S&P500月例レポート(22年8月配信)<前編>

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET:2022年7月
個人的見解:7月は企業業績が弱気派にとどめを刺した。さすがにこれは言い過ぎかもしれないが、とにかく株式市場は9.11%上昇した

 結局のところ、7月は企業業績が弱気派の息の根を止めました。さすがにこれは言い過ぎかもしれませんが、株式市場は一転して反騰しました(上昇率は10.75%を付けた2020年11月以降で最高の9.11%)。企業収益に対する懸念は続いていましたし、6月の株式市場はこうした業績悪化懸念を背景に売りが膨らみ(8.39%下落)、強気派が大きな損失を被りましたが(間違いなく大損害)、弱気派にとっては自らの足場を固められる展開でした。

 具体的に見ていくと、2022年第2四半期は前期比13%の増益が予想されていましたが、ウィスパーナンバーと呼ばれるアナリストの非公式の業績予想(かなりの件数が流布していました)はこれを大幅に下回っていました。この点は下半期の企業のガイダンスに対する懸念も同様でした。実際に発表された企業業績(全体の72.1%が発表済み)は13%増益には届かず、7%の増益が示唆されていますが、このような結果に一部の投資家の間では失望感が広がりました。

 ただし、ウィスパーナンバーに基づいて取引を行っていた(そして株式を売却していた)運用担当者(あるいはトレーダー)はこの限りではありません。彼らにとって企業業績は想定外に予想を上回る結果となり、個人消費に依然として陰りが見えないことから、資産配分を見直すきっかけとなりました(第2四半期の売上高は過去最高を記録する可能性があり、営業利益率が伸びています)。同様にガイダンスの対象期間も(インフレ、金利上昇、ドル高の影響から)景気の軟化が見込まれる第3四半期に移行しました。

 辞書的な定義から言えば、現状はリセッション入りしていると言えます(2022年第2四半期のGDP成長率は前期比マイナス0.9%、第1四半期も同1.6%でした。これら2四半期の数値の平均は…。GDPが2四半期連続でマイナスになるとリセッション入りと定義されるのであれば、現在の状況は確かに…)。(7月末時点で公表されている)第4四半期の企業のガイダンスは当たり障りのない内容ですが、懸念材料も数多く指摘できます。しかしながら、(まるでセルサイドが作成したような)「なんとか乗り切ることは可能である」といった印象を与えるものとなっています。(米連邦公開市場委員会(FOMC)による利上げも織り込んだ上で)2023年には企業業績が回復するとの期待感から再び楽観論(そして買いを模索する動き)が広がっています。こうした楽観論の台頭に拍車をかけたのが米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長とFOMCメンバーによる新たなハト派的な発言でした(今は強力な金融引き締めを進めているが、いずれは緩める)。

 それでもFRBは自身が描いたシナリオ通りに、7月も再び0.75%の大幅利上げを決定しましたが、9月も利上げを継続する方針を確認しつつも、実際の上げ幅については、これまで何度も用いてきた「経済指標次第」になるとの認識に改めました。市場関係者の受け止めは、FRBは9月(20-21日)開催のFOMCで(かなりの確度で)0.75%の利上げを実施するが、その後の会合(11月1-2日と12月13-14日)では上げ幅を縮小するというものです。さらに2023年の年央には利下げに向かうとの観測(希望は永遠に湧き出るもの)も一部で浮上しています(将来のことが分かれば、株式投資が簡単になるのは間違いありません)。

 現時点では、今年上半期の市場の値下がり(20.58%下落)を考えると、7月の反騰は有り難いものですが、まだ十分とは言えません(7月末時点で年初来では13.34%の下落、過去最高値を付けた2022年1月3日からは13.89%の下落、直近最安を付けた6月16日からは12.64%上昇)。

 個人消費の堅調さは継続しており、夏いっぱい続くと予想されています(機雷がなんだ!新型コロナがなんだ! サル痘(この感染症名についてはどのように名称変更されようとも)がなんだ!)。しかしながら、9月と10-12月の休暇シーズンに関しては確信は持てません。良好な雇用環境(需要と賃金)と積み上がった富(株式や資産)を背景に、需要は期待されているほどには減少しないと思われ、結果的に高インフレが来年にかけて継続していくとみられます(これはFOMCメンバーにとっては望ましくない展開です)。

 8月に関しては、決算発表が続き、小売企業の決算から誰がどこで商品を購入しているかが明らかになるでしょう(現時点では、所得が低い世帯がより深刻な影響を被っているようです。7月は一般消費財セクターが生活必需品セクターを大きくアウトパフームしました。それぞれの騰落率は、前者が18.90%の上昇だったのに対し、後者は3.13%の上昇でした。ただし年初来でみると、前者は20.44%の下落、後者は3.87%の下落となっています)。インフレ動向も同様に警戒すべきあり、減速の兆しを探ろうとして統計を見ようという動きが活発化しています。週次の新規失業保険申請件数も増加傾向が続いており、注視する必要があります。そして個人的な意見ですが、首都ワシントンを訪れるのであれば、最も良い時期は8月です(飛行機の予約がキャンセルされていなければ)。夏季休会中の下院議員はすでにワシントンを離れており、上院も8月5日から休会入りするからです(ただし、議会が再開される9月6日より前にこの地を離れることを忘れないでください)。

 過去の実績を見ると、7月は59.6%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.90%、下落した月の平均下落率は3.24%、全体の平均騰落率は1.61%の上昇となっています。2022年7月のS&P500指数は、9.11%の上昇となりました。

 今後の米連邦公開市場委員会FOMCのスケジュールは、2022年9月20日-21日、11月1日-2日、12月13日-14日、2023年は1月31日-2月1日、3月21日-22日、5月2日-3日、6月13日-14日、7月25日-26日、9月19日-20日、10月31日-11月1日、12月12日-13日、となっています。

 S&P500指数は7月に9.11%上昇して4130.29で月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス9.22%)。6月は3785.38で終え、8.39%の下落(同マイナス8.25%)、5月は4132.15で終え、0.01%の上昇(同プラス0.18%)でした。過去3ヵ月では0.04%下落(同プラス0.39%)、年初来では13.34%の下落(同マイナス12.58%)、過去1年間では6.03%下落(同マイナス4.64%)、2022年1月3日の最高値からは13.89%の下落(同マイナス13.13%)、コロナ危機前の2020年2月19日の高値からは21.98%上昇(同プラス26.78%)して月を終えました。

 ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は6.73%上昇の3万2845.13ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス6.82%)。6月は3万0775.43ドルで終え、6.71%の下落(同マイナス6.56%)、5月は3万2990.12ドルで終え、0.04%の上昇でした(同プラス0.33%)。過去3ヵ月では0.40%下落(同プラス0.13%)、年初来では9.61%の下落(同マイナス8.60%)、過去1年間では5.98%下落(同マイナス4.14%)しました。

主なポイント

 ○S&P500指数は6月の大幅安から反転を見せました。企業業績はそれほど良好ではありませんでしたが、ウィスパーナンバー(アナリストによる非公式の業績予想)ほど悪くはなく、市場から好感されました。企業のガイダンスに関しても同様で、コスト、雇用、そしてドル高といった懸念要因が示されたものの、予想されたほど悪くありませんでした。重要なことは、市場が米国企業は高インフレの景気減速期(そして緩やかなリセッションとドル高)を「乗り切る」ことが出来ると考えている点です。その理由として、ファンダメンタルズ(バランスシート、キャッシュフロー、消費者の消費意欲の高さ)の力強さが指摘されています。あえてコメントしようとする人々からの「(弱気相場は)いつ頃終わるのか」、別の言い方をすれば「次に最高値を更新するのはいつか」という質問に関しては、2023年半ばとする回答が好まれているようです。市場参加者の多くが2023年の年央という予想を支持し始めた時には、警戒すべき何らかの問題が発生しているでしょう。

 ○株式市場は下落に歯止めがかかり、全11セクターで騰落率がプラスとなる中、7月に9.11%上昇と力強い反騰を見せました。6月は全11セクターが下落し、8.39%下落する全面安の展開でした。結果、年初来では13.34%の下落、2022年1月3日の最高値からは13.89%の下落となりました。

 ○7月末時点で278社が2022年第2四半期決算の発表を終え、209銘柄(75.2%)で営業利益が予想を上回り、60銘柄が予想を下回り、9銘柄は予想通りでした。売上高は274銘柄中186銘柄(67.9%)で予想を上回りました。2022年第2四半期の1株当たり利益(EPS)は2022年第1四半期から7.3%増益、2021年第2四半期からは1.7%増益と予想されています。売上高は2022年第1四半期からは3.7%増、2021年第2四半期からは11.5%増となり、過去最高を記録する見通しです(8月の小売企業の決算に左右されることになりそうです)。

 ○S&P500指数の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)の7月の平均値は1.67%となり、6月の2.03%から低下しました(5月は2.41%)。年初来では平均1.94%(6月末時点では1.98%)となりました。2021年は0.97%、2020年は1.73%、2019年は0.85%、2018年は1.21%、2017年は0.51%(1962年以降で最低)でした。

 ○S&P500指数は7月に9.11%上昇して4130.29で月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス9.22%)。6月は3785.38で終え、8.39%の下落(同マイナス8.25%)、5月は4132.15で終え、0.01%の上昇(同プラス0.18%)でした。過去3ヵ月では0.04%下落(同プラス0.39%)、年初来では13.34%下落(同マイナス12.58%)となっています。

 ○2022年1月3日に付けた終値での最高値から13.89%下落(同マイナス13.13%)し、コロナ危機前の2020年2月19日の終値での高値からは21.98%上昇(同プラス26.78%)して月を終えました。

 ○バイデン大統領が勝利した2020年11月3日の米大統領選挙以降では、同指数は22.59%上昇(同プラス25.81%)しています。

 ○株価変動の最大の要因となったのは、企業の決算およびガイダンスの発表でした。これまでに278社が2022年第2四半期の決算発表を終え、209銘柄(75.2%)で営業利益が予想を上回り、60銘柄が予想を下回り、9銘柄は予想通りでした。売上高は274銘柄中186銘柄(67.9%)で予想を上回りました。2022年第2四半期のEPSは、前期比で7.3%増(第1四半期は過去最高となった2021年第4四半期から13.0%減益)、前年同期比では1.7%増となる見通しです。売上高は前期比3.7%増、前年同期比11.5%増が見込まれ、過去最高を更新する見通しです。

利回り、金利、コモディティ

 ○米国10年国債利回りは6月末の3.02%から2.66%に低下して月末を迎えました(2021年末は1.51%、2020年末は0.92%、2019年末は1.92%、2018年末は 2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは6月末の3.19%から3.02%に低下して取引を終えました(同1.91%、同1.65%、同2.30%、同3.02%、同3.05%)。

 ○英ポンドは6月末の1ポンド=1.2172ドルから1.2185ドルに上昇し(同1.3525ドル、同1.3673ドル、同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、ユーロは6月末の1ユーロ=1.0483ドルから1.0227ドルに下落しました(同1.1379ドル、同1.2182ドル、同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は6月末の1ドル=135.71円から133.26円に上昇し(同115.08円、同103.24円、同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は6月末の1ドル=6.6994元から6.7442元に上昇しました(同6.3599元、同6.5330元、同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。

 ○7月末の原油価格は、6月末の1バレル=105.97ドルから同98.43ドルに下落(今年に入ってから一時同130.50ドルまで上昇)、年初来の上昇率は30.5%(2021年末は同75.40ドル)となりました。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は年初来で31.6%上昇しました(7月末は1ガロン=4440ドル、6月末は同4979ドル、2021年末は同3375ドル)。2020年末から原油価格は103%上昇し(2020年末は同48.42ドル)、ガソリン価格は90.6%上昇しました(2020年末は同2.330ドル)。EIAは2021年のガソリン価格の内訳について、53.6%が原油、16.4%が連邦税および州税、15.6%が販売・マーケティング費、そして14.4%が精製コストと利益だと説明しています。

 ○金価格は6月末の1トロイオンス=1807.20ドルから下落して1780.60ドルで月の取引を終えました(同1829.80ドル、同1901.60ドル、同1520.00ドル、同1284.70ドル、同1305.00ドル)。

 ○VIX恐怖指数は6月末の28.63から21.33に下落して月を終えました。月中の最高は29.82、最低は21.21でした(同17.22、同22.75、同13.78、同16.12、同11.05)。

  ⇒同指数の2021年の最高は37.51、最低は14.10でした。

  ⇒同指数の2020年の最高は85.47、最低は11.75でした。

バイデン大統領と政府高官

 ○米議会の上院と下院は、米国内の半導体メーカーへの直接支援(390億ドル)や半導体製造に関する税額控除(240億ドル)などを盛り込んだ、総額2800億ドルに上るCHIPS法案(CHIPS and Science Act)を可決しました。同法案に基づき、科学技術研究プログラム(詳細は未定)に対して、今後数年間で約2000億ドルの予算が充てられる予定です。この後、大統領の署名を経て正式に成立する見通しです。

 ○上院と下院は、クリーンエネルギーおよび気候変動プログラム(3690億ドル)および医療保険制度改革法(オバマケア)の延長(640億ドル)の財源をめぐって合意しました。最低法人税率15%の導入、処方薬の薬価見直し、内国歳入庁(IRS)による執行の強化、キャリードインタレストに対する増税などにより、7390億ドルの歳入が確保され、財政赤字が3000億ドル削減される見通しです。

石油

 ○原油価格の値動きは大きく、5月末の1バレル=115.12ドル、6月末の同105.97ドルに対し、7月末は同98.43ドルに下落しました(今年に入ってから一時同130.50ドルまで上昇)。年初来の上昇率は30.5%(2021年末は同75.40ドル)となりました。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は1ガロン=4.440ドルとなり、年初来で31.6%上昇しています(6月末は同4.979ドル、2021年末は同3.375ドル)。2020年末と比較すると、原油価格は103%上昇(2020年末は同48.42ドル)、ガソリン価格は90.6%上昇(2020年末は同2.330ドル)しています。

 ○EIAは2021年のガソリン価格の内訳について、53.6%が原油、16.4%が連邦税および州税、15.6%が販売・マーケティング費、そして14.4%が精製コストと利益だと説明しています。

 ○ロシアは2022年7月11日、ノルドストリーム1を含む設備の保守点検のために欧州へのガス供給を停止しました。7月21日に供給は再開されましたが、供給量は従来より40%削減され、7月26日には制裁を理由に、従来供給量の20%までさらに削減されました。

 ○欧州委員会は、ガス不足とロシアによる供給削減への懸念が強まっていることを受けて、今後8ヵ月間にわたってガス消費量を「自主的に」15%削減することで合意しました。

<後編>へ続く
 


配信元: みんかぶ株式コラム