10日に開催されたG7は、金融危機を避けるために、「緊急で例外的な行動」が必要だとし、「あらゆる利用可能な手段を活用する」ことを宣言した「行動計画」を発表した。これを受けてポールソン財務長官は、アメリカの金融機関に対する公的資金の注入を検討していることを表明。ポールソンは、金融機関の資本増強のため、広範な金融機関の無議決権株式を購入する計画を進めていることを明らかにした。11日にはブッシュ大統領も、G7の財務省をホワイトハウスに招いて協議、協調行動をとる声明を発表した。異例ずくめの対応は、政策当局者が金融危機を沈静化するのに必死であることを伝えている。
しかしこれで金融不安が払拭できるかどうか。また世界株安をとめられるかどうか。まず金融不安については、とりあえず主要な金融機関は、破綻させない、という政府の決意ははっきりした。声明文は「金融システム上重要な金融機関は破綻させない」と断言しており、その点では市場に安心感が広がる可能性がある。もうリーマンのようなことはない、と皆が安心できれば、不安はかなり和らぐであろう。
だが危機がここまで深まってくると、こうした抽象的な文言だけでおさまるかどうか。かつて1929年の大不況の時には、当選したばかりのルーズベルト大統領は「恐れること自体が恐ろしい」のだ、という有名な演説をやって、国民を安心させたが、今のブッシュ大統領には信認は乏しく、大統領の言葉だけではどれだけの信頼がよせられるか疑問である。もし不安心理がおさまらなければ、市場は、果たして不良資産はどこにどれだけあるのか、どれくらいの公的資金をどの金融機関に注入するのか、またそれだけの資金が本当にあるのか、短期金融市場を支えるといってもどうやってやるのか、という具体的方策を問うてくるだろう。
ところが、この点行動計画は極めて抽象的で、具体性を欠いている。市場が今聞きたいのは、もはや公的資金を入れるかどうか、ということではない。入れるしか方法がないのは明らかだからだ。市場の心配は、形ばかり入れても、問題は解決できないのではないのか、という点にある。ところが、いったい不良債権がいくらになるのか、アメリカ政府だけでそんな資金を用意できるのか、全米で8000もある金融機関を全部救うことはできないろうから、どこで線を引くのか。銀行間取引のめつまりをどう打開するのか、このあたりがまだまったく判然としない。
日本でも何回も公的資金をいれたが、なかなか株が底打ちしなかったことを想起せざるをえない。リーマンを破綻させてしまったことで、主要金融機関はつぶれないという砂上の楼閣が崩壊した以上、言葉ではなく、具体的な実行が伴わないと、市場の信認を得るのは難しいのではないか。実際、不良債権の額という点では、住宅価格が下げ止まらず住宅関係の不良債権は膨らむ一方だし、さらにリーマンを対象にしたCDSー社債の破綻保険にともなう金融機関の負担分が膨らむともいわれており、今の額ではとても足りない、数倍は必要という専門家は少なくない。また銀行間の取引を正常化するといっても、いくら流動性を中央銀行が供給しても、お互いの不信感で資金が動かなくなっているのをどうすることもできないでいる。イギリスのブラウン首相ー人気はないが経済学博士で知恵はあるーは、銀行間取引に国家補償をつけて、機能不全におちいっている取引を促そうと提案した。銀行間の不信感をとりのぞいて、当面の資金融通をなんとか進めようとする上でなかなか有効な策ではないかと思うのだが、アメリカが反対したといわれている。イギリスが単独でやれば、ロンドンに資金が動いてしまうし、アメリカが足をひっぱれば、せっかくの提案も宙にうき、共倒れになりかねない。
しかもたとえ金融不安がおさまっても、実体経済の方は、ますます深刻な状況だ。GM,フォードが破綻寸前の株価にまで下げており、モトローラなども危険水域に落ち込んでおり、個人消費の低迷、金融の機能不全で、アメリカを代表する有力企業までが倒れかねない有様だ。世界的な代表企業に倒産が続出しそうな懸念があれば、PERなどが役にたたないのは当然で、東京市場のように恐怖心から株価が解散価値=PBR一倍前後まで落ち込んでしまうというのは、ある意味、ありえる反応といえるかもしれない。
とはいえ、株価も、東京のように解散価値のPBR一倍割れまで落ちてくれば、さすがにこれ以上大きく売り込むのは経済的合理性が乏しいとはいえるだろう。市場のことなので、不信感が強ければ、買い手不在の中、売りかたの勢いがあまってさらに非合理的な水準にまで下げる可能性も残ってはいるが、なんとか日経平均の7000円水準ぐらいは守ってくれるのではないかと淡い期待をもっている。しかしまだ大きく反転する材料は乏しい。日米とも、G7の決意に敬意を表して多少戻すかもしれないが、基調が下げトレンドなので、すぐに売り浴びせられてしまう可能性が極めて高い。シテイなどの決算も心配で、なかなか落ち着いて買える雰囲気にはならない。繰り返し指摘しているようにチャート上は、日足でもトレンド転換までのハードルはかなり高い。金融安定の具体策や景気刺激策が劇的にまとまるような展開を祈りたいが、不良債権の額の確定、公的資金注入の方式と資金の確保、銀行間取引の正常化、住宅市場のてこ入れ、景気の下支えなど、いずれも現実には相当に難しいといわざるをえない。