S&P500月例レポート(20年1月配信)<1>

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET: 2019年12月
1月の市場がその年の行方を占う

 直近の1ヵ月、ここ1年、そして過去10年間のいずれの期間においても、米国株式市場は勝ち組となりました。2019年は米国株に投資した(あるいは、少なくとも相当の資金を配分した)人々にとっては素晴らしい1年となりました。S&P 500指数は2019年に28.88%上昇し(配当込みのトータルリターンは31.49%)、出遅れが続いていたエネルギーセクターでさえも同トータルリターンは11.81%となっています。とはいえ、年間の上昇率トップとなった情報技術セクターの同50.29%には遠く及びませんでした。

 S&P 500指数の10年間の年率換算リターンは11.23%(配当込みのトータルリターンは13.56%)となり、2009年3月9日に始まり過去最長を記録している強気相場は、まだ続いています。低金利というステロイド剤と現時点で息切れの気配が見えない家計部門の消費活動を追い風に、2009年3月9日から10年以上にわたる強気相場の年率換算リターンは15.56%(配当込みのトータルリターンは18.00%)に達しました。要するに、この間に株式市場に投資していれば、大成功だったということです。

 言うまでもないことですが、2000年に投資を始めた場合の年率換算リターンは4.02%(同6.06%)にとどまっており、20年国債の方がリターンは高く、そのうえ何の心配もなく熟睡することができたでしょう。このことは、投資のタイミングがいかに重要であるかを如実に物語っています(詳細は下記データを参照)。

 市場は祝福ムードに溢れ(この先も2019年の相場を総括するレポートの公表が続き、こうしたムードは続くでしょう)、1月の株式市場に対する期待感も膨らんだ一方で、不透明感の方が相場の上昇よりも確かなものとして強まっていたようです。ちなみに、1月は伝統的に新規マネーが流入しやすく、実現確率71.4%を誇る相場格言「1月の市場がその年の市場を占う」も良く知られています。取引初日の値動きでその年の相場の方向を言い当てた確率は50.6%で、コイン投げと変わりがありません。

 一方、不透明感の要因として挙げられるのが、①トランプ大統領の弾劾訴追の行方、②今やテレビドラマの様相を見せている大統領選レースの今後の展開(これまでのところ市場への影響はほぼ皆無ですが、最終回が近づくにつれて影響が大きくなると予想されます)、③貿易と関税の問題(2018年3月以降、米中の通商協議はなかなか合意に至りませんでしたが、相場にはプラスに影響しました)、④景気動向との相関がこれまで以上に強くなっている家計部門の動向、です。米国の個人消費は引き続き底堅く、予想を下回る企業の設備投資を埋め合わせるように消費活動が継続しています。

 不透明感の対極にあるのが景気指標です。失業率は過去50年間の最低水準で推移しており、一部には人手不足が生じています。11月の雇用統計によると賃金上昇率は3.1%となっており、インフレ動向を踏まえると満足できる水準にあります。金利は低く、2020年を通して低位で推移すると予想されます(日本ではマイナス金利が長期化)。2019年は自慢できるほどの水準ではなかったとはいえ、企業業績は相対的に力強く、キャッシュフローも潤沢です(2020年は記録的な水準になる見通しです。太陽が必ず昇るように企業業績も少なくとも下半期には大幅な伸びを示すはずです)。米国経済は先行きに不透明感があるとはいえ、概ね上昇軌道を維持しています。結論として、成熟を迎えた強気相場が株価水準を正当化するような持続的上昇を見せるかが、2020年上半期には試されるとともに、2020年1月に政権に何らかの動きがあれば、下半期にはワシントンの勢力図や規制認識が変化する可能性があるため、期待リターンの(取引時間中および前日比での)ボラティリティが一段と高まることが予想されます。

 過去の実績を見ると、12月は72.5%の確率で上昇し(月別で最高)、上昇した月の平均上昇率は2.94%、下落した月の平均下落率は3.08%、全体の平均騰落率は1.28%の上昇となっています。1月は63.7%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.20%、下落した月の平均下落率は3.96%、全体の平均騰落率は1.24%の上昇となっています。また、「1月の市場がその年の市場を占う」という相場格言の実現確率は71.4%です。今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、1月28日-29日、3月17日-18日、4月28日-29日、6月9日-10日、7月28日-29日、9月15日-16日、11月4日-5日(米大統領選は11月3日)、12月15日-16日、2021年1月26日-27日となっています。

主なポイント

 ○S&P 500指数は11月に引き続き12月も上昇し、2019年はクリスマスラリーが早いタイミングで始まりました(2019年は12ヵ月中10ヵ月で騰落率がプラスとなりました)。

  →12月のS&P 500指数は2.86%上昇しました(配当込みのトータルリターンは3.02%)。第4四半期は8.53%上昇(同9.07%)、2019年通年では28.88%の上昇となりました(同31.49%)。

  →2016年11月8日の米大統領選以降の同指数の上昇率は51.00%(同60.80%)、年率換算では14.01%(同16.31%)となりました。

  →2009年12月31日からの過去10年間で見ると、S&P 500指数の上昇率は189.73%(同256.66%)、年率換算では11.23%(同13.56%)となっています。

  →2009年3月9日に始まった強気相場の上昇率は377.55%(同498.48%)、年率換算では15.56%(同18.00%)となりました。

  →筆者がS&Pに入社した1977年5月からの上昇率は3,261%(配当再投資後複利では11,109%)、年率換算では8.60%(同11.72%)となっています。

 ○米国10年国債利回りは、11月末の1.78%から1.92%に上昇して月を終えました(2018年末は2.69%、2017年末は2.41%)。米国30年国債利回りは11月末の2.20%から2.39%に上昇して月を終えました(同3.02%、同3.05%)。

 ○英ポンドは11月末の1ポンド=1.2931ドルから1.3253ドルに上昇し(2018年末は1.2754ドル、2017年末は1.3498ドル、2016年末は1.2345ドル)、ユーロは11月末の1ユーロ=1.1018ドルから1.1172ドルに上昇しました(同1.1461ドル、同1.2000ドル、同1.0520ドル)。円は11月末の1ドル=109.48円から108.76円に上昇し(同109.58円、同112.68円、同117.00円)、人民元は11月末の1ドル=7.0326元から6.9633元に上昇しました(同6.8785元、同6.5030元、同6.9448元)。

 ○原油価格は11月末の1バレル=55.42ドルから61.21ドルに上昇して月を終えました(同45.81ドル、同60.09ドル、同53.89ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は、11月末の1ガロン=2.672ドルから2.658ドルに下落して月末を迎えました(同2.358ドル、同2.589ドル、同2.364ドル)。

 ○金価格は11月末の1トロイオンス=1,470.40ドルから1,520.00ドルに上昇して月を終えました(同1,284.70ドル、同1,305.00ドル、同1,152.00ドル)。

 ○VIX恐怖指数は11月末の12.62から13.78に上昇して月を終えました。月中の最高は17.99、最低は11.71でした(同16.12、同11.05、同14.04)。

 ○企業による自社株買いは過去最高となった2018年第4四半期(2,230億ドル)から2019年第1四半期が2,060億ドル、同第2四半期が1,650億ドルと減少したものの、第3四半期になると金額が増加に転じました。企業は自社株買いのための支出額を6.3%増やし、同四半期は1,760億ドルとなりました。記録的な水準となった2018年を大きく下回るとはいえ、2017年以前の実施額を大幅に上回っています。

  →第3四半期の自社株購入額は株価を下支える水準とみなされており、株式数の減少が続いていることがEPSを押し上げています。

  →第4四半期は自社株買いがやや増えると予想され、1,900億ドル近くになると推測されています。

 ○第3四半期の決算発表を見ると、75.1%の銘柄の利益が下方修正されていた予想を上回りました。売上高に関しては、58.8%の企業が予想を上回り、四半期としては過去最高を更新する状況です(前年同期比4.0%増)。

  →第4四半期もやや弱まったとはいえ、楽観的な見方は続いています。決算期が12月以外の15銘柄が業績発表を行い、13銘柄の利益が予想を上回り、2銘柄が予想を下回る内容でした。また14銘柄中10銘柄の売上高が予想を上回りました。

  →第4四半期の利益予想は2019年9月末から4.8%、2018年末から11.3%、それぞれ引き下げられ、現時点では前期比で1.0%の増益、落ち込んだ2018年第4四半期(会計方針の変更や通常の減損処理などによる)と比べると、14.7%の増益となる見通しです。また、過去最高だった2018年第3四半期を2.9%下回る水準で、2020年第2四半期に利益は過去最高を更新する予想です。

  →2019年通年では前年比で4.3%の増益、大統領選が行われる2020年は同11.0%の増益が見込まれています。

  →株式数による影響も続いており、決算発表済みの企業のうち、株式数の減少によってEPSが前年同期比で4%以上押し上げられた銘柄(つまり、利益の総額が横ばいでも、1株当たり利益では4%以上上昇)の割合は22.8%となりました。2019年第3四半期の株式数との比較に基づき、2019年第4四半期に入る前の時点(第4四半期の自社株購入額の公表前)において14.6%の銘柄で2018年第4四半期から4%以上のEPSの押し上げが見込まれます(これは、第4四半期の自社株買いの結果公表前の時点)。

 ○第4四半期の1株当たり現金配当は7.19%増加して15.21ドルと、四半期ベースで過去最高を付けました。総額では2018年第4四半期の1,198億ドルから増加し、過去最高の1,264億ドルとなりました。

  →2019年通年の1株当たり現金配当は8.36%増の58.24ドルと、8年連続で過去最高を更新し(2018年は53.75ドル)、総額では2018年の4,563億ドルから増加して過去最高の4,855億ドルとなりました。

 ○ビットコインは11月末の7,569ドル(10月末は8,534ドル)から下落して7,215ドルで月を終えました。月中の最高は7,743ドル、最低は6,540ドルでした(2018年末は3,747ドル、2017年末は13,850ドル、2016年末は968ドル)。

 ○1年後の目標値はS&P 500指数が3,421(現在値から6.2%上昇、11月末時点の目標値は3,363)、ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は30,234ドルとなっています(同5.9%上昇、同29,746ドル)。

<2>へ続く
 


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配信元: みんかぶ株式コラム