米ドル/円、150円超えとなるか &昨秋の為替介入のテクニカル検証

著者:津田隆光
投稿:2023/09/29 10:04

介入効果は限定的!? じりじりと150円台超えを試す動きに

米ドル/円・週足・複合チャート
米ドル/円・週足・複合チャート出所:マネースクエアFXチャート

【注目ポイント】「150.000円」を上抜け突破するか否か
【シナリオ①】同レート超えなら、「155.000円」付近までの上昇も視野
【シナリオ②】同レートで上値抑制なら、「140.000円」付近までの深押しも想定
【向こう1カ月程度の“主戦場”(コアレンジ)】「140.000~155.000円」
【昨秋~年末の為替介入効果】テクニカル的には「直接的な材料」とはならず


米ドル/円・週足チャートの着目ポイントであった「145.550円での下値サポート成否」。以後の動きは、「(同レートでの)下値サポート示現」→「上昇バンドウォーク継続」→「上値切り上げ」となり、足もとでは心理的節目である「150.000円」に接近する展開となっています。


上図(週足)の各メルクマールをそれぞれ見ていくと、1) 26週MA(移動平均線)が右肩上がりであること、2) 遅行スパンがローソク足の上方で推移していること、3) ローソク足の下方に青色雲(=サポート帯、先行スパン)およびパラボリック・SAR(ストップ・アンド・リバース)があること、そして4) DMI(方向性指数)で+DI>-DIとなり、ADXが右肩下がりでの推移になっている(上図赤色点線丸印)ことから、現在の米ドル/円・週足チャートは上昇トレンド継続を示すチャート形状であると判断します。

その他メルクマールでは、ⅰ) ローソク足がBB(ボリンジャーバンド)・+1σラインと同・+2σラインの間を推移する“上昇バンドウォーク”となっていること、またⅱ) BB・±2σラインが26週MAに対して概ねパラレルとなっていることを合わせると、今後の米ドル/円はもう一段の上値追いとなる蓋然性(がいぜんせい)が高そうです。


喫緊の注目ポイントは・・・上述した、心理的節目である「150.000円」(上図黄色矢印および黒色線)を上抜け突破するか否か。

筆者が予想する今後のシナリオは以下の通りです。(シナリオ①、②)


[シナリオ①]
これからの時間にかけて「150.000円」を終値ベースで上抜け突破した場合は、「心理的節目超え示現」→「もう一段の上値切り上げ」となりそうです。当該ケースでは、「上昇バンドウォークの継続」や「遅行スパンのさらなる上放れ」、また「+DI>-DIの乖離拡大」なども伴いながら、次なる心理的節目である「155.000円」(上図Ⓐ赤色線)付近までの上昇も視野に入れるべきでしょう。

[シナリオ②]
一方で、「150.000円」付近で上値が抑制された場合、あるいは同レート付近で口先も含めた本邦当局による為替介入(=円買い、米ドル売り)が実施された場合は、「売り圧力の増大」→「下押しフロー」となる可能性も。当該ケースでは、「上昇バンドウォーク崩れ」や「SARの売りサインへの転換」、また「+DI>-DIの乖離縮小、ないしは収斂」なども伴いながら、青色雲の下辺である先行2スパンをメドとする「140.000円」(上図Ⓑ水色線)付近までの深押しも想定すべきでしょう。


上記シナリオ①および②を概括すると、今後の米ドル/円については、本邦当局による為替介入警戒感が取り沙汰される中、もう一段の上値切り上げを模索する展開となりそうです。以上を踏まえた上で、米ドル/円・週足チャートのスパン※における“主戦場”(コアレンジ)は「140.000~155.000円」となりそうです。(※向こう1カ月程度のスパンを想定しています。)



他方、上述した本邦当局による為替介入につき、昨秋~年末までの動きをテクニカル分析をベースに検証してみたいと思います。

まず、「実弾介入」の前段階として、昨年9月時点において日米金融政策スタンスがさらに乖離するのでは?との思惑の下で、急速な米ドル高・円安フローが進展。そんな中、財務省・日銀・金融庁の「3者会合」が開催され、介入の準備段階とされる「レートチェック」を実施。こういった流れの中で、米ドル/円が145円超えとなった9月22日に実弾介入第1弾を実施(介入額:2.8兆円、上図⑴)。その後さらに米ドル/円が上昇し、150円を突破した10月21日に同第2弾(介入額:5.6兆円、上図⑵)を、そして24日には同第3弾(介入額:0.7兆円、上図⑶)を断続的に実施しました。(※結果的に、昨年9~10月の介入額は9.2兆円規模)

ただし、上図からも見て取れるように、本邦当局による為替介入(円買い、米ドル売り)については、米ドル/円の上昇スピードをある程度抑える効果は見られたものの、トレンド転換シグナルである「BB・+1σライン割れ」が示現しなかったという意味で「テクニカル的な(米ドル/円の)トレンド転換には至らなかった」という見方が正論と言えそうです。

その後、11月10日に発表された米10月CPI(消費者物価指数)が事前予想以上の下振れであったことで米ドルが売られた、いわゆる『米CPIショック』で「大陰線の出現」→「(BB・+1σライン割れとなる)上昇バンドウォーク崩れ」となり、米ドル/円の下押しのトリガーとなり得ました。

徐々に下値を切り下げる動きの中、12月20日に『黒田ショック』が起こり、円高フロー主体での米ドル/円下落フローが進展。約1年間における市場参加者の平均コストを示す52週MAを割り込むきっかけとなりました。

これを以て、「当局による為替介入の効果が皆無(無力)であった」という結論には至りませんが、週足チャートの各メルクマールを見る限り、直接的な米ドル/円の下落フローとなり得た材料は、『米CPIショック』であり『黒田ショック』であったと見ることができます。

よって、今後の当局による為替介入については、軽視することはよろしくないものの、あまり過大評価や過剰反応はすべきではないと筆者は考えます。よって、上記[シナリオ②]の動きを前提としたリスク管理を行うのも一案と言えるでしょう。

津田隆光
マネースクエア チーフマーケットアドバイザー
配信元: 達人の予想