2016年3月1日時点での主要市場見通し

著者:馬渕 治好
投稿:2016/03/02 11:59

花の一里塚~市場見通しサマリー

2016年3月1日時点での主要市場見通し

 
主要
 

基本シナリオと見通し数値について

 2月に入ってからの、想定以上の内外株価や外貨相場(対円)の下振れを受けて、2/11(木)付のメールマガジン号外で、予想レンジの大幅な引き下げを行なった。その後の世界市場は、上値が重いものの落ち着きを取り戻し、各予想対象資産は、予想レンジ下限を割り込んでも小幅にとどまっている。

 また、大枠のシナリオである、「実態経済動向と比べて現在の主要国の株価や通貨は売られ過ぎであり、年央に向けて適正水準に復する(ないしやや上振れする)が、年後半は再度調整色が強まる」という考え方自体は、全く変わっていない。

 具体的な予想レンジの修正については、2016 年6 月までのレンジについて、足元の国内金利のさらなる低下と、ユーロの軟化を受けて、この2資産について、2/11(木)時点の予想から、予想レンジ下限だけを、引き下げる。

 2016年6月までの予想レンジについて、下記の修正を行なった(下線太字部は変更箇所)。

 なお、2/1(月)時点の前月号見通し⇒2/11(木)付修正見通し⇒3/1(火)付今号見通し、の順で示している。

日経平均株価(円) 17500~23000 ⇒ 1500022000 ⇒ 変更なし
10 年国債利回り(%) 0.0~0.4 ⇒ -0.05~0.4 ⇒ -0.1~0.4
米ドル(対円) 117~130 ⇒ 112125 ⇒ 変更なし
ユーロ(対円) 127~145 ⇒ 125140120~140
豪ドル(対円) 85~105 ⇒ 78100 ⇒ 変更なし

 2016 年12 月までの予想レンジについては、2/11(木)付見通しからは変更はない。下記は同様に、2/1(月)時点の前月号見通し⇒2/11(木)付修正見通し⇒3/1(火)付今号見通し、の順で修正を示している(下線太字部は変更箇所)。

日経平均株価(円) 20000~23000 ⇒ 1900022000 ⇒ 変更なし
10年国債利回り(%) 0.0~0.5 ⇒ -0.1~0.5 ⇒ 変更なし
米ドル(対円) 120~130 ⇒ 117125 ⇒ 変更なし
ユーロ(対円) 130~150 ⇒ 125145 ⇒ 変更なし
豪ドル(対円) 90~110 ⇒ 80100 ⇒ 変更なし

シナリオの背景

・足元の世界市場は、落ち着きは取り戻しているが、依然として実体経済に比べ、主要国の株価も外貨相場(対円)も、売られ過ぎの水準にある。

・1月の世界市場は、中国経済に対する懸念や原油価格下落による資源国景気への不安といった、新興諸国発の動揺であった。ところが2月は、ドイツ銀行の債券利払いや英国のEU離脱を問う国民投票の結果などに対する不安が行き過ぎる、あるいは米国景気のリセッション入りをはやす向きが増える、といった、先進国についての懸念が、市場を揺らした展開であった。

・しかし、欧州については、英国の国民投票は予断を許さないが、ドイツ銀行の件は、同行が一部債券の買い戻しを行なう旨を表明し、資金繰りに余裕があることを示して、騒ぎは収束した状況だ。

・米国経済に対する悲観論も、行き過ぎている。週当たりの雇用者総賃金額(雇用者数×週当たり労働時間×時間当たり賃金)の前年比の伸びを見ると(図表1)、リーマンショックから回復したあとは、安定した伸びを続けており、最近はむしろ伸びがやや高まっている。これが家計を潤し、米国の内需を支える展開となっている。

(図表1)
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(図表2)
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・また、米国株の予想イールドレシオ(予想PER×10年国債利回り)をみると(図表2)、最近大きく低下をみせた。これは、前述のような、米国景気に対する行き過ぎた悲観論から、PERが低下するとともに、長期金利も下がったためだ。しかし最近のイールドレシオの底をみると、2008年12月の底(リーマンショック)から2012年7月の底(スペインを中心とした欧州財政懸念)までが、187週(約3年半)だ。2012年から187週が今年2/26(金)の週に当たる(直近のイールドレシオの最低値は2/12(金)の週)。今後、米景気に対する過度の悲観論が後退し、米国市場でPERと長期金利の上昇(となれば、米ドルも上昇)となって、おかしくない。

・日本株も、依然として売られ過ぎだ。TOPIXの予想PER(予想利益はファクトセットの集計によるもので、現時点の対象決算期間は、たとえば3月決算企業の収益予想を四半期ごとにわけて、2016年1~12月分の合計)をみると(図表3)、安倍政権発足後は概ね13~16倍で推移していたものが、直近では2/12(金)の週に12倍を割れ、現在はぎりぎり12倍台を回復したに過ぎない。予想PERの12倍割れは、図の左部分(民主党政権下)や、リーマンショック時に並ぶ低水準だ。


(図表3)
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(図表4)
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・当初の期待に比べ、米ドル円相場が円高に振れていることや、中国経済の悪化懸念から、国内の企業収益見通しが下方修正されるとの観測が強まっている。しかし(図表3)の予想PERの算出に用いている予想EPS(一株当たり利益)については、既にアナリストの下方修正が含まれつつあるものとなっており(予想EPSの52週前比(ほぼ前年比)の最近の下方修正が(図表4)に示されている)、それでも現株価は割安と判断される、ということだ。

・現在の予想EPSを前提とすれば、日経平均が20000円に達したとすると、予想PERは15.2倍となり、全く割高ではない。ここで、極めて悲観的に、現時点のEPS予想値(前述のように、既にある程度下方修正されている)から、さらに10%の下方修正が加わったと仮定する(とすれば、2016年は、増益ではなく減益ということになる)と、日経平均が2万円の時の予想PERは、16.9倍となる。この水準は割高だが、たとえば2013年5月のピークと比べれば、不可能だと断定するような水準ではない(しかも、さらに10%の利益予想の下方修正が加わるという前提自体が、かなり慎重だ)。

・なお、2/26(金)~2/27(土)のG20財務相・中央銀行総裁会議で、金融政策以外の政策(財政政策や構造改革)の重要性がうたわれた一方、通貨安競争に対する牽制が強く打ち出された。

・もともと金融政策だけでデフレ脱却を実現することに無理があったと考えるが、こうした国際社会の意向を受けて、一段の金融緩和が打ち出しにくくなった可能性がある(そもそも、さらに緩和策を打ち出すとしても、マイナス金利の小幅拡大や、国債、J-REIT、株式ETF等の買い入れ額の小幅増額、あるいは社債、地方債の買い入れなど、細かい策を積み上げるしか手がなく、行き詰まり感は既に強まっていた)。

・日本で追加緩和が行われなくても、前述のように米国経済に対する過度の悲観論が後退し、米株高・米長期金利上昇が進めば、米ドル円相場も120 円を超えてくるものと予想している。しかし、米国の米ドル高に対する警戒姿勢もあって、せいぜい125 円程度が米ドル高・円安の限界になってきた可能性が高まっている。

・一方の財政政策だが、G20とはかかわりなく、国内景気回復のもたつきや、株価の下落などから、安倍政権の経済政策に対する批判は強まっている。7月の参院選も前にして、安倍首相や菅官房長官が、消費増税の再延期をにおわしているとも解釈できる発言を行なっており、今年央までに再延期が打ち出される展開がありえよう(国内株価には好材料)。

・再延期を行なえば、日本の財政に対する信認が薄らぎ、国債相場に悪影響を与える(かつ「悪い円安」が進む)との観測があるが、消費税引き上げを撤廃するのであればともかく、延期にとどまるというのであれば、いたずらに日本の財政に対する懸念が爆発するとは考えにくい。

以上、シナリオの背景。
このあと、前月号(2016年2月号)見通しのレビュー。

前月号見通し(2016/2/1時点)および
修正見通し(2/11時点)のレビュー

日経平均株価
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・1月の安値の後、2月は売られ過ぎから適正水準への株価回復がそのまま始まると見込んでいたが、さらに日経平均は深押しし、見通しを下方修正した。しかし、下方修正後のレンジ下限は、日経平均はごく短期的に小幅割り込んだだけで、底固い推移となっている。

②国内長期金利
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・国内長期金利は、見通しのたびたびの下方修正にもかかわらず、マイナス金利の影響が大きく、レンジを割り込んでいる。今号でも、予想レンジ下限の下方修正を行なった。


③外国為替相場
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・米ドルと豪ドルは、下方修正後の予想レンジ下限は、大きく長く割り込むことはなく推移した。

・ユーロについては、英国でEU離脱を問う国民投票の2016年6月実施が決定し、これが欧州通貨全般に押し下げ圧力となって働いている。また、今月のECBの追加緩和思惑も、ユーロの弱材料となっている。このため、ユーロの予想レンジ下限を、今号で引き下げた。
 

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配信元: みんかぶ株式コラム