.8%でした。
⇒週平均労働時間も予想通り横ばいの34.4時間となりました。
⇒平均時給は前月比0.2%増となりました(8月の33.82ドルから9月は33.88ドル)。予想では8月と同水準の0.3%増が見込まれていました(7月は0.4%増)。前年同月比では8月の4.3%増から4.2%増に低下しました(7月は4.4%増)。
○8月のJOLTS(求人労働移動調査)によると、求人件数が市場予想の875万件を上回る961万件となりました。また、7月の速報値の882万7000件は892万件に小幅に上方修正されました。
○失業保険継続受給件数(季節調整済み)は、前月の165万8000件から173万9000件に増加しました。
⇒2023年10月5日発表の週間新規失業保険申請件数:20万7000件(当初の発表通り)
⇒2023年10月12日発表の週間新規失業保険申請件数:20万9000件
⇒2023年10月19日発表の週間新規失業保険申請件数:19万8000件
⇒2023年10月26日発表の週間新規失業保険申請件数:21万件
レイオフ(および関連事項):
○全米自動車労働組合(UAW)は、米国の大手自動車メーカー3社(フォード・モーター
⇒これに関連して、ゼネラル・モーターズはカナダの労働組合との協約の合意を受け入れました。
⇒UAWはフォード・モーター、次にステランティス、最後にゼネラル・モーターズと暫定合意に達しました。報道によると、合意の結果、3社すべてにおいて、賃金が4年間で25%引き上げられることになります。
○米医療保険ネットワーク大手カイザーパーマネンテの7万5000人の医療従事者が数日間のストライキを行いました。労組協議の合意が得られない場合は、11月に2回目のストライキに踏み切ると労働組合は警告しています。
○モバイルネットワーク機器メーカー大手ノキア
企業業績
○現時点で、時価総額の64.4%に相当する289銘柄が2023年第3四半期の決算発表を終えました。そのうちの224銘柄(77.5%)で営業利益が予想を上回り、287銘柄中176銘柄(61.3%)で売上高が予想を上回りました。
⇒2023年第3四半期の1株当たり営業利益は、前期比1.1%増、前年同期比10.1%増と予想されます。売上高は前期(過去最高を記録した2023年第2四半期)比1.6%増、前年同期比5.2%増が見込まれ、過去最高を更新する見通しです。
⇒2023年第3四半期の営業利益率は、第2四半期の11.87%から低下して11.81%になると予想されます(1993年以降の平均は8.76%、過去最高は2021年第2四半期の13.54%)。
⇒2023年第3四半期中に株式数の減少によってEPSが大きく押し上げられた発表済みの銘柄の割合は13.7%となっています。この割合は、2023年第2四半期は16.3%、2022年第3四半期は21.2%でした。
○2023年通年の利益は前年比10.9%増となる見通しで、この予想に基づく2023年の予想株価収益率(PER)は19.2倍となっています。
○2024年の利益は同11.9%増が見込まれており、2024年予想PERは17.2倍となっています。
個別銘柄
○シリアルメーカーのケロッグは、シリアルとスナックを世界的に展開するケラノバ
○米国内国歳入庁(IRS)はソフトウエア企業のマイクロソフト
○ドラッグストアとして米国第3位になったこともある薬局チェーン、ライト・エイド(RAD)が破産を申請しました。
○iPhoneメーカーのアップル
○S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは10月の最初の取引日に、医療機器を手掛けるダナハー
注目点
○食品・飲料メーカー大手ペプシコ
○大手小売チェーンウォルマート
○米10年物国債利回りは16年ぶりに5%を超える水準で推移し、一時5.02%に達した後、4.92%に低下して月末を迎えました。2022年末は3.88%、2021年末は1.51%、2020年末は0.92%、2019年末(新型コロナウイルス感染拡大前)は1.92%でした。
○サイバー通貨ビットコインは2022年5月以降で初めて3万5150ドルに達し(2021年11月には6万8790ドルに達しています。2019年末時点は7194ドル)、3万4500ドルで月を終えました。上昇の背景には、投資家がビットコインの現物ETFの承認を見込んでいたことが挙げられます。
○報道によると、かつて高水準の企業価値(470億ドル)を誇った新興企業で、シェアオフィス事業を展開するウィワークは、近いうちに破産申請を行うとのことです。
配当金
○現金配当は2023年9月に前年同月比で12.49%減少(配当額の変化よりもカレンダー上の要因が大きい)した後、2023年10月は前年同月比9.30%増となりました。年初来では5.15%の増加となりました。
⇒10月の配当支払い額は1株当たり4.16ドルで、2022年10月の3.81ドルから増加、支払総額は348億7000万ドルで、2022年10月の320億1000万ドルから増加しました。
⇒2023年10月までの12ヵ月間の配当支払額は1株当たり69.69ドルで、2022年10月までの12ヵ月間の65.30ドルから増加し、2023年10月までの12ヵ月間の支払総額は5830億7000万ドルで、2022年10月までの12ヵ月間の5519億8000万ドルから増加しました。
○2023年10月は、増配が28件、配当開始が0件、減配が3件、配当停止が0件であったのに対して、2022年10月は、増配が26件、配当開始が0件、減配が0件、配当停止が0件でした。
⇒年初来では、増配が284件、配当開始が8件、減配が23件、配当停止が4件であったのに対して、2022年の10月末までの10ヵ月間では、増配が307件、配当開始が6件、減配が5件で、配当停止はありませんでした。
○増配率の中央値は引き続き低下しており、10月は5.66%と、9月の6.06%を下回りました(8月は7.19%、7月は8.00%)。10月の平均増配率は7.49%と、9月の8.00%(同7.79%、同8.24%)から低下ました(いずれも2倍以上となった銘柄を除外しています)。年初来では、増配率の中央値は6.99%(9月末時点は7.27%、8月末時点は7.41%)、平均値は8.74%となっています(同8.87%、同8.93%)。
○注目すべき点として、今年は減配と配当停止が27件あり(昨年は5件)、これにより年間配当額は159億ドル分減少しています(対して、増配は292件で390億ドル分増加)。配当の減少は銘柄固有の要因によるものですが、エネルギー銘柄がこれら27件のうち10件、また減少額の41%(65億ドル)を占めています。一部の企業は配当方針を四半期の定額配当から変動配当に変更しています(その結果、過去の実績に基づく配当予想を提示)。
○2023年の予想配当支払額の前年比での水準は、3月に5%増に下方修正されました。これは、融資の伸び率低下に加えて、企業の需要減少と銀行の資本要件の引き上げの見通しに基づくもので、従来、シリコンバレー銀行(SVB)による銀行問題の発生以前は、6~7.5%増のレンジ(当時の予想は7%弱増)と推定されていました。現在は4%増が予想されており、この予想には最近の減配は状況に応じたもので広がらないこと、景気の力強さが持続し、消費者、企業、政府の支出(及びインセンティブ)が維持され、企業利益は横ばいないし微増となることが織り込まれています。
⇒2023年の予測では、銀行の更なる破綻はなく、FRBによる利上げも終了し、個人消費は安定的に推移することが想定されており、その結果、2023年の現金支払額は前年比4.0%増(2桁増の当初予想からは低下)が見込まれています。
○2024年の配当に関して、当初予想は景気と配当のパターンの変化が背景となり、僅かながらもポジティブとなっています。筆者は、FRBによる2024年第3四半期の利下げ開始に加えて、景気の大幅な減速は回避され、政府の財政政策の大きな調整はない(政策とインセンティブの継続を予想)との見通しを織り込んでおり、2024年の実際の現金支払額は、現在の筆者の2023年の予想値から4~5%程度増加して、6130億ドルになると予想しています。これにより2024年の現金支払額は、15年連続の増加と13年連続の過去最高の更新が見込まれます。
インデックス・レビュー
◇S&P 500指数
S&P500指数は10月に2.20%下落して4193.80で月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス2.10%)。9月は4288.05で終え、4.87%の下落(同マイナス4.77%)でした。過去3ヵ月では8.61%の下落(同マイナス8.25%)、年初来では9.23%の上昇(同プラス10.69%)、過去1年では8.31%の上昇(同プラス10.14%)でした。2022年は19.44%の下落(同マイナス18.11%)、2021年は26.89%の上昇(同プラス28.71%)でした。2022年1月3日の高値からは12.57%の下落(同マイナス9.93%)、コロナ危機前の2020年2月19日の高値からは23.85%の上昇(同プラス31.45%)でした。
9月の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)は9月の0.88%から1.28%に上昇し、年初来では1.09%となりました(2022年は1.83%)。10月の出来高は、9月の3%減少の後に、2%減少し(営業日数調整後)、前年同月比では20%の減少でした。2023年10月までの過去1年では前年比10%増加しました。
10月は、9月と同様に11セクター中10セクターが下落しました。10月のパフォーマンスが最も良かったのは、1.23%上昇して唯一プラスのセクターとなった公益事業です(ただし、年初来では15.51%の下落で、指数内で最低、2021年末比では16.73%下落)。騰落率最下位となったのはエネルギーで、10月は6.08%下落しました(年初来では3.02%下落、2021年末比では54.24%上昇で、指数内で最高)。
10月は1%以上変動した日数は、22営業日中8日(上昇が3日、下落が5日)でした。9月は1%以上変動した日数は、20営業日中3日(3日とも下落)。年初来では、1%以上変動した日数は209営業日中56日(上昇が29日、下落が27日)、2%以上変動した日数は2日(上昇が1日、下落が1日)でした。2022年は1%以上変動した日数は122日(上昇が59日、下落が63日)、2%以上変動した日数は46日(上昇が23日、下落が23日)でした。10月は22営業日中16日で日中の変動率が1%以上となり、2%以上の変動は1日で、3%以上の変動はありませんでした。年初来では、1%以上の変動が104日、2%以上の変動が13日で、3%以上の変動はありませんでした(直近で3%以上の変動があったのは2022年11月30日)。2022年は1%以上の変動が218日、2%以上の変動が89日、3%以上の変動が20日、4%以上の変動が4日ありました。
10月は値下がり銘柄数と値上がり銘柄数の差が縮小しました。10月の値上がり銘柄数は148銘柄(平均上昇率は3.66%)で、9月の74銘柄(同2.89%)から増加しました。10%以上上昇した銘柄数は7銘柄(同12.60%)で、9月の2銘柄(同11.49%)から増加し、25%以上上昇した銘柄は9月と同様にゼロでした。一方、10月の値下がり銘柄数は355銘柄(平均下落率は7.50%)と、9月の429銘柄(同6.62%)から減少しました。10月は10%以上下落した銘柄数は93%銘柄(同15.67%)で、9月の75銘柄(同13.56%)から増加し、25%以上下落した銘柄数は9月と同様にゼロでした。
年初来では、値上がり銘柄数は211銘柄(9月末時点の年初来は250銘柄)で、値下がり銘柄数は290銘柄(同252銘柄)でした。10%以上上昇した銘柄数は137銘柄(同164銘柄)、10%以上下落した銘柄数は189銘柄(同159銘柄)でした。58銘柄(同67銘柄)が25%以上上昇し、72銘柄(同39銘柄)が25%以上下落しました。
[執筆者]
ハワード・シルバーブラット
S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス
シニア・インデックス・アナリスト
※このレポートは、英文原本から参照用の目的でS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(SPDJI)が作成したものです。SPDJIは、翻訳が正確かつ完全であるよう努めましたが、その正確性ないし完全性につきこれを保証し表明するものではありません。英文原本についてはサイトをご参照ください。
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