―AI活用で見えてきた新たな地平、医療業界もイノベーションの第2ステージへ―
企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)投資が一段と活発化している。政府は東証と連携してDXで優位性のある企業を「DX銘柄」に選定し公表するなど、国策の風が株式市場でも強く意識されたが、その甲斐あってか企業のパラダイムシフトはかなり進展したといってよい。とりわけ、新型コロナウイルスの影響により業界を問わずデジタルシフトの動きが加速した意味もある。人間に代わって人工知能(AI)やロボット が業務を行うケースも増えているが、それは合理化という枠組みに一元的に集約されたものではなく、新たな付加価値を生み、企業の収益成長を促進させるエネルギーとなっている。
●医療DXとの融合で創出する巨大需要
医療業界も例外ではなく、ここDX化が急速に進展している。医療情報 ネットワークの構築やビッグデータ解析、電子カルテ、遠隔診療やICUの遠隔管理、AIを活用した画像診断や内視鏡手術など、数え上げればきりがないほど情報面・技術面から加速的な進化を続けている。これらが最先端医療との融合により、マーケット的な見地からも巨大需要が生み出される可能性が高まっている。今後、株式市場でも関連銘柄への投資マネーの攻勢が予想される。
厚生労働省は最先端医療を提供する病院を全国に展開できるような環境を整備するため、規制緩和に向けた動きを示している。最先端医療はこれまで、国家戦略特区で世界最高水準の高度な医療を提供する医療機関から病院の開設・増床の許可申請があった場合に、必要な病床数を設置できるというものだった。現行法では都市部など病床が過剰な地域では基準を超える増床が認められていなかったが、これを緩和して最先端医療を後押しする構えだ。
●AI内視鏡と手術支援ロボット
AIはあらゆる産業において水のように静かに浸透し、時に融合してイノベーションの源泉となる。医療業界でもAIは欠かせない存在であり、AIによる画像診断や内視鏡手術が最先端医療の一端を担っている。内視鏡手術は誤認や偶発事故を防ぐため、数万枚の画像からAIがパターンを学習して精度の高い位置情報を術者に示し、手術を安全に進めるうえでの立役者となっている。
また、手術支援ロボットなども長足の進歩を遂げている。これまでは米インテューイティブ・サージカル
日本では2013年に検体検査機器の大手メーカーであるシスメックス <6869> が、川崎重工業 <7012> と手術支援ロボット開発のための合弁会社「メディカロイド」を設立し開発を進め、20年8月に国内初の手術支援ロボット「ヒノトリ」の製造販売承認を取得している。ヒノトリは操作性に優れるほか、血液成分測定装置などで世界トップシェアを持つシスメックスの営業網を生かし、中期的にグローバル規模での普及が見込まれる。
●中期大相場の匂いを漂わせる6銘柄を追え
このほか、再生医療やバイオ創薬など医療業界には新たな可能性が数多く眠っている。細胞培養装置など自動化システムによる省人化も技術開発の重要なポイントとなっていく。そして何よりも経済社会の構造的問題として、少子高齢化が本格化していることが、我々にとって避けては通れない課題である。医療費の抑制と同時に健康寿命をいかに延ばしていくかということ、これらすべてが医療DXと最先端医療の今後の発展にかかっている。今回のトップ特集では、同分野でこれから活躍の舞台を広げるとともに、株価も大きく居どころを変えそうな有望株を6銘柄セレクトした。
◎日本エアーテック <6291>
クリーンルームやそれに関連する機器を製造しており、半導体やバイオ業界向けを主な納入先に高水準の需要を獲得している。バイオ向けでは気密性の高いバイオハザード対策ルームや細胞加工施設(CPF)などを手掛けている。同社のCPFは陽圧構造、陰圧構造どちらにも対応した設計施工を行い、床などに塵埃が溜まりにくく清掃しやすい構造もポイント。コンサルティングに始まり、設計施工、機器選定、設置後のバリデーションまでワンストップで提供できる強みを持っている。21年12月期営業利益は期中増額修正を経て、前期比12%増の15億8000万円と2ケタ成長を予想している。しかし、中間期時点で14億8000万円(前年同期比4.3倍)と大幅な伸びを達成しており、対通期進捗率が既に94%となっていることを考えれば、会社側想定は依然として保守的とみられる。株価は昨年11月に1887円の上場来高値をつけているが、時価はそこから35%程度もディスカウントされた水準にあり、好調な業績を背景に水準訂正余地は大きい。ここは絶好の買い場にあると判断される。
◎データホライゾン <3628> [東証M]
レセプトデータなど医薬・保険業界に特化した情報サービスを展開している。診療報酬明細書は医療データの宝庫であり、ここから治療中の病名などを割り出す同社の独自技術が、製薬メーカーなどの創薬プロセスで多大な貢献を果たしている。また、医療費削減のため国策としてジェネリック導入が推進されているが、同社は保険者向け通知サービスを行い収益に反映させている。昨年8月にはディー・エヌ・エー <2432> と資本・業務提携を締結、データHRが持つ独自のレセプト分析技術をディーエヌエのヘルスケアエンターテインメントアプリに提供し、新たな業容拡大の礎としている。業績は21年6月期営業利益が前の期比33%増の高変化をみせた。22年6月期は増益予想ながら前期比3.4%増の3億6000万円と伸び率は鈍化する見通しだが、レセプト分析技術の医薬品メーカーとの連携余地は大きく、来期以降は再び2ケタ成長路線に復帰する公算が大きい。株価は8月下旬を境に大きく上放れ、今月14日には2466円の上場来高値をつけた。いったん上ヒゲを形成も大勢上昇波動に変化なく、目先の押し目は買い向かってみたい。
◎NISSHA <7915>
印刷事業を祖業とするが、現在の収益主力を担っているのはタブレット端末向けタッチパネルで業界でも大手に位置している。このほか自動車用資材、マイクロニードルを含めた美容・化粧品、植物由来材料を使ったサステナブル資材など商品エリアは非常に幅広いが、そのなか注目されるのが医療機器をはじめ多様な製品・サービスを提供するメディカルテクノロジー部門だ。低侵襲治療用の手術機器やウェアラブル生体センサーなどを手掛けている。低侵襲医療の分野においては、手術支援ロボットの市場拡大をビジネスチャンスと捉えており、今年6月末に手術支援ロボット開発ベンチャーのリバーフィールド(東京都新宿区)との資本・業務提携を発表、手術支援ロボット向け基幹部品の開発製造受託などに積極参入していく構えだ。21年12月期業績は営業利益段階で前期比2.3倍の170億円を見込んでいる。株価指標面でも、最終利益が下駄を履いた形となっているとはいえPER5.9倍は割安感が強い。8月6日の年初来高値1937円奪回から2000円大台ラインを突破し、一段の上値追いが有力視される。
◎朝日インテック <7747>
医療器具メーカー大手で、循環器治療のPTCAガイドワイヤーを主力にカテーテル 治療に必要なメディカル機器を手掛けており、グローバルニッチトップ企業として国際的にも高い評価を獲得している。PTCA治療とは心臓や脳などの血管内にカテーテルを挿入し、狭くなった血管を広げて行う治療。ガイドワイヤーはそのカテーテルが通るルートを確保する役割を担う。同社のガイドワイヤーは操作性などで抜群の競争力を有し、国内シェアは約80%に達する。世界各国でも米国で約30%、欧州や中国でも50~60%の高シェアを誇っている。今年8月に開示した新中期経営計画では、低侵襲治療を究極的に追究し、トップライン1000億円を通過点とする成長シナリオを骨子とした事業戦略を掲げている。22年6月期売上高は前期比22%増の752億9600万円、営業利益は同13%増の145億1000万円を計画している。株価は9月上旬に3385円の戻り高値を形成した後、急な調整を入れたが、3000円割れ水準は押し目買いニーズも強く、早晩リバウンドから戻り高値奪回に向けた強調展開が想定される。
◎ケアネット <2150> [東証M]
全国の医師が日々活用している医療情報サイト「ケアネット・ドットコム」を運営しており、このプラットフォームを核に質の高い医療情報サービスを提供するほか、これを通じて製薬メーカーの営業支援ビジネスを積極展開している。更に、個人と医師をつないで、データ分析による健康管理及び医療介入を行う事業も手掛ける。動画配信による講演や医師向け教育コンテンツなども幅広く提供し、業界のニーズに応えている。同情報サイトの医師会員数は既に19万人を超え、医師会員を含めた全会員数は実に38万人を超える。業績も製薬会社の営業オンライン化需要の急増がトップラインを押し上げている。営業利益は前20年12月期に15億1000万円を達成したが、これは前の期実績に対し2.5倍の高変化。続く21年12月期については前期比46%増の22億1100万円を予想するが、更なる大幅上方修正が有力視される状況だ。株価は6月18日に2515円(分割修正後株価)をつけた後大幅な調整を入れた。新株予約権絡みで当面は上値の重さも否めないが、まずは9月1日の戻り高値1635円が目標に。
◎イメージ ワン <2667> [JQ]
医療向けを中心とする画像処理関連と、ドローンや3D処理ソフトを活用した構造物などの分析ソリューションを展開する。主力である医療画像の保管・配信・表示システム(PACS)の導入を推進してきたが、最近はクラウド型電子カルテなどにビジネス領域を広げ新たな商機をつかんでいる。また、光触媒空気清浄機の製造販売を手掛けるドゥエルアソシエイツ(大阪市福島区)と代理店契約を行い新型コロナウイルス感染予防に対応した大空間空気清浄機「ALCURE」の販売などもスタートさせている。21年9月期はトップラインが2割強の大幅な伸びを見込み、増収効果を背景に営業損益は1億円の黒字化を見込む。続く22年9月期も増益基調は確保されそうだ。株価は75日移動平均線をサポートラインに買い直されており、9月中旬につけた戻り高値1046円の奪回から4ケタ大台活躍も視野に入りそうだ。株式需給面では貸株調達による空売りなどで値動きの荒い点には留意したいが、今年4月にトリチウム除去関連で人気化し1787円まで駆け上がるなど、物色人気局面での急騰性は際立っている。
株探ニュース
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