2015年10月1日時点での主要市場見通し

著者:馬渕 治好
投稿:2015/10/02 11:49

花の一里塚~市場見通しサマリー

2015年10月1日時点での主要市場見通し

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基本シナリオと見通し数値について

前月号(9/1付9月号)で、見込んでいた短期悲観シナリオが実現したので、これからやはり見込んでいた長期楽観シナリオに入る、と述べた。市場心理は、降ってわいたVW(フォルクスワーゲン)社のスキャンダルや、引き続きの中国経済の悪化などから、脆弱で、たびたび内外株価等の下振れが生じている。しかし米国をはじめとする世界経済(中国を除く)の緩やかな回復基調などを背景に、内外主要国の株価は底値圏形成から、持ち直し傾向を強めていくと考える。外貨の対円相場も落ち着きを増そう。
しかし、何か一つの出来事(政策対応等)で、一気に明るさが増すという展開は見込みにくく、企業ごと、産業ごと、国ごとの格差も明確化しよう。緩やかな実態の改善に沿って、二進一退的な明るい相場を予想する。投資家に必要なのは、「明るく前向きな忍耐」だ。地道な長期投資は報われよう。

具体的な予想レンジの修正については、今年内の予想値について、国内長期金利、ユーロおよび豪ドル相場を、下方修正した。国内長期金利については、依然として日銀による抑え込みが強く働いており、一方で国内景気の回復基調にもたつきがみられ、上昇余地がかなり限られてきたと考える。ユーロはVW問題を、豪ドルは中国経済の悪化を、かなり織り込んでしまったため、現水準からの下値余地はかなり限られていると考えるが、それでも心理的な不安が重石として働きそうだ。

具体的に、2015年12月までの予想レンジについては、下記の修正を行なった(下線太字部は変更箇所)。

日経平均株価(円) 17500~21500 ⇒ 変更なし
10年国債利回り(%) 0.3~1.4 ⇒ 0.3~1.0
米ドル(対円) 115~127 ⇒ 変更なし
ユーロ(対円) 130~155 ⇒ 130~150
豪ドル(対円) 85~110 ⇒ 83100

2016年6月までの予想レンジについては、全く修正はない。

シナリオの背景

9月号で述べたシナリオとの重複を避けながら、主要国の投資環境を点検してみよう。

米国では、連銀が9月FOMC(連邦公開市場委員会、9/16~9/17)で利上げを見送り、しかも声明や議長の記者会見で、中国をはじめとした新興国経済の状況をリスクとして強調し過ぎたため、連銀が中国経済を懸念しており、そのため年内の利上げができないのではないか、との不透明感を招いた。これが米国株価や米ドルに対して、上値を抑える方向で働いたが、その後イエレン議長は9/24の講演で年内利上げの可能性を強く示唆したため、そうした不透明感はかなり抑え込まれている。
もともと、米国経済の基調は堅調だ(図表1)。主要な経済指標は昨年と今年、冬場の一時的な落ち込み(楕円で表示)から持ち直す、という展開を見せている。米ドル高の影響で、輸出向け生産が抑制され、鉱工業生産はやや不振だが、内需が堅調だと言える。こうした景気の腰の強さが、たかだか一度の利上げで崩れるとは見込めず、また連銀も2回目以降の利上げは慎重に、かなり先になって行なうこととなろう。

(図表1)
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(図表2)
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また、これまでの連銀による3度の量的緩和の結果、洪水のように米ドルが世界に余りまくっているため、連銀が引き締めに向かえば、あっという間に余剰資金が干上がって、世界市場は混乱に陥る、と騒ぐ専門家が後を絶たない。
しかし、これまでのM2(経済全体に出回っている資金量)÷ベースマネー(マネタリーベースに同じ、中央銀行が散布した資金量)の比率をみると(図表2)、(日本もだが)米国では長らく低下傾向にあった。これは、米国で連銀が、金融機関が保有する国債等を買い取り、銀行に資金をつぎ込んだが、景気回復が緩やかだったため融資があまり伸びず、銀行に資金が滞留して、経済全体に出回りにくかったためだ。すなわち、米ドルの余剰資金が世界にあふれている、というのは幻想であり、連銀が多少引き締めても、世界の金融環境はほとんど揺れ動かないだろう。


逆に、QE3が終わった後の最近になって、M2÷ベースマネー比率は、米国でじわっと持ち直している。前述したように、中央銀行が資金を撒いたからといって景気がよくなるわけでも資金が経済全体に出回るわけでもないが、米国の景気が徐々に明るさを増し、その結果として融資が伸び始めているため、現在連銀がベースマネーを減らしている(米国のベースマネー前年比は、2015年6月、7月、8月と、3か月連続でマイナス)にもかかわらず、M2が増えているからだ。
すなわち、連銀がどうするかではなく、景気が自律的に良くなった結果、資金が出回り始めており、この点でも、連銀が利上げすれば資金が枯渇するかのように騒ぐのは、全くの的外れだと言えよう。

ただし、米国で留意すべきなのは、ジャンク債(格付けが投資適格級ではない、BB+以下の格付けの債券)市場が崩れ始めていることだ。すなわち、米国国債との利回り差が拡大し始めている(相対的にジャンク債の価格が下落し始めている)(図表3)。リーマンショックの反省を受けて、金融機関にリスクの高い投資を行なわせないことを目的として、ボルカールール(本年7月発効)が制定された。このボルカールールにより、金融機関が高リスク社債の保有を減らしており、このためジャンク債の売買高が薄くなって、少ない売り物で大きく価格が下落する、すなわち皮肉なことに、市場リスクがかえって高まる事態となっている。
これにより、ジャンク債に投資を行なっている年金、保険、投資信託といった投資家に損失が発生する恐れが強まっている。一方、米国の低金利を享受し、低コストで資金を調達しようと、ジャンク債を発行した米国並びに非米国企業は、新規のジャンク債による資金調達が難しくなっている上、過去に発行したジャンク債の借り換えに困難をきたし、資金繰り倒産する可能性も否定できなくなっている。

(図表3)
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中国については、1)景気が悪くなったのは最近のことではなく、既に2014年辺りからずっと悪く、それを今さらのように市場が騒いでいること、2)また中国経済悪化が、たとえば日本経済に与える悪影響があるが、日本から中国向け輸出には中間財(電子部品や液晶の部材など)が多く、それを中国国内で組み立てて他国(米国など)に輸出している場合、最終需要国の景気が悪くならなければ、日本からの輸出に影響が乏しいこと、などを、9月号で述べた。同じことを繰り返すのも煩雑だと考えるので、9月号を参照されたい。
ただ、前者1)(今さらのように市場が騒いでいる)というのを図示したのが(図表4)だ。述べたように、昨年からずっと中国経済は悪化していたのに、当初市場(と専門家)は、「中国経済は順調だ」と楽観視し、最近になって悪化が明確化しても「中国政府が景気対策、株価対策を打つから大丈夫だ」と語っていた。このため、誤って楽観に振れた市場価格と、中国経済の実態とのかい離がかなり広がってしまった。それが今さら「チャイナショックだ」と騒ぐことで、両者の開きがほぼ解消された、というのが現状だろう。
この点では、今後も中国経済の悪化は続こうが、それが市場に及ぼす影響は、かなり小さくなるものと見込まれる。今後は、米国は米国、日本は日本の、それぞれの経済実態が市場を動かす材料としては上回り、それぞれの実態に沿った市場動向となっていこう。

(図表4)
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そこで、日本経済の現状をみると、もたついていることは事実だ。7~9月期の実質GDP(11月16日発表予定)は、前期比が2期連続のマイナスになる可能性がささやかれている。この背景は生産の伸び悩みであるが、輸出の不振が影を落としているとみられる。実際に輸出数量の前年比をみると(図表5)、勢いを失っている。
輸出が伸びない要因として、生産拠点の海外移転が進んだ、輸出企業が売上数量増より採算改善を狙って輸出価格を下げない、など、様々な説が囁かれている。ただ、家電等を中心に、日本製品が、過剰な高品質で不要な機能が多くついているなど、ユーザーの意向から離れている一方、高価格のため、円安でも需要が伸びない、という指摘もあり、傾聴に値すると考えている。
それでも、インフラなど日本の高品質さが活きる分野はあり、政策的にもインフラ輸出を支援しようとの動きが強まっているため、期待したい。

個人消費については、雇用市場をみると、失業率の低下という明るい材料がある一方で、所定外労働時間(残業や休日出勤の時間)の前年比がマイナス圏に沈んでいる(仕事量の伸び悩みを示唆している)。その明暗相反する指標のどちらが勝っているのかをみるため、「雇用元気指標」を作成してみた(図表6)。


(図表5)
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(図表6)
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この元気指標は、過去の景気後退期(丸印)には明確にマイナス圏に落ち込んだものの、それ以外の時期にはプラスで推移しており、景気の好悪をはっきり示す指標だと言えよう。この指標は、最近はなんとかプラス圏にあるうえ、失業率の低下効果が勝ってやや上向きになってきており、雇用の改善基調は崩れていないと判断できる。

今年、来年と、消費増税なしの所得増が見込まれるため、内需中心に日本経済は緩やかな持ち直し基調を維持しよう。企業収益の今期増益が覆るようなことも予想しがたく、国内株価は不安心理(と外国人短期筋の売買)に振り回されながらも、二進一退的な改善を続けよう。

ちなみに、依然として日銀の追加緩和や大規模な景気対策を期待する声が聞こえるが、足元は円安による輸入物価上昇が、家計や企業のマインドを傷めやすい状況にあり、政府も日銀に追加緩和を求める姿勢ではない。安倍首相が自民党総裁再選時に打ち出した「新三本の矢」も具体性を欠いている。
もともと、目の覚めるような経済対策などはありえないのだから、政策発動による株価の急騰などは、夢であっても期待しない方が賢明だろう。

以上、シナリオの背景。
このあと、前月号(2015年9月号)見通しのレビュー。

前月号見通し(2015/9/1時点)のレビュー

日経平均株価
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・9月の日経平均株価は、不安心理がなかなか払しょくできず、一時予想レンジ下限を下回ったが、そこから切り返しをみせている。今後も、極めて短期的に小幅に、予想レンジ下限を割り込む展開は否定できないが、概ね底固めから上値をうかがう動きに転じよう。

②国内長期金利
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・国内長期金利は、予想レンジ下限に這いついたままだ。国内経済指標にもたつき感が強まっていることもあり、予想レンジ上限を下方修正する。

③外国為替相場
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・9月は、米ドルとユーロは予想レンジ内での推移となったが、豪ドルはたびたび下限を割り込んだ。
・ユーロ圏景気は悪化というより低迷に近い状況で底固く、ユーロ相場も下限を割り込む可能性は薄いだろう。ただし一方で、VW社のスキャンダルがドイツ経済に与える影響や、中東からの移民問題など、ユーロ相場の重石になりそうな材料も多く、予想レンジの上限を下方修正する。
・豪州については、市場が中国向け輸出の先行き不安を過度に懸念しており、売られ過ぎの状態にあると考える。ただし、今後も市場が中国懸念を理不尽に騒ぐ恐れは否定できず、予想レンジを下方修正する。ただし2016年の予想は修正しない。

(以上)

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配信元: みんかぶ株式コラム