カーバイド Research Memo(6):高付加価値ビジネスを成長戦略とし、持続的成長可能な企業目指す(1)

配信元:フィスコ
投稿:2019/08/05 15:36
■中長期の成長戦略

1. 3か年中期経営計画「NCI-2021」
日本カーバイド工業<4064>は、「技術力で価値を創造し、より豊かな社会の発展に貢献する。」をミッションとし、「キラリと光る、価値ある企業グループ」を目指し、「2025年のありたい姿」を定めた。具体的には、電子・機能製品事業、フィルム・シート事業をコア事業として捉え、「コア事業のうち、高付加価値ビジネスを成長戦略とし、未来の社会に幅広く貢献する持続的成長可能な化学系企業グループ」を目指す。

また今回、「2025年のありたい姿」に向けた中期経営計画「NCI-2021」を策定した。「成長戦略への本格転換」を図るとして、中期経営計画「NCI-2021」の最終年度である2022年3月期に連結売上高570億円、コア事業売上高420億円、コア事業営業利益45億円、連結ROA4.0%を目指すことを表明した。

2. 「NCI-2021」実現のための事業戦略
同社は「NCI-2021」実現に向け、セーフティ分野やモビリティ分野の注力領域で様々な高付加価値品を投入する。以下に同社の注力分野の具体的製品群について見ていく。

(1) 「モビリティ」で注目される製品群
具体的に最も注目されるのがモビリティ分野である。機能性フィルムとして車両用フィルム、車両用グラフィックステッカー、3Dエンブレムの拡大が期待される。フィルム、ステッカーについては、従来の2輪車向け中心に加え、4輪車のグラフィックステッカーとして幅広・長尺ものを投入する。これは、4輪車の内外装フィルムとして、将来的には塗装代替に使用する製品として拡大を見込む。実際、温室効果ガス削減のため、4輪車の製造工程のCO2削減に対する取り組みが進んでいるが、塗装工程は4輪車の製造工程全体のCO2排出量のおよそ1/4を占め、塗料の廃液処理コストや環境負荷も大きな課題で、塗装は工数の多さや工期の長さの課題もある。そこで注目されるのが「塗る」から「貼る」へ、塗装の代わりにフィルムを貼る塗装代替フィルムである。車両の一部にラッピングを行うトラックなどでは、無塗装のボディに直接フィルムを貼るケースが出始めている。

同社は海外5拠点の強みを最大に生かし、4輪車向けの拡大で同ビジネスを拡大させていく。2007年から取り組んだ3Dエンブレムも、車体の曲面形状部位に貼り付けられる、より柔軟性を有する製品への要請が高まってきた。同社は4輪車向けに曲面追従性に優れ、樹脂メッキ品では成形困難なバラ文字にも対応、多彩な色や形状に対応した3Dエンブレムを開発、4輪車メーカーのシンボルとしての採用も増えつつある。

モビリティ分野では、車載向け電子部品などに利用される高熱伝導性セラミックス基板の材料となるグリーンシートも、EV化や自動運転などの需要の高まりで伸長が期待される。グリーンシートは通常、セラミック粒子とセラミックスを接着させるバインダーから構成され、バインダーとしてブチラール樹脂やアクリル系樹脂などが使用されている。近年、電子機器の小型化、高性能化に伴い、電子部品の小型化、高性能化が要求され、代表的なセラミックスコンデンサ大手では内製セラミックグリーンシートを積層した多層セラミック配線基板が、5Gスマートフォンや車載向けに需要が加速する方向にある。

このような小型化、高精度化の中でグリーンシートの薄膜化要求が高まり、同時に高い強度と機械的な打ち抜き加工やプレス加工等の際にクラック(乾燥収縮や膨張などによって生じる亀裂や割れ、欠け)が生じない可撓性(柔軟性があり折り曲げても微弾性を持って簡単に折れない性質)も求められた。同社はこの難問に対し、焼成性を備え、且つ成形後の強度、寸法安定性、可撓性に優れたセラミックグリーンシートを開発した。同社は従来手掛けていない窒化物系グリーンシートも製造が可能となり、資本業務提携関係のあるデンカ向けに窒化物パワー半導体基板用にも拡大が期待される。

このほか、セラミック基板の主力製品であるチップ抵抗器用アルミナセラミック基板も、車載向けのほか、5Gの本格普及で搭載個数増加が期待される。特に車載需要増に対応し、耐サージ(耐異常電流)、耐硫化、高電力などの高信頼性を有する様々な製品開発が進められている。

同社は多連チップ抵抗器向けに合わせて、個片のチップ抵抗器となる個片領域を複数備えるチップ抵抗器複数個取り用のセラミック基板でも高い技術を有し、高いシェアを持つ。また小型化、低背化の要求に対し、セラミック基板表面に設けられた凹部に抵抗体を埋め込んだチップ抵抗器なども出現、抵抗体が発する熱を効率良く放散する仕組みが求められるなど、より高品質の基板が求められる時代で、低採算の汎用品向けなどに絞って高付加価値基板の構成比を高めることで、収益拡大を目指す。

(2) 「セーフティ」で注目される製品群
具体的に注目している製品として、高機能樹脂で難燃剤、医療用樹脂、医療品原体などがあるが、その中でも特に注目すべきは難燃剤である。難燃剤は木材や紙、繊維など高分子有機材料の難燃性を高めるために利用される。同社は紙や繊維分野で窒素系難燃剤や、樹脂用難燃剤として尿素系、メラミン系難燃剤などを提供しているが、今後、窒素系難燃剤の技術を応用した新型難燃剤について屋外建材向けに期待を寄せている。

一般的に、木材を内装に使う場合には難燃剤を浸透させた不燃木材を使用するが、従来の難燃剤は潮解性(個体を大気中に置いたとき、個体中の水分を木材が吸収して水溶液になる現象)があり、白華(白い汚れが木材の表面に染み出す現象)を起こすことが問題となっていた。窒素系難燃剤は難燃剤市場全体から見ると市場が小さく、参入企業も少ない分野ながら、セルロース(植物細胞の細胞壁や植物繊維、木材の主成分)に対し脱水炭化型の難燃作用を持つため、同社は紙及び繊維用の難燃剤として壁紙やカーテン向けなどを中心に需要を得ていた。今回、同製品の性能応用でこの白華現象を抑制することに成功、木材メーカーなどの木材含浸評価を通じ、一部ユーザーで不燃材料の認定を取得でき、複数ユーザーにスペックインしている。

最近話題となった東京オリンピックの開会式会場となる新国立競技場の軒庇には、すべて国産の森林認証材を使うなどの動きが象徴的である。また、ゼネコン大手や住宅メーカー大手も相次いで高層ビル建築計画を発表している。住友林業<1911>は、都内に主部材が木材で構成された地上70階建ての高層ビルを2041年までに建築するプランを発表した。世界的にも木造建造物がCO2削減に有力ということもあり、Googleの親会社は、木造建築物を活用した世界最大級のウォーターフロント計画「キーサイド」を掲げた。今後も可燃物の難燃化で薬剤を含侵させることが本格採用となれば、大きな需要が生まれるとみられる。

高機能樹脂では、医療用樹脂としてシェアトップを誇るパップ剤向けの粘着剤も注目度が高い。パップ剤とは、皮膚に貼付して薬の成分を標的器官に送達する製剤のこと。薬物を含んだ膏体層をサンドイッチした形状で、膏体層は一般的に水分を多く含み厚みがあり、有効成分の皮膚透過が継続的に行われ皮膚への刺激も低いことから広く利用されている。同社はこの薬物含有粘着剤の先駆的企業であり、鎮痛消炎パップ剤メーカー向けに定番基材として納入してきた。貼った部分に治療効果のある「局所作用型貼付剤」は皮膚から組織中に薬物が移行し周辺に効果を発揮するため患部に直接効き、使用が簡便で全身への副作用が起こりにくい。具体的には、消炎鎮痛薬、局所麻酔治療薬などがある。

これに加え、最近はTDDS(Transdermal Drug Delivery System)の研究が進み、「全身作用型貼付剤」の使用が拡大している。全身作用型貼付剤は、有効成分が皮膚組織の毛細血管を通じて徐々に吸収されて全身血流を循環するため、速効性はないものの服薬時の血中濃度が長時間にわたり一定に保たれる。経口剤とは異なり薬剤成分が肝臓で代謝されてしまう(異なる化合物になる)ことがないため、初回通過(ファーストパス)効果が回避でき、肝臓への負担軽減も重要な特徴となっている。また、嚥下障害がある人や高齢者や乳幼児薬でも服薬が可能で、製剤投与や中断が簡便かつ投与の有無を可視化できるため、確認しやすく、服薬管理がしやすいことなども特徴となっている。日本国内では循環器疾患、喘息、アルツハイマー病、パーキンソン病、アレルギー性鼻炎など各領域で発売され、統合失調症など新疾患に対しても錠剤タイプのものをパップ化する開発が進められている。同分野は日本が世界をリードしており、同社では国内だけでなく、今後普及が高まるであろう新興国向けなどに拡販していく方向で、着実な成長が期待できる。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 岡本 弘)


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