■ビジネスモデル
1. 収益構造
クロス・マーケティンググループ<3675>の収益源を分解すると、ディレクターとリサーチャーが売上原価、セールスや本部(共通部分)が販管費に計上される。ビジネスフロー上の流れとそれぞれの役割は、セールスが確保してきた案件に対して、リサーチャーが分析方法を提案し具体的な調査方法に詰め、ディレクターが調査の規模や案件内容によって工程を設計管理しデータを収集してプロダクト化、それをさらにリサーチャーがレポートにする——というものである。収益貢献を分かりやすく単純化すると、ディレクターのスキルと人員のバランスが取れると生産効率が向上し、リサーチャーでノウハウや人材が蓄積されると売上高と売上総利益が伸びる。一方、営業は人員が多いほど受注が増え、間接は企業規模に見合った適正サイズが求められる。
同業大手と直近期の営業利益率を比較すると、マクロミルが19.0%、インテージが8.0%、同社が4.3%である。マクロミルはネットリサーチの比率が高いため高効率である。インテージはオフラインやパネル調査が主力で労働集約性が高いため、マクロミル比で利益率は低く出る。同社は、ネットリサーチ専業でスタートしたのだから営業利益率はマクロミルに近いはずだが、さほどの利益率にない。これは、ネットリサーチ出身ではあるものの、同社がマーケティングリサーチ全般からマーケティングソリューションへと業容拡大するなかで、好採算のネットリサーチの構成比が小さくなっていること、そして、近年進めたM&Aや新規事業開発、海外展開の推進により機能の重複などコストがやや重くなっていることなどが要因と思われる。前者は戦略上の選択のため仕方ないが、後者については、数の増えた子会社の統廃合など、一旦シナジーや利益を追求するタイミングかもしれない。もちろん同社も同様に考えていると思われ、実際に統廃合を進めているようだ。なお、インテージより利益率が低くなっているのは、2017年12月期に一時コストが発生したことが要因で、例年であればインテージと同水準と言える(同社の2016年12月期営業利益率は8.4%)。
セールスやリサーチャーが一体となったサポート体制に強み
2. 強みと弱み
同社リサーチの最大の特徴は、他社の機能が比較的分離しているのに対し、セールス、リサーチャー、ディレクターなどすべての担当者が一丸となって顧客に接し、課題解決に当たるサポート体制にある。ほかに、回答負荷軽減を意識したアンケート画面作り、的確なターゲット選定のための配信設定、精度の高いハイクオリティなデータクリーニング、高機能なアンケートシステムによる画面作成・配信・データ納品などの即応体制、国内最大規模の登録モニター数、基本属性だけでなくレアな対象に限定した調査——なども特徴と言えるが、こうしたサービスにおける同業との差はあまり大きいとは言えない。顧客からすると、サポート体制に加え、課題に対し適切に提案・設計するリサーチャーの経験や、グループ内のITソリューションの機能を利用したトータルなマーケティングソリューションの提案などが、差別化につながっているように思われる。
一方、弱みと言えるかわからないが、課題はオフラインリサーチの増加により労働集約が進んで利益率の改善が滞ること、長らく東証マザーズ上場だったということもあって依然新興勢力扱いされていること、海外で認知度が不足していること——などと考える。しかし、2018年には東証1部へ上場し、国内で子会社の統廃合など効率化に向けて動く一方、海外についても2014年に買収したKadenceへのブランド統合を進めており、現在、収益性の改善も認知度の向上も前進しているところと言うことができる。
ターニングポイントはVOYAGE GROUP提携、東証マザーズ上場、持株会社化
3.ターニングポイント
同社は2003年の創業で、当時はネットリサーチ業界で最後発の1社と見られていた。それが今やマーケティングリサーチ業界の大手の一社に成長した。その成長のためのターニングポイントが、これまで3回あったと考えられる。
最初のターニングポイントは、2006年にVOYAGE GROUP(当時ECナビ)と資本・業務提携をしたことである。VOYAGE傘下のリサーチパネルに資本参加することで、リサーチパネルの有する70万人(当時)という大規模なモニターを獲得することができた。これが弾みになって電通リサーチ(現電通マクロミルインサイト)やビデオリサーチといったトップクラスのマーケティングリサーチ会社と資本提携し、業容を大きく拡大することができたのである。電通リサーチは同社の同業だが、当時ネットリサーチ機能を持たなかったため、同社の機能を補完的に利用するニーズがあった。そしてこれを「間接販売」といい、同社以外に「間接販売」を積極展開する企業が少なかったこともあって、同社の初期の成長をけん引する武器となった。
2008年の東証マザーズ上場は2つ目のターニングポイントである。上場によって資金力と一部知名度が付いたこともあり、様々な調査の依頼が舞い込むようなった。とはいえ、当時のネットリサーチのマーケットが小さかったこともあって、今度は積極的に「直接販売」を推進した。この「直接販売」が当たって業容が急拡大するが、それに伴って、多種多様で大量なモニターの保持と調査設計のカスタマイズが必要となった。前者については、楽天リサーチや(株)ネットマイルといった大規模なモニターを持つ同業他社と業務提携し、モニターを相互利用することで業界最大級と言われるモニター数を確保することができた。この結果、非常に大量なサンプルやレアな調査対象にも対応できるようになり、同社の成長にさらに弾みがついた。後者は、専門的な知識がなくてもアンケート画面を作成・カスタマイズできる「pyxis2」を開発、加えてコストの安い遠隔地にオペレーションセンターを置くことで、使い勝手のよいツールを用いてローコストでネットリサーチサービスを顧客に提供することができた。
3つ目のターニングポイントは2013年の持株会社化である。これによりM&Aや海外展開を加速、「アジアNo.1マーケティンググループ」を目指すことになる。M&Aや海外展開は、同社の業容拡大に欠かせない要素だが、一方で為替の影響やコストプッシュなど業績が変動する要素が増えることにもなる。また、近年、ITを中心とする新興企業の中にはM&Aなどによって数多くの子会社を抱えるものも多いが、管理体制が問題になることも少なくない。同社にとって3つ目のターニングポイントは、単に子会社数を増やすことではなく、事業の効率化や管理、グリップという点で、次の成長のため子会社群を収益化し成長させることだと考える。次期中期経営計画では、3つ目のターニングポイントを経てさらに成長していく姿が描かれることを期待する。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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1. 収益構造
クロス・マーケティンググループ<3675>の収益源を分解すると、ディレクターとリサーチャーが売上原価、セールスや本部(共通部分)が販管費に計上される。ビジネスフロー上の流れとそれぞれの役割は、セールスが確保してきた案件に対して、リサーチャーが分析方法を提案し具体的な調査方法に詰め、ディレクターが調査の規模や案件内容によって工程を設計管理しデータを収集してプロダクト化、それをさらにリサーチャーがレポートにする——というものである。収益貢献を分かりやすく単純化すると、ディレクターのスキルと人員のバランスが取れると生産効率が向上し、リサーチャーでノウハウや人材が蓄積されると売上高と売上総利益が伸びる。一方、営業は人員が多いほど受注が増え、間接は企業規模に見合った適正サイズが求められる。
同業大手と直近期の営業利益率を比較すると、マクロミルが19.0%、インテージが8.0%、同社が4.3%である。マクロミルはネットリサーチの比率が高いため高効率である。インテージはオフラインやパネル調査が主力で労働集約性が高いため、マクロミル比で利益率は低く出る。同社は、ネットリサーチ専業でスタートしたのだから営業利益率はマクロミルに近いはずだが、さほどの利益率にない。これは、ネットリサーチ出身ではあるものの、同社がマーケティングリサーチ全般からマーケティングソリューションへと業容拡大するなかで、好採算のネットリサーチの構成比が小さくなっていること、そして、近年進めたM&Aや新規事業開発、海外展開の推進により機能の重複などコストがやや重くなっていることなどが要因と思われる。前者は戦略上の選択のため仕方ないが、後者については、数の増えた子会社の統廃合など、一旦シナジーや利益を追求するタイミングかもしれない。もちろん同社も同様に考えていると思われ、実際に統廃合を進めているようだ。なお、インテージより利益率が低くなっているのは、2017年12月期に一時コストが発生したことが要因で、例年であればインテージと同水準と言える(同社の2016年12月期営業利益率は8.4%)。
セールスやリサーチャーが一体となったサポート体制に強み
2. 強みと弱み
同社リサーチの最大の特徴は、他社の機能が比較的分離しているのに対し、セールス、リサーチャー、ディレクターなどすべての担当者が一丸となって顧客に接し、課題解決に当たるサポート体制にある。ほかに、回答負荷軽減を意識したアンケート画面作り、的確なターゲット選定のための配信設定、精度の高いハイクオリティなデータクリーニング、高機能なアンケートシステムによる画面作成・配信・データ納品などの即応体制、国内最大規模の登録モニター数、基本属性だけでなくレアな対象に限定した調査——なども特徴と言えるが、こうしたサービスにおける同業との差はあまり大きいとは言えない。顧客からすると、サポート体制に加え、課題に対し適切に提案・設計するリサーチャーの経験や、グループ内のITソリューションの機能を利用したトータルなマーケティングソリューションの提案などが、差別化につながっているように思われる。
一方、弱みと言えるかわからないが、課題はオフラインリサーチの増加により労働集約が進んで利益率の改善が滞ること、長らく東証マザーズ上場だったということもあって依然新興勢力扱いされていること、海外で認知度が不足していること——などと考える。しかし、2018年には東証1部へ上場し、国内で子会社の統廃合など効率化に向けて動く一方、海外についても2014年に買収したKadenceへのブランド統合を進めており、現在、収益性の改善も認知度の向上も前進しているところと言うことができる。
ターニングポイントはVOYAGE GROUP提携、東証マザーズ上場、持株会社化
3.ターニングポイント
同社は2003年の創業で、当時はネットリサーチ業界で最後発の1社と見られていた。それが今やマーケティングリサーチ業界の大手の一社に成長した。その成長のためのターニングポイントが、これまで3回あったと考えられる。
最初のターニングポイントは、2006年にVOYAGE GROUP(当時ECナビ)と資本・業務提携をしたことである。VOYAGE傘下のリサーチパネルに資本参加することで、リサーチパネルの有する70万人(当時)という大規模なモニターを獲得することができた。これが弾みになって電通リサーチ(現電通マクロミルインサイト)やビデオリサーチといったトップクラスのマーケティングリサーチ会社と資本提携し、業容を大きく拡大することができたのである。電通リサーチは同社の同業だが、当時ネットリサーチ機能を持たなかったため、同社の機能を補完的に利用するニーズがあった。そしてこれを「間接販売」といい、同社以外に「間接販売」を積極展開する企業が少なかったこともあって、同社の初期の成長をけん引する武器となった。
2008年の東証マザーズ上場は2つ目のターニングポイントである。上場によって資金力と一部知名度が付いたこともあり、様々な調査の依頼が舞い込むようなった。とはいえ、当時のネットリサーチのマーケットが小さかったこともあって、今度は積極的に「直接販売」を推進した。この「直接販売」が当たって業容が急拡大するが、それに伴って、多種多様で大量なモニターの保持と調査設計のカスタマイズが必要となった。前者については、楽天リサーチや(株)ネットマイルといった大規模なモニターを持つ同業他社と業務提携し、モニターを相互利用することで業界最大級と言われるモニター数を確保することができた。この結果、非常に大量なサンプルやレアな調査対象にも対応できるようになり、同社の成長にさらに弾みがついた。後者は、専門的な知識がなくてもアンケート画面を作成・カスタマイズできる「pyxis2」を開発、加えてコストの安い遠隔地にオペレーションセンターを置くことで、使い勝手のよいツールを用いてローコストでネットリサーチサービスを顧客に提供することができた。
3つ目のターニングポイントは2013年の持株会社化である。これによりM&Aや海外展開を加速、「アジアNo.1マーケティンググループ」を目指すことになる。M&Aや海外展開は、同社の業容拡大に欠かせない要素だが、一方で為替の影響やコストプッシュなど業績が変動する要素が増えることにもなる。また、近年、ITを中心とする新興企業の中にはM&Aなどによって数多くの子会社を抱えるものも多いが、管理体制が問題になることも少なくない。同社にとって3つ目のターニングポイントは、単に子会社数を増やすことではなく、事業の効率化や管理、グリップという点で、次の成長のため子会社群を収益化し成長させることだと考える。次期中期経営計画では、3つ目のターニングポイントを経てさらに成長していく姿が描かれることを期待する。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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