旭化成株式会社(本社:東京都千代田区、社長:小堀 秀毅、以下「当社」)は、公立大学法人 奈良県立医科大学の微生物感染症学講座(矢野 寿一教授)および同大学免疫学講座(伊藤 利洋教授)と連携し、226 nm UVC LEDによる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の不活化効果の確認と動物細胞への影響について検証を行いました。その結果、226 nm UVC LEDが、新型コロナウイルスを速やかに不活化することができ、かつ動物細胞への影響も既存の270 nm UVC LEDに比べて少ないことが、世界で初めて確認されました。
背景
世界で新型コロナウイルスの感染拡大が進む中、薬剤を使わない殺菌手段として、紫外線照射による殺菌が注目されています。しかし、従来の水銀ランプ(波長254 nm)やUVC LED(波長260-280 nm)では人体細胞への影響が懸念されるため、人体へ直接照射することは避けられてきました。一方、昨年エキシマランプを用いた波長222 nmの紫外光照射器製品が発表され、人体にほとんど影響がないことから、実用化が進んでいます。しかし、白熱電球や蛍光灯がLEDに置き換わってきたように、エキシマランプもレイアウトの自由度向上、小型軽量化、耐衝撃性向上、ON/OFFの高速性などの観点からLED化することが強く望まれています。
当社では、すでに事業化している260-270 nm UVC LED技術を活用し、短波長化の検討を進めてきました。このたび、開発中の226 nm UVC LEDを用いて新型コロナウイルスの不活化と動物細胞への影響について検証を行いました。
実験内容
今回の実験では、発光波長226 nmのUVC LEDを100個用いて10x10のアレイ状照射器を作製しました(図1)。また、発光波長270 nm UVC LED製品のアレイ状照射器も比較として用いて実験を行いました。なお、本実験に用いたUVC LEDは、すべて米国Crystal IS社※1の窒化アルミニウム(AlN)基板を用いて作製されています。
1. 新型コロナウイルスの不活化実験
シャーレに新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)液を塗抹した後に乾燥させ、226 nmおよび270 nmのアレイ状照射器を用いて、同一の発光出力(440 μW/cm2)で紫外光を照射しました。その後、ウイルスを回収して、ウイルス感染価をプラーク法※2にて測定しました。その結果を図2に示します。新型コロナウイルスは、226 nm、270 nmのいずれにおいてもUVC LED光を6秒程度照射することで、99.9 %まで不活化されることが確認できました。
2. 動物細胞への影響評価
226 nmのUVC LED光が動物細胞へ与える影響について、マウス皮膚細胞を用いて検証実験を行いました。図3に検証実験の流れを示します。マウス皮膚細胞を2層にした状態で、226 nmおよび270 nmのUVC LED光を100 mJ/cm2、500 mJ/cm2照射し、上層の細胞を除去した後、下層細胞に対する細胞傷害性をMTT試薬※3による染色像と吸光度測定による細胞生存率で評価しました。染色像の黒く見える部分が、細胞の生存を示しています。図4と図5に示すように、226 nmにおいては、100 mJ/cm2の照射による影響はほとんどなく、500 mJ/cm2の照射を行っても270 nmに比べて下層細胞に対する細胞傷害性が低いことが示されました。
結果のまとめと今後について
以上の結果から、226 nm UVC LEDは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を速やかに不活化することができ、動物細胞への影響も既存の270 nmのLEDに比べて少ないことが確認できました。これは226 nm UVC LEDが手指や体の周辺殺菌にも安心して使用できる可能性があることを示しています。今後、製品化のためには、さらに発光出力向上のブレイクスルーが必要であり、当社は引き続き研究開発を進めていきます。
追加情報
・全試験は、奈良県立医科大学内のバイオセーフティレベル3(BSL3)の実験施設において、適切な病原体封じ 込め措置のもとに行いました。なお、浮遊するウイルス、人体への影響については検証を行っておりません。
・実験に用いた新型コロナウイルス;SARS-CoV-2; 2019-nCoV JPN/TY/WK-521株
・公立大学法人 奈良県立医科大学
理事長・学長:細井 裕司(ほそい ひろし)
創立:昭和20年4月
所在地:奈良県橿原市
医学的知識をすべての産業に投入してイノベーションを起こすMBT(Medicine-Based Town、医学を基礎とするまちづくり)構想の展開を進めている。
※1 Crystal IS社:旭化成の100%子会社(本社:米国ニューヨーク州)。設立は1997年(Rensselaer Polytec
hnic Instituteからのスピンオフ)で事業内容はAlN基板を用いたUVC LEDの開発、製造・販売。
ウェブサイト:http://www.cisuvc.com/
※2 プラーク法:ウイルスに感染した細胞が変性することを利用したウイルス量の測定法。
※3 MTT試薬:テトラゾリウム塩。ミトコンドリア中の酵素により還元されると発色する。
背景
世界で新型コロナウイルスの感染拡大が進む中、薬剤を使わない殺菌手段として、紫外線照射による殺菌が注目されています。しかし、従来の水銀ランプ(波長254 nm)やUVC LED(波長260-280 nm)では人体細胞への影響が懸念されるため、人体へ直接照射することは避けられてきました。一方、昨年エキシマランプを用いた波長222 nmの紫外光照射器製品が発表され、人体にほとんど影響がないことから、実用化が進んでいます。しかし、白熱電球や蛍光灯がLEDに置き換わってきたように、エキシマランプもレイアウトの自由度向上、小型軽量化、耐衝撃性向上、ON/OFFの高速性などの観点からLED化することが強く望まれています。
当社では、すでに事業化している260-270 nm UVC LED技術を活用し、短波長化の検討を進めてきました。このたび、開発中の226 nm UVC LEDを用いて新型コロナウイルスの不活化と動物細胞への影響について検証を行いました。
実験内容
今回の実験では、発光波長226 nmのUVC LEDを100個用いて10x10のアレイ状照射器を作製しました(図1)。また、発光波長270 nm UVC LED製品のアレイ状照射器も比較として用いて実験を行いました。なお、本実験に用いたUVC LEDは、すべて米国Crystal IS社※1の窒化アルミニウム(AlN)基板を用いて作製されています。
1. 新型コロナウイルスの不活化実験
シャーレに新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)液を塗抹した後に乾燥させ、226 nmおよび270 nmのアレイ状照射器を用いて、同一の発光出力(440 μW/cm2)で紫外光を照射しました。その後、ウイルスを回収して、ウイルス感染価をプラーク法※2にて測定しました。その結果を図2に示します。新型コロナウイルスは、226 nm、270 nmのいずれにおいてもUVC LED光を6秒程度照射することで、99.9 %まで不活化されることが確認できました。
2. 動物細胞への影響評価
226 nmのUVC LED光が動物細胞へ与える影響について、マウス皮膚細胞を用いて検証実験を行いました。図3に検証実験の流れを示します。マウス皮膚細胞を2層にした状態で、226 nmおよび270 nmのUVC LED光を100 mJ/cm2、500 mJ/cm2照射し、上層の細胞を除去した後、下層細胞に対する細胞傷害性をMTT試薬※3による染色像と吸光度測定による細胞生存率で評価しました。染色像の黒く見える部分が、細胞の生存を示しています。図4と図5に示すように、226 nmにおいては、100 mJ/cm2の照射による影響はほとんどなく、500 mJ/cm2の照射を行っても270 nmに比べて下層細胞に対する細胞傷害性が低いことが示されました。
結果のまとめと今後について
以上の結果から、226 nm UVC LEDは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を速やかに不活化することができ、動物細胞への影響も既存の270 nmのLEDに比べて少ないことが確認できました。これは226 nm UVC LEDが手指や体の周辺殺菌にも安心して使用できる可能性があることを示しています。今後、製品化のためには、さらに発光出力向上のブレイクスルーが必要であり、当社は引き続き研究開発を進めていきます。
追加情報
・全試験は、奈良県立医科大学内のバイオセーフティレベル3(BSL3)の実験施設において、適切な病原体封じ 込め措置のもとに行いました。なお、浮遊するウイルス、人体への影響については検証を行っておりません。
・実験に用いた新型コロナウイルス;SARS-CoV-2; 2019-nCoV JPN/TY/WK-521株
・公立大学法人 奈良県立医科大学
理事長・学長:細井 裕司(ほそい ひろし)
創立:昭和20年4月
所在地:奈良県橿原市
医学的知識をすべての産業に投入してイノベーションを起こすMBT(Medicine-Based Town、医学を基礎とするまちづくり)構想の展開を進めている。
※1 Crystal IS社:旭化成の100%子会社(本社:米国ニューヨーク州)。設立は1997年(Rensselaer Polytec
hnic Instituteからのスピンオフ)で事業内容はAlN基板を用いたUVC LEDの開発、製造・販売。
ウェブサイト:http://www.cisuvc.com/
※2 プラーク法:ウイルスに感染した細胞が変性することを利用したウイルス量の測定法。
※3 MTT試薬:テトラゾリウム塩。ミトコンドリア中の酵素により還元されると発色する。
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