花の一里塚~市場見通しサマリー
2014年7月1日時点での主要市場見通し
今号より、予想対象期間を2015年6月末までに、半年間延長している。
基本シナリオと見通し数値について
長期的な展望として、世界的な景気の回復基調に沿った、内外の株価上昇、長期金利上昇、全般的な外貨高・円安基調という見通しの大枠に、引き続き全く変更はない。ただし今年内は、日米等経済基調の安定した先進国中心に投資資金が向かう展開となろう。リスクは、引き続き新興諸国における地政学的リスク(政治体制の不安定化、内戦など)と、米国長期金利の急速な上方修正であろう。2015年前半は、投資環境の改善が新興諸国にも広がることにより、新興諸国の株価や通貨が先進国に追いつく展開が徐々に優位となってくるだろう。ただし中国経済については、長期的に警戒姿勢をとりたい。先進諸国の株価や通貨も一段上伸する可能性があるが、変化率は2014年後半に比べて抑制的になるだろう。2015年半ば以降、米国が金融緩和から引き締めに転じることにより、各国市場が波乱含みの展開に陥ることを懸念している。それが2015年半ばより、やや前倒しになる可能性は否定できない。
2014年12月までの予想レンジについては、基調的な株価上昇、長期金利上昇、外貨高・円安(ただしユーロについては引き続き警戒的)といった展望に変更はない。ただし、足元の膠着状況を脱するのにやや時間がかかることがありうるため、一部の予想レンジをやや狭めることとする。
2014年12月までの予想レンジを、前号(6月号)から次のように修正した(下線太字部は変更箇所)。
日経平均株価(円) 15000~20000 ⇒ 14900~19000
10 年国債利回り(%) 0.6~1.7 ⇒ 0.55~1.5
米ドル(対円) 97~110 ⇒ 変更なし
ユーロ(対円) 125~145 ⇒ 130~145
豪ドル(対円) 90~120 ⇒ 90~115
シナリオの背景
・日米の経済動向は堅調だ。日本は消費増税の影響を通過しつつあるところで、7~9月期以降の経済成長率の持ち直しが見込まれている(図1、予測数値はESPフォーキャスト調査に応じた、41人のエコノミストの平均値)。単月の消費関連統計をみても、家計調査だけが不振(消費支出(二人以上の世帯、物価変動を除く実質)前年比が、4月:4.6%減→5月:8.0%減)だが、他の経済統計はことごとく4月から5月にかけての消費の持ち直しを示している。
・米国では、1~3月期の実質経済成長率(前期比年率ベース)が下方修正され(1.0%減→2.9%減)、厳冬・大雪の爪痕の深さが改めて話題となったが、春以降の統計数値は押しなべて堅調であり、足元の株価の底固さの背景となっている。
・これに対してユーロ圏の景気や物価は低迷が続いており、このためECB(欧州中央銀行)は6月5日に追加緩和策(政策金利の引き下げなど)を打ち出し、さらなる緩和の可能性も否定していない。欧州景気が底を抜ける可能性は低く、底ばいと呼ぶべき状況だが、こうした低空飛行が通貨ユーロの頭を抑える展開が持続している。
(図1)
(図2)
・新興諸国市場については、新興国全体の経済成長率が減速し、先進国平均との差が今年にかけて縮まってきている(図2)。一方、ウクライナ情勢、タイのクーデター、イラク情勢等々の地政学的なリスクが次々と湧き起っている。イラク情勢の混迷を受けても、原油価格が上げ止まる(図3)など、諸市場は落ち着いた反応を見せており、世界的な株高、長期金利上昇、外貨高・円安といった方向性は覆りそうにないと考える。しかし当面(たとえば今年内)は、安心感という点で、新興諸国市場より日米等の先進諸国市場が選好されやすい展開が続くと予想される。
(図3)
・こうした楽観的なシナリオに対するリスクとしては、やはり新興諸国を中心とした地政学的リスクが挙げられる。東アジア情勢も、尖閣諸島を巡る日中間の緊張だけではなく、中国対ベトナム・フィリピンも緊迫化する可能性は否定できない。中東地域でも、イラクの内戦が、隣国シリアを巻き込む、また米国、ロシア、イラン、サウジアラビアなどの諸国間の外交バランスの不安定化を生じる、という展開はありえよう。ただし、既にこうして明らかになっている範囲のリスクにとどまれば(すなわち、まだ多くの人が想定していないような事態が勃発しなければ)、とりわけ世界市場を大きく揺るがすようなことにはなりにくいだろう。
・もう一つのリスクとして、(短期的なリスクだが)米国長期金利の急速な上方修正の可能性を、引き続き警戒したい。
(図4)
・米国10年国債利回りの推移については、米国経済の成長力が衰えているのだから当然だ、との意見もあるが、たとえば企業の景況感を示すISM指数と合わせてみると、現在の長期金利はいかにも低すぎる(図4)。以前は、米国景気の先行きに対する不安、欧州財政懸念による欧州から米国への資金シフト、連銀による国債買い入れといった要因により、長期金利の低さを正当化する理由があったと言える。しかしこうした要因が剥落している現時点では、素直に長期金利が低すぎると考えるべきだろう。
・図でISM指数の位置から10年国債利回りの「あるべき水準」を推し量れば、3.5%程度となる。このくらいの水準まで緩やかに長期金利の修正が進んでも、金利上昇の理由が、米国経済が健全に回復しているということであるから、米国株や米ドルに悪影響は少ないだろう。しかし、混乱を伴う形で(パニック売りにより)米国長期金利が急速に跳ね上がれば、米国株の短期的な下落を引き起こし、それが米ドル売りに跳ね返る展開になると懸念される。
・こうした米国長期国債市場の短期的な混乱というリスクは、顕在化しない可能性も十分にありうるため、過度に恐れる必要はないだろうが、頭の隅には置いておくべきだろう。
・2015年前半を展望すれば、緩やかながら日米の景気が一歩さらなる回復へと進み、ユーロ圏経済も底入れから持ち直しの様相を強めよう。新興諸国の経済成長率も早晩下げ止まりが期待され、投資家心理も改善するものと予想される。このため、2015年前半は、新興国投資のリスクを取ろうとのスタンスが広がり、日米等の株価が上伸を続けながらも伸び悩む一方、新興諸国の株価・通貨が追いつく様相が優位になると予想する。
・ただし、中国については、長期的に徐々に少子高齢化の影響が重しとなると懸念される。加えて、現在の外交上の摩擦が深刻化し、海外から中国向けの投資が減退し、それが中国経済の減速を推し進め、国内で経済的格差の問題に焦点が当たる結果となり、その政治的不満をそらすためさらに対外的に強硬姿勢を強める、といった、悪循環に陥る展開が十分ありうると考える。
・既に先進諸国の企業は、沈みゆく船から逃れるように、中国から潮が引くように撤退しつつある。すなわち、中国経済がさらに減速しても、それは既に世界企業にとって予想していることであり、世界全体としては他地域の経済成長で埋め合わせ、大きな波乱は生じにくいだろう。したがって、中国発の世界不況というシナリオには同意しないが、中国市場への投資は控えるべきだろうと考えている。
・このように、2015年前半は、先進諸国市場の株価等の伸び悩み(上昇率の鈍化)と新興国市場の追い上げという形で、引き続きの世界的な株高、長期金利上昇、外貨高・円安基調を予想するが、こうした基調に転機をもたらす可能性がある要因が、米連銀の利上げだろう。
・自動車でたとえれば、量的緩和の縮小はアクセルを緩めるだけであるが、利上げはブレーキを踏むことになる。米国経済が強いからこそ利上げが行なえるわけであるから、過度の懸念は必要ないだろうが、これまで長く続いた金融緩和策の出口をうまく出ることができるかどうか、もし連銀が最終的に振り返ってみればうまく出口を出た、という結果になっても、事前に市場が勝手に不安がって相場が波乱に見舞われることがないかどうかは、極めて不透明だ。
・イエレン議長は、米国の雇用情勢などを慎重に見守っており、利上げがあるとすれば2015年後半のこととなるだろう。したがって、米利上げ(あるいは利上げ観測)をきっかけとした世界市場の波乱も、あるとしても2015年後半のことと想定できる。しかし、何らかの要因で、市場の不安が年央より前倒しで発生するような展開も、ありえないことではない。徐々に2015年央が迫る局面では、慎重な投資スタンスをもって望みたいところだ。
以上、シナリオの背景。
このあと、「前月号見通し」および「2014年1月号における2014年前半見通し」のレビュー。
前月号見通し(2014/6/2時点)のレビュー
②国内長期金利
・国内10年国債利回りの予想レンジ下限は良く機能したが、金利上昇の気配が全く現れない。いずれ来る金利上昇に警戒しながらも、年後半のレンジを小幅下方修正する。
③外国為替相場
・3通貨とも、予想レンジ内での推移とはなったが、5月に続いて動意に乏しい展開であった。
・いずれは為替相場の変動率が高まるものと考えるが、すぐには上下どちらにも相場を動意づかせる材料に乏しく、2014年後半のユーロと豪ドルの予想レンジを狭めることとする。
2014年1月号(2014/1/5時点)における2014年前半(1~6月)見通しのレビュー
・日経平均株価の予想レンジ下限(14000円)は、極めてよく機能した。ただし、日経平均の推移は予想レンジの下半分にとどまり、予想したほどの上昇は生じることがなかった。
②国内長期金利
・国内10年国債利回りについては、予想レンジ下限は極めてよく機能した。しかしこれほどまでに長期金利の低迷が続くと見通すことができず、予想を誤ったと言えよう。
③外国為替相場
・3通貨とも、予想レンジ内での推移となった。特にユーロについては、予想を立てた時点でユーロが145円近辺にあったことを踏まえると、ユーロに対する弱気シナリオ自体はずばり的中したと自負できるだろう。米ドルも、年初に105円近辺に位置していたにもかかわらず、年前半は107円を超えないと見通したが、それも的確な予想であったと言えよう。豪ドルの下限も機能した。
・ただし、ユーロに対して弱気過ぎた(実際の相場の推移が予想レンジの上限に近い)ことと、豪ドルについて強気過ぎた(実際の相場がレンジの下限に近い)点は、反省すべきだと考えている。
最新人気記事
-
明日の株式相場に向けて=米財務長官人事でAIアルゴが急速始動 11/25 17:30
-
京急と京成が急伸、アクティビストによる株式保有報道に反応◇ 11/25 09:54
-
「ペロブスカイト太陽電池」が23位にランク、「発明者が一般販売へ」... 11/21 12:20
-
「電線」が27位にランクイン、データセンター絡みでの需要増で注目... 11/25 12:20
-
「防衛」が4位にランク、ロシア核使用基準引き下げで地政学リスク意識... 11/22 12:20
新着ニュース
新着ニュース一覧-
今日 02:00
-
今日 01:42
-
今日 01:39
-
今日 01:30