米国とカリブ海のキューバの関係は、1959年のカストロ兄弟らによる民族主義革命を契機に急激に悪化し、小国キューバは、2014年まで米国により一方的に国交を断絶されていた。
当時の革命指導者の一人が依然政権を担う中、オバマが両国の国交正常化の交渉を開始すると発表した。
世界から無能呼ばわりされ、2年の任期を残したオバマのレジェンドづくりとの冷めた観測がある。オバマは日本にとって決して良い米国大統領ではない。無能である事も間違いないと思う。
併し、内政面では幾つか従来の大統領にはない良心的な政策にチャレンジもしている。オバマケア「所謂 米国式国民皆保険制度」は多くの米国民からの大反対にあって頓挫したが、5000万人も居る無保険者を救う、成立させるべき制度だった。また、500万人もの不法移民に「納税を条件に3年間の滞在を認める」法律に大統領権限を発動したのは「現在の奴隷解放」とも言える。初の黒人大統領としてもっと評価されて良い決断である。
米国は奴隷として使役していたアフリカ人を奴隷制度から解放した後も、差別し続け不当に低い賃金で使役してきた。黒人奴隷解放の後は支那人苦力(くーりー)を苦役させ、ヒスパニックを低賃金労働者として使い、不
法移民の弱味につけこんで、現代の奴隷として不当な待遇でこき使ってきた。オバマは正に現代の奴隷を解放したのである。オバマには決して高評価は与えられないし、米国大統領の器ではないとも思うが、良い事は良い事と評価したい。
日本のメディアはキューバの古い街並みや60~70年代のアメリカ車が走る光景を「古き良き米国の情景」などと戯けたナレーションをつけて放映する。親日的なキューバの人々の貧困、苦しみは目に入らないようだ。
1960年、ドワイト・アイゼンハワー米大統領がキューバに貿易経済制裁を初めて課し、翌年には外交関係をも断絶し、以降続く11人以上の大統領達が不当な対キューバ攻撃政策を継続してきた。米国による政治的、経済的な対キューバ締め付けは、犯罪的政策、国連憲章違反だとして、世界中で絶えず非難されてきたが、どの大統領も聞く耳を貸さなかった。
2010年に老齢の兄フィデルから革命指導者役を引き継いだラウル・ カストロは、「これは決して、事の核心が解決された事を意味しない」と、テレビ放送でキューバ国民に語った。「わが国に対し、膨大な人的、経済的
損害を引き起こしている経済、商業、および金融封鎖はやめるべきだ。」
「二国間の敵意」なるものは、悉く米国による、一方的なものであった。1959年早々、米国が支援したフルへンシオ・バチスタの独裁制を打倒した後、若き社会主義革命指導者フィデル・カストロがワシントンを訪問したのは、当時明らかに、平和的な関係を呼び掛ける為のものだった。
併し、米国支配層は、この呼びかけを悉く無視した。グローバル(アメリカン)スタンダードを広めたい支配層には「民族主義革命」など受け容れられるべくもない。アイゼンハワーは、カストロ訪問から数ヶ月の内に、経済制裁と全面的通商禁止による攻撃を開始した。
ジョン・F・ケネディは、1961年初め、CIAが支援する傭兵によるキューバのピッグズ湾侵略という大失敗を仕出かした。ケネディはキューバに対する米空軍の全面的 爆撃指示は躊躇ったかも知れないが、それでもなお侵略は、貧しい小国に対する違法な戦争行為であった。
その年遅く、ケネディは「マングース作戦」を承認、署名した。それは、エドワード・ランズデール准将が率いる、妨害工作や、対民間人テロや、カストロとキューバ指導部を暗殺する陰謀をも含む秘密作戦計画であった。全く、米国とは碌でもない国である。
1963年末のケネディ暗殺は、ケネディの犯罪的強行政策をも「甘過ぎる」と見做した米国支配層(主に軍産複合体)の手による可能性が高いとされる。ケネディ暗殺以後も、この作戦は長年そのまま続いた。皮肉にも、追放されたバチスタ政権を支持するキューバ人亡命者が、ダラスでケネディを抹殺したCIA狙撃兵チームの一部に加担していたという。
米国本土から150kmも離れていないキューバにソ連の核兵器が設置された後の、1962年10月の「キューバ危機」が、欧米の主要マスメディアによって、キューバが「ならず者」である証拠だと強調された。併し、米国の武力侵略や、戦争行為は考慮されなくて良いのか?厳しい経済制裁は、今日に至るまで解除されていない。
マスメディアでは殆んど言及されていないが、今回の正常化に向けた判断は、先ず以って米国と中南米の関係、つまり米州関係の文脈に於いて理解されるべきである。大統領の声明でも、今年4月に開催される第7回米州サミットを前に、オバマ政権が中南米との関係に於いてリーダーシップの再構築を意図している事が謳われている。
何の事はない。米国の都合による戦術変更でしかないではないか。そうでないなら、不当な経済制裁を、速やかに謝罪と共に解除すれば良い。オバマは、これを50年以上の米国・キューバ関係で最も「歴史的な進展」だと述べた。オバマは既にレイムダック化しており、大統領在任中の数々の悪行を隠そうと足掻いている。
無人機殺人攻撃から、米国民や世界の指導者達に対する政府による違法な監視、警察国家権力の監督、ブッシュ時代の拷問の隠蔽、果ては中東での腰の引けた悲惨な戦争に至るまで、論議の的となる事が多い実績を何とか、胡散臭いノーベル平和賞と共に、自身のレジェンドを、意識しているのは確実だ。
オバマがキューバに提案している譲歩は最小限だ。金融と旅行制限緩和と噂されているものと、在ハバナ・米国大使館(スパイ用施設)再開は、キューバ政府が「自由選挙」を受け容れ、『米国の資本投資と、通信を開放する事』が条件だという。オバマもワシントンではなくウォールストリートの走狗である。
既にタカ派共和党支配の議会は、オバマの暫定的提案を「降伏」と嘲っており、何十年にも亘る主要政策、対キューバ禁輸が厳格に実施されたままとなるのは確実だろう。キューバの苦難は決して終わってはいない。
良い事もしたが、それを打ち消して余りある無能な大統領であり、ウォールストリートの手先という点で、歴代の大統領と何ら変わる事はない。
重要な同盟国として付き従わざるを得ない日本は、米国の「穢れ多き本質」を、肝に銘じなければならない。( 情報収録 中山)