S&P 500月例レポート(2016年8月配信)
S&P 500®
2016年7月: そしてバンドは鳴りやまず
2日間で株式市場から3兆ドル超が吹き飛んだ(ただし6月末までに損失分のうちの2兆ドルを回復)6月を「英国の奴らめ」という言葉で言い表すとすれば、相場が力強い回復を示し(月間騰落率は3.56%の上昇、配当込みで3.69%上昇)、終値ベースで史上最高値を7回更新した7月は「キャピタリストに恵みあれ」と言えるでしょう。7月に世界の株式市場の時価総額は1.84兆ドル(速報値)増加しました。年初来では1.48兆ドル(速報値)の増加ですから ? 「英国のEU離脱(ブレグジット)決定後の下落はいったい何だったのだろう?」と言いたくなります。各国中央銀行は具体的な行動は起こしませんでしたが、ブレグジットの潜在的な影響から自国経済を守るために何らかの、そして場合によっては「多く」の手を打つとの声明を矢継ぎ早に発表しました。具体的な影響がどのようなものになるだろうか、という点について中央銀行の間ではあまねく意見の一致が見られています(こうした事態は、イブがリンゴ(Apple)を買うためにアダムからお金を借りて以来で初めてのことかもしれません。このエピソードは検索する(Yahoo)ほどではありませんが) ? つまり、我々(ここでは中央銀行を指す)はブレグジットの長期的な影響がどうなるか分かってもいなければ、確固たる考えも持っていません。しかしながら、何とか切り抜けられるように彼らが手助けしてくれると信じています。こうした信任と業績発表が概ね良好だったこともあり(業績見通しが低調だった企業は限定的)、市場は上昇基調を辿り、リスクが1カ月間の休暇を取ったかのようでした。にもかかわらず、金相場も上昇し、1,358.8ドルで7月の取引を終えました(6月の終値は1,325.10ドル)。VIX恐怖指数は12を割り込み、7月の終値は11.97となりました(6月終値は15.63)。このVIX指数の急落ぶりに、一部では6月高値の26.72を基準に指数算出に際して分割修正が行われたと勘違いする向きもありました。ブレグジットの影響で低下した金利も7月に入ると上昇に転じましたが、月末には再び低下しました。金利は2015年末の水準と比較すると大幅に低い水準にとどまっています(2016年に金利は上昇する「予定」ではなかったでしょうか?)。米国10年国債利回りは6月末の1.48%から小幅低下して1.46%となり、2015年末の2.27%を大きく下回っています。明るい材料を挙げるとすれば、自分のお金を預けるために金利を支払う人々が増加する中、米国の金利がプラス圏にとどまっていることです(近いうちに預金するために銀行にテレビをプレゼントしなければならなくなるでしょう)。
金利、原油相場、政治が新聞紙面を賑わした一方、株式市場では業績相場が展開されました。70%を超える企業が2016年第2四半期の1株当たり利益(EPS)の発表を終えましたが、S&P 500構成企業の成績表は「AA」や「AAA」というよりは「A」といったところです(そういうわけで、手放しで喜んではいけません)。現時点で、営業利益が事前に下方修正された予想を上回った企業は全体の70%に達し、その割合は3分の2というこれまでの実績を上回っています。一方で売上高が事前予想を上回った企業は全体の54%に過ぎませんが、加重ベースでみると売上高は回復に向かっています。胸を張れるような伸びというわけではありませんが、これまでよりも改善しました。加重ベースでみた場合、情報技術セクターが業績改善に寄与しました(Yahooは蚊帳の外に置かれていましたが)。いずれにせよ、企業業績に関して、現時点では3つのポイントを押さえておくべきでしょう。1つ目は、企業は引き続き株式数削減(Share Count Reduction)を活発化しており、全体の4分の1の企業が自社株買いを通じてEPSを少なくとも前年比4%増加させました。2つ目は、業績予想が基調として慎重ながらも上向きだったものの、良い点も悪い点も共に具体性に欠けているようにみられることです。そして3つ目として、ブレグジット、ドル相場、低金利、天候(小売業者は店舗営業を続けていますが)といったスケープゴート的な言い訳が見当らないことです。特筆すべきは、時価総額が大きな情報技術企業、具体的にはApple、Alphabet、Amazon(いわゆるトリプル「A」3銘柄)とFacebookの予想を上回る業績内容です。テクノロジー銘柄が再び時価総額トップ10を独占しつつあります。なお、対照的な動きを見せているのがYahooです。また、Exxon Mobilの業績が事前予想に届かず、60%の減益となった点にも注目しています。原油価格は6月末の48ドルから41ドルに下落しました。
重要なことは、収益が改善しているということです。ファンダメンタルズの改善が買い材料とされてきただけに、収益の伸びが低迷していれば(2016年第1四半期の企業業績は不調でした)、市場は値崩れとなっていたでしょう。ブレグジット直後の相場急落は行き過ぎだったかもしれません(物陰にどんな災いが隠れているかに誰が気付くというのでしょう ? 今の段階では間違いなく中央銀行は分かっていません)。業績は絶妙なタイミングで回復し、市場は反応しました。下半期の業績見通しに概ね変わりはなく、現時点では市場の最高値更新を示唆しています。現在確実に懸念されている株価収益率(PER)の上昇を回避できるため、大幅な利益の伸びは歓迎すべきことです。
S&Pグローバル総合指数(BMI)の構成銘柄の時価総額は、6月が4,730億ドルの減少となったのに対して、7月は1兆8,370億ドル増加しました。年初来では1兆4,850億ドルの増加となり、時価総額は44兆5,030億ドルとなりました。S&P 500指数の時価総額は、6月が680億ドルの減少であったのに対し、7月は6,430億ドル増加しました。年初来では9,360億ドルの増加となり、7月末時点での時価総額は18兆8,360億ドルとなりました。S&P 500指数がBMIの時価総額に占める割合は42.33%と、先月の42.64%から低下しました。この割合は、2015年末には41.61%、2010年末には33.87%でした。日経平均は7月に6.75%上昇しました(6月は9.63%下落)が、年初来では12.64%の下落となっています。7月の上海総合指数は2.84%上昇しましたが(6月は0.45%の上昇)、年初来では14.87%の下落となっています。
経済関連のニュースでは、中国の6月の輸出(米ドルベース)は前年同月比4.8%減、輸入は同8.4%減(人民元ベースでは輸出は同1.3%増、輸入は同2.3%減)となりました。同国の第2四半期GDP成長率の速報値は前年同期比6.7%、6月の鉱工業生産は前年同月比6.2%増でした。シンガポールの第2四半期GDP成長率は前年同期比2.2%となりました。ドイツでは、新たに発行された10年国債の利回りがユーロ圏で初めてマイナスとなりました(発行額45億ドル、利回りはマイナス0.05%)。ドイツの投資家信頼感指数は、6月のプラス19.2から7月はマイナス6.8に落ち込みました。Markitが発表するユーロ圏の総合購買担当者景気指数(PMI)の速報値は、6月の53.1から7月は52.9に低下しましたが、低下幅は予想より小幅にとどまりました。英国の製造業PMIは52.4から47.7に低下し、2016年第3四半期のGDP成長率がマイナスになる可能性を示唆しています(ブレグジットの影響もあると考えられます)。日本のPMIは6月の48.1から7月は49.0に上昇しました。国際通貨基金(IMF)は2016年の世界の経済成長率予測を3.2%から3.1%に、2017年についても3.5%から3.4%に、それぞれ下方修正しました。IMFは補足として、英国とEUが合意に至らなかった場合、2016年の世界の経済成長率は2.6%に落ち込む可能性もあるとの厳しい見通しを示しました。欧州中央銀行(ECB)は、英国の国民投票後初となる政策理事会を開いて、政策を据え置き、金利は長期にわたり現行またはそれ以下の水準に維持するとの意向を示しました。イングランド銀行もECB理事会の前週に開催した金融政策委員会で、政策を据え置くことを決めました。今のところ、ブレグジットに反応するのは尚早ではあるが、各国の当局は対応に備えているというのが「トレンド」のようで、大半の見方では、必要に応じて追加の支援策や刺激策が講じられると予想されます。イングランド銀行の会合では、利下げが行われるとの予想に反して政策金利は据え置かれましたが、次回会合はわずか3週間後(8月3日)に開かれるため、8月にも追加の刺激策が打ち出されるとの見方が示されました。このニュースを受けて英ポンドは上昇しました。英国の6月のインフレ率は前年同月比0.5%上昇となり、5月の同0.3%上昇から加速しました。日銀は上場投資信託(ETF)の年間購入額を580億ドルに拡大する一方で、国債買い入れプログラムや政策金利は据え置くことを決めました。全体としては、追加緩和の規模は投資家の予想を下回るものでした。米国の経済関連では、6月のサプライ管理協会(ISM)製造業景況指数は53.2となり、市場予想の51.5を上回りました。ISM非製造業景況指数は56.6となり、5月の53.3から上昇しました。6月のサービス業PMIは51.4で、5月の51.3から上昇しました。6月の建設支出は前月比0.6%増が予想されていましたが、同0.8%減となりました。5月の製造業受注は4月の前月比1.8%増に対し、5月は同1.0%減となり、予想通りの結果となりました。5月の貿易赤字は411億ドルとなり、事前予想の400億ドルを上回りました。5月の求人労働移動調査(JOLTS)では、求人件数は550万件となり、前月の585万件から減少しました。雇用統計も5月は低調でしたが、6月の数値が予想を上回ったことを受け、株式市場は最高値を更新しました。景気先行指数は5月に前月比0.2%低下しましたが、6月は予想通りに同0.3%の上昇となりました。7月の消費者信頼感指数は97.3で、6月の97.6からわずかに低下しましたが、市場予想の96.0を上回りました。5月の輸入物価指数は、市場予想の前月比0.5%上昇に対し、0.2%の上昇にとどまり、前年同月比では4.8%の低下となっています。一方で輸出物価指数は、事前予想の同0.3%上昇に対して0.8%上昇となり、前年同期比では3.5%の低下となりました。5月の卸売在庫は前月比0.1%増と、市場予想の0.2%増を下回りましたが、4月の数値は(当初予想を上回る)同0.6%増から0.7%増に上方修正されました。6月の耐久財受注は前月比4.0%減と、事前予想の1.3%減を上回る減少幅となり、前年同期比でも6.4%減と大きく落ち込みました。6月の鉱工業生産は0.6%上昇し、市場予想の0.4%上昇を上回り、製造業生産も予想の0.3%上昇を上回る0.4%の上昇となりました。設備稼働率は5月の74.9%から6月は75.4%に上昇しました。6月の生産者物価指数(PPI)は事前予想の前月比0.3%上昇を上回る0.5%上昇となり、前年同月比でも0.3%上昇しました。食品とエネルギーを除くコア指数は前月比0.4%上昇、前年同月比では1.3%の上昇となりました。6月の消費者物価指数(CPI)は、市場予想の前月比0.3%上昇に対して、0.2%の上昇となりました(前年同月比では1.0%上昇)。食品とエネルギーを除くコア指数は市場予想通り前月比0.2%上昇し、前年同月比では2.3%の上昇と、5月の2.2%上昇から加速しました。6月の小売売上高は前月比0.6%増となり、市場予想の0.1%増を大幅に上回りました。6月の貿易統計では、輸出が0.9%増、輸入が1.8%増となり、貿易収支は633億ドルの赤字となりました。6月15日に行われた米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録では、低調な雇用統計(雇用者数が15万8,000人増の予想に対して3万8,000人増)やブレグジットに対する懸念が示されており、これらが金利据え置きの判断に影響したと考えられます。米連邦準備制度理事会(FRB)の地区連銀経済報告(ベージュブック)では、「経済全般にわたって見通しは概ね良好であり、全体的に緩やかな成長が続くと予想される」との見方が示されました。7月のFOMCでも、予想されていたように金利は据え置かれました。FRBは9月利上げの可能性を残していますが、その公算は小さいとみられます。ここで重要なのは、経済見通しに対する短期的なリスクが低下したという声明内容と、市場がほとんど反応しなかったという2点です。前者はブレグジットの進展には時間がかかることを意味し、後者は状況の変化も大きなニュースもないことを意味しています。経済の不透明感を理由に、企業は支出を抑制しています。第2四半期GDP成長率は8月26日に改定値、9月29日に確報値が発表される予定です。第2四半期GDPデフレーターの速報値は、事前予想の1.89%上昇を上回り、2.2%上昇となりました。
住宅関連では、7月の住宅市場指数は59となり、前月の60から低下しました(市場予想は61)。6月の住宅着工件数は年率換算で119万戸となり、5月の114万戸から増加し、事前予想の117万戸も上回りました。着工許可件数は予想通りの115万戸で、5月の114万戸からわずかに増加しました。中古住宅販売件数は、市場予想の547万戸に対し、前月比1.1%増、前年同月比3.0%増の年率換算557万戸となりました。米連邦住宅金融局(FHFA)が発表した5月の住宅価格指数は前月比0.2%の上昇となり、市場予想の0.4%上昇には届きませんでしたが、前年同月比では5.6%上昇と、好調を維持しています。6月の新築住宅販売件数は年率換算で59万2,000戸と事前予想の56万2,000戸を上回りました。また5月の数字は当初発表の55万1,000戸から57万2,000戸に上方修正されました。6月の中古住宅販売仮契約指数は前月比で0.2%上昇となりました。市場は1.3%の上昇を予想していました。5月のS&Pコアロジック・ケース・シラー住宅価格指数は、前月比0.4%上昇が予想されていましたが、0.1%低下という結果となりました。総合すると、住宅市場では販売件数は伸びていますが、価格は下落しています。
雇用に関しては、6月のADP全米雇用統計は17万2,000人増と予想(15万人増)を上回りました。雇用統計の非農業部門就業者数も予想を上回り、予想を下回った前月を埋め合わせる結果となりました。6月の就業者数は18万人増の予想に対して28万7,000人増でした。平均時給は0.1%増の25.61ドル、週平均労働時間は横ばいの34.4時間でした。しかし、労働参加率が5月の62.6%から62.7%へわずかに上昇する中、失業率は5月の4.7%から4.9%に上昇しました。市場は雇用統計に大きく反応し、全体で1.53%上昇し、一時終値ベースの過去最高値を超える場面もありました。その他の雇用関連では、米国石炭生産最大手(非上場)のMurray Energyが5,500人の従業員のうち4,400人を削減する可能性があると警告しました。ハードディスクドライブ(HDD)メーカーのSeagate Technology(STX)は、人員削減規模を以前に発表した従業員の3%から14%に拡大すると発表し、株価は7月に31.5%高となったものの、年初来では12.6%下げています。同社は約4万5,000人の従業員を擁しています。英国保険会社のLloyds(LYG、7月は1.42%高)が3,000人の人員削減を発表する一方、ファストフードのMcDonalds(MCD、同2.2%安)は英国で新たに5,000人を雇用すると発表しました(ただし両社の賃金体系は異なると思われます)。ソフトウエア会社Microsoft(MSFT、同10.8%高)は、7,400人の人員削減を行った後、さらに2,860人を追加削減すると発表しました。同社は全世界で11万4,000人の従業員を雇用しています。
M&A関連では、フランス食品大手Danone(DANOY、同7.8%高)がオーガニック食品メーカーWhiteWave(WWAV、同18.2%高)を105億ドルで買収すると発表しました。総合格闘技団体Ultimate Fighting Championshipは40億ドルで民間グループに身売りすることで合意しました。米連邦取引委員会はヘルスケア会社Abbott Laboratories(ABT、同13.8%高)と医療機器St. Jude Medical(STJ、同6.5%)に対して、両社の250億ドル規模の合併について追加情報を提供するよう要請しました。ソフトバンク(SFTBY、同2.3%安)は英国半導体メーカーARM Holding(ARMH、同45.8%高)を現金320億ドルで買収すると発表しました。石油メジャー最大手のExxon Mobil(XOM、同5.1%安)から250億ドルの買収案を提示された天然ガス掘削のInteroilは、オーストラリア石油・天然ガス探査大手Oil Search Limitedと合意していた22億ドルの買収案を破棄しました。ウォーレン・バフェット氏が率いる米国投資持株会社Berkshire Hathaway(BRK.B、同0.4%安)は、医療損害相互保険会社Medical Liability Mutual Insuranceを18億ドルで買収することで合意しました。米規制当局はベルギーのビールメーカーAB InBev(BUD、同1.9%高)と同業の英国企業SABMiller(SBMRY、同0.3%高)の1,070億ドルの合併に関して、一部資産を売却することを条件に承認しました。農業化学大手Monsanto(MON、同3.2%高)はドイツの製薬会社Bayer(BAYRY、同7.0%高)が1株あたり125ドルに引き上げた買収案を正式に拒否しましたが、交渉は継続する意向を示しています。通信大手Verizon(VZ、同0.8%安)はインターネット検索大手Yahoo!(YHOO、同1.7%高)の中核事業を48億ドルで買収すると発表しました。データベース・ソフト会社Oracle(ORCL、同0.3%高)はクラウドサービスのNetSuite(N、同49.5%高)を93億ドルで買収すると発表しました。M&A関連のマイナス材料としては、米司法省がAnthem(ANTM、同横ばい)とCigna(CI、同0.8%高)、ならびにAetna(AET、同5.7%安)とHumana(HUM、同4.1%安)の2つの大型合併を阻止するために提訴しました。
個別銘柄のニュースとしては、ヘルスケア会社Danaher(DHR、同19.4%安)からFortive(FTV)がスピンオフ(分離・独立)し、同社はS&P500指数に追加されました。ゲーム会社の任天堂(NTDOY)の株価はポケモンGOの大ヒットで7月に45.0%上昇しました。Fiat Chrysler Automobiles(FCAU、同4.7%高)は月間新車販売台数の水増し疑惑で米連邦当局から調査を受けていると発表しました。Volkswagen(VLKAY、同9.4%高)の決算によると、米国の訴訟費用(排ガス不正問題関連)として24億ドルの引当金を計上しましたが、利益は市場予想を上回りました。新聞・メディア会社News Corporation(NWSA、同14.3%高)はFox Newsのエイルズ会長が辞任したと報告しました。同氏はセクハラ行為で提訴されていました。航空機メーカーBoeing(BA、同2.9%高)は、製品開発の遅れにより税引き前21億ドルの費用を計上すると発表しました。アイフォーン(iPhone)メーカーのApple(AAPL、同9.0%高)の決算は減収減益となったものの、予想を上回りました。
その他のニュースとしては、日本の参院選で安倍首相率いる与党自民党が議席を伸ばし、経済対策の規模拡大につながるとの見方が広がりました。自民党の勝利を受けて日経平均は4%上昇しました。英国ではメイ内相がキャメロン前首相の後任として就任し、直ちに組閣に着手しました。迅速な組閣により離脱交渉に向けた分析が早急に進むとみられます。米国では、共和党大統領候補トランプ氏がインディアナ州知事(および元下院議員)のマイク・ペンス氏を、民主党クリントン氏がバージニア州選出の上院議員のティム・ケイン氏をそれぞれ副大統領候補に指名しました。全国党大会は両党とも党内部の問題で波乱含みの展開となりました。トルコの軍事クーデターは失敗に終わり、同国の政治(および経済)が安定し始める中、エルドアン大統領は3カ月の非常事態宣言を発令しました。国際貿易や経済には影響は及ばないと見られています。ブラジルでは、イスラム過激派組織「イスラム国」とつながりがあるとされる人物10人が、8月5日開幕のリオデジャネイロ五輪を狙ったテロを計画していた容疑で逮捕されました(ほかにも指名手配中)。米国内ではバトンルージュ(ルイジアナ州)でまたもや警察官関連の射殺事件が発生し、人種問題を巡り緊張が続いています。ドイツではショッピングモールの銃乱射で8人が死亡する事件が起き、テロとの関連が疑われています。また、フランスでもカトリック神父がテロ組織とのつながりが疑われる人物によって殺害されました。
利回り、金利、コモディティは引き続き活発な動きを見せました。米国10年国債の利回りは6月末の1.48%から低下(価格は上昇)して1.46%で7月の取引を終えました(2015年末は2.27%、2014年末は2.17%)。30年国債の利回りは2.18%と、6月末の2.28%から低下(価格は上昇)しました(同3.02%、同2.75%)。通貨は活発な動きを見せ、ユーロは6月末の1ユーロ=1.1114ドルから1.1176ドルに上昇して7月を終えました(2015年末は1.0861ドル)。英ポンドは6月末の1ポンド=1.221ドルから7月末は1.3229ドルに上昇しました(同1.4776ドル)。円はドルに対して6月末の103.02円から上昇して102.07円で月を終えました(同120.66円)。人民元は1ドルに対して6月末の6.6648元から7月末は6.6550元に上昇しました(同6.4931元)。金価格は6月末の1,325.10ドルから1,358.80ドルに上昇して月を終えました(2015年末は1,060.50ドル、2014年末は1,183.20ドル)。原油価格は大きく変動し、6月末の1バレル48.38ドルから41.48ドルに下落しました(同37.04ドル、同53.27ドル)。ガソリン価格は引き続き上昇し、6月末の1ガロン2.182ドルから2.329ドルに上昇して月を終えました(同2.034ドル、同2.299ドル)。7月のVIX恐怖指数は6月末の15.63から11.97に下落して月を終えました(2015年末は18.21)。
S&P 500指数は企業決算一色の動きとなりました。通常、S&P500指数にとってこうした状況が望ましいのですが、7月を終えてさらに深まっているようです。S&P500.指数は7月に3.56%と大きく上昇して(配当込みのトータルリターンは3.69%)、月内に7回も終値ベースでの最高値を更新しました。取引最終日も終値で8回目の史上最高値に届きかけたものの、日中ベースでの最高値更新で終わってしまいました(人生は厳しいものです)。S&P500指数は年初の調整後(2月11日の安値まで10.51%の下落)、7月で5カ月連続の上昇となっています。年初来では6.34%(配当込みのトータルリターンは7.66%)、年換算では11.23%(同13.63%)上昇しており、一部のポートフォリオ・マネジャーは非常に嬉しい状況となっています。S&P500指数は6月末の2,098.86ポイントから上昇し、7月22日に付けた終値での最高値2,175.03ポイントをわずか0.07%下回る2173.60で7月を終えました。
7月は、10セクター中7セクターで月間騰落率がプラスとなり、6月の6セクターを上回りました。セクター、銘柄間でパフォーマンスにはばらつきがみられ、決算発表が大きな材料となりました。大型IT銘柄が話題を集める中で、情報技術セクターが7.81%上昇して月間騰落率トップとなり、年初来のリターンは6.55%の上昇とプラスを回復しました。一方、原油価格が下落して1バレル40ドルの水準を試す中(6月は1バレル50ドルを上回っていました)、エネルギーセクターが1.98%下落して騰落率最下位となりました。同セクターは年初来では11.99%上昇していますが、過去1年間では依然として1.15%の下落となっています。年初来でパフォーマンスが最も好調な配当利回り株は、7月は市場をアンダーパフォームし、電気通信サービスセクターが0.2%の上昇とプラスを維持した一方、公益事業セクターは0.73%の下落とマイナスに落ち込みました。ただし、年初来ではそれぞれ21.86%と20.34%の上昇であり、引き続きパフォーマンスが最も高いセクターとなっています。金融セクターは、業績が概ね改善したことを背景に3.41%反発しましたが、現在の低金利と今後も低金利が続くとの見通しから、 年初来では0.88%の下落で、唯一マイナスとなっています。ヘルスケアセクターは4.86%上昇し、年初来でも4.39%の上昇とプラスに転じています。
7月はS&P500指数が過去最高値を更新する中で 幅広い銘柄が買われ、構成企業中値上がりした銘柄は366銘柄と6月の239銘柄から増加した一方(平均の上昇率は7.03%)、値下がりした銘柄は138銘柄と6月の264 銘柄から減少しました(平均の下落率は3.26%)。7月は、79銘柄が10%以上上昇した一方(平均の上昇率は15.03%、6月は24銘柄)、10%以上下落した銘柄は5銘柄にとどまりました(平均の下落率は13.44%、6月は38銘柄)。また、6銘柄が25%以上の上昇を記録した一方(6月はゼロ)、25%以上下落した銘柄はありませんでした(6月もゼロ)。年初来で値上がりした銘柄数と値下がりした銘柄数の差はさらに広がり、値上りした銘柄は6月の311銘柄から338銘柄に増加し、245銘柄が10%以上上昇している一方(6月の189銘柄から増加)、値下がりした銘柄は6月の193銘柄から165銘柄に減少し、うち76銘柄が10%以上下落しました(6月の104銘柄から減少)。
8月は例年、夏季休暇シーズンが続くため薄商いとなります。決算発表は今後(決算期のずれる)小売企業に移ることになりますが、イタリアの銀行の問題やブレグジット、最近頻発するテロ攻撃など、グローバルなイベントが相場に影響を及ぼし始める可能性があります。米国の政治を巡る喧騒は党大会を終え、焦点が組織と11月8日の本戦に向けた9月からの選挙戦に移行するのに伴い、これまでよりも弱まる可能性があります。とは言え、民主党のデータベースに対するハッカー攻撃の問題や、政治家のあからさまな発言など、政治問題が絶えず話題を集める可能性もあります。
投資家が押さえておくべきポイント
7月の重要なポイントは以下の通りです。
●売上高の増加を背景に企業決算は下方修正された予想を上回り、市場の支援材料となりました。
○大型情報技術銘柄の決算が好調となり、Apple、Alphabet、Amazon、Facebookで業績が予想を上回りました。
●情報技術銘柄が再び時価総額上位10銘柄の多くを占めましたが、こうした話題の裏でYahooも別の意味で話題となっています。
○Exxon Mobilの決算は前年同期比60%減益と市場予想を下回り、原油価格も6月の1バレル48ドルから同41ドルに下落しました。
●経済指標が概ね好調となったことに加え企業の決算とガイダンスを支援材料に、S&P 500指数は7回にわたり終値での最高値を更新しました。
○取引最終日には一時終値ベースで史上最高値を上回ったものの、結局、最高値にもう少しという水準で取引を終えています。
●FOMCの「見通しへの短期的なリスクは低下した」との見解は、「今やブレグジットなど恐れるに足らず」との見方を示すものと受け止められましたが、FRBの姿勢が明確になるには時間が必要です。FRBは9月利上げについて検討していますが、9月利上げを信じている人はいません(一部では12月の利上げが見込まれていますが、12月の利上げも不確かとの見方が大勢です)。
○8月25-27日のジャクソンホールでのシンポジウムでさらなる手がかりが示されるものとみられます(ただし、バーナンキ前議長のかつての発言のような重要性はありません)。
○ブレグジットに対して様子見のアプローチが優勢となる中、政策行動をとる中央銀行はありませんでした。
●原油価格は1バレル40ドルを試す水準まで再び下げ、6月の1バレル48.38ドルから41.48ドルに下落して7月の取引を終え、これにより予想されていたインフレ率への上昇圧力も弱まりました。
●VIX恐怖指数は2対1に分割されたのでしょうか?同指数はブレグジットの最中に26.72を付けた後、7月は11.97で終えました。ちなみに過去の平均は19.8です。
●現在の強気相場は買い疲れも見られつつありますが、「バンドは鳴りやまず」と言う状況にあります。
●米国の2016年第2四半期国内総生産(GDP)は前期比年率1.2%増と、予想の同2.6%増を大幅に下回りました(9月のFOMCでの利上げへのさらなるマイナス材料となっています)。その要因には経済への懸念による企業の設備投資の低迷がありました。ただし、GDP価格指数は2.2%上昇と予想の同1.8%を上回っています。
●クリントン、トランプ両候補のうちのどちらか1名が大統領に就任することになりますが、11月9日には再選委員会が活動を始めることになるでしょう(党内の反発が続くためです)。
●議会構成がカギを握り、中でも「結束」を欠く両党内の議員構成が重要になります。
●非常に残念なことに、テロ行為が悲劇的な結果を招く事態がありふれたこととなっています。
8月のフューチャー・ショック:
過去の実績を見ると、8月は59.1%の確率で上昇しており、上昇した月の平均上昇率は3.91%、下落した月の平均下落率は4.11%で、全体の平均騰落率はプラス0.65%となっています。
FOMCの会合:
9月20-21日※、11月1-2日、12月13-14日※(米国大統領選の投票日は11月8日)、2017年1月31日-2月1日、3月14-15日※、5月2-3日、6月13-14日※、7月25-26日、9月19-20日※、10月31日-11月1日、12月12-13日※、2018年1月30-31日。
※議長の記者会見が通常、米東部時間午後2時30分に行われます。また、四半期ごとの経済見通しの改定が2時に発表されます。
ハワード・シルバーブラット
S&P ダウ・ジョーンズ・
インデックス
シニア・インデックス・アナリスト
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