2005年10月の郵政民営化法の公布から10年。小泉総理の執念がやっと実現しました。民営化は、上場することで初めてその成果が表れます。眠っている資産をフローに替え、国の借金を減らし国民を豊かにするのです。
そのため、上場に向けたストーリが練られてきました。2011年に、東北地方を中心にした大災害が発生し、郵政グループの上場が復興資金に充てられることとなりました。とはいっても、郵政株を高値で市場に放出することが、上場成功ではありません。
復興財源の確保は大事ですが、むしろ、
銀行に眠っている資金を市場に呼び戻す「預金から投資」の流れ、
個人投資家に株式投資への関心を高め、格差の是正と民生の安定、
株式市場を活性化させ、市場を拡大し、経済力を高める、
マイナンバー制度の導入に向けた確実な徴税制度の確立、
など、副次効果のほうが重要です。
特に最近では、株式指数をその国の経済力とみる傾向が強く、上場によって指数を下げることは絶対に避けなくてはなりません。
それには、放出株を安く値決めし、法人ではなく、多くの個人に持ってもらうことです。
新年に入って具体的な計画が実行されました。まず、年金基金の改革により、国債から株式への転換と、自主運用によるヘッジファンドを排除しました。次に、個人富裕層へ絶大な影響力を持つ証券会社2社を主幹事として、上場に伴う莫大な権益を与え、放出の目的を共有しました。
これで、官民協力体制が確立し、株価の操縦が容易になりました。
ところが、4月頃からファンド筋や、個人投資家主導で株価が上昇し、6月24日には20,953円の高値をつけてしまいました。政府系金融機関の買い見送りや、国内法人の売りにもかかわらず、株価が40,000円になるという本が飛ぶように売れて、20,000円が定着してしまいそうです。
8月中旬、転機が訪れます。フォルクスワーゲンの不正ソフトの発覚を契機として、世界的なリスクオフになったのです。欧州株が変調をきたし、つれて中国経済の減速がはっきりして、世界的な株価下落に繋がりました。
この機会を関係者は待っていたのです。証券会社と年金基金は売りに転じ、日銀も円安を抑える発言を繰り返しました。結果、9月29日には、16,901円まで下げました。暴落のきっかけを作ったアメリカや欧州は、10%ほどの下げだったのですが、日本株だけは不況入り寸前の20%も下げたのです。
この時点で、政府と幹事証券会社は、早々と郵政3社の売り出し価格を安く決めてしまいます。売り出し価格を安く決めれば、その後の売り出しが容易になり、機関投資家の買いも期待できますが、国民の財産を不当に買いたたいたというそしりは免れません。
安値で決めるためには、相場の下落がどうしても必要だったのです。値段が決まれば、相場を抑える必要はありません。この時点でのPERは13倍台、増益基調にある株価水準としては超割安。黙っていても上がります。
10月には18,000円まで回復し、3社の上場日には19,000円付近に達します。相場が上昇するにつれ、3社の人気は上々となり、個人をはじめ多くの人が抽選に参加したのです。
11月4日、郵政グループ3社が上場しました。公募価格、競争倍率とその日の引け値は次の通りです。
日本郵政 1400円(5倍)1760円
ゆうちょ銀行 1450円(5倍)1671円
かんぽ生命 2200円(15倍)3430円(ストップ高)
日経平均 18927円(244円高)
相場はその後も堅調を続け、まもなく20,000円に回復しそうです。富裕層のタンス預金は株に変わり、庶民の懐も温まりました。来年の賃金引き上げが大幅に進めば、景気が回復し、物価も上がりやすくなります。
政府は、来年度の税制改革で、相続時の有価証券の評価額を70%に落とすことまで、検討しているようです。そうなれば、相続税対策に株式を遺す人が増え、株価の上昇が期待できます。今後とも政府からは、株価対策が打ち出されることが十分予想されます。
1987年に上場したNTTは、その後の昭和バブルの引き金となりました。今回の郵政グループ3社の行き着く先はどこでしょうか。