花の一里塚~市場見通しサマリー
2014年9月1日時点での主要市場見通し
基本シナリオと見通し数値について
米国を中心とした世界景気の持ち直し傾向に大きな変化は生じておらず、基調として内外株価・長期金利の上昇と、外貨高・円安を、引き続き予想する。
ただし、欧州景気の低迷によるECBの追加緩和思惑などにより、欧州長期金利が低下し、これが日米の長期金利抑制要因の一つとなっている。また国内においては、消費増税後の景気の持ち直しに、もたつきが目立ち始めている。
2014年12月までの予想レンジについては、国内長期金利に関しては想定を超える低金利の長期化が生じ、当方の予想が外れ続けている。繰り返しの修正になるが、見通しを下方修正する。国内株価、米ドル、豪ドルは、足元の堅調推移(上値も重いが)により、下値リスクが若干低下したと考え、予想レンジ下限を引き上げるが、変更は小幅にとどめる。
2015年6月までのレンジについては、変更は全くない。
2014年12月までの予想レンジを、前号(8月号)から次のように修正した(下線太字部は変更箇所)。
日経平均株価(円) 14900~19000 ⇒ 15000~19000
10年国債利回り(%) 0.52~1.5 ⇒ 0.47~1.3
米ドル(対円) 97~110 ⇒ 100~110
ユーロ(対円) 130~145 ⇒ 変更なし
豪ドル(対円) 90~115 ⇒ 92~115
シナリオの背景
・米国を中心とした、世界経済の持ち直しシナリオは、修正する必要はないだろう。実際、米国の主要経済指標は緩やかな景気回復(右肩上がり基調)を示している(図表1)。
(図表1)
・こうした米国経済の足腰の確かさが、米国株高・米ドル高の要因となっている。加えて相対比較でユーロ圏の景気低迷が目立ってきている。これまで自国の経済の実力に比べ、安すぎるユーロ、低すぎる金利を享受してきたドイツ経済でさえ、企業の景況感に陰りが生じている(図表2)。ECB(欧州中央銀行)が、年内に量的緩和など追加緩和に踏み切る可能性も高まっている。このため、欧州株・欧州債・ユーロから米国株・米国債・米ドルへの資金シフトが生じていると推察され、「米国一人勝ち状態」とも言える状況だ。
(図表2)
・米国に傷があるとすれば、政治情勢だ。オバマ大統領の支持率は低迷しており(図表3)、11月4日の中間選挙では、上下院ともに野党共和党が制する可能性が高いと見込まれている。しかしそうした結果となったとしても、現在の上下院間でのねじれが、議会と大統領のねじれになるだけだ、という考え方ができる。また、民間の企業や家計の間には、幸か不幸かもともと政策期待はなく、米国の政治情勢が、米国経済や市場の悪材料にはなりそうもない。
(図表3)
・こうした欧米先進国の状況に対し、新興諸国の株価・通貨は、底固めから反発をうかがう情勢となっている(図表4、これは円換算後の株価指数の動きであるため、各国の株価と通貨相場の両方が反映されている)。
(図表4)
・ただし、既に相当市場に織り込んだとはいえ、地政学的リスク(ウクライナ、イラク、イスラエル、西アフリカ情勢等)が根強く残るうえ、ブラジルなど一部主要国の景気減速が強まっている(ブラジルの株価・通貨自体は、10月5日が第一回目の投票である大統領選挙での政権交代期待から堅調だが)。したがって、新興国市場の好転地合いを予想はするが、その歩みは恐る恐るとしたものとなろう。
・ここで日本国内の状況に目を向けると、消費増税後の経済指標は、決して悪化一方などという状況にはないが、持ち直しの速度は遅いと言わざるを得ない(図表5)(※1)。
(図表5)
・外国人投資家のうち、マクロ系ファンド(マクロ経済統計に着目し、日本全体として買いか売りかを判断する資金)が、経済統計の弱さに警戒心を持ち、大型株の買いを控えていると推察される(決して、弱気(売り)基調に転じたわけではない)。
・この点で、9月3日の内閣改造後に策定が期待される、追加の経済政策が注目されるだろう。ただし、経済政策に、一気に株価を高騰させるような「バズーカ砲」は見込めない。
・しばしば「安倍政権は株価を押し上げたいので、株価が上がるような政策を打ち出すに違いない」との声を聞く。それ自体が誤りだとは言わないが、政策さえ打ち出せばすぐに株価が上がるのであれば、とっくに株価押し上げに成功しているだろう。株価は安易に押し上げることができるようなものではない。
・GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の株式保有比率引き上げが、株価押し上げ策として有効だ、との見解も多いようだ。しかし、GPIFは、短期間に一気に株式を買い上げるわけではないだろう。そもそも、国民の年金資産を有効に運用する、という観点からは、自分の買いで株価を押し上げてしまう(高値買いをする)ようでは失格だ。運用面からは、株価を押し上げないよう、慎重に時間をかけて下値を拾うべきだろう。
・日銀の追加緩和を、株価上昇(並びに円安)材料として挙げる向きも多い。筆者は、追加緩和はない、という見解を昨年来維持してきたが、足元の国内景気の弱さから、日銀がいずれ追加緩和に「追い込まれる」可能性がゼロではなくなってきたように考えを変えている。
・しかし、追加緩和があっても、株価の大幅上昇はないだろう。まず量的緩和の効果としては、経済全体に資金余剰にする効果があるはずだが、日銀が国債等を大量に買い入れて民間銀行に資金をつぎ込んでも、景気低迷のため銀行から貸し出しなどの形で資金が流れ出しにくく、経済全体としては株価が押し上がったり、国内からの資金流出で円安になったりするような状況ではない2。
・もう一つの効果としては、企業や家計の心理に働きかけるというものだ。日銀が景気が良くなり物価が上がる、と唱え続けることで、企業や家計が(仮に日銀にだまされたのだとしても)物価が高くなる将来より今のうちに買ってしまおう、と設備投資や消費を増やすことにより、実際に景気が良くなってしまう、という効果だ(かなり危ういと思うが)。日銀高官ですら、こうした心理効果(期待の形成)を重視する声がある3。しかし、昨年4月の最初の「異次元の緩和」時すら、5月下旬までの心理的な株高・円安効果は、6月半ばにかけて消え去ったのに、もし追加緩和をしたとしても、「二匹目のドジョウ」がいるだろうか?
・とすると、今後打ち出される経済政策について、「バズーカ砲」を期待するのは禁物だ。これからの経済政策の主力は成長戦略になると想定され、成長戦略はその性質上、個々の産業・企業向けの策となる。こうした策が地道に積み上げられ、景気拡大・企業収益増効果が地道に表れてくることにより、株価も地道に緩やかな上昇軌道をたどる、と考えるべきだろう。
以上、シナリオの背景。
このあと、前月号見通しのレビュー。
※1 特に8月の自動車販売台数(軽自動車を除く)の下振れが大きい(とは言っても、4月の水準を下回ったわけではない)。この統計は「販売台数」と言いながらも、実際には陸運局に登録してナンバープレートを受け取った自動車の数だ。したがって、3月までに消費税5%で駆け込みの販売契約を済ませ、4月以降に登録され受け渡しが行われた車が、一巡したものと想定される。
前月号見通し(2014/8/1時点)のレビュー
・8月の国内株価動向については、レンジ下限に近い推移となったが、予想下限は良く機能した。株価は国内景気動向に対する疑念などから上値が重いが、一方で底固さも増しており、予想レンジ下限を慎重に若干だけ上方修正する。
②国内長期金利
・このところ、国内長期金利のじわじわとした低下が、全く予想できていない。予想レンジを下方修正するが、長期金利が下がりすぎである、という見解自体は維持する。
③外国為替相場
・3通貨とも、予想レンジ内での推移となったが、米ドルがレンジ中央から強含み、一方ユーロが弱含み、豪ドルはややレンジ下限に近いところから強含む展開となった。これは各国・地域の経済状況を素直に反映していると考える。
・米ドル、豪ドルの下値がやや堅くなったと判断し、予想レンジ下限を上方修正するが、慎重に修正は小幅とする。ユーロは実態面からの下値リスクがまだ高いと考え、予想レンジの修正は行なわない。
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