酔っている人間の意識に向かって、断続的に都合よくささやき、
そのターゲットの心をエージェントの思うがままに操ろうとする。
あれはオイラに対する、洗脳戦略だったと思っている。
そもそも、エージェントの誕生日のために店へ来いと、
常連ならびに店舗主人から言われたとき、
それだけで非常に不愉快だった。
なんで、たいして知らない客のために、オイラの時間を使われるのか理解出来ない。
この時点で、常連並びに店舗主人は、すでに何か勘違いしている。
が、結局オイラは行ってやった。
これが甘かったんだろう。
ますます店舗側は、つけあがるようになった。
おまけにこの時点までに、彼らの会計システムに強い不信を抱いてもいた。
常連だけには安くして、オイラにだけは高い。
少なくともそう思わせるような接客をしてしまっている。
ふざけている。
*
それに加えてエージェントには、なにか別の魂胆もあったようだ。
恐らく、エージェントが一年間、日本を離れるにあたって、
仲のよかった店舗側の便宜を図ろうと、
あまりこない顧客の定着を狙うという意味もあったのだろう。
しかし、そのやり方がえぐい。
通俗的にいうとハニートラップに近いものがあった。
ターゲットを洗脳して、カネもない年寄りを呼びつけ、
しかも陰で馬鹿にしている。
(オイラをはめるために、もうひとりのターゲットを馬鹿にすることをささやくんだよ、オイラに)
*
ところが、騙されたふりをして通っていたある日、
オモロイことが起こった。
エージェントの鼻の下に、血がしたたれて固まったあとがある。
「どーしたんだ、それ」
「なんかさぁ、後ろから誰かに突き飛ばされてさ、店の出口で転んだんだよねー。
でも後ろ見ると、誰もいないの。なんか怖かったなぁ」
こんなこともあった。
店に行くと、いきなり店舗主人が足を引きずっている。
「どーしたの、あんた」
「階段で足を踏み外してさぁ・・・」
フランケンシュタインのような、歩き方だった。
上の事件2件が生じるのに、一週間も間が開いてない。
『あー、そーいうことなんだ、やっぱり』とオイラは確信した。
*
いろいろ不信感が充ちていたので、
酔ってくるとオイラは結構、店の陣営へ絡むようになっていた。
正攻法として、店の態度がおかしいということ。
たとえば、今の体制だとカネ勘定に客が不審を抱くから、工夫した方がイイですよとか。
くそ真面目に対応してあげていたんだな。
それでも馬鹿にした態度があると、切れるようになってもきた。
酔った言葉の上でだけど。
ところがある日、これに別の人間が、なんとオイラの方へ荷担してきた。
それも店舗側の、意外な人物が。
これが致命的となり、エージェントは来られなくなってしまった。
*
「あのー、すまんが。オイラは神社で不思議な光を視ていてな。
冗談が通用しないから、気を付けてくれ~」
仲良くなってから、それとなくそういったニュアンスのことを言うのだけれど。
話すタイミングを間違えると、オカシイ奴と思われるし、嫌みにも聞こえるだろう。
なので、昔あった例をあげて笑わせてから、何ヶ月も開けてから宣告している。
(これはこれで、洗脳ポイけど)
オイラは相当、眷属たちに好かれたらしい。
PS:そういえば、以前に出入り禁止になったスナックMなんだけど。
あるとき、霊能者が来て、スナックMの所持品を霊視したという。
それが見事に当たっていて、かなり怖がっていたんだ。
とても想像出来るはずもない、複雑な形をした鍵だったそうだ。
この事件以来、平素からオイラの話していたことが、
妄想とは思えなくなったようで、
どーもそれが原因で、出入り禁止になったようだ。
PS2:オイラのようなタイプの人間に接するとき。
大事にすると、小説が馬鹿売れしたり賞をもらえることがある。
馬鹿にすると、とんでもない不幸が訪れることがある。
簡単な話だろ、これって。。