岸田新政権が発足した。岸田氏は宏池会に属し、所得倍増計画で有名な池田首相や宮沢首相の流れをくむ。保守本流ともいわれるが、成長重視、軽武装というその政策的な傾向は、岸首相の流れに立ち、あからさまにタカ派だった安倍首相とは政策の基調が異なる。中絶禁止やワクチンを嫌悪し、選挙の正当性まで争って議事堂sら襲撃するアメリカの保守と比べれば、日本の自民党は全体としてはなおリベラルな色彩があるようにもみえる。その中でも宏池会は、リベラルなウイングとみてよい。もちろん岸田政権誕生のいきさつでは安倍氏が暗躍しており、今後も安倍氏が折に触れ影響力を行使するであろう。安倍氏と親しい甘利幹事長は、自分自身も金銭スキャンダルを抱えており、桜を見る会の問題や、森友学園、加計学園の問題などについては、進展を期待することはできない。しかし政権の軸心は、安倍氏ではなく、麻生派内閣とも揶揄されているように、結局もともと宏池会だった麻生氏の方に移っており、政策的な振り子は幾分左に振れるように見える。
事実、経済については、岸田氏は「分配」を重視した「新資本主義」を掲げており、競争の強化を主唱してきたいわゆる新自由主義の路線とは一線を画している。これが、異常な金融緩和をひたすら走ってきたアベノミクスとどう違うのか、「分配」重視が、コロナ禍でダメージを受けている企業の活動や、空前の赤字を抱える財政にどのように影響するのか、はまだ詳しくわからない。さらには緊張を高めている米中関係にどう対処するのか、これも未知数だ。習近平政権は、香港の民主派を鎮圧したことに自信を深めたのか、台湾への露骨な軍事的圧力を強めており、何らかの武力紛争も排除できない状況となっている。もし万が一にもそのような事態がおこれば、政治的経済的な衝撃は、計り知れない。
マーケットは、どうやら岸田新政権の誕生を祝賀ムードで迎えるつもりはないようだ。4日の日経平均の日足は、28444.89(-326.18)で引けた。日足一目均衡表では、まだ雲の上ではあるが、転換線基準線を割り込み、MACDも9月末から移動平均を割って下降。ボリンジャーバンドもマイナスシグマを割り込み、バンドが狭まっており、モメンタムもマイナス2000を突破して急落。DMIもマイナスが優勢でADXは急拡大しており、下降の勢いがついている局面と考えられる。
もちろんこうした動きを岸田政権の政策の評価の結果と考えるのは早計かもしれない。むしろ恒大集団の債務不履行をきっかけとした中国不動産バブルの崩壊懸念が主因なのかもしれない。上海総合は4日は少し持ち直したが、以前として基準線転換線の下、モメンタムも急落た。日経平均と似た下降局面である。中国の「資本主義」は、結局不動産市場におけるマーケットメカニズムがちゃんと機能せず、ばかばかしいほどの過剰投資と未曽有の放漫融資の末に、投資目的で35億人の住居を建設したものの、実需がなく、空き家ばかりになったたといわれている。このバブルがはじけ、記録的な不良債権の処理が、世界的な問題に広がる可能性がある。エセ資本主義は、やはりエセでしかなかったという証左だろう。批判が自由な、政治腐敗を監視できる民主的な政治体制がないと、長期的には自由競争は妨げられ、利益の極大化をめざす資本主義は、一部の政商の道具となる。ジニ係数が高まる現状にいらだった習近平政権は、自由を尊重する民主的な秩序に向かうのではなく、逆に左傾化し、文化大革命を再起動するという動きになっており、さらに世界の不安を掻き立てているのではないか。
いずれにせよ、岸田氏の言う「新資本主義」を創造する前に、今の資本主義秩序が崩落してしまわぬよう、新政権のかじ取りに期待したい。