[日経新聞 7/4]
ギリシャ債務問題が混迷を深めるなか、ユーロが対ドル、対円で底堅い動きをみせている。
欧州の混乱を嫌気したユーロ売りが、これまでユーロを大量に売り越していた投機筋の買い戻しによって、打ち消されているためだ。
5日の国民投票で緊縮財政案に「NO」が突きつけられれば、ユーロには大きな売り圧力がかかる。
粘り腰はどこまで続くのか。
ユーロの対ドル相場はギリシャ危機が深刻化した月曜日(6月29日)に1ユーロ=1.09ドル台まで急落したが、その後はすぐ戻し1.11ドル前後での落ち着いた取引が続いている。対円相場も1ユーロ=136円台で底堅い動きをみせている。
ユーロ相場が崩れないのは、ユーロが大きく下げるような局面で、投機筋が買いに回っていることが
大きい。投機筋はこれまでユーロ安を主導してきたが、ここにきて姿勢を変えつつある。
振り返ると、ECBがマイナス金利を導入した昨年6月以降、ユーロは対ドルで下げ続けてきた。
金利がじりじりと下がり、低金利のユーロを借りて利上げ期待で金利が相対的に高い米ドルに投資する「ユーロキャリートレード(ユーロ借り取引)」を投機筋が膨らませてきたためだ。
ところが最近、投機筋がユーロ買いに回っている。米商品先物取引委員会の公表データによると、
投機筋によるユーロの対ドル売越額は3月末に3兆円を大きく上回る水準だったが、足元では半分程度にまで減ってきている。
きっかけは今年春のドイツ国債の急落(金利の上昇)だ。
欧州で金利も為替も不安定な動きが続くようになり、わずかな金利差に着目して収益をねらうキャリートレードではもうけにくくなった。
リスクを感じた投機筋が今年4月以降は取引の手じまい(ユーロの買い戻し)を急いでいる。
「値動きが大きくなるとリスク回避のユーロ買いが増える」(JPモルガン・チェース佐々木融氏)。
この傾向は、今回のギリシャ債務危機でもはっきりと見て取れるという。月曜日のようにユーロが大きく下げると、あたかも自動安全装置のように、投機筋などのユーロの買い戻しが飛び出してくる。
では、5日の国民投票後、ユーロはどう動くのか。
緊縮財政案にNOが突きつけられれば「ギリシャのユーロ離脱が確定的になり、対ドルで年初来安値の1.04ドル台に近づく」(みずほ銀行の唐鎌大輔氏)との見方がある。
ただ一本調子に下げ続けるとの見方は少なく、投機筋などのユーロ買いがブレーキとなり、時間をかけずに落ち着きを取り戻すとみる参加者が多いようだ。
楽観論の裏には「危機の拡散は考えにくい」(三菱東京UFJ銀行の天達泰章氏)との考えがある。
ポルトガルやアイルランドなどの財政は改善しており、欧州金融機関が大量のギリシャ国債を抱えているわけではない。ユーロは危機で急落するというよりも「欧州が正常化した後、キャリートレードの再開で緩やかに下げていく」(唐鎌氏)との指摘がある。