長期展望、日経平均長期上昇シナリオは終わったのか?

著者:武者 陵司
投稿:2015/09/28 14:18

ミラー*: 『長期展望、日経平均長期上昇シナリオは終わったのか?』ということでお話を伺いたいと思います。今、この不確実な中で、世の中どのように見ていったらよろしいでしょうか?

長期展望、確かな3つのメガ・トレンド

武者: この不確実な中で、世の中をどのように見ていったらいいのか。中国情勢の展開は予断を許さない。非常に大きな不確実性・不透明性がある。但し、そういう時期には、わからないことはわからない、しかし、確かなことは確かということを、きちんと分けることが必要だ。確かにわからないことは沢山あるが、ほぼ確実なメガ・トレンドというのもある。このメガ・トレンドをベースとして、色々な物事を考えていくと、将来の輪郭が浮かび上がってくるであろう。

第一のメガ・トレンドは、米国の力強い経済回復、長期繁栄、これは変わらない。人々は懐疑的だが、米国が再び世界のスーパーパワーとして力を取り戻すという局面が、非常に近い将来やってくる。これは、ほぼ間違いないと思われる。リベラルデモクラシーのリーダー、世界金融の中心かつインターネット・情報化革命の最先端でイノベーションが起こっている米国の将来は明るい。

第二のメガ・トレンド、それは日本の復活である。世界の他の国の名目GDPが3倍、4倍と成長する中で、日本だけが名目GDPが過去20年間、500兆円と全くの横ばい、まるで麻痺にでもかかったように成長が止まり、失われた20年となった。他の国がどんどん成長している中で、日本の時代は終わったように見られていたけれども、この日本が20年間の雌伏を超えて、大きく復活・飛躍しようとしている。これは、もう間違いないトレンドだろう。

今後の世界成長の推進力は中国主導の(開発独裁による)モノの成長から、より民主主義的な下からの需要創造、生活の質の向上にフォーカスした成長モデルになる。それは技術、品質、安全、快適といった要素に限りない価値を置く、発展のパターンであり、雌伏の20年の間に、日本が古いモデル(導入・模倣技術と価格競争を上からの開発独裁的手法によって成し遂げた)から抜け出し、新たに確立したモデル(品質・技術優位、customer satisfactionに対する忠誠)によって提供する財、サービスが大きく価値を高める時代となるだろう。

いずれ議論したいが地政学的観点からも、中国の時代の終焉は日本のプレゼンスが高まる時代と言っていいと思われる。

そして三つ目のトレンドは中国の衰弱、そして新興国の中に大きな下剋上が起きるということである。過去10年間の世界経済の最大のサプライズは中国の劇的な台頭であったが、いよいよこの中国の台頭が終焉し、衰弱した後、一体誰が埋めていくのかという新しい国際分業の姿が、模索されていくと思われる。ということは、中国が衰弱したから世界がダメになるということではなくて、中国の代わりに新たなプレーヤーが生まれる。


ミラー: 中国のこの混乱における日米への影響というのは、かなり限定的なのでしょうか?影響を受ける国もあるけれども、日米はそんなに影響を受けないということなのでしょうか?

武者: 中国のこの混乱は、マイナスとプラスの二つの影響を世界に与えると思われる。第一は、中国によって恩恵を受けていた国がダメージを受ける。その影響が一番大きなグループは、やはり資源国、ブラジル、オーストラリア、あるいは多くの産油国。中国に資源を供給していた国はこれによって、リセッションになるという可能性があり得る。産経新聞が報じた2013年の輸出の対中依存度は、アフリカ(アンゴラ44.5%、コンゴ共和国53.8%、スーダン31.5%、コンゴ43.7%、南アフリカ32.0%)、中東(サウジアラビア13.9%、イラク19.7%、イラン26.8%、オマーン38.2%、イエメン29.4%)、中央アジア(カザフスタン22.7%、モンゴル90.0%)、ラテン米国(ブラジル19.0%、ペルー17.8%、チリ24.9%、ウルグアイ21.9%、キューバ15.2%)、オセアニア(オーストラリア36.1%、ニュージーランド20.8%)、と圧倒的である。

それから、中国に製品輸出を大きく依存していた国もダメージを受ける。例えば、韓国(対中輸出比率26.1%)、シンガポール、香港は言うまでもなく、台湾(27.1%)、マレーシア(14.2%)、等もそうかもしれない。端的に言うと、グレーター・チャイニーズ。華僑資本が影響力を持っているような国。このような国は中国とタイアップして繁栄をし続けてきたので、中国の経済の悪化だとか地盤沈下、あるいは中国における不良債権の増加、中国に対して貸していたお金の焦げ付きなどが起きることによって影響を受けるだろう。

しかし、他方で中国が沈むことによって相対的に浮上する国、その代表はインドであろう。インドの非常に多くの雑貨類、例えば、衣料、おもちゃ、スポーツ用品などの雑貨類は圧倒的に中国から輸入している。本来、新興国で成長していくためには、様々な製造業を自分の国でやらなければならない。しかし、インドは最初の離陸をサービス業、ソフトウェア産業で行ったということで、製造業においては産業基盤があまり整っていなかった。従って、増えた需要に対して供給が増加したのは、中国からの輸入なのである。しかし、これを今度は国内に切り替えるということになると、中国の地盤沈下はインドの産業集積を可能にする。似たようなことがベトナムでも起ころうとしている。

それからもう一つは、中国が世界の成長資金を一手に集めていた。この中国に集中していた成長資金が中国以外のところに行くとなると、それは米国、日本、欧州の先進国である。そうなると、中国に代わって先進国の国内需要が世界経済を引っ張ることになる。換言すれば中国がハードの投資で世界需要創造に貢献してきたわけであるが、それが先進国の需要創造に肩代わりされなければならない。一体、どこにその資金が投入されて成長するのか?恐らく、先進国は中国とは違って、もはやハード、モノの成長ではなくて、多くはサービスの成長。サービスを充実させることで、より人々が豊かな生活をするという新たな成長の領域に入っていくと思われる。このように米国、日本、欧州、先進国におけるサービスの成長、人々の生活水準の一段の向上、これが世界経済を引っ張るとすれば、このような先進国は新たな成長領域を見出すということになる。そして、このサービスの成長というのは、言うまでもなく、インターネット、人工頭脳という劇的な技術革新に見合う新たなライフスタイルと産業イノベーションを引き起こすということになる。


このように中国経済の悪化、衰弱は、一部の国の地盤沈下と、別の国の大きな発展をもたらすという二つの可能性を秘めている。中国の地盤沈下の悪影響を受ける国は、当面警戒しなければならないが、恩恵を受ける国で一時的にマーケットに波乱が起きるような場面は、絶好の投資チャンスということもあり得る訳で、その代表が日本であると考えられる。① 日本は、対中輸出依存度(含む香港)は22%と高いが、輸入依存度は24%とさらに高く年間2兆円の貿易赤字を抱えており、対中貿易減少は国内生産の増加に結び付く可能性が大きいこと、② 対中輸出品の大半は資本財、中間財で、中国で生産しても最終需要地は欧米であり、中国需要の悪化には影響されない(人民元が切り下げられてもダメージは小さい)こと、③ 対中輸出のピークは2005年であり、過去10間微減傾向であり、早くから脱中国が進められていたこと、などの事情がある。

日経平均長期上昇シナリオは終わらない

ミラー: 当面のマーケットはどのように見ていったらよろしいでしょうか?

武者: 今起こっている中国の混乱は、リーマンショックあるいはアジア通貨危機で見られたようなスパイラル的な金融危機にはならないだろう。中国ではバブルが崩壊したり、あるいは、いずれ人民元が急落をしたりという混乱は避けられないが、そのようなことが起こっても、問題が限定的だと思うのは、中国に対する融資・投資は一部の華僑系資本に限られており、あるいは先進国、米国、日本、欧州の金融機関などはそのための防火壁を既に設置しており、ほとんど影響を受けないであろう。では、中国経済がどんどん弱くなったら、世界経済は大変なリセッションになるかと言うと、たとえ一時的な減速になっても、米国、日本などの景気の足腰は強いし、中国に代わって浮上する新興国も出てくるとすれば、それも考えられない。また今年に入ってからの新興国通貨下落、世界株安で中国リスクは既に相当織り込まれ、更なるbad newsには耐性がついていると見られる。つまり、混乱はあっても長期的な世界経済の成長のシナリオは不変であるとすれば、一旦大きく下落をした株価などは、大きくリバウンドをすることも起こり得る、と言えるだろう。

短期的なことを言えば、恐らく中国の混乱に対して、主要国では協調して景気対策を打ち出すと考える。米国の利上げの先送り、必要なら第二弾、第三弾の量的金融緩和、主要国で財政政策による需要創造、等々である。他方、中国は中国で緊急避難対応により、強権的な景気対策、そして市場誘導、操作をする。株価の暴落が止まり、これ以上の元安の可能性も否定され、他方で、相当な財政出動などによって足元の景気を押し上げるということがあると、一時的にマーケットは黒い雲が晴れたということで、世界株価は大きくリバウンドをすることがあり得る。恐らく、この間の急落で、だんだん底値圏が固まってきた。そこに不安の解消が加わると、株価はリバウンドをして暴落前の高値を抜いていくかどうかは別として、それに近いところまで戻るということは起こり得る。

但し、そういうことが長く続くかと言うと、恐らく中国の第二弾の混乱が、いずれやってくる。小康状態が終わり次の事態の悪化、例えば中国の輸出の更なる落ち込み、生産活動の一層の低下、中国の金融緩和が上手く機能せず不動産価格が再び暴落を始める、外貨準備の減少が続き人民元の相当の切り下げが不可避だ、等が起きると、もう一回ドスンと来るというようなことも起こり得る。その時に世界の他の国は、中国の影響はもはや限定的であるというように言えるところまで行っているかどうかによって、大きな底割れ無しに長期的な持続成長に入れるのか、もう一回ちょっと底を探りに行くような動きになるのかというようなことが起こるのではないか。つまり、短期的には非常にバンピーな動きとなるので一方方向の下落に賭けることも、一方方向の上昇に賭けることも危険が大きい。しかし、非常に大きなトレーディングのオポチュニティーが、そこに存在する。そして長期投資家は、売られたところは絶好の買い場と考えて買えばよいということになる。日経平均は短期的にはずっと上昇を続けるという一方方向の上昇シナリオは修正せざるを得ないけれども、恐らくこの問題がかなりスッキリしてくる半年、一年先には長期上昇軌道に乗っていく可能性は充分にあるというように思われる。

ミラー/武者: はい。ありがとうございました。

* ミラー和子 武者リサーチディレクター

配信元: みんかぶ株式コラム