雑談

ヒロろんさん

 季節には色があります。「ジャパン・ローズ」とも呼ばれる山吹の花の、鮮やかな黄色も春の色です。

 山吹で思い浮かぶのは、室町時代の武将で、江戸城を築城したことでも知られる太田道灌の話です。主家に忠義を尽くし、天才的な戦略家でもあった道灌は歌人としても知られています。


「急がずば 濡れざらましを旅人の あとより晴るる 野路の村雨」(太田道灌)


 道灌のこの歌は、その風情とともに、思慮が浅くせっかち故に失敗することを分かりやすく説明した名句ですが、投資家にとりましても一つの警句になりえるような気がします。

 若かりし頃の道灌は、平家物語の「驕れる者、久しからず」を引用してたしなめる父親に対して、「驕らざるも、また久しからず」と返すほど鼻っ柱が強かったそうです。そんな道灌がある時、雨に降られ蓑を借りようと農家に所望したところ、その娘は返事の代わりに山吹の花を道灌に差し出しました。その意味が分からなかった道灌は後でそのことを恥じることになります。この経験が、荒武者の道灌が歌に目覚めたきっかけだったと言われています。


「七重八重 花は咲けども山吹の 実のひとつだに なきぞかなしき」
                       (後拾遺和歌集・兼明親王)

 娘が差し出した山吹には、上記の歌を踏まえ、実をつけない(実のひとつもない)山吹のように、貧しい我が家は蓑ひとつもなくお役にたてなく悲しいという気持ちが託されていました。

 お客様に否定形で答えてはならないという接客マニュアルを採用するある企業では、「ございません(ありません)」の代わりに「こちらだけになっております」と言うそうですが、これも山吹を差し出す娘のような奥ゆかしさです。
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