2016年8月1日時点での主要市場見通し

著者:馬渕 治好
投稿:2016/08/02 19:36

花の一里塚~市場見通しサマリー

2016年8月1日時点での主要市場見通し

zu0主要
 

基本シナリオと見通し数値について

 大枠のシナリオに、前号から変更はない。

 世界の経済状況を見回すと、引き続きもっとも安心感が高いのは米国だ。ただしそうした見解を背景に、米国株は既に割高な水準まで買い上げられており、今後は短期的な調整の可能性が高いし、一段と大幅に株価が上昇することも難しいだろう。とは言っても、基調としては、世界の株価のなかで、昀も堅調に推移すると期待される。こうした米国の状況は、世界的に株式投資に対する安心感を与えようし、現水準からの米ドル高・円安にも寄与すると見込まれる。

 そうした楽観的な長期的展望のなかで、特に日本株と米ドル円相場については、当面上昇した後、年末年始に向けて一旦調整色を強める、との見解にも変わりはない。変更点としては、「7月日銀による大規模な追加緩和→8月政府の経済政策発表」という展開を前提に、7~8月が日本株の一旦のピークと見込んでいたところを、「8月政府の経済政策発表→9月日銀による大規模な追加緩和」と状況が変化した(ある意味先送りされた)ことにより、9月頃が日本株のピークであろうと、時期を変更した。日経平均の昀高値の水準は、18000円台のどこかという形で、変更はない。

 すなわち、

日経平均であれば、

足元→9月高値:18000円台のどこか→今年末~来年初:17000円割れ→来年6月:2万円超え

米ドル円相場であれば、

足元→8~9月高値:110円台前半のどこか→今年末~来年初:110円割れ→来年6月:115円程度

といった動きと考えている。

 予想レンジについては、2016年12月までの予想レンジについて、日経平均の下値リスクが限定的になったと考え、レンジ下限を上方修正した。他に変更はない(下線太字部は変更箇所)。

日経平均株価(円) 15000~19000 ⇒ 16000~19000
10年国債利回り(%) -0.3~0.3 ⇒ 変更なし
米ドル(対円) 100~115 ⇒ 変更なし
ユーロ(対円) 110~125 ⇒ 変更なし
豪ドル(対円) 73~90 ⇒ 変更なし

2017年 6月までの予想レンジは、一切変更がない。

シナリオの背景

・世界の経済実態に、大きな変化は全くない。英国のEU離脱を、リーマンショック並みの悲劇が来ると面白おかしく騒いだ向きは、今こそその主張を声高に叫ぶべきなのに、なぜかおとなしい。

・昀も経済の安定的な成長が期待されているのは米国だ。雇用情勢については、新規失業保険申請件数の減少基調(図表1、グラフが上に行くほど申請件数は減少)は、雇用の安定的な改善を示唆している。これと比べて、非農業部門雇用者数前月比の動きは荒いが、このグラフからは、5月分の雇用者数前月比が極めて小幅であった(わずか 1.1万人増)ことは、基調的な雇用改善傾向からの、単なる一時的な下振れであったように読み取れる。

(図表1)
zu1
 

・7月単月の雇用者数前月比がどうなるかは、予断を許さないが、大きな流れとして雇用情勢が改善し、それが個人消費や住宅投資といった、家計関連の内需を支えていく形が期待できる。足元では、7/29(金)発表の4~6月のGDP統計が弱かったため、米長期金利や米ドル相場の下振れが生じたが、月次統計が今後景気の堅調さを示していくことで、米株高、米長期金利上昇、米ドル上昇といった市況の流れに転じていくことが期待される。

・ただし、予想PERでみて、既に米国株は割高な領域に突入していると言える(図表2)。昀近では、予想PERが18倍前後まで上昇すると、昨年夏から秋にかけてのいわゆる「チャイナショック」(グラフ左の破線の丸印)や今年1~2月の株価の下振れ(グラフ右の破線の丸印)といった、急激な株価調整が引き起こされてきた。目先そうした急速な株価下落が生じそうな要因は見当たらず、PERの調整は株価が足踏みないし小幅下落する間に、企業の収益水準が上昇する形で進むとは考えるが、もし急速な株価調整が生じても、直近2回と同様、米国株価はすぐに高値水準を奪回しよう。

(図表2)
zu2
 


(図表3)
zu3
 
・中国経済の動向については、豪州から中国向けの輸出額から推し量ると(図表3)、今年1月を底に、持ち直しを続けている。もちろん、このまま増勢が続くとは期待しがたいが、中国経済が著しく悪化し、それが世界の経済を引きずり込んでいく、という悲観的なシナリオは成立しがたいだろう。

・とは言っても、中国政府の「作戦」は、内需・輸出を種々の政策で支え、大規模で急速な景気悪化は回避しながらも、景気減速自体は容認し、その間に重厚長大型産業(鉄鋼、セメント、石油化学など)の過剰設備の廃棄や、バブルの火種になりそうな分野(都市部の不動産価格や、理財商品に代表されるシャドーバンキングの膨張など)の沈静化といった、構造調整を押し進める、というものだ。そうした構造調整の期間(今後3~5年?)においては、中国株は上昇が期待薄(暴落もしないだろうが)であり、中国株への投資は薦めない。また、中国の需要に過度に依存した他国のセクター(たとえば日本への中国観光客によるブランド爆買いばかりを頼りにした小売業など)も、今後数年間は収益が厳しいままとなろう。

・日本については、市井の景況感は著しく悪化している(図表4)。景気ウォッチャー調査の現状判断DIは、2014年の消費増税後の昀低値を割り込み、2012年 11月(景気の谷)以来の低水準となっている。

(図表4)
zu4
 

・だからこそ、景気対策が打ち出されるわけだ。金融政策については、7月の日銀金融政策決定会合では、株式ETFの買い入れ増のみが打ち出され、9/20~21の次回会合で、これまでの金融政策の効果が総括されることになった(その結果、当然、追加緩和が同時に行なわれよう)。このため、8/2(火)の政府の経済対策発表から9月の日銀の追加緩和にかけて、政府・日銀の協働による景気支持という思惑が延命され、9月辺りまでは、国内株価が堅調推移するものと期待される(その間、いわゆる「リスク回避のための円高」も沈静化しよう)。

・しかしその後は、安倍政権の関心は、経済から安全保障・憲法改正に向かうものと見込まれる。加えて、日銀の撃ち出す弾にも「限界感」が強まってくるだろう。前述したような、市井の景況感の悪化、一部デフレ心理の再燃を覆すのには、相当のエネルギーが必要だ。本来その役目は、アニマルスピリッツにあふれた企業家が担うべきだが、特に大企業を中心に、投資や新たなビジネスの開拓に慎重で、政府・日銀の政策発動、あるいは円相場・海外経済といった環境の好転を、手を合わせてお祈りしているように見受けられる。

・円相場も、一旦は米経済の堅調さを評価した米ドル高が期待されるが、11月の米大統領・議会選挙に向けては、内向きの空気が強まり、再度の米ドル安・円高が生じると懸念される。

・こうした点から、世界的な株高・外貨高の流れを長期的に見込むものの、秋口から年末年始にかけては、特に日本株と米ドル相場については、一旦日本株安と米ドル安・円高に振れると懸念しているのである。

以上、シナリオの背景。
このあと、前月号(2016年7月号)見通しのレビュー。

前月号見通し(2016/7/1時点)のレビュー

日経平均株価
zu5<a href='/stock/100000018'>日経平均</a>
 
日経平均株価の予想レンジ下限は、良く機能した。今後、15000円まで再度深押しする可能性は低下したと考え、予想レンジ下限を16000円に上方修正する。年内は、9月頃に予想レンジ上限に迫った後、年末にかけて株価が下振れると予想している。

②国内長期金利
zu6長期金利
 
・国内長期金利についても、予想レンジ下限は良く機能した。9月までは追加緩和思惑から長期金利は引き続き低位で推移しようが、その後は上振れる展開もありうるだろう。

③外国為替相場
zu7米ドル
 
・7月の外貨相場は、予想対象の3通貨とも、予想レンジの下半分で、底固く推移した。

・今後は、米ドルを中心に、一旦レンジ上限に迫った後、反落(円高)に向かう展開を予想している。

(以上)

◆関連サイト
馬渕治好氏が代表を務める事務所 ブーケ・ド・フルーレット
馬渕氏の詳細レポートがいよいよ販売開始!お申し込みはコチラ!

配信元: みんかぶ株式コラム