甲状腺の機能がおかしいと、いろいろな症状が出るため、しばしば誤診となってしまう。いろいろな症状だけを見て、医師自身の専門テリトリーに当てはめてしまうから誤診になる。
故オリバー・サックスの実兄は、医師である実父に統合失調症と誤診され、その後の人生を大きく狂わされてしまった。晩年、他の医師により甲状腺機能の異常と鉄欠乏性貧血を見出された。でももう、後の祭りだ。
重度の不整脈として、アンカロンという不整脈の薬などを飲まされていた顧客が、ひどい便秘を訴えてきたので、アンカロンの副作用ではないかと思い、甲状腺機能検査を医師に行ってもらうよう推奨した。ところがその医師は、甲状腺機能検査を拒んだため、その患者は県内の病院に変えて精密検査を行った。やはり甲状腺機能が低下しており、チラージンSという甲状腺機能を補う薬剤を投与され、今日に至っている。同時に、アンカロンは中止となった。ただし、甲状腺機能の低下がアンカロンによる単独の副作用なのか、それともそれとは別に、実はもともと甲状腺機能が低下していたのか、判明するのにはもう少し時間がかかるようだ。
このように甲状腺機能がおかしいと、精神症状や不整脈など循環器障害などなど様々な症状が出てしまう。気の利いた医師だと、そんなことは百も承知なので、しっかりと甲状腺機能検査のオーダーを出す。カスタムのママの主治医も、そんな医師の一人であることを確認したことがある。
オリバー・サックスの実兄の例があまりにも悲惨なため、また、オイラは精神病院に勤務していたことがあり、当時いた精神科医の姿勢に疑問を覚えることも多かったため、特に精神科における甲状腺機能検査がしっかり行われているのか気になっていた。
★「その高齢者の物忘れ、甲状腺機能低下症では?」
認知症診断時の甲状腺機能検査実施率が、なんと33%しかなかったというレポートが出た。医療経済研究機構の佐方信夫氏による、認知症の薬剤を新規に投与された26万人を対象に調査したレポートだ。ちょいと、恐ろしい結果になっている。
甲状腺機能検査は、日常的な検査ルーティンに入っておらず、担当医が甲状腺検査のオーダーを出さない限り、通常は実施されることがない。むやみに検査するとレセプト審査で切られるとか、1年前に検査されており異常なしだったから大丈夫だろうとか、そんなこと知ったこっちゃない、診断が間違っていようとも自分たちがもうかればいいとか、甲状腺検査をしない原因は、いろいろな理由が考えられる。
いっそのこと、国で甲状腺機能検査を義務付けてしまったほうが、誤診によりかかる余計な医療費よりも低額で済むかもしれない。佐方氏は、今後そういった研究を進めると思われる。