2014年8月1日時点での主要市場見通し

著者:馬渕 治好
投稿:2014/08/04 11:03

花の一里塚~市場見通しサマリー

2014年8月1日時点での主要市場見通し

★表

基本シナリオと見通し数値について

引き続き、世界的な経済環境の緩やかな好転を予想しており、内外株価の上昇、全般的な外貨高・円安といった見通しに変更はない。
リスク要因としては、地政学的リスク(政治体制の不安定化、内戦など)と米国長期金利の急速な上方修正を警戒する。ただし、地政学的リスクはかなり場にさらされた感が強い。先月末にかけて、米GDP統計の強さが引き起こした米金利上昇懸念が、今後さらに強まるかは予断を許さないが、もし筆者の懸念通り急速に長期金利が跳ね上がったとしても、金利上昇の要因が米国経済の堅調な回復にあるため、短期的な波乱がかなり大きくなった場合でも、前述のような長期シナリオが覆るには至るまい。

2014年12月までの予想レンジについては、国内長期金利の低迷を受けて、レンジ下限だけを小幅下方修正する。他資産については(やや慎重過ぎるとは考えるが)予想レンジを変更しない。
2015年6月までのレンジについては、変更は全くない。

2014年12月までの予想レンジを、前号(7月号)から次のように修正した(下線太字部は変更箇所)。
日経平均株価(円) 14900~19000 ⇒ 変更なし
10年国債利回り(%) 0.5~1.5 ⇒ 0.52~1.5
米ドル(対円) 97~110 ⇒ 変更なし
ユーロ(対円) 130~145 ⇒ 変更なし
豪ドル(対円) 90~115 ⇒ 変更なし

シナリオの背景

・米国を中心とした世界景気の持ち直しシナリオには、変更はない。ただし欧州については、ウクライナ問題を巡る対ロ制裁の強化が、ロシア経済の悪化を進め、それが経済的な結びつきが強い欧州諸国にブーメランのように振り戻る可能性は否定できない。東欧諸国(ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア等)や、ポルトガルなど南欧諸国における、金融機関の経営問題も気になるところだ。もし欧州で、景気・金融に多大なリスクが発生する場合は、ECB(欧州中央銀行)などが、追加緩和等、迅速に対応策を打ち出すだろう。したがって、欧州地域が深刻な事態に陥るとまでは見込む必要がないだろうが、景気・金融情勢の悪化、追加緩和のどちらにしても、ユーロ安要因であり、継続してユーロ相場の下振れには警戒的に臨みたい。
・中国経済については、当レポートでは、長期的展望はともかく、短期的には中国景気の急速な悪化説に対して否定的な見解を述べてきた。実際、足元で比較的堅調な中国マクロ経済統計の発表が増えていることから、ようやく市場が筆者の見解に追いついてきたようだ(それでも、中長期的な中国経済の行方は、悲観的に見込んでいる)。
・日本経済に関しては、後述するように、6月分の経済統計について悪化したものが目立つ。ただしこの背景には天候要因が大きく、消費増税の悪影響は、4月を最悪期として一巡しつつあると言える。

・こうした点から、たとえば来年央にかけては、世界的な株価上昇、外貨高・円安傾向を想定する。
・ただし、そうした明るい市場動向は、一直線にはもたらされにくいだろう。具体的な警戒要因として、以下2つの点を指摘したい。


1)地政学的リスクと米長期金利急上昇リスク

・このところ湧き起った地政学的な不安定要因(ウクライナ情勢、イラク内乱、イスラエルのガザ侵攻に加え、アフリカ地域でもリビア等で不穏な情勢となっている。
・金融面では、ポルトガルの大手銀行エスピリト・サントの経営不安や、アルゼンチン国債のデフォルト問題などが、懸念を呼んでいる。
・しかしこれらの諸問題は、既に市場にさらされた感が強く、楽観をけん制する方向で働くことがあっても、世界市場をさらに混乱させるとは見込みにくい。

・このため、米長期金利が急上昇するリスクを、引き続き警戒したい。足元の米長期金利の上昇は、7/30(水)発表の4~6月の米GDP統計が、予想外に強かった(実質GDPが前期比年率で4.0%増と、市場の事前予想の3.0%増を上回った)ことによるものである。また、当レポートの前月号(7月号)でも取り上げたように、米国の経済指標から推し量れば、10年国債利回りが3.5%近辺でもおかしくはない。すなわち、足元始まったかもしれない米長期金利の上昇がさらに進行しても、それは米景気の堅調さによる、低すぎる金利水準から妥当な金利水準への正常化に過ぎず、過度に懸念する必要はない。

・しかし、相場は往々にしておとなしくは動かない。米長期金利の正常化が異常に速いスピードで進んだ場合、他市場も巻き込んだ混乱に陥るリスクは高い。実際、7/31(木)の米国株の大幅下落の背景には、金利上昇懸念があったと推察される(※1)。
・為替市場では、現時点までは、米長期金利水準の上昇がインカムゲイン拡大(償還までの利回り益上昇)期待を招き、米ドル高を引き起こしている。しかし長期金利の上昇
(長期債価格の下落)スピードが速くなると、キャピタルロス(債券価格の値下がり損)拡大懸念に市場の見解が化け、米ドル安に向かう可能性が否定できない。

・加えて、最近の米長期金利の低迷により、より高い利回りを求める資金が、社債(特に利回りが高い低格付け債)に流れ込んでいたと推察される。BBB格社債(BBB格は低格付け債ではないが)と国債の利回り格差(ともに10年物)をみると(図表1)、社債が買い上げられたことにより格差が大きく縮小していた。すなわち、社債相場に過熱感が生じている。ここで長期国債利回りが跳ね上がれば、社債市場も激震に陥るリスクがあると懸念される。

(図表1)
★図表1

・前述したことの繰り返しになる部分はあるが、米長期金利の上昇速度が速かったとしても、金利の上昇自体は米国景気の強さによるものであり、本来悪質なものではない。また、筆者が懸念しているような、急速な金利上昇が生じず、緩やかな変化にとどまる可能性もある。
・また、社債市場については、本来、景気回復は企業財務の改善を生じ、格付け引き上げ要因であるため、長期国債利回りが急速に跳ね上がって短期的に社債市場が混乱に陥ったとしても、中長期的には社債・国債利回り格差が縮小することが自然だ。
・したがって、仮に長期金利の急速な上昇により、米国株価や米社債価格が大幅に下落することがあれば、価格の落ち着きを見て投資のチャンスとなるだろう。

※1 7/30(水)のGDP統計が強かった点は、景気の好調さを示すものであるため、本来は米株価上昇要因であるが、それにもかかわらず当日の米株価指数が前日比でほぼ横ばいとなったのは、やはり長期金利の上昇が株価の頭を抑えたためと考えられる。


2)国内株価は8月は夏休みか

・国内株価は、決して悲観視する必要はないが、8月は小休止ないし小幅下押しとなる展開を見込んでいる。

・まず、政治・政策面からの材料が乏しい。現在国会は休会中であり、9月上旬ともみられる内閣改造・党人事を前に、現政権は本格的な政策発動には取り組まないだろう。

・国内経済指標は、自動車販売台数などからみると、4月を最悪期として持ち直しに入りつつあると見込むが、5月から6月にかけて再悪化したかのように見えるデータも多い
(図表2)。

(図表2)
zuhyo2

・ただし小売店の6月の販売不振は、ゲリラ豪雨が客足に影響したことと、気温が例年に比べ低く、夏物商戦が不振であった点が大きい。そうした最終需要の頭打ちが、生産調整につながった面もあるだろう。この点では、先行きを余り悲観視する必要はないが、足元の経済データが、国内株価を押し上げる材料として働くことも難しいと言えるだろう。
・現在の4~6月の企業決算発表も早晩一巡し、その後当面は国内株価が動意づく材料に欠ける。米国発の波乱の可能性を除けば、8月の国内株価は、本格的な夏休み入りするものと懸念されるのである(※2)。

以上、シナリオの背景。

このあと、前月号見通しのレビュー。

※2 その一方で、企業実態がよい銘柄をじっくりと下値で拾う好機とも言える。8/7(木)に、JPX400指数の銘柄入れ替えの発表が予定されており、企業実態に投資家の眼が向きやすい(外国人投資家も、全体論より、個別銘柄の選定に注力)。

 

前月号見通し(2014/7/1時点)のレビュー

日経平均株価
r1

・7月の日経平均株価は、予想レンジ下限近くから、じわじわと強含む展開をみせた。今後のトレンドも上昇方向と予想するが、短期的に下振れするリスクが残るため、予想レンジは変更しない。

②国内長期金利
r2

・国内10年国債利回りは、内外景気の回復や株価上昇、円安などを全て無視し、相変わらず低水準に張り付いている。レンジ下限を割り込んでおり、若干予想下限を引き下げる。


③外国為替相場
r3

・3通貨とも、動意に乏しい展開が続いている。ただ、そのなかで、米ドルが強含み、ユーロが弱含んだ点は、実態に沿ったものと解釈できる。
・現在の米長期金利上昇→米ドル高の流れが、どこかで変質する可能性は否定できない。中長期的には全般的な外貨高・円安を予想するが(ただしユーロは相対的に警戒)、短期的に外貨相場が対円で下振れする展開を含んで、予想レンジは変更しない。

(以上)

配信元: みんかぶ株式コラム