最近の市場を牽引しているキーワードにROEがあります。JPX日経400の採用基準にも、3年平均のROE(株主資本利益率)に40%のウエイトつけを行っています。
株主資本利益率は、1株の利益(EPS)/1株当たりの株主資本(BPS)×100%
で計算された数値ですから、株価との関連がありません。
1株当たりの利益が高く、株主資本が少ないほど、高い数値となります。いい株の目安にはなりますが、ROEが高いから値上がりするとは限りません。資産内容との関連性も低いので、資産規模の大きい割に利益の少ない重厚長大型の産業は低く、固定資産が少なく人件費だけで稼いでいる企業は高く出ます。デフレ型の企業に高く、インフレ型の企業に低く表われる傾向がみてとれます。
通常、人件費は経費としてバランスシートにはのりません。株主資本は、資産から負債を引いたものですから、資産が大きく負債が少ないほど、ROEは高く現われます。IT型の企業は、ROEが高くなります。
資産として机と事務所しかなく、現金は人件費(経費)に食われるような会社は、ROEが高いからといって、それだけで買えるとはかぎりません。この手の会社は、他社からの参入障壁が低く、他社が似たような製品を販売したり、社員を引き抜かれたりすると、収益の急激な低下を招き、ROEが急激に下がります。
先日、任天堂とDeNAが共同してスマホのゲーム市場へ参入を決め、株価が上昇しましたが、その折、ほかのゲーム株が値上がりしたのには驚きです。ゲーム市場は、両者の参入で競争が激化し、限られたパイの奪い合いになることが想定され、各社の収益力はいっせいに低下するはずなのですが。
2~3年後の収益を見通せないばかりか、上場して3ヶ月で増益予想が、一転赤字となるような事態も起こりえます。NISAとして長期に持つ株ではなく、配当も期待できません。あくまでも短期の値幅稼ぎ銘柄として、川向こうから眺める株にしかみえません。
昭和バブルのときは、まったく逆の傾向にありました。あの時は、資産が将来のインフレでどれだけ膨らむかが評価され、現在の利益水準は低くても、資産持ち会社の株が高く評価されました。つまり、ROEが低い株ほど高かったのです。
今後インフレが定着すれば、また、逆ROEとなるかもしれません。
このように、株価と連動しないバリエーション(評価基準)は、株価操作の道具として利用される点に注意が必要です。
先日、あのファナックの株価が大幅に上昇して、注目を浴びました。原因は、これからの経営に、ROEを重視するからというものでした。ファナックの株といえば、ユニクロ、ソフトバンクと並んで、13年後半のヘッジファンドによって大幅に持ち上げられ、通常のバリエーションから外れた株価水準を演出した代表選手でした。
もし、このような日本を代表する大企業まで、安易に資産売却や設備投資を押さえるなどして、ROEを上げるならば、その皺は個人投資家や、将来の年金資金として改革を実行している年金基金がかぶることになります。今回のROE騒動は、ヘッジファンドの売り逃げに利用している節があります。
通常のバリエーションでは上げられなくなった株を、株価に連動しないROEで値段を上げようとする魂胆が見え隠れします。私は古いかもしれませんが、株を選ぶ基準としては株価に連動する「ものさし(配当利回り、PER、PBR)」を用いています。