経営者をどのように選ぶのか

著者:鈴木 行生
投稿:2021/03/15 13:52

・経済関係のマスコミにとって、企業のトップ人事は最大の関心事の1つである。次の社長をスクープすることは、ニュース性が高い。社員はもちろん、取引先、株主にとって、経営者のリーダーシップが将来の存亡に関わるからである。

・日本IBMの元社長で、社外取締役として活動をしておられる橋本孝之氏の話を聴く機会があった。筆者も上場企業の社外取締役、社外監査役を兼務しているが、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社、監査役設置会社では、社外役員の役割がそれなりに異なる。執行の監督を執行への助言、業務監査と会計監査など、立場によって違ってくる。

・東証1部上場企業でみると、2172社のうち監査役設置会社が1448社、監査等委員会設置会社が661社、指名委員会等設置会社が63社である。監査等委員会設置会社がかなり増えており、本来あるべき指名委員会等設置会社はまだなじまないようだ。

・筆者は、社外監査役を務めている会社で結構発言している。育ちがアナリストなので、疑問に思ったことはその場ですぐに質問する。必要と思った時には自分の意見もいう。監査役なので、取締役会の決議には参加できない。それでも監査という観点から何でも聴くようにしている。

・監査役設置会社から監査等委員会設置会社へ移行した会社では、監査委員も取締役であるから、決議に参加する。その役割が明確なこともあって、取締役会の議論が活発化するようだ。

・IBMの米国本社は、日本の指名委員会等設置会社に相当する。13名の取締役のうち、執行担当は社長(CEO)1人で、あとの12名は社外取締役である。経営と執行の分離が完全にできている。日本では通常、執行担当の取締役の方が圧倒的に多い。そこで、社外取締役を3名以上に、あるいは3分の1以上に、などという議論がなされている。

・指名委員会等設置会社における指名委員会の責任は重い。指名委員会で決めたことがそのまま取締役会での承認に結び付くからである。誰を社長にするか、いつどういう理由で交替させるかを決めるので、責任は重大である。

・取締役会は本来モニタリングボートであるべきだから、執行サイドのマネジメントを監督していく。では、執行サイドへの助言(アドバイス)とは、どんな内容なのだろうか。社外取締役が自分の体験を語ることなのだろうか。何らかの注意を喚起することなのだろうか。業務のプロではないので、別の角度から一般的な意見をいえば済むのだろうか。

・最大のポイントは、執行サイドのマネジメントがきちんと聞く耳をもち、よしとするところは素早く取り入れていく実践にある。意見を聞くこともなく、通り過ぎてしまうようではモニタリング機能が働いていないことになる。

・橋本氏は、アドバイス機能とは、本人が意見を言え、その意見の内容が外部で講演できるレベルであるべし、という。つまり、相当の知見を有していることが求められる。さもなければ、有益なアドバイスに結び付かないという意味であろう。

・アドバイスの内容としては、ビジネスモデルの変革、ダイバーシティのマネジメント、イノベーションの推進方法、グローバルリーダーシップの発揮の仕方、人材タレントの発掘や育成、健康経営のあり方やリスクマネジメントなどである。いずれもかなりの専門性や実践の経験が求められる。

・これに加えるとすれば、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進め方、ステークホールダーとの対話、資本効率の向上、ESG経営、非財務情報の開示のあり方などでもテーマとなろう。つまり、CEO、CFO、CIO、CHRO、CSOなどに対峙する社外取締役を置くべしということになろう。

・橋本氏は、CG(コーポレートガバナンス)とDXの結びつきを強調した。自動翻訳のレベルがかなり上がっている。株主総会にオンラインで出席できるようになると、まもなく日本語の壁がとれてくる。

・つまり、近い将来、世界中の株主が母国語で総会に参加してくる。逆に、日本の投資家が米国企業の株主総会にライブで参加できるようになる。海外とのコミュニケーションのあり方が全く変わってくる点が注目される。

・CGにおいて、橋本氏は2つの点を強調した。1つは、経営と執行の分離で、その中で、1)社外取締役からの提案も含め議題を絞り込む、2)社外取締役が委員会で活躍する、3)社外取締役は一般的発言はやめて企業価値向上に徹する、4)議事録の作成は迅速に行う、5)社内取と社外取が交互に席に着くなど、実効性の高い体制を作っていくという意味である。

・もう1つは、情報の非対称性の解消である。1)現地現場の社員とコミュニケーションする、2)マネジメントの空気を読まないで若い人の感性を重視する、3)経営会議の議論を事前に聴いた上で、取締役会ではさらに上位の議論を行う、4)年2回は社外役員だけに会議をもつ。これによってマネジメントサイドに偏りがちな情報をもう一度評価していく。

・その上で橋本氏は、1)プロの経営者の育成、2)痛みを伴う改革の実行、3)取締役会における部門代表の排除、4)中長期計画の策定に当たって社外取締役は最初から関わる、5)ROE経営とESG経営はトレードオフではなく両立である。6)マーケットの変動にレジリアントになる(しなやかな復元力をみせる)、という点を強調した。社外取締役の手本ともいうべき存在である。

・その橋本氏が指名委員会の委員長を務める三菱ケミカルホールディングスが、外部から次長社長(CEO)を迎えることになった。社内候補3名に加えて、社外候補も検討した。26項目のコンピテンシーをあげ、外部のコンサルを使って多くのロングリストの中から数名のショートリストに絞り込んだ。

・選ばれたジョンマーク・ギリソン氏は57歳、ベルギー生まれの米国人で、ダウコーニングに働いていた時日本に住んだこともある。パフォーマンス(過去の実績)、ポテンシャル(将来への知見)、パッション(取り組む情熱)、パーソナリティ(話をよく聞く人柄)という点で選ばれた。

・日本の総合化学会社は、次にどのようなビジネスモデルを目指すべきか。投資家目線で経営の重要性を判断できるか。社内に入った時に妙な摩擦を引き起こさないか。誰でも知りたくなる点については、十分検討を加えた。

・大事な点は、期待値、ポテンシャル、チームビルディングにある。事前に十分検討したとしても、未知の部分は残る。この点は社内候補も同じであろう。社長選定にあたって、外部人材も候補に立てて検討できる指名委員会はまだまれであろう。

・しかし、ガバナンスのあるべき姿として、ここまでできることを示した。日本企業では、多くの場合社内人材が次のトップとなるが、しばらくたって適任でないということが投資家に分かってくることも多い。三菱ケミカルホールディングスの新社長の手腕に期待したい。

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配信元: みんかぶマガジン
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