拝啓。安倍首相殿。
2013年9月に貴殿がニューヨーク証券取引所で行ったスピーチは名演説でした。今でも首相官邸のホームページに掲載されている演説の本文を読み返すと、良く練られた内容で、心に響きます。特にスピーチの締めくくりの3つの単語はパンチがあります。「Buy my Abenomics」。この名セリフに心が沸き立ち、多くの外国人投資家が日本株を積極的に買いました。
あれから6年。昨今の新聞報道を見ると目を疑います。秋の臨時国会で外為法を改正して、外国人投資家に新たな規制を導入すると報道されています。国家の安全保障に関わる産業について、外国人投資家が保有した場合、1%の保有で届け出が必要になるとの内容です。届け出た上で企業の経営参加にも制限が加えられる模様です。
これは本当でしょうか?「オレのアベノミクスを買え」と貴殿は高らかに宣言しました。その気になって日本株を買ったら、ほんの1%の日本株を保有すると「届け出をせよ」と貴殿は言うのでしょうか?この法案が可決したら、貴殿の政策に多くの外国人投資家は呆れ返ります。そもそも対象となる国家の安全保障に関わる産業は幅が広すぎます。おそらく多くのテクノロジー産業が当てはまります。日本のテクノロジー産業こそ、外国人投資家が魅力的と感じて投資を行っています。1%の保有での報告義務を「めんどくさい」と思う外国人投資家が大半でしょう。新規の投資は減り、売却も増えるでしょう。さらに、日本企業が緊急に資本を必要とする時の大きな障害になります。東芝が不適切会計を行い資本不足となり、2017年に増資を行いました。その増資に参加した投資家の多くは外国人投資家でした。もし第2の東芝が現れた場合、1%保有での届け出を嫌って外国人投資家は増資に参加しない可能性があります。その結果、倒産が増えます。それでも貴殿は良しとするのでしょうか?もし貴殿がこの法案の可決を強行すれば恐らく外国人投資家は態度を一変させます。外国人投資家は日本株の最大の保有者で全体の約3割を保有しています。日々の売買代金の約7割が外国人投資家です。そんな外国人投資家が「バイ バイ Abenomics」となります。貴殿が首相となって以降、日本株は7年間の上昇トレンドを続けています。それを無にする愚行を強行されるのでしょうか?ぜひ外為法の改悪を再考することを心から望みます。
敬具。
日本のアクティビズムに危機が迫っている。再びもの言う投資家の暗黒時代が始まる可能性がある。筆者の手紙が安倍首相に届くことを望む。そんな危機的状況のなか、島忠(8184)を取り上げる。旧村上ファンドの南青山不動産が島忠に大量保有報告書を提出した。島忠はキャッシュリッチで有名で、無借金である。ROEは低く、改善点も多い。家具の販売とホームセンターの経営で島忠は国家の安全保障とは無縁である。南青山不動産も国内投資家なので外為法上の規制対象とならないだろう。外為法の決着が見えるまでは、アクティビズムの焦点は和製アクティビストの行動に限られていくのであろう。