役立つ微生物探して40年
ノーベル医学生理学賞に大村智氏 北里大特別栄誉教授
TBS系(JNN) 10月5日(月)18時54分配信
今年のノーベル医学生理学賞の受賞者がスウェーデンで発表され、北里大学特別栄誉教授の大村智さん(80)ら3人が選ばれました。
大村智さんは北里大学の特別栄誉教授で、マラリアなど寄生虫を原因とするアフリカの感染症治療に大きな効果を挙げた薬剤「イベルメクチン」を開発したことが評価されました。
日本人がノーベル生理学・医学賞を受賞するのは、2012年の山中伸弥さんに続いて3人目です。
未踏の世界へ:役立つ微生物探して40年 北里大特別栄誉教授・大村智さん
毎日新聞 2015年04月02日 東京朝刊
エバーメクチンの分子模型を手にする大村智さん=東京都港区で、小出洋平撮影
1グラムの土の中に約1億匹いるとされる微生物は、さまざまな化学物質を生み出す。その中から病原菌などの増殖を抑える「抗生物質」を見つけ、新薬の開発などにつなげる。こうした研究を40年以上続け、途上国の感染症対策から最新のがん治療まで、幅広く進歩の土台を築いてきた。
社会人のスタートは高校夜間部の教師。工場などで働きながら学ぶ生徒の姿を見て「自分も学び直そう」と決意した。母校の山梨大を経て、29歳で北里研究所へ。抗がん作用のある抗生物質「マイトマイシン」の発見で知られた故・秦藤樹(はたとうじゅ)博士の下で有機化学の知識を深め、1年半の米国留学で人脈を培った。
1973年に帰国する際、製薬大手の米メルク社と共同研究の契約を結んだ。提供された資金は年8万ドル(約2500万円)と、異例の高額。重圧がかかる中、研究室のメンバーはいつもスプーンとポリ袋を持ち歩き、各地の土を集めては分析した。
79年、新種の放線菌が作る有望な抗生物質を発見し「エバーメクチン」と名付けた。多くの研究者がペニシリンなどの仲間を調べる中、活性の多様さに着目し「マクロライド」と呼ばれる別系統の物質の探索にこだわった成果だった。
これを基に開発した医薬品「イベルメクチン」は、当初狙った動物の寄生虫駆除に劇的に効いただけでなく、ヒトでも失明に至る熱帯病オンコセルカ症やリンパ系フィラリア症の特効薬に。世界保健機関(WHO)はアフリカで薬の無償配布に乗り出し、2億人以上が投与を受けた。2004年に現地を初めて訪れた大村さんは、子供たちが目を輝かせて「メクチザン(イベルメクチンの製品名)!」と叫ぶのを聞き、貢献を実感した。
大村研究室が発見した化学物質は500種を超え、ここから26種の医薬品や農薬が生まれた。それでも「役に立つ物質を作ってくれるのは微生物で、僕は見つけるだけ」と、「微生物へのリスペクト(敬意)」を忘れない。【清水健二