<通貨の機能>
①「価値の保存や保管機能」
価値の保存=お金の名目価値は不変だということ
保管機能=お金は銀行に預けたり金庫にしまって置くなど
持ち続けていれば富を蓄えることが出来る
②「価値の尺度」
提供されるモノやサービスを金額という尺度で評価することにより
それぞれの価値(値段)を相対的に示すことが出来る機能
この機能が無ければモノやサービスの値段は決まらない
③「決済機能(交換の手段)」
お金を支払いモノを買うことが出来る機能
こうした機能があるからこそ金融緩和や金融引き締めといった
中央銀行による金融政策(金融調整)が可能になります。
また中央銀行は国債を担保にして通貨を発行しています。
従って通貨には明確な価値の裏付けがあると同時に
国家間での通貨価値比較も可能になり為替相場が成り立っている訳です。
一方、仮想通貨には裏付けとなる明確な価値(資産)が内在していないため
価格が上がり続けているうちは良いとしても
下がり始めるとサブプライム問題と同じ様な事態に陥りかねません。
つまり仮想通貨は通貨としての役割を果たせないというのが中央銀行の見解で
仮想通貨に代わる中銀によるデジタル通貨の発行が検討されています。
とはいえ中銀によるデジタル通貨の発行にも多くの問題点があり
ビットコインなどの仮想通貨に取って替わるものではないと思います。
ただ仮想通貨のデメリット(後述)も多く
時として致命的になりかねないことを考えると
個人的には何もかもデジタル化されて良いのか?という疑問を捨てきれません。
以下は3月の日経新聞電子版に掲載された記事です。
(中島真志 :埼玉大、日銀を経て現在麗沢大学教授 )
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
そもそも仮想通貨は、円や米ドルなどの法定通貨を脅かすような「通貨」となりうるのであろうか。この点についてビットコインを例に、(1)一般的交換手段(モノやサービスを手に入れる機能)(2)価値の尺度(モノやサービスの価値を客観的に表す機能)(3)価値の保蔵手段(将来に備えて価値を蓄えておく機能)という「通貨の3大機能」の点から考えてみよう。
(1)と(2)は、いわば「おカネとしての機能」であるが、現在、ビットコインを交換手段(おカネ)として保有する人はごく限定的である。ビットコインは発行量に一定の上限が定められており、それに向けて徐々に供給量が減っていく仕組みとなっている。需要が増える中で供給が減っていけば必然的に値上がりするとみた人が、群がるように買っているのが実態である。
いずれ値上がりすると思っていれば、誰も使おうとしない。つまり「明日値上がりすると思うものは、誰も今日の支払いには使わない」のである。
ビットコイン価格の乱高下もおカネとしての利用を妨げている。
1日で10~20%も変動するものは、交換手段には適さない。
このためビットコインは交換手段(おカネ)としてはほとんど使われず
「投機用の資産」となっている。その性格は通貨から資産へと変質し、最近では仮想通貨ではなく「仮想資産」と呼ぶべきだともされている。
ビットコインの取引量に制約がある点も、交換手段としての限界をもたらす。
ビットコインには「ブロックチェーン」という、10分ごとにブロック(一種の帳簿)を作成することで安全性を確保する技術が使われている。
そのブロックの大きさが最大1メガバイトに定められており、このためビットコインは世界で1秒間に7件の取引が限界となっている。
実はかなり非力なシステムであり、全世界のモノやサービスの取引をまかなうのは到底困難とみられる。
クレジットカード「VISA」のネットワークでは、1秒間に世界で5万件以上の取引の処理が可能となっている。ビットコインの処理能力をこれと比べると、まだ実験段階のシステムのようにも思える。これが果たして世界中で決済手段として使われ、「世界を変える通貨」になるのかについては、かなり疑問があるといえよう。
(3)の「価値の保蔵手段」についても、高いボラティリティー(価格変動性)のため、将来に向けて価値を保存できる保証はない。銀行券のように、発行体が裏付けとなる資産を保有するといった形で、価値を維持する仕組みが備わっているわけでもない。
さらに通貨として「内在する価値」があるのかも問題となる。
仮想通貨を保有していても、株式や債券とは違い、配当や利子をもらえるわけではない。現在主流の理論では、金融資産(株や不動産)の価値は、それが将来生み出すキャッシュフロー(配当、家賃など)を現在価値に変換したものに等しいとされる。
ビットコインには配当や利子がなく、持っていても何のキャッシュフローも生み出さない。将来ゼロのキャッシュフローを現在価値に変換しても、理論的にはゼロとなる。このため国際決済銀行(BIS)の報告書では「仮想通貨の本源的な価値はゼロである」としている。
このように、ビットコインをはじめとする仮想通貨に対して懐疑的な見方が強まっている一方で、世界の中央銀行がブロックチェーンの技術を使った「デジタル通貨」の発行に向けた取り組みを進めている点は注目される。
ビットコインなどが公的な裏付けや発行主体のない「私的なデジタル通貨」であるのに対し、中銀のデジタル通貨は、中銀が発行・運営主体となる「公的なデジタル通貨」である。各国の通貨単位(ドル、円など)をそのまま使うため、現金とは1対1の交換比率となり、ビットコインなどのように現金との交換レートが乱高下するといった問題は生じない。
すでにカナダ中銀が「CADコイン」の実証実験、スウェーデン中銀が「eクローナ」の発行計画、シンガポール金融管理局が「デジタル・シンガポールドル」の実証実験、中国人民銀行が「チャイナ・コイン」の実証実験、ロシア中銀が「クリプト・ルーブル」の発行計画をそれぞれ進めるなど、驚くほど多数の取り組みがみられる。2017年11月にはウルグアイ中銀が実際にデジタル通貨「eペソ」を発行し、世界初の試験運用を開始している。
中銀のデジタル通貨への取り組みについては、「仮想通貨の出現によって追い詰められた中銀が、窮余の策として自ら仮想通貨を発行しようとしているのだ」と揶揄する見方もある。しかし貨幣の長い歴史をみると、商品貨幣、金属貨幣、鋳造貨幣、紙幣といった流れの中で、貨幣はその時々に利用可能な素材で、当時最先端の技術を使って作られてきている。ブロックチェーンというイノベーション(技術革新)の出現に伴って電子的な通貨を発行しようとするのはごく自然な流れであり、「歴史の必然」であるともいえる。
中銀がデジタル通貨を発行し、銀行券のように幅広く利用されるようになったとすると、デジタル通貨自体に、電子的なかたちでマイナス金利やプラスの金利を付けることが可能になる。
たとえば、中銀の電子台帳上で1000円のデジタル通貨が1年後に990円になるように設定すれば、1%のマイナス金利を実現することができる。そうすると、人々は目減りする前になるべく早く通貨を使おうとして、消費や投資が刺激されることになる。これは中銀が新たな政策手段を手に入れることを意味する。すでに英イングランド銀行の論文では、デジタル通貨を「第2の金融政策手段」と呼んでおり、金融政策の効果が一段と強化されるといった見方も出てきている。
ただし、中銀がデジタル通貨を国民に直接発行して決済をさせると「銀行の中抜き」が問題となる可能性がある。デジタル通貨が広く普及すれば、人々は銀行に決済性の預金を持つ必要性が低下する。銀行預金からデジタル通貨へ大量にシフトして預金が大幅に減少すると、銀行は融資が困難になり、銀行の金融仲介機能に深刻な影響が出るといった可能性も考えられる。このように実際のデジタル通貨の発行までには、まだ検討すべき課題も少なくない。
最近、現金の流通にかかる社会的な費用が問題となっている。現金決済のコストは見えにくいが、現金の輸送や保管、利用にかかるコストは、結局は国民全員が何らかの形で負担していることになる。中銀がデジタル通貨を発行することで社会全体の「取引コスト」が低下するのであれば、それは国民生活の向上につながるものであり、社会的にみて望ましいことだといえるであろう。デジタル通貨の恩恵を最も大きく受けるのは、実は約100兆円もの紙幣が流通しているわが国のような現金社会かもしれない。