「ストリート・レーサー」
ロシア第2の都市・サンクトペテルブルク。公道、飛行場、大型駐車場、高速道路で毎夜繰り広げられる賭けレース。
走りに興じる若者たちが、闇犯罪に巻き込まれるロシア製カー・アクション「ストリート・レーサー」。オープニングは意表をつき、爆走する戦車同士のレースで幕を開ける。
乗っているのは戦車部隊所属のステバン。見事勝利したステバンは除隊を認められ、父親の経営する自動車修理工場で働き出す。彼は車の修理に訪れたカーチャに一目ぼれ。しかし彼女は賭けレースの元締めで、最近別れた元恋人のドッカーに未練が残っている。ある日ステバンは、ドッカーに運転の腕を買われ、仲間に引き入れられる。しかし、それはレースに興じる闇組織が仕組んだ罠だった。ドッカーは密かに大がかりな犯罪を計画。カーチャを連れ去ってしまう。ステバンはカーチャを救うため、ドッカーに勝負を挑む──。
最近活発に作られているカー・アクション映画に、ロシアが殴り込みをかけてきた。「ボーン・スプレマシー」(04)で凄まじいカースタントを見せたヴィクトル・イワノフがアクション監督だ。こだわりはコンピューター・グラフィックス(CG)に頼らないこと。近年のカー・アクション映画は、CGを駆使した「ワイルドスピード」シリーズや「スピード・レーサー」(08)などのハイテク・カースタント映画と、CGに頼らない「デスプルーフ in グラインドハウス」(07)、「レッドライン」(07)などに二分化している。「ストリート・レーサー」は後者にあたり、昔ながらのスタントマンの職人技が炸裂する。登場するスポーツカーは「日産・フェアレディZ」「トヨタ・セリカ」「トヨタ・MR2」「マツダ・RX-7」「スバル・インプレッサ」といった日本の名車。チューンアップされてロシアの街中を走り回る光景は、日本人として不思議な気持ちにさせられると同時に、誇りを感じさせられる。
一方、随所にアメリカ映画の影響を強く感じる。スローモーションを多用した流行の絵作り。広大な屋内駐車場で繰り広げる賭けレースは、東京を舞台にした「ワイルドスピードX3 TOKYO DRIFT」(06)の屋内駐車場のドリフトレースを思い出させる。開閉橋を車2台がダイビングするシーンでは、「ブルース・ブラザース」(80)などに見られたカースタントの目玉もさりげなく披露。クライマックスの大型トレーラーとスポーツカーのバトルは、「ワイルドスピード」を彷彿させる。複数の高価なスポーツカーが体当たりし、無残な姿に変貌する“壊しの美学”を堪能できる。
さらに、なかなか日本では知ることができない、ロシアの若者文化も描かれる。ロシア製のロックやラップが全編に流れ、ファッションはアメリカや日本と変わらない。ヒップホップダンスを踊る若者の姿に、目からうろこが落ちる思いだった。カー・アクションを売りにしているが、現代ロシアの若者の生態も垣間見られる作品だ。
