「エッ、この前は『株価は需給で決まる』っていっていたのに。もう変わったの!」
「変わってなんかいませんよ。前から『株価は、短期は需給、長期はファンダで決まる』っていっていましたよ。なんだったら調べてみたら」
「まぁまぁ、そうむきにならないで、冷静に、冷静に……」
「ついでにいっておきますが、企業業績は、GDPとは関係ありません。これも前からいっていますよ」
「そうだったっけ。一般にはGDPは経済を表わす指標だから、GDPがよくなれば経済がよくなり、企業業績もよくなると……」
「昔はそう思われていました。でも、これだけ海外移転が進むと、海外の売り上げが、直接GDPに反映しないからね」
「へぇ~~~」
「もちろん後になって、儲かったお金を給料とか設備投資に回せば、GDPも改善するけどね」
「それで……」
「日本の場合、円安は企業業績にいい影響を与えるから、今期の業績は大変にいいことは分かっているのだが、さて来期はどうだろうね」
「円安がドルベースで値下がりになるから、外国人が売ってくるようなこといっている人もいたけど……」
「外国人主体のマーケットなら、そういうこともいえるけど、今は国内勢が買っているからあまり関係ないと思うよ。今週の下げは、SQに絡めて、落ち目のヘッジファンドが仕掛けたもののようだけど、結局失敗だったね。GPIFの自主運用で、ヘッジファンドを切ったのは大正解だよ」
「これからの相場をどう考えているのよ?」
「明日のことは誰にも分からないって、前からいっているよ。ただ、木曜日に20,000円をつけた段階で、NHKの解説が、企業業績の向上と外国人買いをいっていたけど、本当のことをいわなかったのは賢明だったね」
「もったいぶらないでよ。まさか相場観を持たないで、株をやっているわけじゃないでしょう」
「今は、相場のサイクルからいえば、天井期だよ。今までだったら外国人の仕掛け的な売りで、大幅に下がってもおかしくない時期になんだが、今回は違うよ。昨年の後半からの上げは、ずーっと政府日銀主導で買い支えているから、外国人は売れないんだ。売るとなると空売りになるが、狭い市場にそんなに玉があるわけないよ」
「……」
「背景には需給の構造的な変化があるんだ。日本には個人の金融資産が1,600兆円もあるが、ほとんど現預金で株には10%を超える程度で、アメリカは別としてもヨーロッパの主要国に対しても半分程度にしかならないのだよ。だから政府日銀は、その穴を埋めようと改革を進めているところさ。だから、天井期だからといって暴落は考えられないよ。1年も2年も続くかもしれないし……」
「前からいっていることとあまり変わらないわね」
「ただ、そう思う人が多いから、上下動が激しいし、銘柄の入れ替えも結構やられているようだね。今までのような指数や全部の株が上がるのでなく、業績に注目して、今の利益で低PER、高配当銘柄を狙うのが筋で、決してボロ株を掴まないことだよ。業績相場という人もいるよ。3年先の利益を追うような投資ではなく、着実に利益を伸ばしている会社に目をつけて、長期に持つことが大切だよ。IPOとか新興市場の銘柄は、値動きはいいかもしれないが、長期に持つのはどうかな。これからは、『量から質の時代』だからね」
「……」
「4月上旬までは、配当取りや貸株返済時期に当たるため、安心して持っていられるよ。ただ、高値は19,000円の半ば(なかば)ぐらいかな。その後は、決算待ちで見送られ、その先は為替次第だと思う。お父さんとしては、日銀が今の水準以上を望まないので、企業が発表する16年度予算は控えめになると見ている」
「……」
「となると、年内の20,000円は微妙だね。来年までお預けかもしれない。いま株価を支えている日銀も年金基金も、急激な上昇よりジリ高を望むからね。ただ、賃金水準の上昇、設備投資増、原油安など、遅れているGDPが上昇に転じてくるので、弱気になることはないのでは……」
「今度は、GDPを持ち出すのね。そんなにうまくゆくかしら」
「株価見通しだって、明日は需給、あさっては企業業績と、都合のいい方を取るからね。あまり当てにしないで、少しでも儲かったら、ふるさと納税でもしたら……」
以上、父娘の会話でした。