19日の米株式市場でダウ工業株30種平均は続落した。米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和の縮小(テーパリング)を年内に始めるとの見方が広がった。株式市場への資金流入が減ると身構える投資家はリスク回避に傾く。リスク資産とされる原油先物には売り圧力がかかり、一時5月以来の安値をつけた。その中で安全資産とみなされる金の役割を再評価する動きが出てきた。
□ □
金先物相場は朝方に上昇し、小幅安(0・1%)の1トロイオンス1783ドルで終えた。ここ数日、市場に拡散したニュースがある。米データ解析のパランティア・テクノロジーズが8月中に金の延べ棒を100オンス(2・8キログラム)、5070万ドル(約55億円)で購入していたのだ。米証券取引委員会(SEC)に提出した決算資料に盛り込んでいたのを、米メディアが報じた。
「将来のブラックスワン(黒い白鳥)に備える必要があると考えた」。パランティアのシャイアム・サンカー最高執行責任者(COO)は米ブルームバーグ通信の取材で、金購入の理由に予測が難しい大惨事を挙げた。
金先物は2020年8月、1トロイオンス2089ドルの史上最高値をつけた。パンデミック(世界的大流行)下で投資家の安全志向が強まり、緩和マネーが流れ込んだ。その後、21年初めの長期金利の上昇で売られ、3月には一時1700ドルを割った。その後は1700~1900ドル台を行ったり来たりしている。
「ビットコインは『金2・0』だ。やがて金を打ち負かすだろう」。米仮想通貨交換業者大手ジェミニのタイラー・ウィンクルボス氏が20年11月にこう強調したように、ともに金利のつかない金とビットコインは投資先として競合するとの見方があった。
パランティアは、顧客から暗号資産(仮想通貨)のビットコインでの支払いを受け付け、投資の準備資金としてビットコインを保有することにも前向きな姿勢を示していたため、ビットコイン支持派とみられていた。その同社が金の延べ棒を買って将来の不確実性に備える動きをどう解釈すべきか。
□ □
米オアンダのエドワード・モヤ氏は「金とビットコインが共存する方向に動き始めた」と解説する。4月に6万ドルを超えたビットコイン価格は7月には半値以下の2万ドル台に下がり、直近では4万ドル台半ばで推移する。「機関投資家はビットコイン受け入れの初期段階だ。多くの投資家は暗号資産のボラティリティーの高さに対応できず、金の保有を進めるだろう」(モヤ氏)。
「頭に銃を突きつけられ、どちらか選べと言われれば、私は金を選ぶ」。世界最大規模のヘッジファンドを率いるレイ・ダリオ氏は8月初旬、米CNBCで語った。投資多角化の一環で「デジタル版の金のようなもの」とビットコインも保有するが、究極の選択では延べ棒を選ぶとの認識だ。
市場ではFRBのテーパリングの影響を見極めようと、金は当面不安定な値動きになるとの見方が強い。「米北東部の安全な第三者施設」に保管されているというパランティアの金の)延べ棒が、投資戦略に一石を投じている。