S&P500月例レポート(23年7月配信)<前編>
S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。
THE S&P 500 MARKET:2023年6月
個人的見解:値上がり銘柄は再び広がりを見せたが、トップ銘柄は不動
6月の市場は値上がり銘柄数が圧倒的に優勢となり、S&P500指数構成銘柄のうち454銘柄が上昇し(155銘柄が10%以上上昇)、5月の124銘柄から大幅に増加しました。これにより、年初来では値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を再び上回り、300銘柄が年初来で上昇(116銘柄が20%以上上昇)しています。また、6月は11セクターすべてが上昇しました。6月の市場は全体的に押し上げられ、S&P500指数の配当込みのトータルリターンはプラス6.61%となりました。
過去数ヵ月の市場は時価総額の大きい一部の銘柄が主導権を握り、全体としては値下がり銘柄数の方が多く、足を引っ張っている状況でした。一部の銘柄が主導権を握る状況は続いており、S&P500指数の年初来のトータルリターンはプラス16.89%となっていますが、指数上昇への貢献度でトップ44銘柄を除くと年初来のトータルリターンはマイナスです。とはいえ、5月時点ではトップ44銘柄ではなく8銘柄を除くとマイナスとなっていました。アップル
6月の注目点として、半導体企業のエヌビディア
新規株式公開(IPO)市場も息を吹き返しましたが、パフォーマンスはまちまちです。地中海料理チェーンのカバ・グループ
米連邦準備制度理事会(FRB)は、銀行に対する年次ストレステストの結果を公表しました。今回のテストは、失業率10%、商業用不動産価格の40%下落、住宅価格の38%下落、最低自己資本比率4.5%という想定で実施され、バンク・オブ・アメリカ
FRBはまた、銀行が保有する都市部の商業用不動産向け融資全体のうち、23行が保有するのは20%にすぎず、残りの80%はストレステストの対象となっておらず、大手行のようなグローバルなリソースを持っていない、つまり「大き過ぎて潰せない」銀行に分類されない中堅・中小銀行が保有しているとみられる点を指摘しました。
銀行は2023年6月30日の取引終了後から、ストレステストの結果に基づき、最新の配当および自社株買いプログラムを発表することができます。ただし、各行とも2023年に入ってそうしてきたように、配当を維持するために自社株買いについては発表を控えるかもしれません(注:6月30日午後4時30分以降、確定ではありませんが、数行が増配の意向を発表しています:バンク・オブ・ニューヨーク・メロン
7月はFRBに注目が集まるでしょう。7月25-26日の連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%の追加利上げが予想されており、市場では、利上げが行われる確率を84%と織り込んでいます。その後の見通しは不透明です。市場は、さらに0.25%の追加利上げを容認しているようですが、9月19-20日のFOMC後の声明発表後なのか、あるいは10月31日-11月1日の後なのかは分かりません。現時点では、最初の利下げは2024年第2四半期になる見通しで、2024年4月30日-5月1日のFOMCと予想されています。
株式の取引に関しては、企業利益に注目が集まるとみられます。ポジションを取ったり、利益や損失を確定したりする上で、企業利益は常に重要なポイントであり、少なくとも私がS&Pに入社して市場を見てきた184四半期を通じて変わることはありませんでした。現時点で、2023年第2四半期の利益は前期比0.5%減となる見通しですが、ウィスパーナンバー(アナリストによる非公式の業績予想)では1?2%増が見込まれているようです。アナリストはいつだって楽観的です。一方で、エコノミストはそうした予測を疑問視していますが、リセッション(あるいは部分的不況)入りの予想時期は先延ばしされ続けています。最終的に彼らの見方は正しいのかもしれませんが、実際のリセッション入りは2023年末となる公算が大きくなっており、それほど先の話ではありません。現在、S&P500指数の2024年予想株価収益率(PER)は18.3倍となっています。
6月のS&P500指数は5月末の4179.83から6.47%上昇して4450.38で月を終えました。2023年第2四半期の3ヵ月では8.30%の上昇、年初来では15.91%の上昇、過去1年では17.57%の上昇(配当込みのトータルリターンはプラス19.59%)でした。6月の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)は5月の0.96%から0.88%に低下(4月は0.92%、3月は1.51%)、年初来では1.18%となりました。2022年は1.83%、2021年は0.97%、2020年は1.51%でした。6月の出来高は、4月に前月比24%減少、5月に同8%増加した後、4%増加し(営業日数調整後)、前年同月比では5%の増加でした。2023年6月までの過去1年では前年比17%増加しました。2022年は同6%の増加でした。
6月に前日比で1%以上変動した日数は21営業日中4日(上昇が4日、下落は0日)、2%以上変動した日はありませんでした。5月は1%以上変動した日数は22営業日中5日(上昇が3日、下落が2日)、2%以上変動した日はありませんでした。4月は1%以上変動した日数は19営業日中3日(上昇が2日、下落が1日)、2%以上変動した日はありませんでした。年初来では、1%以上変動した日数は124営業日中41日(上昇が25日、下落が16日)、2%以上変動した日数は2日(上昇が1日、下落が1日)でした。2022年は、1%以上変動した日数は122日(上昇が59日、下落が63日)、2%以上変動した日数は46日(上昇が23日、下落が23日)でした。
6月は21営業日中5日で日中の変動率が1%以上となり、2%以上の変動と3%以上の変動はありませんでした(5月は22営業日中9日で日中の変動率が1%以上となり、2%以上と3%以上の変動はありませんでした)。年初来では1%以上の変動が66日、2%以上の変動が12日、3%以上の変動はありませんでした(直近で3%の変動があったのは2022年11月30日)。2022年は1%以上の変動が218日、2%以上の変動が89日、3%以上の変動が20日、4%以上の変動が4日ありました。
S&P500指数は6月に6.47%上昇して4450.38で月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス6.61%)。5月は4179.83で終え、0.25%の上昇(同プラス0.43%)、4月は4169.48で終え、1.46%の上昇(同プラス1.56%)でした。2023年第2四半期は8.30%の上昇(同プラス8.74%)、年初来では15.91%の上昇(同プラス16.89%)、過去1年では17.57%の上昇(同プラス19.59%)でした。2022年は19.44%の下落(同マイナス18.11%)、2021年は26.89%の上昇(同プラス28.71%)、2020年は16.26%の上昇(同プラス18.40%)、2019年は28.88%の上昇(同プラス31.49%)、2018年は6.24%の下落(同マイナス4.38%)でした。バイデン大統領が勝利した
2020年11月3日の米大統領選挙以降では32.09%の上昇(同プラス37.76%)でしたが、2022年1月20日の就任以降では15.54%の上昇(同プラス20.05%)でした。(シリコンバレー銀行破綻前の)3月8日からは11.48%の上昇(同プラス12.07%、金融セクターは3.23%下落)、2022年1月3日の高値からは7.22%の下落(同マイナス4.88%)、コロナ危機前の2020年2月19日の高値からは31.43%の上昇(同プラス38.82%)でした。
ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は6月に4.56%上昇して3万4407.60ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス4.68%)。5月は3万2908.27ドルで終え、3.49%の下落(同マイナス3.17%)、4月は3万4098.16ドルで終え、2.48%の上昇(同プラス2.57%)でした。2022年1月4日の高値(3万6799.65ドル)からは6.50%下落しました。2023年第2四半期は3.41%の上昇(同プラス3.97%)、年初来では3.80%の上昇(同プラス4.94%)、過去1年では11.80%の上昇(同プラス14.23%)、2022年は8.78%の下落(同マイナス6.86%)でした。
主なポイント
○株式市場は楽観的なムードに変化しました。上昇が上位銘柄に偏る状況は弱まり、セクターを問わず値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を大幅に上回りました。経済見通しが改善する中で消費活動はこれまで以上に活発化し(とはいえ、選別志向は一段と強まりました)、企業収益が悪化するとの予想にも疑問符が付けられました。FOMCは金利据え置きを決めたものの、一時的な措置で今後も追加利上げはあると考えられており、市場は0.25%の利上げがもう2回実施されると織り込んでいるようです。
⇒6月の市場は、5月が3セクター、4月が8セクターだったのに対し、11セクター全てが上昇しました。6月に騰落率が最高となったのは一般消費財で11.99%上昇しました(年初来では32.33%上昇、2021年末からは17.40%下落)。最低となったのは公益事業で上昇率は1.47%にとどまりました(年初来では7.16%下落、2021年末からは8.50%下落)。
○市場全体で見ると、S&P 500指数の時価総額は1090億ドル増加し(年初来では5030億ドル増)、34兆9530億ドル(2022年に時価総額は8兆2240億ドル減少)となりました。コロナ危機直前の2020年2月19日との比較では6兆9800億ドル増加しています。
○(503銘柄のうち)500 銘柄(時価総額で99.8%に相当)が2023年第1四半期決算の発表(暫定分を含む)を終え、そのうち383銘柄(76.6%)で営業利益が予想を上回り、499銘柄中 368銘柄(73.7%)で売上高が予想を上回りました。
⇒2023年第1四半期の暫定営業利益は前期比4.3%増、前年同期比6.4%増となりました。売上高は過去最高を記録した前期(2022年第4四半期)から2.2%の減少が見込まれています。消費者が買い控えの姿勢を示して一段と選別志向を強め、企業がコストの増加分を全て消費者に転嫁できていない状況にあります。
利回り、金利、コモディティ
○米国10年国債利回りは5月末の3.64%から3.83%に上昇して月末を迎えました(2022年末は3.88%、2021年末は1.51%、2020年末は0.92%、2019年末は1.92%、2018年末は 2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは5月末の3.85%から3.86%に上昇して取引を終えました(同3.97%、同1.91%、同1.65%、同2.30%、同3.02%、同3.05%)。
○英ポンドは5月末の1ポンド=1.2440ドルから1.2698ドルに上昇し(同1.2099ドル、同1.3525ドル、同1.3673ドル、同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、ユーロは5月末の1ユーロ=1.0693ドルから1.0909ドルに上昇しました(同1.0703ドル、同1.1379ドル、同1.2182ドル、同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は5月末の1ドル=139.36円から144.33円に下落し(同132.21円、同115.08円、同103.24円、同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は5月末の1ドル=7.1118元から7.2535元に下落しました(同6.9683元、同6.3599元、同6.6994元、同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。
○6月末の原油価格は3.6%上昇し、5月末の1バレル=68.04ドルから同70.47ドルとなりました(2022年末は同79.35ドル)。米国のガソリン価格(米国エネルギー省エネルギー情報局EIAによる全等級)は6月は横ばいでした(6月末は1ガロン=3.685ドル、5月末は同3.684ドル、2022年末は同3.203ドル、2021年末は同3.375ドル)。2020年末から原油価格は45.5%上昇し(2020年末は1バレル=48.42ドル)、ガソリン価格は58.2%上昇しました(2020年末は1ガロン=2.330ドル)。
⇒2023年5月時点のEIAの報告によると、ガソリン価格の内訳は、49%が原油(4月は51%、3月は50%、2月は53%、1月は55%)、14%が連邦税および州税(同14%、同15%、同15%、同15%)、15%が販売・マーケティング費(同12%、同11%、同13%、同10%)、そして21%が精製コストおよび利益(同23%、同24%、同20%、同20%)となっています。
○金価格は5月末の1トロイオンス=1981.50ドルから下落し1925.90ドルで6月の取引を終えました(2021年末は1829.80ドル、2020年末は1901.60ドル、2019年末は1520.00ドル、2018年末は1284.70ドル、2017年末は1305.00ドル)。
○VIX恐怖指数は5月末の17.94から13.59に下落して6月を終えました。月中の最高は17.59、最低は12.73でした(2022年末は21.67、2021年末は17.22、2020年末は22.75、2019年末は13.78、2018年末は16.12)。
⇒同指数の2022年の最高は38.89、最低は16.34でした。
⇒同指数の2021年の最高は37.51、最低は14.10でした。
⇒同指数の2020年の最高は85.47、最低は11.75でした。
各国中央銀行の動き(および関連ニュース)
○オーストラリア準備銀行(中央銀行)は6月に政策金利を0.25%引き上げました(4.10%)。4月会合で金利を据え置いたため、利上げはないと予想されていました。中銀は追加利上げの可能性についても警告を発しました。
○カナダ中銀は3会合ぶりに政策金利を4.50%から4.75%(22年ぶりの高水準)に引き上げました。
○予想通り、FOMCは金利据え置きを決定しました。FOMCメンバーの金利予想を示すドットチャートでは、2023年末までに政策金利はあと2回(0.25%ずつ)引き上げられて 5.6%に達するとの見通しが示されました。18名中2名が据え置きを予想しました。また、4名は0.25%の追加利上げ1回を予想し、9名が同2回、2名が同3回、そして1名は追加利上げが4回以上になると予想しています。
○報道によると、米財務省がFRBに保有する政府預金口座(TGA)は残高の30%を回復しました(2023年6月14日時点)。財務省は新規国債の発行に際しては、銀行の準備預金からの資金流出を回避するために、リバースレポに預けられているキャッシュ(約2兆ドル)が振り替えられることを選好しているようです。
○欧州中央銀行(ECB)は0.25%の利上げを決定し、中銀預金金利は3.50%となりました。また、7月の政策理事会でも利上げを実施すること、そして9月もその可能性があることを示唆しました。
○ECBのラガルド総裁は月末にシントラで開催された年次フォーラムで行った講演の中で、利上げがまだ終わっていないことを示唆しました。
○日銀はマイナス金利政策を維持し(2016年から日銀の一部当座預金にマイナス0.1%の金利を課してきました)、低金利政策を今後も継続することを表明しました。
○中国人民銀行(中央銀行)は政策金利とされているローンプライムレートの1年物を(3.65%から)3.55%へ、5年物を(4.30%から)4.20%に引き下げました。
○イングランド銀行(BoE)は市場予想の0.25%に対し、政策金利を0.50%引き上げて5.00%としました(賛成7名、反対2名)。また、BoEは追加利上げが行われることにも言及しました。
○トルコ中央銀行は2021年の19%から2023年3月には8.5%まで政策金利を引き下げましたが、80%に達した物価上昇率を抑え込むために方針転換を決め、政策金利を15%に引き上げました。一部アナリストは20%への更に大幅な利上げを予想していました。
○FRBのパウエル議長は下院金融サービス委員会の公聴会で証言しました。議長はFOMCが今後も継続的な利上げを実施する可能性が高いと述べると同時に、小規模な銀行に関しては新たな資本要件引き上げの対象外となるだろうとの見解を示しました。
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