統合レポートを読んでみると~アワードの総合商社のケース

著者:鈴木 行生
投稿:2022/06/20 17:02

・日経の統合報告書アワード2021で、双日<2768>がグランプリ、伊藤忠商事<8001>が準グランプリの表彰を受けた。WICIジャパンのアワードでは、伊藤忠商事がゴールドを受賞した。

・そこで、双日、伊藤忠商事、三菱商事<8058>の3社の統合報告書を改めて読んでみた。表彰を受けた企業に対して、筆者自身はどう感じるのか。自らの視点で検討してみた。

・統合報告書を読む視点としては、①中長期の企業価値創造について、その仕組みをどんな風に語っているか、②読んで何が最も印象的であったか、③自分としてまだ納得できないことや、機会があれば会社サイドと対話してみたいことは何か。④この報告書をベースに、投資対象を1社選ぶとすれば、どこになるだろうか。こんな論点を頭においた。

・直近の株価をベースに、PBR=ROE×PERという関係式のデータをみると、伊藤忠商事は1.3倍=16.7%×7.6倍、三井物産<8031>は0.9倍=14.3%×6.1倍、三菱商事は0.9倍=12.4%×7.4倍、双日は0.6倍=11.7%×5.2倍であった。

・PBRが示す無形資産の評価では、伊藤忠商事が相対的に高い評価を受けており、収益性や成長性では双日がやや見劣りしている。三菱商事や三井物産はPBRが一時1倍を上回ったが、再び下回ることが多い。

・伊藤忠商事は統合報告書で、利は川下にありという考えに基づき、蓄電池事業へのマーケットインを幅広く語っている。新しい事業分野として今後の展開が注目されるが、収益性という点ではまだこれからである。

・事業環境の先を読むという観点で、2030年までのマクロ環境要因のPEST分析(Political、Economical、Social/cultural、Technological)を行っている。

・価値創造の仕組みであるビジネスモデルについては、[企業価値]=[創出価値]÷[資本コスト-成長率]というフレームで分かり易く語っている。事業の推進にあたっては、どの事業においても、事業計画、投資基準、ESGとリスク評価、EXIT条件を明確にしている。

・ウクライナとロシアが厳しい紛争に陥っているが、伊藤忠商事は中国ビジネスを今後どのように考えていくのか。この点に改めて注目したい。

・三菱商事は、経済、社会、環境の3つの価値を同時に実現していくことを目指す。とりわけ産業DXとEX(環境)を一体で推進していく。この分野に大型投資を実行する方針である。

・産業DXでは、例えば食品流通DXのプラットフォームを構築しようとしている。EXでは、ブルーアンモニアのバリューチェーンを新たに構築していく。

・EXにおける温暖化ガス(GHG)への対応では、GHGの①Avoid、②Reduce、③Removeを明確にして、各々の領域で環境価値を創出しようとする。再生エネルギーや天然ガスで、C02の排出ゼロに取り組んでいく。

・三菱商事はグローバルなビジネスを展開しているので、国際諮問委員会を海外の識者で構成し、その知見を取り入れている。資源、エネルギー分野に強い反面、米中の地政学的リスクや最近のウクライナ紛争にはどのように対応していくのか。その方向を知りたいところである。

・双日は、商社としての規模は相対的に小さいが、独自の個性を出そうとしている。2021年4月から新しい中期計画をスタートさせた。事業と人材を創造していく会社を目指している。

・トルコでの病院事業から始まって、ヘルスケア事業をアジアで幅広く展開しようとしている。KPIとしてCROIC(キャッシュROIC)を導入し、各事業本部が各々目標を設定した。CROIC(基礎的営業キャッシュフロー/投下資本)を達成すれば、会社全体としてROE 10%超が達成できるように設定している。

・PBRを1倍以上にもっていくためには、ROEを上げて、資本コストを下げる、という双方に注力し、エクイティスプレッドを拡大していく。これによって、PBR 1.0の実現を目指している。

・3社の統合報告書はいずれもよくできており、水準が高い。比較しながら読むと、会社がアピールする違いが参考になる。

・投資という観点からみると、伊藤忠商事は次の成長領域についてさらに進展がほしい。三菱商事は、資源エネルギーに強みを持つ中で、次のEXについて大型投資をしていく方向がはっきり出されている。

・双日については、成長領域の拡大に対するビジネスモデルの中身がまだ十分伝わってこない。ROEについても、もう少し上げていくストーリーがほしいところである。

・この3社を比較すると、筆者としては双日の成長余地に期待したいが、その領域をもう少し詳しく知りたい。三菱商事は、エネルギー問題が新しい展開をみせる中で、事業領域が広がりそうである。伊藤忠商事は経営力の安定感が際立っていると感じる。

・エネルギー資源、食料資源、希少鉱物資源の需給タイト化とサプライチェーンの混乱は、今後どのように正常化するのか。今回の新たな地政学的リスクにどのように対応していくのか。2022年の統合報告書で、その変化をどのように捉えてくるのか。総合商社の戦略に大いに注目したい。

日本ベル投資研究所の過去レポートはこちらから

配信元: みんかぶ株式コラム

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