きちり Research Memo(3):新規業態の開発力と人材採用・育成力が強み

配信元:フィスコ
投稿:2018/09/19 15:27
■事業概要

2. 同社の強み
きちり<3082>の強みは収益性の高い業態開発力を持つことと、人材の採用力、育成力に優れていることに加えて、先進的なITシステムを店舗運営に積極的に導入する先進性にあると考えられる。

(1) 業態開発力
同社は主力の「KICHIRI」を2002年に出店以降、現在までブランド・コンテンツ活用型店舗も含めて22業態の開発を行ってきた。特に、ここ数年は年に2〜3業態の開発を行い、積極出店を行っている。出店エリアは都市型から郊外型、店舗コンセプトについても非日常型から日常型と多彩な業態開発を行っていることが特徴となっている。

特に、ここ最近では「いしがまやハンバーグ」やダイニングバーの「ajito」「igu&Peace」など収益性の高い業態開発に相次いで成功している。社内で業態開発に関わる人材が育ってきたことが要因と考えられる。例えば、「KICHIRI」では出店費用等の投資回収期間が平均3年程度かかっていたが、「いしがまやハンバーグ」や「ajito」では14~15ヶ月で回収を実現した店舗もあり、営業利益率も「KICHIRI」を上回っている。こうした業態開発力の高さを評価して、商業施設等のデベロッパーから声が掛かるケースも多く、テナントの条件に合わせた業態開発を行い、出店すると言ったケースも増えている。

(2) エリア展開
同社では、関東エリアで50店舗の出店を行っているが、今後200店舗まで出店余地はあると見ている。その根拠としては、関西エリア(京阪神+奈良県)で乗降客数2万人以上の駅数が312駅、出店店舗数が40店舗となっているのに対して、関東エリア(首都圏+茨城県)では同条件の駅数が903駅と約3倍あるためだ。単純に3倍すれば120店舗だが、1駅に複数店舗出店できる新宿等のターミナル駅が首都圏には多いため、居酒屋業態やレストラン業態など含めると200店舗の出店は十分可能と言える。

特に、ここ数年は大型商業施設を中心に「いしがまやハンバーグ」やオムライス業態の「3 Little Eggs」などレストラン業態の出店が伸びている。店舗集客力が高いため、デベロッパーから商業施設をオープンする際やリニューアルする際に声が掛かることが多いためだ。同社ではKPIとして従業員1人当たり月額50万円の利益をボーダーラインとして、多店舗展開をするかどうかの判断材料としている。

また、同社は新たにフランチャイズ事業を開始し、全国への出店を加速していく方針を打ち出した。第1弾として、2018年5月に西日本地域で複合型大規模商業施設「ゆめタウン」等を展開する流通業界大手の(株)イズミのフード事業を担うイズミ・フード・サービス(株)と「いしがまやハンバーグ」のフランチャイズ契約を締結、今後、「ゆめタウン」等の施設内でFC店舗を展開していくことになる。同社では今後も自社開発した業態を、地域で顧客基盤を有する企業を主な対象としてFC契約を締結し、出店ペースの加速とブランド認知度の向上により、収益を拡大していく戦略となる。なお、同社は今後も多様な消費者ニーズに応えるべく、新業態の開発も積極的に行い、直営店舗についても年間10店舗前後のペースで出店を継続していくこと方針となっている。

(3) 人材採用力と育成力
ここ数年、人手不足により退店を余儀なくされる飲食チェーン店が多くあるなかで、同社は人手不足の影響をさほど深刻には受けていない。これは、同社が早くから正社員の採用強化を進め、必要な人材を確保してきたことが要因となっている。新卒採用者数で見ると、2016年春は86人、2017年春は79名、2018年春は70名と正社員の2割以上の水準となる新卒社員の採用を続けている(2019年春も100名前後を募集)。新人社員については、当初は主に店舗に配属されるため、1店舗当たり新人社員1人の配属で、アルバイト数名分を賄うことが可能となる。正社員の増加によって売上高人件費率はここ数年、上昇傾向ではあるものの、安定した店舗運営が可能になるという点で他社にはない強みと言える。

同業他社が人材確保に苦労するなか、同社が順調に新卒社員を採用できているのは、独自の教育制度やキャリアプランに加えて、飲食事業やPFS事業(ブランド・コンテンツ活用型、クラウドサービス展開型)等の多彩な事業ポートフォリオを展開していることが要因と考えられる。また、アルバイトスタッフ(パートナー)に対しても、学生を対象とした就活支援制度や退職者に対するパートナー卒業式を毎年開催するなど、自由闊達な雰囲気と同時に、関わる人すべてを大切にする「おもてなし」スピリットが浸透している企業としての認知度が学生の間で広がっていることも一因と考えられる。

人材育成力に関しては、「きちりMBA」制度や立候補制度など同社独自の制度を導入している。「きちりMBA」の講師は社内スタッフで構成されており、全従業員が受講可能となる。「理念研修」から「ビジネススキル」や「おもてなし」といった日々の現場で必要となるスキルを身に付けることができるほか、「マネジメント」や「リーダーシップ」など幹部候補制向けのプログラムなども用意されており、これらを受講することで社員一人ひとりのスキルが向上している。

(4) PFS事業の拡充
PFS事業ではブランド・コンテンツ活用型、クラウドサービス展開型の2つの事業形態により事業拡大を進めている。とりわけ、クラウドサービス展開型については2016年に入ってITベンチャー企業等との戦略的業務提携を積極的に進めて、サービスメニューの拡充を図っている。同社のプラットフォーム上にITを活用した新たなサービスメニューを加えることで、顧客数の拡大だけでなく顧客当たり売上単価をアップし、事業の一段の成長を目指していく戦略となっている。なお、業務提携する際に資本出資を同時に行うケースもある。

具体的な取り組みとしては、2016年3月にiPadを活用したSaaS型POSレジシステム「ユビレジ」を展開する(株)ユビレジと資本業務提携を行い、「ユビレジ」をサービスメニューに加えたほか、同年9月にはFinTechベンチャーの(株)BearTailと業務提携を発表。BearTailが提供している「Dr.経費精算」※を同社が導入するだけでなく、請求書についての自動データ化機能について両社で共同開発し、自社での導入及びPFS契約企業へ提供していく予定となっている。同サービスの利用によって、店舗ごとに発生する請求書や領収書などの帳簿管理にかかる業務量を大幅に軽減できることになるため、顧客ニーズは大きいと見ている。また、同年11月には(株)BECとHRテック分野における資本業務提携契約の締結を発表。BECはバックオフィス業務を自動化し、効率的に管理できるサービス「Gozal(ゴザル)」の開発・運営を行っているベンチャー企業で、今回の提携ではBECの開発ノウハウを活かして、人事関連業務(入社や保険手続き)の効率化に寄与するクラウドサービスを共同開発し、同社のPFSサービスのメニューとして追加している。

※「Dr.経費精算」…スマートフォンで領収書を撮影し、スマートフォンアプリまたはWebブラウザからアップロードするだけで自動データ化され、入力オペレータが同データの入力代行を行うサービスとなる。従来と比べて経費精算にかかる手間が大幅に削減できるといったメリットがある。


また、2018年7月には動画プラットフォーム事業を手掛けるピーシーフェーズ(株)と資本業務提携を締結し、動画コンテンツを用いた人材育成サービス「shouin」の共同開発及び販売を行うことを発表した。自社店舗の新人研修で活用していくほか、外部企業への販売・導入コンサルティングなども行っていく。同サービスを導入することで、新人研修のために費やしていた社内講師スタッフの時間が大幅に削減できるほか、AI技術を活用することで接客レベルの更なる向上等が期待される。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)

<MH>
配信元: フィスコ

関連銘柄

銘柄 株価 前日比
872.0
(15:30)
-35.0
(-3.85%)