S&P500月例レポート(2019年6月配信)<中編>
※<前編>から続く
●トランプ大統領と政府高官、そして民主党(現在23名が大統領選への出馬を表明)
○トランプ大統領が連邦準備制度理事会(FRB)の理事に指名する意向だったスティーブン・ムーア氏が指名を辞退しました。4月22日に指名を辞退したハーマン・ケイン氏に続いて2人目の辞退者となりました(FRB理事のポストは現在2つが空席となっています)。
○下院で「メディケア・フォー・オール(国民皆健康保険制度)」に関する公聴会が開催されましたが、これとは別に司法省がアフォーダブル・ケア・アクト(オバマケア)を違憲と宣言するための行動(提訴を通じて)を開始しており、この問題を巡ってはさらに政治的な展開が予想されます。
○議会とトランプ大統領の対立は続き(まだ「戦争」というほどではありませんが)、エスカレートしました。(民主党主導の)下院司法委員会は、バー司法長官がモラー特別捜査官の捜査報告書を黒塗りのままで公表したことについて、議会侮辱罪に当たるとする議決案を可決しました。一方、下院歳入委員会がムニューシン財務長官にトランプ大統領の納税申告書の提出を求めている件に関し、トランプ大統領は提出を回避する大統領特権があると主張しました。(共和党主導の)上院は、トランプ大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏に召喚状を送付しました。これまでのところ、取引への影響は限定的ではあるものの、対立がエスカレートすれば市場に影響が及ぶ可能性があります。
○トランプ大統領は、中国の通信機器大手Huawei Technologiesを貿易のブラックリストに追加するという制裁措置を打ち出しましたが(5G事業の展開を禁止)、その後、保守や供給ラインなどに限り90日間の猶予を認める緩和措置を実施しました(諸刃の剣:協調できないが、離れても生きられない)。
○トランプ大統領は自動車および自動車部品に対する関税の判断を6ヵ月延期しました。
○米国はカナダおよびメキシコに対する鉄鋼・アルミ関税を撤廃することで合意し、両国も米国への報復関税を撤廃します。これにより、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の批准に弾みが付くでしょう。
○トランプ大統領は、米中貿易問題で打撃を受けている農業セクター向けに160億ドルの支援策を実施すると発表しました。そのほとんどは農家に直接支給されます。
○報道によると、トランプ大統領は医療費の開示を義務付ける大統領令を準備していますが、具体的な内容はまだ不明です。
○トランプ大統領はメモリアルデーの週末に日本を訪問し、安倍首相と会談しました。貿易問題でのさらなる対立は回避(延期)されたため、なごやかなムードの中、特に材料はありませんでした。
○トランプ大統領はメキシコが米国への不法移民の流入を止めるまで、2019年6月10日以降メキシコからの輸入品全てに5%の関税を課すと発表しました。大統領は、状況が悪化した場合には税率を引き上げる可能性もあるとしています。
○中国はレアアース鉱物の対米輸出を規制する準備を進めており、中国企業に害をもたらす「信頼できない」外国企業のリストを作成中との報道がありました。
●各国中央銀行の動き
○米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催され、政策金利の据え置きが決定されました(2.25%-2.5%)。物価の動きは予想よりも弱いものの、労働市場は堅調との判断が示されました。
○イングランド銀行(英中央銀行)は金融政策委員会で政策金利を現行(0.75%)に据え置くことを決定しました。また、2019年の英国の経済成長率予想を従来の1.2%から1.5%に上方修正しました。
○ニュージーランド準備銀行は政策金利を0.25%引き下げ、過去最低となる1.5%としました(前回の利下げは2016年11月に実施され、2.00%から1.75%に引き下げられています)。
○オーストラリア準備銀行は政策金利を1.5%に据え置くことを決めました。また、新たに発行された50豪ドル札に誤植があったことを認めました(同紙幣は2018年以降に1億8,400万枚発行されています)。問題の紙幣では“responsibility”の綴りが“responsibilty”となっていました(3箇所)。
○2019年5月会合分のFOMC議事録では、FRBは金利の変更に忍耐強くあることが示されたものの、その後に貿易と関税に対する懸念が増したことで、こうしたFRBの姿勢に変化が生じるのではないかとの見方が大勢となっています。
●企業業績
○時価総額で97%に相当する企業が2019年第1四半期の決算発表を終え、このうち72.9%の企業で利益がすでに引き下げられた予想(2018年末から7.1%下方修正)を上回りました。S&P 500指数構成企業の490銘柄中357銘柄で営業利益が予想を上回りました。また、売上高は487銘柄中278銘柄(57.2%)で予想を上回りました。現時点で、2019年第1四半期の利益は2018年第4四半期を8.9%、また、2018年第1四半期を4.4%上回る見通しです。しかし、過去最高を記録した2018年第3四半期に対しては7.8%下回りそうです。
2019年の予想は、2018年12月末時点から3.7%引き下げられましたが、2018年比で9.1%増となる見通しです。2020年は2019年を12.0%、2018年を22.2%上回ると予想されています(2020年の利益予想の精度はまだ不十分で、「時間という贈り物」が必要と思われます。様々なイベントが予想に影響を及ぼすことはまず間違いないからです)。売上高は2018年第4四半期から2.3%減少しましたが、このような結果は特に珍しいことではなく、前年比では5.8%増となっています。
○自社株買いが追い風となり、個別銘柄の企業業績(そして株価)は2019年第1四半期に大幅に上昇しました。記録的な自社株の累積効果によって、これまでに業績発表を終えた銘柄の67.8%でEPSの計算に用いられる株式数が前年比で減少し、そのうち24%の銘柄で株式数の減少を受けて前年比で少なくとも4%の押し上げ効果がありました。
●個別銘柄
○電気自動車大手のTesla(TSLA)は、手元資金不足を解消するために普通株と社債の発行で23億ドルを調達すると発表しました。
○米連邦地裁の陪審は、ドイツの製薬・化学会社Bayer(BAYRY)が2016年9月に買収したMonsantoの除草剤ラウンドアップを使用したことで癌を発症したとの原告側夫婦の訴えに対し、同社に責任があるとし、20億ドル支払いを命じる判決を下しました(一方で、他の数千件に及ぶ同様の訴訟については裁判が継続中)。これに対して会社側は控訴することを表明しました。
○米連邦地裁は、スマートフォン向け半導体大手Qualcomm(QCOM)が、同社が保有する特許に対して不当に高いロイヤルティを課してきたとして、顧客とのライセンス契約について再交渉を行うことを命じました。また、Apple(AAPL)に代表されるスマートフォン・メーカーと独占的な供給契約を締結することを禁じました(4月にAppleはQualcommと係争中だった全ての訴訟を取り下げ、同社に対してライセンス料の支払いを継続することで合意していました)。
○S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは、2019年6月3日の取引開始前に農業関連事業会社Corteva(CTVA)をS&P 500指数に追加し、6月4日の取引開始前にエンジニアリング企業Fluor(FLR)を除外すると発表しました。CortevaはDowDuPont(DWDP)からスピンオフされて誕生した会社です。このスピンオフ後にDowDuPontは正式名称をDuPont de Nemoursに変更します(ティッカーシンボルもDDに変更予定)。
●注目点
○ソーシャルメディア大手のFacebook(FB)は政治広告の販売員に対するコミッションの支払いをやめたことを公表しました(残念ながら、こうした対応は広告掲載や電話での問い合わせの停止にはつながりません)。通販大手(かつ事業拡大路線を継続中のベンチャー企業でもある)Amazon(AMZN)は、人の感情を読み取ることができるウェアラブルデバイスを開発中だと報道されました(政治広告の変化に対する私の反応も計測可能となることを期待しています)。
○年初から現在までに7,150件を超える小売店が閉店を発表したとの報道がありました。一方、2,726件の小売店が開業しています。ネットベースでは年初来で4,424件が閉店したことになり、2018年の5,524件と比べて件数は減少しています。
○オンラインショッピングが主流となる購買スタイルの変化(とその事業活動における重要性)に対応するため、物流大手のFedEx(FDX; 1週間で株価は1.2%下落)は年中無休での配送サービスを開始すると発表しました。
●利回り、金利、コモディティ
○米国10年国債の利回りは4月末の2.50%から低下して2.13%で月を終えました(2018年末は2.69%、2017年末は2.41%、2016年末は2.45%)。
○英ポンドは4月末の1ポンド=1.3038ドルから1.2633ドルに下落し(同1.2754ドル、同1.3498ドル、同1.2345ドル)、ユーロは4月末の1ユーロ=1.1216ドルから1.1170ドルに下落しました(同1.1461ドル、同1.2000ドル、同1.0520ドル)。円は4月末の1ドル=111.42円から108.23円に上昇し(同109.58円、同112.68円、同117.00円)、人民元は4月末の1ドル=6.7348元から6.9065元に下落しました(同6.8785元、同6.5030元、同6.9448元)。
○原油価格は4月末の1バレル=63.38ドルから下落して53.36ドルで月を終えました(同45.81ドル、同60.09ドル、同53.89ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は4月末の1ガロン=2.972ドルから2.909ドルに下落して月末を迎えました(同2.358ドル、同2.589ドル、同2.364ドル)。
○金価格は4月末の1トロイオンス=1,282.70ドルから1,310.20ドルに上昇して月を終えました(同1,284.70ドル、同1,305.00ドル、同1,152.00ドル)。
○VIX恐怖指数は4月末の13.12から上昇して18.71で月末を迎えました。月中の最高は23.38、最低は12.74でした(同25.42、同11.05、同14.04)。
※<後編>に続く
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