≪アジアでの優位も揺らぐ
英教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」(THE)は、研究論文の引用頻度や教員スタッフ1人当たりの学生数など13の要素を基準に、大学に順位をつけた「世界大学ランキング」を昨年10月に発表した。それによると、日本で100位以内に入った大学は、東京大学と京都大学の2校だけであった。
昨年秋、文部科学省は、国公私立大37校を選び、「スーパーグローバル大学」と銘を打って、大学の国際競争力を高めるための重点的な財政支援を10年間続けることを発表した。トップ型といわれる13大学は世界大学ランキング100位以内を目指すという。
前述の英教育専門誌は、アジアの大学が順位を上げる中で、今後、日本が優位を維持できるかを疑問視している。その理由を私はこう分析する。
まずは、教員の質。25年前にも、私は、アジアの大学を訪問したが、その時は、国際的に活躍している学者が多いという印象は無かった。
たとえば、ソウル大学経済学部では、以前は米国の大学で博士号を取得している教員は少数であった。それが今では、ほぼ全員取得している。一方、シンガポールや香港の大学は、海外の研究者を積極的に受け入れている。背景には、業績に応じた給与が支払われたり、大学間での競争も激しいことがある。
次に、未熟なグローバル化。文部科学省は2009年に日本に留学生を呼び込むための、「グローバル30」とよばれたプロジェクトに13大学を採択した。
英語圏ではない日本に、英語の授業を受けることを目的とする外国人学生を呼び込むのは、たとえ授業料や生活費の支援をしても容易ではない。留学生の質を高めるのは難しく、出身国も偏らざるを得ない。これでは招く側も学ぶ側も得るものはない。
≪年功賃金と定年制見直しを≫
一方、質の高い外国人教員の採用には、年功賃金制度と定年制度が障害になっている。優秀な海外人材の能力給は、日本の大学教授の最高額である退職前の給与をはるかに上回る。
私の知人である経済学者を例に挙げると、彼(アメリカの大学)の給料は、我々(日本)の5倍である。そのうえ、アメリカの大学には定年がないのだから、アメリカの大学から給料が安く定年のある日本の大学にわざわざ移る人はいない。
グローバル化には、日本に来る留学生の数を増やすことも重要であるが、日本から欧米の大学に留学する学生を増やすことはそれ以上に必要である。
1996年から2007年にかけて米国の大学で博士号を取得した自然科学系の外国人学生の数は、中国28・2%、韓国9・2%に対し、日本が1・8%である。先に述べたように、現在、ソウル大学の教授の大半がアメリカの大
学でPh.Dを取得している。
この数字の差が、10~15年後のアジアの大学ランキングに反映されると思えば恐ろしいが、当然の結果といえる。
難題が山積みと思われる日本の大学のグローバル化であるが、それを成し得る秘策はある。
私の知人である経済学者を例に挙げると、彼(アメリカの大学)の給料は、我々(日本)の5倍である。そのうえ、アメリカの大学には定年がないのだから、アメリカの大学から給料が安く定年のある日本の大学にわざわざ移る人はいない。
グローバル化には、日本に来る留学生の数を増やすことも重要であるが、日本から欧米の大学に留学する学生を増やすことはそれ以上に必要である。
1996年から2007年にかけて米国の大学で博士号を取得した自然科学系の外国人学生の数は、中国28・2%、韓国9・2%に対し、日本が1・8%である。先に述べたように、現在、ソウル大学の教授の大半がアメリカの大学でPh.Dを取得している。この数字の差が、10~15年後のアジアの大学ランキングに反映されると思えば恐ろしいが、当然の結果といえる。
すでにあるものを徹底的に有効利用すればよい。つまり、既存の学部の通常の授業のうち英語で行う講義の数を増やすのである。そうすれば、留学生と日本人学生の交流も促され、日本人学生のグローバル化にも、一役買うことができる。
講義を英語で行う教員の給与を1割上げれば、教員のインセンティブを促し、十分な数の講義が提供されるであろう。新たな英語のプログラムをつくるよりはるかに安上がりである。
≪「宝の持ち腐れ」になるな≫
アメリカのトップの大学と日本の大学とでは、同じレベルの教授陣を有していても、退職年齢の差だけでも論文の発表数や被引用数に大きな差がつく。アメリカではノーベル賞級の学者が80~90歳になっても大学に所属して研究を続けているのに対し、日本の国立大学では卓越した国際的な学者が65歳で職を離れざるをえない。これは宝の持ち腐れといえる。
シンガポール国立大医学部の伊藤嘉明教授は、2002年に助手や大学院生を引き連れて研究室丸ごと京都大学から移籍した。定年退職後も研究を継続するためである。伊藤教授のその後の業績、被引用数、若手研究者に対する指導の恩恵を受けているのは、京都大学ではなくシンガポール大学なのである。
日本人学生が日本に居ながら外国人学生と机を並べ、一流の研究者の講義を受け、そして日本人学生の海外留学を促す。教員であり研究者である大学人に対しては、業績に応じた能力給でそれ相応の処遇を施す。卓越した研究者には定年年齢に達した後も大学でそのまま研究・教育を続けさせる。これほど迅速かつ割安に、日本の大学の順位を確実に上げる方法はないと思う。
産経ニュース「正論」2015 1/19