今日は、アンタがいると思っていたとも。
その女の機嫌は、すこぶる良かった。
お得意の、やたら激しいスキンシップも健在だった。
みんな、これに騙される。
あまり信用すると、痛い目に遭う。
とにかく周囲の人間を巻き込んで、
いつの間にか誰もが、このベトナム女の言うがままになってしまう。
得意技は、ささやき。
酔っている人間の耳元で、ワンフレーズずつ、ささやく。
今、離婚調停中なの、とか。
借金が1億円あるの、とか。
町田でブティックをやっていたとき、三浦しをんと友達になったの、とか。
しをんの電話番号、教えてあげる、とか。
お前の面倒なんか看ないぞ、とか。
京都まで車で迎えに来い、とか。
もう、わけがわからない。
で、いまだに何が本当なのかも、わからない。
スペインママによれば、
父親の後を継いだ会社が忙しくて、
ほとんど休みがないらしい。
日本では群馬に支店があるそうで、
ママはそこまで車を運転させられたことがある。
しらふの時は、酔っているときとは別人だとも言っていた。
ますます、わけがわからない。
誕生日は8月2日だと言っていた。
が、若く見えるので、本当の歳もわからない。
こんなことも言っていた。
しをんの「を」というのは、「WO」と発音するのがホントウなのだとか。
どうやら、日本語を外人に教える仕事などもしているという。
この女の日本語は、確かにうまい。
標準的な日本人と比べても、遜色がない。
本当かもしれない、と思ったりもする。
*
いつだったか、この女の態度が他の客にあんまり傲慢なことがあって、
オイラは真剣に怒った。
借りてきたネコみたいに、その時は
さすがに大人しくなってたな。
あれから、もうそんなに月日が経っていたとは。
PS:ひょっとしたら近い将来、オイラはこの女に雇われてるかもしれない。
ボディーガード兼運転手ってところだろう。
その時は、完全スキンヘッドにして眉を剃り、サングラスをかけよう。