■三菱総合研究所<3636>の中長期の成長戦略
2. 5つの改革路線
(1) 成長事業改革
同社グループは持続的成長に向けて、「DX事業」「ストック型事業」「海外事業」を成長事業として設定した。これらの事業を軸に新収益基盤の構築を実行し、事業モデル及び事業ポートフィリオの転換を実行する構えだ。「DX事業」においては、「DXジャーニー」「ニューノーマル」「データ駆動経営」「自治体DX」を重点テーマとして設定した。2020年10月に同社内に新設したデジタル・トランスフォーメーション部門を中心にDCS、JBS、INESとの連携を加速し、DX事業の強化に取り組んでいる。同社の事業説明会資料によれば、DX事業の連結売上高は、「中期経営計画2023」スタート前となる2020年9月期売上高は約270億円であったが、2022年9月期には約320億円と50億円増を見込み、売上シェア約3割となる見通しだ。同社グループでは、DX事業の連結売上高シェアをノンオーガニックによる事業拡大も含め、中長期的には5割超まで伸ばすことを目指している。
「ストック型事業」は、同社グループのノウハウ・知的資産を活用して効率的かつ継続的に安定した収益を上げることを意図している。具体的には、ICTソリューションの提供を通じた社会課題解決の実装と社会課題解決サービスの提供という2タイプのストック型事業に取り組んでいる。すでに卸電力取引のためのオンライン情報サービス「MPX」、地域課題解決型デジタル地域通貨サービス「Region Ring」、健康経営を支援する「メールde健康エール」、エントリーシート優先度診断サービス「PRaiO」、タレントマネジメントシステム「crexta」、ジョブマッチングシステム「JOBMINEs」、食品衛生管理サービス「HACCPナビ」、人事給与BPOサービス「PROSRV」、インターネット出願サービス「miraicompass」など、多くのサービスを市場に投入している。今後は、すでにローンチしている事業の規模拡大と新サービスの継続的な投入を計画している。
「海外事業」に関しては、課題先進国日本で培ったノウハウを生かし、アジア、中東諸国を中心に展開している。ハノイにおいては、少子高齢化に伴うシンポジウムを開催するなど、問題意識の醸成と日本型システムの有用性に対する理解を促進中である。中東のドバイにおいては、同社の環境・エネルギー分野における実績とノウハウを武器に、政府の課題解決パートナーとしての地位を確立していく。他国の社会問題に対して日本の経験を応用できる余地は大きく、今後、売上高に占める海外事業の割合が高まっていくものと弊社は推察している。
(2) 基盤事業改革
成長事業への投資を継続的なものとするために収益の基盤であるリサーチ・コンサルティング事業、金融ソリューション事業における質・生産性の向上を目指すものである。VCP経営における「D:社会実装」までつなげることを意識しながらリサーチ・コンサルティング事業においては、重点分野であるヘルスケア、エネルギー、都市・モビリティ、人財、情報通信、食農などの領域で官公庁・自治体・民間企業に対して能動的な事業展開・案件形成を実施している。金融ソリューション事業では、グループ企業やパートナー企業との連携を深めつつ、金融機関が保有するデータの多面的活用、DX事業など新事業を創出することによって業績拡大を図る計画だ。
(3) シンクタンク事業改革
VCP経営のスタート地点、同社グループの価値創造プロセスの土台である「A:研究・提言」機能をシンクタンク事業の改革を通じて強化するものである。例えば同社ホームページに「新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言」というページを開設し、経済からカーボンニュートラルに至るまで多岐にわたる分野で中長期的な視点からの情報発信を継続している。また、研究・提言を担う人財の育成、社外ネットワークとの連携などにより、研究・提言力の強化も図っている。
さらに、今後AIがシンクタンク事業にも破壊的創造をもたらすという認識に基づき、将来的な事業展開を視野にシンクタンクDXを社内で推進し、同社のシンクタンク事業プロセスに積極的にICT・AIの活用を進めている。シンクタンク事業における創造と破壊を自ら先導し、そこから得た経験やノウハウを外部顧客に提供し始めている※。
※同社は「企画業務のDX化」全般を支援するサービスの開始を2021年6月30日に発表した。
(4) 人財・風土改革
同社グループの提供価値を生み出すための土台である人財を確保・育成していくために、働き方改革を含めた人財・風土の改革を進めている。人財戦略では、VCP経営や連結経営に適した人財ポートフォリオを構築するために新卒・中途両面で採用を強化している。また、ダイバーシティや専門性を意識した人事制度、人材育成プランの策定により、優秀な人財を惹き付け、定着させることを目指している。
働き方改革においては、リアルとリモートを併用した最適な就労環境の整備を行っている。組織風土面においては、新たに策定した経営理念や行動規準を全社に浸透させ、変革に挑戦する風土づくりに努めている。
(5) 経営システム改革
同社グループの持続的な成長と中長期的な企業価値向上のためにガバナンスの向上を実現しようとするものである。具体的には、経営会議において重要事項を諮問する各種社内委員会をはじめとして審査・管理体制を一層充実させている。また、連結経営における総合的なリスク管理体制も強化し、新事業などに伴うリスクに対して迅速かつ能動的に対処する仕組みを構築している。さらに、事業活動を支える基盤システムにおいては高い頑強性を備えたインフラを備え、攻守両面で対策を実施している。
先述のとおり「中期経営計画2023」の成果は具体的に数字となって業績に結実している。「中期経営計画2023」の推進を強化する重点4分野(「人財」「研究・提言」「R&D投資」「事業基盤」)への成長投資によって、さらなる進捗と業績拡大への貢献が期待される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)
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2. 5つの改革路線
(1) 成長事業改革
同社グループは持続的成長に向けて、「DX事業」「ストック型事業」「海外事業」を成長事業として設定した。これらの事業を軸に新収益基盤の構築を実行し、事業モデル及び事業ポートフィリオの転換を実行する構えだ。「DX事業」においては、「DXジャーニー」「ニューノーマル」「データ駆動経営」「自治体DX」を重点テーマとして設定した。2020年10月に同社内に新設したデジタル・トランスフォーメーション部門を中心にDCS、JBS、INESとの連携を加速し、DX事業の強化に取り組んでいる。同社の事業説明会資料によれば、DX事業の連結売上高は、「中期経営計画2023」スタート前となる2020年9月期売上高は約270億円であったが、2022年9月期には約320億円と50億円増を見込み、売上シェア約3割となる見通しだ。同社グループでは、DX事業の連結売上高シェアをノンオーガニックによる事業拡大も含め、中長期的には5割超まで伸ばすことを目指している。
「ストック型事業」は、同社グループのノウハウ・知的資産を活用して効率的かつ継続的に安定した収益を上げることを意図している。具体的には、ICTソリューションの提供を通じた社会課題解決の実装と社会課題解決サービスの提供という2タイプのストック型事業に取り組んでいる。すでに卸電力取引のためのオンライン情報サービス「MPX」、地域課題解決型デジタル地域通貨サービス「Region Ring」、健康経営を支援する「メールde健康エール」、エントリーシート優先度診断サービス「PRaiO」、タレントマネジメントシステム「crexta」、ジョブマッチングシステム「JOBMINEs」、食品衛生管理サービス「HACCPナビ」、人事給与BPOサービス「PROSRV」、インターネット出願サービス「miraicompass」など、多くのサービスを市場に投入している。今後は、すでにローンチしている事業の規模拡大と新サービスの継続的な投入を計画している。
「海外事業」に関しては、課題先進国日本で培ったノウハウを生かし、アジア、中東諸国を中心に展開している。ハノイにおいては、少子高齢化に伴うシンポジウムを開催するなど、問題意識の醸成と日本型システムの有用性に対する理解を促進中である。中東のドバイにおいては、同社の環境・エネルギー分野における実績とノウハウを武器に、政府の課題解決パートナーとしての地位を確立していく。他国の社会問題に対して日本の経験を応用できる余地は大きく、今後、売上高に占める海外事業の割合が高まっていくものと弊社は推察している。
(2) 基盤事業改革
成長事業への投資を継続的なものとするために収益の基盤であるリサーチ・コンサルティング事業、金融ソリューション事業における質・生産性の向上を目指すものである。VCP経営における「D:社会実装」までつなげることを意識しながらリサーチ・コンサルティング事業においては、重点分野であるヘルスケア、エネルギー、都市・モビリティ、人財、情報通信、食農などの領域で官公庁・自治体・民間企業に対して能動的な事業展開・案件形成を実施している。金融ソリューション事業では、グループ企業やパートナー企業との連携を深めつつ、金融機関が保有するデータの多面的活用、DX事業など新事業を創出することによって業績拡大を図る計画だ。
(3) シンクタンク事業改革
VCP経営のスタート地点、同社グループの価値創造プロセスの土台である「A:研究・提言」機能をシンクタンク事業の改革を通じて強化するものである。例えば同社ホームページに「新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言」というページを開設し、経済からカーボンニュートラルに至るまで多岐にわたる分野で中長期的な視点からの情報発信を継続している。また、研究・提言を担う人財の育成、社外ネットワークとの連携などにより、研究・提言力の強化も図っている。
さらに、今後AIがシンクタンク事業にも破壊的創造をもたらすという認識に基づき、将来的な事業展開を視野にシンクタンクDXを社内で推進し、同社のシンクタンク事業プロセスに積極的にICT・AIの活用を進めている。シンクタンク事業における創造と破壊を自ら先導し、そこから得た経験やノウハウを外部顧客に提供し始めている※。
※同社は「企画業務のDX化」全般を支援するサービスの開始を2021年6月30日に発表した。
(4) 人財・風土改革
同社グループの提供価値を生み出すための土台である人財を確保・育成していくために、働き方改革を含めた人財・風土の改革を進めている。人財戦略では、VCP経営や連結経営に適した人財ポートフォリオを構築するために新卒・中途両面で採用を強化している。また、ダイバーシティや専門性を意識した人事制度、人材育成プランの策定により、優秀な人財を惹き付け、定着させることを目指している。
働き方改革においては、リアルとリモートを併用した最適な就労環境の整備を行っている。組織風土面においては、新たに策定した経営理念や行動規準を全社に浸透させ、変革に挑戦する風土づくりに努めている。
(5) 経営システム改革
同社グループの持続的な成長と中長期的な企業価値向上のためにガバナンスの向上を実現しようとするものである。具体的には、経営会議において重要事項を諮問する各種社内委員会をはじめとして審査・管理体制を一層充実させている。また、連結経営における総合的なリスク管理体制も強化し、新事業などに伴うリスクに対して迅速かつ能動的に対処する仕組みを構築している。さらに、事業活動を支える基盤システムにおいては高い頑強性を備えたインフラを備え、攻守両面で対策を実施している。
先述のとおり「中期経営計画2023」の成果は具体的に数字となって業績に結実している。「中期経営計画2023」の推進を強化する重点4分野(「人財」「研究・提言」「R&D投資」「事業基盤」)への成長投資によって、さらなる進捗と業績拡大への貢献が期待される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)
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