新製品に賭け日本で大勝-小野薬、新種のがん治療薬で世界をリード
10年前、小野薬品工業の担当者らは開発中の新製品を試験してくれる医師を求めて病院巡りを続けていた。ヒトの免疫システムを、がんと闘わせるための新しい治療薬だったが、耳を貸す医師はいなかった。
免疫療法は流行の一つにすぎないと言われた。
批判者の一人は同治療法について、がん患者にキノコを食べさせるのと変わらないとの意見まで出した。
効果があったら頭を丸刈りにすると言う人もいた。
相良暁社長は、米ブリストル・マイヤーズ・スクイブと共に開発したがん免疫治療薬「オプジーボ」が2014年7月に日本で承認された時、大勢の人から謝罪を受けたと話す。
「抗PD―1抗体」と呼ばれる新種のがん治療薬として世界で初めて承認されたものだった。
オプジーボは、がん細胞自体を直接攻撃するのではなく体ががんと闘うのを助ける免疫腫瘍学という分野の治療薬の一つだ。
科学誌サイエンスが13年にがんの免疫療法を「今年のブレークスルー」と呼び、世界の大手製薬会社が一斉に参入している。
2月半ばに小野薬の目標株価を2万5000円に引き上げたクレディ・スイスのヘルスケア業界アナリスト、酒井文義氏は同社が世紀の宝を発見したと評価している。
3月3日の終値は2万2605円と過去最高値を更新。過去1年で70%余り上昇した。
オプジーボは売り上げ低迷と特許切れ、後発薬との競争激化に苦しんでいた小野薬に息を吹き返させた。
アナリストらは同社の年間売上高が2倍余りに拡大し、18年3月期には30億ドル前後に達するとみている。
平均的な米国のがん患者の場合で、オプジーボの治療は年間15万ドル(約1700万円、月1万2500ドル)程度の費用がかかる。
ブルームバーグ・インテリジェンスによれば、アナリストのコンセンサス予想はオプジーボの世界売上高が20年までに年95億ドルに達する可能性を示唆している。
他のがん種で承認獲得急ぐ
オプジーボが14年7月に悪性黒色腫(メラノーマ)の治療向けに承認されて以来、がん免疫治療薬の市場では競争が激しさを増しており、小野薬の現在の課題はリードを維持する新たな方法を見つけることだ。
同社は血液がんなど他の20種余りのがん種に対するオプジーボの効果を調べる臨床試験の完了を急いでいる。
相良社長は大阪でのインタビューで、17年3月期の優先課題は胃がんや食道がん、頭頸部(とうけいぶ)がんの治療向けに国内で承認を得ることだと説明。
オーファンドラッグ(希少疾病薬)の指定を受けることで1年以内に承認を得られると考えていると語った。また、オプジーボと別の薬による併用療法についても国内での承認獲得を目指す。
相良社長によると、同社は国内でのオプジーボの販売促進のため営業スタッフを6倍の180人に増やした。今年はさらなる提携に向けて進展があるかもしれないと語ったが、詳細は明らかにしなかった。
ブルームバーグ抜粋