【Alox分析】今年の倒産を予測する – 2018年 –

著者:塙 大輔
投稿:2018/02/05 21:26

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【Alox分析】今年の倒産を予測する – 2018年 –
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2017年の倒産動向を振り返り、2018年の倒産について予測する。
 

【2017年の倒産件数(上場企業)】

倒産件数:2社〔2016年:0社〕 <前年比*倍(計算不可)>

直近10年間の上場企業の倒産件数と日経平均株価の推移は、下記の通りである。

『上場倒産件数と日経平均株価【大納会終値】の推移』
 

 
≪上場企業の倒産件数と大納会終値の棒グラフ≫
 

 
http://alox.jp/dcms_media/other/180118_stockkensuu.pdf
 
≪上場企業の倒産件数と大納会終値の折れ線グラフ)≫
 

 
http://alox.jp/dcms_media/other/180118_relation.pdf

昨年の上場企業の倒産は、エアバッグ大手のタカタと機械メーカーの郷鉄工所である。タカタの倒産は、製造業として戦後最大規模(負債総額1兆5000億円規模)であり、中小企業の連鎖倒産が懸念されたが、充実したセーフティネットなどにより、連鎖倒産は発生していない。

【2017年の倒産件数(全企業)】

倒産件数:8,405社   〔2016年:8,446社〕  <前年比0.99倍>
負債総額:3兆1,676億円 〔2016年:2兆61億円〕 <前年比1.57倍>

全企業の倒産件数は、4年連続で10,000件以下である。

ただ、ほぼ前年と同じ件数であり、倒産件数という点では、“底を打った”と言えるだろう。

≪2008年~2017年倒産件数(全企業と上場企業)の棒グラフ≫
 

 
http://alox.jp/dcms_media/other/180118_kensuu.pdf

【倒産は増えたのか?それとも減ったのか?】

珍現象が発生した。

日本の2大信用調査会社の東京商工リサーチ(TSR)と帝国データバンク(TDB)において、倒産件数の見解が分かれた。

●TSR 2017年の倒産件数(全企業)
倒産件数:8,405社   〔2016年:8,446社〕  <前年比0.99倍>

●TDB 2017年の倒産件数(全企業)
倒産件数:8,376社   〔2016年:8,164社〕  <前年比1.02倍>

両社の件数の差異は、倒産の定義に起因する。

法的整理(会社更生、民事再生、破産、特別清算)は両社共通だが、私的整理(内整理、任意整理、銀行取引停止など)において、TDBは手形を使用しない商習慣の拡大や、個人情報保護法の施行などの理由により情報収集が困難になったとして、2005年から「銀行取引停止処分」を倒産に含めていない。

TSRは独自の情報網を通じての取材活動によれば、「銀行取引停止処分」も倒産に含めており、その結果、見解の相違が発生した。

私的整理は比較的小規模な倒産であることから、大雑把に言えば、「小規模な倒産は減ったが、中規模な倒産は増えている」とと解釈ができる。

その証左として、都道府県別の倒産件数では、東京・大阪・兵庫が8年ぶり、愛知が6年ぶりに増加に転じている。

(参照元:東京商工リサーチ  『2017年(平成29年)の全国企業倒産8,405件』)
(参照元:帝国データバンク  『全国企業倒産集計2017年報』)

 

【今年は?】

上場企業の倒産件数は昨年と同水準、全企業の倒産件数は増加する。

【重大イベントカレンダー】

今年の政治経済にインパクトがあるイベントを列挙した。このイベント情報等を踏まえて、倒産件数に影響のある要因を〔ネガティブ〕と〔ポジティブ〕に分けて、記載する。
 

 
 

〔ネガティブ要因〕

(1)超楽観的な空気

曖昧な言葉で恐縮だが、現在の日本を覆う超楽観的な空気は何だろうか?

1.経営者やアナリストの9割9分の人が、今年の日経平均株価や景気をポジティブ(強気)に捉えている。

2.政治は、実質的に野党が不在のため、超盤石の安倍政権に死角なし。
(憲法改正の発議のみ、不安定要素。)

3.「2020年に東京五輪を控え景気は悪くならないだろう」という世間一般の超安穏感。

ここ5年ぐらいで、これほど安穏感が流れている年はない。
歴史から言えることは、こういう時に、リーマンショックのような事件が発生する。

ちなみに、リーマンショック前の日本は「実感なき好景気」だった。今も、まさに「実感なき好景気」である。

このままの安穏な空気のまま、1年が過ぎることはないだろう。

今年の9月15日にはリーマンショックから10年を経過するのも、何かの兆しかもしれない。

(2)混迷の米国

米国の影響は多岐に渡るため、3つにわけて記載する。

No.1 トランプ大統領の予測不可能性

1月25日、人類による地球破壊までの残り時間を比喩的に示す「終末時計(Doomsday Clock)」が30秒進んだ。

核戦争の懸念の高まりやトランプ大統領の「予測不可能性」がその理由である。

予測不可能性の高い国として、北朝鮮が挙げられることは多い。しかし、それにも負けず劣らず、トランプ大統領の発言や政策は全く予測がつかない。

ポジティブな予測不可能性ならば良いのだが、圧倒的にネガティブなインパクトが多いことは、世界中の人が体感をもって知っている。

No.2 棍棒外交

セオドア=ローズヴェルト大統領は、ヨーロッパ諸国の干渉を排除する外交政策を展開し、積極的に「棍棒」を振りかざした外交政策を実施した。

トランプ大統領は、数多の地域において、「棍棒」を振りかざし、米国第一の政策をゴリ押し中だ。

イスラエルの米国大使館をエルサレムに移設する方針に反発するパレスチナに対しては、「カネはテーブルの上にある。(イスラエルと)和平交渉を始めない限り、カネは彼らに行かない」と述べ、和平交渉に復帰しないと今後は援助を凍結する考えを表明している。

秋に実施される米国の中間選挙まで、トランプ大統領は耐えられるのだろうか?

No.3 大型減税

連邦法人税率を35%から21%へと引き下げ、個人所得税も大幅に軽減されることになった。

一気に14%分の法人税率を下げる計算である。

この結果、米国経済が過熱すると思うが、パウエル新議長率いるFRBは金利を上げる回数を増やし、過熱を冷やす政策を取ると思われる。

いずれにしろ、日本にとっては、ドルが買われることによって、円安となり、輸出企業は多大な為替差益を恩恵を受けるかもしれない。

(3)トランプチルドレンの大量発生
各国で、~のトランプと呼ばれる人物が生まれている。

フィリピンのドゥテルテ大統領
フランスのマリーヌ・ルペン国民戦線党首
ドイツのフラウケ・ペトリAfD党首
オランダのヘルト・ウィルダース自由党党首
チェコのアンドレイ・バビシュ首相
オーストリアのクルツ首相

トランプ大統領の特徴は、予測不可能性が高く、米国第一(保護主義)である。
その人物と似ていると言われる人物が各国で誕生し、一定の影響力を持っている。

世界は、トランプ大統領の誕生を機に、反グローバリズム(保護主義)がトレンドとなりつつある。

日本の貿易収支への影響は、負の影響しかない。

(4)リーダー宣言した中国

イアン・ブレマー(ユーラシアグループ社長)の2018年世界の10大リスクとして、トップに記載されたのが下記である。

・リーダー国家不在の間隙を衝く中国

※米コンサル会社ユーラシアグループの報告書から
https://www.eurasiagroup.net/siteFiles/Media/files/2018_Top_Risks_Japanese.pdf

中国は、「核心」となった習近平国家主席のもと、世界のリーダーとして、主導的な役割を演じることを宣言した。

すでに経済面では、各国は中国に依存しており、中国のバラマキ政策によって、親中国の国となったアジア・アフリカの国は多い。

2017年、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)は、日本などが主導するアジア開発銀行(ADB)の加盟国数を上回っており、日・米・EUの時代から、中・米・EUの時代へ確実に移行している。

米国寄りの政策が多い日本だが、戦略的に中国との関係を見直す時期に来ていると言えるだろう。

(5)日銀 黒田総裁の任期切れ

2018年4月8日、日銀の黒田総裁の任期が終了する。

当然、その前には後任が決まっていると思われるが、焦点は、「年間6兆円の指数連動型上場投資信託(ETF)の購入継続」である。

米国をはじめ、各国の中央銀行は、ゆっくりと有事における資産買い入れを減らしつつある。

日銀は、日本株の最大購入者であり、最大株主である状況となっており、「大きすぎてつぶせない」ではないが、「大きすぎて減らすことができない」というジレンマに陥っている。

このまま永遠にETFを購入し続けることはあり得ないため、次の日銀総裁が購入の継続可否についてどのような考えを持っているかは最大のポイントである。

※日銀が掲げた2%の物価目標は、何度も何度も達成時期の先延ばしをしていることを踏まえると、「完全なる失敗だった」と結論づけることに意義を唱える人はいないだろう。

(6)銀行の苦境

銀行を取り巻く環境は、極めて厳しい。

1.日本の人口減
2.マイナス金利
3.フィンテックの隆盛(資金調達方法の多様化)

上記の影響により、都銀は何千から何万もの社員を削減(自然減)と店舗の統廃合を進めることを発表した。

地銀や信用金庫、信用組合では、合併や提携が相次いでいる。

銀行の経営が厳しくなれば、銀行の貸出先にも“しわ寄せ”が来るのは自明である。

支払いのリスケを繰り返す企業に対しては、銀行も“太陽政策”を継続することはなくなるだろう。

(7)イギリスのEU離脱

現在の最大の焦点は、EU離脱に伴う移行期間の導入可否である。

英国は、2年程度の移行期間を設け、期間中はEU諸国との関税同盟などについて現状維持を求める方針である。

もし、移行期間がなければ、英国の企業(英国に拠点のある企業も含む)は、2019年4月1日以降、EUの関税に基づいた貿易ができない。

英国の産業界は、政府に対して、迅速に移行期間の締結をするよう猛烈な要請している。

この締結が2018年の秋までにできなければ、英国に拠点を置く企業は、軒並み英国からEU加盟国へ移転すると言われている。(すでに、その動きはある。)

今年中に、「英国のEU離脱撤回」という事態が起きても、何ら不思議ではない。

(8)自然災害大国の日本

1月23日、草津白根山の本白根山が噴火した。草津温泉の宿泊施設では、少なくとも1万4千人以上の宿泊キャンセルが相次いだ。

日本は、自然災害を受けやすい国土である。

台風、豪雨、豪雪、洪水、土砂災害、地震、津波、火山噴火などの影響は、常に念頭に置いておくべきである。

〔ポジティブ!?要因〕

(1)3%の賃上げ

安倍首相は、年初の経済3団体の賀詞交換会で、「経済の好循環を回すため、3%の賃上げをお願いしたい」と訴えた。

3%賃上げを実施した企業には、法人税の優遇措置が図られる予定であり、多くの大企業は賃上げを実施する可能性は極めて高い。

それゆえ、一定の効果(プレミアムフライデーぐらいの効果)はあるかもしれない。

しかし、それが経済を刺激するような消費につながるかは甚だ疑問で、将来に対する不安の払拭がなされない限り、大半は預金となるのが落ちだ。

日本企業は、将来への不安(日本の人口減少、円安や原油安の揺り戻し、トランプ大統領の不確実性)から、貯蓄ならぬ内部留保は過去最高を記録しており、個人も、それは同じである。

(2)憲法改正と北朝鮮

安倍首相の憲法改正は信念である。

言うなれば、小泉純一郎元首相の郵政民営化と同じである。

今年中に、憲法改正の発議がなされる公算は高い。

超盤石の安倍政権でも、これは一筋縄では進まない。

一気に政情が不安定になる可能性もありえる。

昨年は、北朝鮮のミサイルが日本を超える事態が複数回発生し、Jアラートが鳴り響き、シェルターが売れた。

今年もJアラートが鳴ると思われるが、憲法改正の発議と共に、政治経済の安定が揺らぐ事態となるかもしれない。

(3)働き方改革

働き方改革として、業務の効率化や残業時間の削減を行い、労働生産性を高める試みが各企業でなされている。

この考え自体は否定しないが、ある意味では当たり前のことであり、トヨタ自動車の「カイゼン」を工場だけではなく、全ての業務に当てはめているだけだ。

この結果として作られた時間を余暇の充実や副業によって、さらに経済を活性化させるのが一つの狙いである。

話は逸れるかもしれないが、日本経済の国際競争力が落ちる要因の1つとして、平成建設 社長 秋元久雄氏は「働き方改革」を上げている。

『1つ目の元凶は、例の「働き方改革」だよ。
ほとんどの企業は、今までと同じような仕事をしていて、労働時間だけ減らしていくわけだろ。途上国が追い上げてきて、これから日本は世界とバンバン張り合っていかなきゃらないのに、そんなんで勝てるわけないよな。』(参照元:日経ビジネス『徹底予測2018』 P108)

コンビニで働くさまざまな国の外国人店員を目にすると、「労働時間のみ減らす働き方改革」からは、ポジティブな影響は期待できない。

(4)仮想通貨

さまざまな横文字の新技術や新製品が溢れている。

VR(バーチャルリアリティ)、AR(拡張現実)、AI(人工知能)、ブロックチェーン、スマートスピーカーなど。

この中で、ブロックチェーンの技術を使った仮想通貨が一歩も二歩も先行しているようだ。

サイバーエージェントをはじめとしたITに強い企業が仮想通貨取引事業に押し寄せており、仮想通貨は戦国時代へ突入した。

仮想通貨の信用という問題はあるが、ビットコインを買いまくる中国人とともに、日本でも芸能人がビットコインをネタにする時代である。

今後も、コインチェックのような資金流出事件はあると思われるが、大手企業が参入していることを踏まえると、このバブルが弾けるのは、まだ先のようだ。

【総括】

アナリストや経営者は、総じて今年をポジティブな年と捉えている。おそらく、それは磐石な安部政権に多くを依存している。

しかし、トランプ大統領、北朝鮮問題、黒田総裁後の日銀、銀行の苦境などネガティブな要因は、枚挙にいとががない。

上記の要因や過去からの推移、今年は下記の倒産件数を予想する。

<倒産件数>
〔上 場〕   →  3(±1)
〔全企業〕   →  9,100(±500)

※ 参照資料
・東京商工リサーチ  『2017年(平成29年)の全国企業倒産8,405件』
http://www.tsr-net.co.jp/news/status/yearly/2017_2nd.html
・帝国データバンク  『全国企業倒産集計2017年報』
https://www.tdb.co.jp/tosan/syukei/17nen.html
・週刊東洋経済    『2018年大予測』
・日経ビジネス    『徹底予測2018』
・週刊ダイヤモンド  『2018総予測』
・週刊エコノミスト  『世界経済総予測2018』
・プレジデント     『2018年お金のいい話』

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配信元: みんかぶ株式コラム